人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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阿蘇ダンジョン攻略編

友情と嫌悪

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何でこいつがここに居るのか?
階段を降りる途中で止まってしまったため、進むか戻るか迷ってしまう。

「早く降りてこいよ。久々に会うのによ」
「何しに来た」
「何って、お前が倒れたって聞いたからお見舞いだよ」
「・・・よく僕の前に顔出せるよな?」

僕の言葉に・・・ようやく木下の顔から笑みが消えた。

「何だ、まだ怒ってんのか? 俺も大分周囲から色々言われたし、見えないかもだけど、これでも反省してんだぜ?」
「反省してるって顔かよ」
「顔は変えれないだろ。無茶言うなよ」
「そう言うことじゃない。巫山戯ているのか?」
「おいおい待て待て。俺は喧嘩しに来たんじゃないんだ。突っかかってくるなよ」
「だったら帰れよ。何で阿蘇に来た?」
「お前が大変だって聞いたから来たんだろ。当然だろ?」
「当然じゃない。そもそも、木下とは見舞いに行く仲じゃないし」
「はぁ? 俺とお前とはダチだろ? ダチなら困ったとき助けるのが普通だろ」
「そもそもお前はダチじゃないし。めちゃくちゃ気持ち悪いから勝手にダチとか決めないでくれませんか?」

木下の両眉がぐっと近くなって、目に怒りが宿った。

「京平、拗ねるのも大概にしとけよ。こっちが我慢してればいい気になりやがって、僕様ちゃんにも拍車がかかっているようだな」
「あ? キレるのか? キレる資格が無いのに? これだから俺様人間は嫌いなんだよ」
「キレるのに資格なんざいるか。そんな変なとこにこだわるから女にも逃げられるんだろ」

ブチっと僕の冷静が切れた。

松葉杖を捨てて階段を降り、木下の正面に立った。

「もういっぺん言ってみろ」
「あ? 気に障ったか? んじゃ言ってやるよ。そんな変なとこにこだわるから女にも逃げぶへ!」

全部言わせずにぶん殴った。
不意を突かれて拳をまともに鼻の頭にくらった木下は、無様に倒れて涙目で僕を睨む。

「ほ・・・ほまへ!」
「大概でお前は僕を下に見るよな。言っていい事と悪い事の区別もつかないのか? スキルを使わずに殴ってやった僕に感謝しろよ」
「クソ! あの頃とは違うってか?」

ハンカチをポケットから取り出して、鼻をふんっと鳴らしてクシャクシャに丸めてポケットに突っ込んだ。

「まだあめーけどな!」

仕返しの蹴りが僕の腹に突き刺さった。
万全だったら避けることができただろうが、今は右足のせいで俊敏な動きができなかった。
受け止めることもできずに後ろに倒され、追撃をされる前に大きく転がって立ち上がる。
・・・スキルを使った方が早いな。
そうだな、そうしよう。

覚悟を決めて木下を睨んだ瞬間、後頭部に強烈な打撃を受けて、頭を抱えて蹲った。

「何をやっているんだ、瀬尾」
「し、支部長・・・」
「さっき、スキルを使おうとしたな?」
「え? ・・・いや」
「読心スキル持ちを連れて、もう一度同じ質問をしてほしいか?」
「使おうとしました・・・」
「反省室でサイン300枚書いてこい! 如月! そっちはお前が反省させるんだろうな? それとも、館山がこっちに来てるのか?」

木下を見ると、奴のそばに居た背の小さい女性が奴の耳を捻っていた。

「私とこの子だけよ。組合の武道場借りるわね。ちょっとスキルを使いそうになるぐらい有り余る元気を減らしてくるわ」
「やっぱり、そいつが最近富士山のダンジョンで宝箱を見つけた子か」
「そうよ。とんでもない強運の持ち主。使い方がまだ未熟だけどね。ほら、行くわよ!」
「耳引っ張るな! 千切れるから! 歩くから!」

木下を引っ張って、如月と呼ばれた女性が裏口から出ていくのを見届けて、僕は立ち上がり、組合長に尋ねた。

「あいつは・・・木下はまた宝箱からアイテムを手に入れたんですか?」
「・・・なんか因縁があるみたいだが。まあ、一般に知られている範囲を簡単に言うと、2年ぐらい前からブラックアイズに引っ付く感じで富士のダンジョンに行っていたらしい。装備もアイテムも何も無いガキが付いてくるもんだから、最初はヒヤヒヤしたらしいが、分別ぐらいはあるみたいで、ちゃんと自分が大丈夫なエリアしかついてこなかったみたいなんだが、この前のドラゴン騒動に時に、誰もいないのをいいことに無茶をやらかしたみたいで、ズタボロになって戻って来たみたいだ。その時に、本人曰く『宝箱を見つけた。だから無茶をした』だそうだ」
「スキル名は・・・聞いてもいいですか?」
「問題ないだろう。炎帝と言う名前のスキルだ。フルアーマタイプでな、不要な時は体の中に入っていて見ることも触ることもできないようだ」
「強いんですか?」
「強い。神クラスには及ばないが、名前に帝・皇・王・主という文字がつくものは支配者クラスに分類されている。魔法の上級と思ったらいい。ランクもA級だ」
「・・・」

何でそんなアイテムをあのクズが・・・。
やるせ無い思いを胸に、僕は反省室に入って黙々とサインを書いた。
何枚か怒りでサインが崩れたが、気にせずそれも一枚にカウントした。
・・・後で知ったことだが、このサインはファンの間で通常の物より高額で売りに出されることになる。
失敗も特別性があっていいらしい。
僕には全く分からないけど。


久々に街を歩くと、街のみんなが心配そうに声をかけてくれた。
その人たちみんなにありがとうと伝えて別れて行く。
松葉杖も使い慣れていないので、周りの人からは痛々しそうに見えるのかもしれない。

「確か・・・ここら辺に」

記憶にある道を通り、一棟のビルの前に立った。
僕がホテルとして使っていたビルだ。
中には入れないように、黄色と黒のテープが貼られていた。
中を覗こうにもブラインドでガッチリガードされている。

あの部屋は・・・この中にあったのか。
僕が過ごした2年間は・・・あの人に慰められた・・・そして楽しかったあの日は。

「嘘だったのか・・・」

好きになったんですよ。
最初はウザいと思ってたけど、そんな貴方が好きになったんですよ。

溢れそうになった涙を、指で拭ってその場を離れた。

・・・この街には辛い思い出が多すぎる。
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