人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

1階を突破して

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如月さんが消えた場所に、僕も到着した。

「日和子! どこ行った!」

木下が叫んでいるが、誰も答えることができないし罠ももう発動しない。
恐らく常設の罠ではないのだろう。

「兼良さん、聞こえますか?」
『聞こえている。如月さんの状況だな? こちらでも通信を行っているが、かなり電波が悪い状況だ。途切れ途切れでしか声が聞こえない。恐らく5階層より下にいる可能性が高い』
「分かりました。そのまま呼びかけ続けてください。僕らはこのまま救出に向かいます」

兼良さんとの通信はそこで切って、僕は項垂れている木下に近づいた。

「助けに行くぞ、木下」
「! ・・・俺だけでいい。京平にこのまま迷惑をかける訳にはいかねえ」
「バカか。もう既に迷惑はかかってる。このアタックで、このまま如月さんが死んだり救出不可能になった場合、僕は死神扱いされるだろう。若しくは不幸者扱いかな?」
「たまたまだろ!」
「たまたまでもだ。そして、今回のアタックで東京通信のシステムも組み込んでもらった。つまり、彼らの製品のジンクスにもなってしまう。分かるか? 僕には彼女を救う以外の選択肢がないんだ」
「・・・」
「罠にかかったのがお前だったら容赦なく外に出てた。だが、かかったのは僕らよりも確実に弱い、A級に勝てない如月さんだ。彼女は食料を持ってたか?」
「ぐっ! 持ってなかったはずだ」
「そうだろうな。全部お前が持ってたはずだしな。環境の問題上、ずっとスキルを使い続ける必要がある。彼女は状況を読める人だと思うから、身を隠せる場所に氷の壁を作って、隠れて僕らを待つはずだ。・・・3日だ。それ以上は精神がもたない」

阿蘇のフィールドで、スキル全開で何泊も出来る僕でも、この環境とモンスターの種類の中で1人では1泊もしたくない。

「分かった。だったらこんなとこに留まっている時間が勿体無いな」
「ああ、移動しながら、邪魔者は倒して進むぞ。宝箱も魔石も全て無視だ」
「俺が先頭で突っ走る。遅れるなよ」
「身体強化で走るから問題はない。僕のことは気にせず先を行ってくれ」

コクリと木下は頷いて先の道へ入って行く。
僕も次の道へ入り、身体強化を全開にして走った。
木下が先行して飛んで、モンスターを殲滅して行く。
火力に出し惜しみをしていなさそうだが、速度が速い!
モンスターの心配をせずに走れるのはいいが、ギリギリ追いつけてる。
アイツは敵を倒しながら進んでいるのに、こっちはギリギリ!

「なんつー冗談みたいな状況」

これまで、ずっと誰かの後ろを見るということがなかった。
噴火のときも、縄文杉のときも、ドラゴン襲来のときも、火口ダンジョンアタックのときも。
初めて、僕は他の人の背中を見ている。
それも、気に食わないやつの背中を。

「アイツは物語の主人公か何かかよ」

最初は周囲が手を焼く暴れん坊で、周りから排除されて自分を見つめ直し、強大なスキルと仲間を連れて戻ってくる。
・・・嫌なやつだ。
そこは暴れん坊の時期に虐げられていた者が成り上がる物語の方が普通だろ。
何でお前がその立場にいる?

「京平! 階段だ! 下へ行く階段があったぞ!」

部屋に入っては出てを何度か繰り返し、ようやく階段を見つけて木下が僕に手を振った。

「ボスらしきモンスターはいなかったな」
「ああ、強そうなやつはいなかったぜ」
「・・・この階は火龍と青鬼が中ボスみたいな立ち位置だったからいると思ったんだが・・・。とりあえず、下の階に進もう」
「おう!」

ゾワゾワする黒く溢れる思いに蓋をして、木下と階段を下りそれを見た。

「地下1に下りてすぐかよ」
「どうりで・・・ボスがいなかった訳だ」

炎の刀を持っている武者がいた。

「ヤバそうだな」
「抜き身だから居合いはないと思っていい。でも、火龍や青鬼より上か」

身長は180ぐらいか。
見るからに亡霊タイプで鬼火が浮かんでいる。
生命力吸収は効果がない。
木下に温度や火を吸収する能力も意味をなさないだろう。

「力押しだな。押し通るぞ!」
「ああ、分かった」

最大の力で地面を蹴って、木下は右へ、僕は左へ走り武者に襲いかかる。

「まずは食らえ!」

炎の巨大なハンマーを振りかぶって木下が武者を攻撃した。
ドゴォン! と大きな音を立てたが、完全に受け止められている。
その隙に僕が左から蹴りを出すが、ハンマーを受け止めていた刀がクルリと回転して、右腕一本で僕に振り下ろされた。

「あぶっ!」

勢いそのままに、足の向きを無理矢理下に向けて加重の効果を加えて地面を蹴った。
ベコッ! と地面を抉って足は止まり、その前を刀が通り過ぎる。
その隙に木下がハンマーの形状を変え、巨大な斬馬刀を再度振り下ろした。
流石にそれを受け止める気はないらしく、バックステップで余裕を持って躱す。
木下の斬馬刀は勢い余って地面に叩きつけられ、その力が地面に亀裂を作りだした。

「つえーなこいつ」
「今までのA級が雑魚に見える。参ったな」

こいつを倒さないと先には進めない。
僕は抉れた地面を見て加重の具合を確認する。
恐らく当たれば潰せる。
火龍よりも強いが、硬さは火龍の方が上だろう。
それよりも問題は素早さと技術だ。

「木下、刀を相手することはできるか?」
「やれないことはないはずだ」
「頼む」
「分かった」

僕と木下がクロスで場所移動して、木下が刀を持つ右腕に炎の剣を振る。
武者は身を引いてそれを避ける。
その崩れた体勢を見逃さず、僕は左腕と首元を掴んで足を引っ掛けて倒す。
予想通り、こいつは全く重くない。
首が手の届かない場所にあれば使えない技だったが、無駄にデカくなくて助かった。
だが、倒れる際に武者が刀を僕に向けて振ってきた。
しかし、それは突然バキバキと音を立てて砕け落ちていく。

「モンスターの炎を奪うのって結構疲れるな」

刀身のない柄だけの刀を僕に向けたまま武者は倒れ、僕はその胴体を踏みつける。

ボスン!!
僕の足は音を立てて武者の胴体を貫き、地面を凹ませる。

「!」
「こいつは!」

武者の全身が薄く透明に変わっていく。
こいつはカタカタと全身の鎧を震わせて、まるで笑っているかのように鳴らして僕を見た。

「オボエタゾ」

モンスターが喋った。
ビックリして、次の行動が止まってしまった。
その間に武者は消え去り、広間には静寂が降りた。

「・・・先に進もう。多分、1階とこの階のボスだ」
「ああ、分かった」

モンスターが喋ったことに驚いたが、それでも、これから先のどこかにいるボスのことが少しでも分かっただけ良かったのだと考えよう。

「木下、お前のスキルがどんな能力を持ってるか分からないが、今まで使った能力以外の能力は使わないでくれ」
「さっきの奴か?」
「ああ。これから先、アイツは僕たちの行動を何処かで見ている。手札は隠しておくべきだ」

木下は頷いて僕の案に同意した。
もし、奴が青鬼以上に学習し対策するモンスターなら、苦戦が予想される。
3日以内・・・。
タイムリミットが僕の背中に重くのしかかっていた。
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