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阿蘇ダンジョン攻略編
甘さの代償
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「そういえば、そっちの荷物は任せてましたが、木下のスキルの中には何泊分の食料を入れてきたんですか?」
今回も、そこまで長期間滞在する予定はなかったため、僕は保って2泊分ぐらいだ。
「念の為5泊分入ってるよ。2人分だから、彼のスキルには感謝しかないよね」
「如月さんも知らなかった能力ですよね。バック一つ分を鎧の中? 異空間みたいなとこに入れて移動できる。・・・探知系はないにしても万能過ぎません?」
「支配クラスのスキルの能力なんて、誰も公開してないから手探りで調べていくしかないんだよね」
「今回も、木下が俺が持つって言ったのがきっかけですし」
「伝説のアイテムボックスとまではいかないけど、すごく助かる」
僕らの声を静かに聞いている木下だが、ちょっと照れているようだ。
こっちを全く見ない。
莉乃も多分同じことができるんだろうな・・・。
僕たちは何の障害もなくポータルに入ると、如月さんの両腕両脚の装備が唸り出した。
「凄い熱だね。私のスキルがあるから、装備の冷却は必要ないと思ってたけど、富士よりも熱いね」
「俺は別に何も感じないけどな」
「専用装備要らずはいいね。こっちは着脱メンテで大変なのに」
「嫌味かよ、俺が専用装備好きなの知ってるくせに」
「私たちからしたら、あんたの方が羨ましいんだからね? 専用装備なくてもA級が倒せるって非常識なことなんだから」
「A級を倒したんですか?」
「倒したのよ。私たちが見てる前で」
「手助けなしで?」
「手助け無しで」
非常識の塊だな。
「言っておくが、俺が聞いてるお前の話の方がスッゲー非常識だからな? 専用装備無しで火龍踏み潰したとか、縄文杉に特攻したとか、とんでもない量のA級魔石を取ってきて富豪になったとか」
「どっちもどっちよ、A級をソロで倒している時点でね」
両方とも非常識か・・・。
だったら、後2人向こうに非常識がいる。
そのうち1人は、僕よりも遥かに強い非常識だ。
「部屋ごとにモンスターがいるんだったな。日和子が止めるまで、俺が先頭を進むでいいよな?」
「如月さんの判断なら構いません」
「うん、多分、ここのA級は相手にならないと思うから、遠慮なく行っちゃって」
「探知系のスキルって如月さん、持っているんですか?」
「持ってないよ。うちのメンバーで持っているのは下川くんだね」
にしては、警戒無しで木下を進ませるな。
警戒しなくて大丈夫なのだろうか?
「君たちが歩いた記録はちゃんと観てるよ」
如月さんが、自分の頭を指でコツコツと叩く。
そして、最初の部屋に入って、文字通り圧倒した。
「温度が!」
「火も熱も吸収しているから、彼がこのスキル使っている間は私もスキルを使う必要がないんだよね」
確かに、彼女の装備の駆動音が小さくなっている。
地面や壁からも赤みが消えていて、冷えていることを表していた。
そして、僕らの目の前で、精霊2体を炎の剣で斬り飛ばし、カバの背に乗った木下が暴れている。
「グァ・・・ガアアアアァァァァ!」
「さっさと落ちろ!」
体温を吸収されたせいか、僕と戦った時の素早さを見せないカバが、ヨロヨロと歩いて、その場で倒れた。
木下は容赦なくカバの首に剣を当てて突き刺す。
カバは光に変わって魔石を残して消えていき、木下がそれを拾って僕に投げてきた。
「バックを出せないから持っててくれ」
「分かった」
僕がリュックの中にそれを入れると、トントンと肩を如月さんに叩かれた。
「それって、国に渡さなくてもいい魔石だよね」
「ええ、企業の方で買取が可能ですね」
「ブラックアイズの方で貰ってもいいかな? 私たちのスポンサーの静岡企業団からもお願いされているのよ。可能な限り魔石を貰ってきてって」
「それってB級魔石の事を言ってませんか? スモモの魔石を持っていって問題になりません?」
「うーん、ちょっと考える」
「まあ、幾つか手に入れれたら、組合も持っていく事にそこまで喧しく言いませんから、木下の働き次第でしょうね」
如月さんは、頷いて先を進む木下を追いかけて行く。
僕もその後をB級魔石を拾いながら追いかけた。
その後も木下の快進撃が続いて、A級を3体、B級を16体、カバクラスの準A級を3体倒して溶岩の海が見える部屋に辿り着いた。
A級をリュックに3つ入れた段階で、魔石が多くなることが分かったため、B級は僕の装備の交換用と予備を合わせて6つしか拾わなかった。
「ああ・・・貴重なB級魔石が・・・」
如月さんの価値観は、まだ正常みたいだ。
なので、価値観を変えてあげることにした。
「A級魔石って、50億で国が買い取ってくれますよ」
「え?」
「僕らも結構魔石を持ってきたんですが、松下魔力電機の担当者が、民間だとその金額で買うと言って、それ以降A級魔石はその金額になりました。ただ、半年に1個しか買い取らなくなったので、協力してくれてる企業が喜んで買ってくれました」
「京平・・・マジか?」
「マジだ。木下が倒したものはそっちの取り分でいいよ。僕は何の役にも立ってないし」
「・・・何体倒したっけ? もしかして、もう日和子が働かないで済むだけ稼いだ?」
「十分だろうね。というか、ブラックアイズはA級を倒しているんですよね? 売却額とか知らないんですか?」
「私たちのときは随分前のことだし、倒したのも一回だけで魔石は国が買い取ったけど、13億ぐらいだったのよ」
松嶋さんが爆弾発言をする前の金額だな。
「それからクランの費用とか各協力企業への感謝とか装備のメンテとか引かれていったら、手元に残るお金なんて・・・」
「木下はブラックアイズに正式加入しているんですか?」
「いや、まだしてないはず」
「良かったですね。全額懐に入りますよ」
それを聞いた如月さんの体が、ガクガクガク! っと震え出した。
「日和子! 大丈夫か!?」
「和臣くん。どうしよう、私探索者辞めていいかな?」
「い・・・いいぜ! 俺がしっかり守ってやるからな!」
・・・なんか、急にラブシーンを見せられているんだが、僕と莉乃も同じように見られていたのだろうか?
「それじゃ、先に進みましょう」
そう言って先を見るが、そこには溶岩の海。
僕だけならスキル全開で進むのだが、2人はどうするつもりなのだろう。
「俺が日和子を連れて行くに決まっているだろ。飛行能力あるからな」
「お前の火が如月さんにダメージを与えるとかないのか?」
「燃やさない炎も作れるんだよ。それで掴んで飛ぶから大丈夫だ。お前も一緒に行くか?」
「結構だ」
何だよ、燃えない火って。
それはもう火じゃないだろ。
何でもありかよ。
僕は確実に乗れる浮島に飛び乗り、スキルを使った。
元の部屋を見ると木下が如月さんをお姫様抱っこして飛んでいる。
それを見て・・・想いが溢れた。
僕と莉乃も・・・ああするはずだった。
2人で楽しくダンジョンアタックするはずだったんだ。
「京平! 下!」
上からの木下の声を僕は無視する。
それは僕に向けて溶岩の海を泳いできたが、範囲内に入った瞬間ぷかぷかと浮いて姿を現した。
「溶岩の海で泳ぐ魚って焼き魚にはできないだろうな」
倒す手段が思い浮かばなかったので、そのままそいつは放置。
次々に浮島に飛び乗り、その度に襲いかかろうとして生命力吸収の餌食になる魚を無視して進んでいると、その上を、2人は悠々と飛んで対岸に到着していた。
木下は僕のことが気になるのか、浮いたまま先に如月さんを下ろして、自分は浮き上がって僕の方を見る。
・・・突然、如月さんの立っている場所が光った。
「え?」
「木下! 如月さんを!」
「日和子! 手を!」
光に包まれる如月さんと木下が手を伸ばすが、お互いが掴む前に如月さんが光と共に消え去った。
「日和子! 日和子!」
探知系のスキルを誰も持っていなかったツケが、ダンジョンを甘く見ていたツケが今回ってきた。
今回も、そこまで長期間滞在する予定はなかったため、僕は保って2泊分ぐらいだ。
「念の為5泊分入ってるよ。2人分だから、彼のスキルには感謝しかないよね」
「如月さんも知らなかった能力ですよね。バック一つ分を鎧の中? 異空間みたいなとこに入れて移動できる。・・・探知系はないにしても万能過ぎません?」
「支配クラスのスキルの能力なんて、誰も公開してないから手探りで調べていくしかないんだよね」
「今回も、木下が俺が持つって言ったのがきっかけですし」
「伝説のアイテムボックスとまではいかないけど、すごく助かる」
僕らの声を静かに聞いている木下だが、ちょっと照れているようだ。
こっちを全く見ない。
莉乃も多分同じことができるんだろうな・・・。
僕たちは何の障害もなくポータルに入ると、如月さんの両腕両脚の装備が唸り出した。
「凄い熱だね。私のスキルがあるから、装備の冷却は必要ないと思ってたけど、富士よりも熱いね」
「俺は別に何も感じないけどな」
「専用装備要らずはいいね。こっちは着脱メンテで大変なのに」
「嫌味かよ、俺が専用装備好きなの知ってるくせに」
「私たちからしたら、あんたの方が羨ましいんだからね? 専用装備なくてもA級が倒せるって非常識なことなんだから」
「A級を倒したんですか?」
「倒したのよ。私たちが見てる前で」
「手助けなしで?」
「手助け無しで」
非常識の塊だな。
「言っておくが、俺が聞いてるお前の話の方がスッゲー非常識だからな? 専用装備無しで火龍踏み潰したとか、縄文杉に特攻したとか、とんでもない量のA級魔石を取ってきて富豪になったとか」
「どっちもどっちよ、A級をソロで倒している時点でね」
両方とも非常識か・・・。
だったら、後2人向こうに非常識がいる。
そのうち1人は、僕よりも遥かに強い非常識だ。
「部屋ごとにモンスターがいるんだったな。日和子が止めるまで、俺が先頭を進むでいいよな?」
「如月さんの判断なら構いません」
「うん、多分、ここのA級は相手にならないと思うから、遠慮なく行っちゃって」
「探知系のスキルって如月さん、持っているんですか?」
「持ってないよ。うちのメンバーで持っているのは下川くんだね」
にしては、警戒無しで木下を進ませるな。
警戒しなくて大丈夫なのだろうか?
「君たちが歩いた記録はちゃんと観てるよ」
如月さんが、自分の頭を指でコツコツと叩く。
そして、最初の部屋に入って、文字通り圧倒した。
「温度が!」
「火も熱も吸収しているから、彼がこのスキル使っている間は私もスキルを使う必要がないんだよね」
確かに、彼女の装備の駆動音が小さくなっている。
地面や壁からも赤みが消えていて、冷えていることを表していた。
そして、僕らの目の前で、精霊2体を炎の剣で斬り飛ばし、カバの背に乗った木下が暴れている。
「グァ・・・ガアアアアァァァァ!」
「さっさと落ちろ!」
体温を吸収されたせいか、僕と戦った時の素早さを見せないカバが、ヨロヨロと歩いて、その場で倒れた。
木下は容赦なくカバの首に剣を当てて突き刺す。
カバは光に変わって魔石を残して消えていき、木下がそれを拾って僕に投げてきた。
「バックを出せないから持っててくれ」
「分かった」
僕がリュックの中にそれを入れると、トントンと肩を如月さんに叩かれた。
「それって、国に渡さなくてもいい魔石だよね」
「ええ、企業の方で買取が可能ですね」
「ブラックアイズの方で貰ってもいいかな? 私たちのスポンサーの静岡企業団からもお願いされているのよ。可能な限り魔石を貰ってきてって」
「それってB級魔石の事を言ってませんか? スモモの魔石を持っていって問題になりません?」
「うーん、ちょっと考える」
「まあ、幾つか手に入れれたら、組合も持っていく事にそこまで喧しく言いませんから、木下の働き次第でしょうね」
如月さんは、頷いて先を進む木下を追いかけて行く。
僕もその後をB級魔石を拾いながら追いかけた。
その後も木下の快進撃が続いて、A級を3体、B級を16体、カバクラスの準A級を3体倒して溶岩の海が見える部屋に辿り着いた。
A級をリュックに3つ入れた段階で、魔石が多くなることが分かったため、B級は僕の装備の交換用と予備を合わせて6つしか拾わなかった。
「ああ・・・貴重なB級魔石が・・・」
如月さんの価値観は、まだ正常みたいだ。
なので、価値観を変えてあげることにした。
「A級魔石って、50億で国が買い取ってくれますよ」
「え?」
「僕らも結構魔石を持ってきたんですが、松下魔力電機の担当者が、民間だとその金額で買うと言って、それ以降A級魔石はその金額になりました。ただ、半年に1個しか買い取らなくなったので、協力してくれてる企業が喜んで買ってくれました」
「京平・・・マジか?」
「マジだ。木下が倒したものはそっちの取り分でいいよ。僕は何の役にも立ってないし」
「・・・何体倒したっけ? もしかして、もう日和子が働かないで済むだけ稼いだ?」
「十分だろうね。というか、ブラックアイズはA級を倒しているんですよね? 売却額とか知らないんですか?」
「私たちのときは随分前のことだし、倒したのも一回だけで魔石は国が買い取ったけど、13億ぐらいだったのよ」
松嶋さんが爆弾発言をする前の金額だな。
「それからクランの費用とか各協力企業への感謝とか装備のメンテとか引かれていったら、手元に残るお金なんて・・・」
「木下はブラックアイズに正式加入しているんですか?」
「いや、まだしてないはず」
「良かったですね。全額懐に入りますよ」
それを聞いた如月さんの体が、ガクガクガク! っと震え出した。
「日和子! 大丈夫か!?」
「和臣くん。どうしよう、私探索者辞めていいかな?」
「い・・・いいぜ! 俺がしっかり守ってやるからな!」
・・・なんか、急にラブシーンを見せられているんだが、僕と莉乃も同じように見られていたのだろうか?
「それじゃ、先に進みましょう」
そう言って先を見るが、そこには溶岩の海。
僕だけならスキル全開で進むのだが、2人はどうするつもりなのだろう。
「俺が日和子を連れて行くに決まっているだろ。飛行能力あるからな」
「お前の火が如月さんにダメージを与えるとかないのか?」
「燃やさない炎も作れるんだよ。それで掴んで飛ぶから大丈夫だ。お前も一緒に行くか?」
「結構だ」
何だよ、燃えない火って。
それはもう火じゃないだろ。
何でもありかよ。
僕は確実に乗れる浮島に飛び乗り、スキルを使った。
元の部屋を見ると木下が如月さんをお姫様抱っこして飛んでいる。
それを見て・・・想いが溢れた。
僕と莉乃も・・・ああするはずだった。
2人で楽しくダンジョンアタックするはずだったんだ。
「京平! 下!」
上からの木下の声を僕は無視する。
それは僕に向けて溶岩の海を泳いできたが、範囲内に入った瞬間ぷかぷかと浮いて姿を現した。
「溶岩の海で泳ぐ魚って焼き魚にはできないだろうな」
倒す手段が思い浮かばなかったので、そのままそいつは放置。
次々に浮島に飛び乗り、その度に襲いかかろうとして生命力吸収の餌食になる魚を無視して進んでいると、その上を、2人は悠々と飛んで対岸に到着していた。
木下は僕のことが気になるのか、浮いたまま先に如月さんを下ろして、自分は浮き上がって僕の方を見る。
・・・突然、如月さんの立っている場所が光った。
「え?」
「木下! 如月さんを!」
「日和子! 手を!」
光に包まれる如月さんと木下が手を伸ばすが、お互いが掴む前に如月さんが光と共に消え去った。
「日和子! 日和子!」
探知系のスキルを誰も持っていなかったツケが、ダンジョンを甘く見ていたツケが今回ってきた。
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