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宝箱探索編
強敵と宝箱
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灼熱ダンジョン入り口のポータル前で、莉乃と高城さんがファイアバード相手に装備の確認をしていた。
高城さんの周囲には氷の塊が浮いていて、それが光を反射させて虚像を作っているようだ。
・・・高城さんは凄く笑顔です。
対して莉乃は大変そうだった。
「加速が、速すぎる。動体視力が追いつかない」
前回は旋回速度で優位性を取っていたが、今回はジェットの加速のせいで、その優位性が失われた。
彼女にとってちょっとした試練かもしれない。
まあ、僕も彼女の姿を一瞬見失ってるから何も言えないんだけどね。
「ジェットの威力って抑えられないんですか?」
「残念だけど無理っぽ。良かれと思って最大出力しか出ないようにしたって。せめてもうちょっと抑えてもらってたら」
最大出力だと小回りの旋回が出来なくなる。
莉乃としては暴れ馬に乗っている感じだろう。
「どうします? このまま行くと、事故が起きそうな気がしますけど・・・」
「うーん、せっかくだから入りたいかな。私が飛ばなければいいんだよね?」
「まあ・・・それであれば」
一抹の不安が残るが、常時飛ばれるよりマシだろう。
「それでは、行きましょう」
いつも通り、僕が入りみんなを受け止める。
今回は、2人で行った時のことを説明して、宝箱を優先して1日の探索で終わらせる。
ただし、A級とスモモは確実に拾うこと。
「民間がA級を手に入れることができるチャンスらしいです」
「国が全部持ってっちゃうからね」
「この前の50億ってわざとバラしたのかも」
「ほぼわざとでしょ。上手くいけば国からおこぼれが貰えるかもって考えてたかもしれないけど、ほぼ嫌がらせよ、あれは」
あの瞬間は、みんなの顔が酷いことになったからな・・・。
探索者組合もA級を一個使っているらしいから、その効果は知っていたはずだし。
支部長はその辺についてどうでもいいと思っているかもしれないが、手に入れた時の松嶋さんのあの顔を思い出すと、他の人にとっては何よりも手に入れたいものなのだろう。
「それじゃ、みなさんマップと僕のスキルラインを表示してください」
僕は耳のダイヤルを回して、マップとスキル範囲を表示する。
そこにはみんなの位置がそれぞれの色で表示されていた。
これなら何も心配することなくスキルのオンオフが出来る。
「それでは、今日は15時にはここに戻る予定で行動します。質問はありますか?」
みんなが首を横に振ったのを見て、僕はいつもの通路を進んだ。
通路で出てくるモンスターは、基本B級なので叩き落として踏んづける。
必要だったら、後で来る麻生さんか植木さんが拾う予定だ。
今回のアタックも速度重視なので、カートは持ってきていない。
バックも、僕と麻生さん、植木さんの3人が持っていて攻撃担当の2人には持たせないことにした。
そして、十分に離れたのを確認して、僕は生命力吸収を発動した。
さて、今日は手早く行こう。
目的はあくまで宝箱だから。
最初の部屋は、いつも通りのカバと精霊が3体だった。
僕はさっさとカバを踏んで倒し、残りの精霊も空中から引き摺り下ろして踏みつけた。
次の部屋はB級しかいなかったので、サクッと終わらせて安全を確認した。
「一旦集まりましょうか」
僕がスキルを切って呼びかけると、天外天のみんなが集まってくる。
「前みたいにおんぶに抱っこって感覚はないけど、やっぱり京平くんは凄いね」
「進行速度が段違い。天外天だけだとこうはならないよね」
「だけど・・・感覚がおかしくなってきたかも。B級がゴミに見える」
「・・・ヤバイわね」
正直、B級魔石のことは、僕もどうでもいい存在だと思っている。
「そんなことより宝箱ですからね。それじゃ、みなさんMAPの確認をしましょう」
各自フェイスガードに映された画面を見る。
「先日僕と莉乃さんで行ったルートは右の方になります。一番右には鬼がいたので、そこは回避しました。2番目の奥には、溶岩の海を見渡せるルートにつながっていて、そこからは飛べない限り先には進めません。そうすると、真ん中のルートのどこかに溶岩の海につながる道があるはずです」
「それでなかった場合は・・・」
「一番右のルートになるね。」
あの青い奴が落ちてくるか、戦うことになるか。
どう考えても普通のA級よりも格上なので、できれば避けたいところだ。
「真ん中にルートがあることを祈りましょう」
そうして僕らは真ん中の道を進み、次の広間についた。
途中の道は、左や右よりも進みやすかったが、途中で休憩できそうな場所はなかった。
「・・・あれは初めて見ますね」
「私たちも行く。スキル切って待ってて」
莉乃たちが追いついてきて一緒に中を覗いた。
「妖狐? にしては大きいわね」
「うーん、尻尾は一本だから妖怪系ではなさそう」
「青い火が浮いてるね。ちょっと手強そうな感じがするよ」
「周囲の小さい狐も厄介そうね。檻に閉じ込めてどのくらい耐えれるかな・・・」
しばらくみんなで考えて、麻生さんは全員のバフ、植木さんは狐のロック、莉乃と高城さんは漏れた狐の討伐、僕があの大狐に向かうことになった。
「それじゃ、行きます!」
まず僕1人が飛び出て駆け出し、スキルの範囲からみんなの点が外れたのを確認して
生命力吸収を使用する。
まず、2匹の狐が僕のスキルに気づけずその場に倒れた、ちょっと離れた場所にいた他の2匹がそれを見て後ろに飛び退き臨戦態勢を取る。
大狐も僕に向けて、青い炎を飛ばしてきた。
僕はその炎を避けながら大狐を目指す。
動けなくなった狐は、植木さんの魔法で四角い土の箱に閉じ込められたみたいだ。
それを見た大狐が何かを言って、2匹の狐が飛び上がり、天井を走って植木さんに襲いかかる。
「そっちに行きました!」
「うん! 大丈夫!」
大量の高城さんの壁ができていた。
あれは視覚的に怖い。
狐たちも怖かったのか、空中でバランスを崩して変な体勢になっている。
あれならもう大丈夫だ。
莉乃がその隙を見逃すはずはない。
「それじゃ、僕はお前に集中しようか」
ぐったり倒れている大狐。
面倒臭いので飛び乗って加重で踏み潰した。
出た魔石は当然ながらA級。
後3つないと貰えなかった人の顔が恐ろしいことになるので、後2つを何としても手に入れないと。
それから鬼のいないルートを巡っていたが、宝箱は一向に出ず、A級とスモモがたまっていく。
「A級がもう3つたまったよ?」
「スモモも同数ですね。今行ってない場所は何処になりますか?」
「通路に鬼がいた奥と2箇所だけですね・・・どうしましょう」
「鬼の奥を一回覗くのはアリかも。なんか、一番宝箱がありそうな気がする」
となると、右奥になるのか。
ただ、あそこはまだ部屋はどんな様子なのかわからない。
慎重に進む必要がある。
「溶岩の海は・・・あそこは私も万全じゃないと行けないかな」
莉乃は今日は飛べないからな・・・。
「分かりました。ただし、今できる万全で行きましょう。みんなの装備の魔石を入れ替えます。後、何かあったら意地でも逃げてください」
僕の言葉にみんな頷いた。
おそらく、あの鬼が出てくる。
どういう出現のしかたをするか分からないが、他の人もそれを理解していて表情が硬い。
通路の鬼を倒して初めての広間を覗く。
「うわー」
「これは綺麗ですね」
「たまにこういう光景に出会えるから、探索者を辞めることを躊躇うのよ」
水晶の広間がそこにはあった。かなり奥まで続いているようで、入り口からでは奥まで見ることができない。
「莉乃さん、罠はありませんか?」
「無いね。入るだけなら問題なさそう」
「入ってみますか」
僕から足を踏み入れ中に入っていく。
「凄い・・・」
岩が熱で赤く光を発しているのとは違い、ここは水晶が光を反射させて少し青がかっている。
「これ、持って帰れないかしら?」
「折れそうなものを選んで折ってください。光になって消えなければ持って帰れます」
「折れるの?」
「折ってみましょう」
僕は斜めに生えた水晶の一つに乗って、根元を蹴った。
相当な加重になっているはずなのに、5発も蹴った。
ゴキン! と綺麗に折れたが、次の瞬間には光に変わっていく。
「あー、持って帰れないか。残念」
それから、しばらく周囲を注意しながら探索し・・・それに莉乃と高城さんが反応した。
「いた!」
「奥にいるわね」
僕らは全員で奥に進み、その姿を確認した。
青い巨大な鬼だった。
髪や髭は燃え盛る青い炎で出来ていて、かなり強そうだ。
「攻撃方法は、炎ですかね?」
「単純に考えたらそうね。もう十分よ。戻りましょう」
僕らが後ろに一歩下がる。
その瞬間、鬼がこっちを見た!
「逃げて!」
「グォォォォオオオオオオオオオ!」
鬼から逃げる。
幸い距離があったから追いつかれる可能性はないだろう。
僕らは走って入り口に向かった。
「え!? 待って!」
「莉乃? どうした・・・入り口がない!?」
「そんな! 何で!」
「後ろから来てるよ!」
ドスンドスンという音が大きくなってくる。
僕は振り返って鬼を睨んだ。
「全員距離をとって!」
鬼に向かって走る出す。
フェイスガードには、まだみんなの印が円の中に入っている。
頼む、早く出てくれ!
青鬼が腕を振り上げる。
いざとなったら右か左に飛ばなくてないけない。
鬼の右腕が振り下ろされる。
僕は左に飛んだ。
姿勢を低くした僕の上を右腕が通り過ぎる。
地面で一回転する時には4人は僕のスキル範囲から外れていたので、僕は焦ってスキルを使った。
「倒れろ、デカブツ!」
グラリと鬼の巨体が傾いた。
よし! 倒れればこっちのものだ!
そう思ったら、鬼は外側を何か透明なもので覆い始めた。
それがクリスタルだと気づいた時にはほぼ全身を覆っていて、さらに地面から2体のクリスタルゴーレムが現れた。
その2体は示し合わせていたかのように莉乃たちを襲い出した。
こいつ!
今までの僕たちの戦いを見ていて学習している!
「僕がこいつを倒すまで逃げてください!」
僕はクリスタルに覆われた鬼の上に登ってレバーを上げ、首筋を狙って思いっきり蹴った。
僕の体が弾き飛ばされた。
「嘘だろ!?」
地面に転がってすぐ起き上がり、再度こいつの体を上る。
ぱっと見5メートル以上はある体を屈んでいるとはいえ登るのは時間がかかる。
「おとなしく倒れればいいものを!」
登り着いて忘れていたボタンを押し、十分に重さが乗った右足を振り下ろす。
ゴガキィン!
まるで金属同士がぶつかった音がして、僕の足はクリスタルにヒビ一つ入れることができなかった。
「この!」
同じ場所を何度も踏みつける。
何の日々が全く入らない。
今まで蹴った中で一番硬い物質だ。
「この、デカブツが!」
視界の右下で、赤いライトが緑に変わった。
僕は急いでレバーを上げて踏みつける。
ドラゴンバスターの力がクリスタルに遮られて、僕の体がまた宙に飛ばされた。
だが、流石に同じ場所というのが効いたのか、ようやく蜘蛛の巣状にヒビが入った。
2発目で効果がなかったら別の策を考えなければいけないところだった。
僕はまた転がって起き上がり、すぐにボタンを押して巨体を登る。
「これで砕けなかったら、お前は放置する! 出口を探した方が百倍マシだ!」
レバーを上げて蹴り付ける。
3度目のドラゴンバスター。
アイスドラゴンの氷の繭みたいに、修復する機能がなくてよかった。
ドラゴンバスターがクリスタルを貫いて、鬼の首にダメージを与える。
続いて僕の右足が、同じ場所を踏みつけ、巨体が地面に倒れた。
「油断はしない! 光になるまで潰れろ!」
徹底して踏んだ。
ここで油断したら、僕は死ぬ。
僕だけじゃなく、みんな死ぬ。
ようやく巨体から光が出て、僕は踏むのをやめて莉乃たちを探した。
この鬼が死んだのなら、クリスタルのゴーレムも消えているはずだ。
「莉乃さん! みんな! 何処ですか!?」
レーダーの範囲外にいるのか、彼女たちのマークが映っていない。
「入ってきたところから右に行ったとこ。みんなそこにいるよ」
「そっちに行きます!」
急いで向かうと、槍を持って立っている莉乃と床に座った高城さん、その横で「大丈夫?」と声をかけている麻生さんと植木さんがいた。
「どうかしましたか?」
「高城ちゃんがゴーレムの攻撃を受けたの。右足と右腕は折れてる」
「だ、大丈夫よ。意識はあるわ・・・。痛いけど、温泉に入るいい機会よ」
痛そうに口を歪ませているが、強気に高城さんは言った。
「私のことよりも、あの鬼倒したんでしょ? 魔石は?」
「魔石よりもみなさんですよ。でもホッとしました。取りに行ってきます」
「莉乃も行ってきて。もう敵はいないだろうから、私たちだけで大丈夫よ」
「うん、何かあったら呼んでね」
僕たちは巨人がいた場所まで戻ると、そこにはメロン大の魔石が転がっていた。
「どうりで・・・強かったわけだ」
「ほんと・・・もう戦いたくないかも」
僕がそれをリュックに入れて立ち上がり、周囲を見渡す。
宝箱はここ以外の場所で探すべきだろう。
そう思って莉乃を見ると、彼女がある一点を指差していた。
「宝箱だ・・・」
高城さんの周囲には氷の塊が浮いていて、それが光を反射させて虚像を作っているようだ。
・・・高城さんは凄く笑顔です。
対して莉乃は大変そうだった。
「加速が、速すぎる。動体視力が追いつかない」
前回は旋回速度で優位性を取っていたが、今回はジェットの加速のせいで、その優位性が失われた。
彼女にとってちょっとした試練かもしれない。
まあ、僕も彼女の姿を一瞬見失ってるから何も言えないんだけどね。
「ジェットの威力って抑えられないんですか?」
「残念だけど無理っぽ。良かれと思って最大出力しか出ないようにしたって。せめてもうちょっと抑えてもらってたら」
最大出力だと小回りの旋回が出来なくなる。
莉乃としては暴れ馬に乗っている感じだろう。
「どうします? このまま行くと、事故が起きそうな気がしますけど・・・」
「うーん、せっかくだから入りたいかな。私が飛ばなければいいんだよね?」
「まあ・・・それであれば」
一抹の不安が残るが、常時飛ばれるよりマシだろう。
「それでは、行きましょう」
いつも通り、僕が入りみんなを受け止める。
今回は、2人で行った時のことを説明して、宝箱を優先して1日の探索で終わらせる。
ただし、A級とスモモは確実に拾うこと。
「民間がA級を手に入れることができるチャンスらしいです」
「国が全部持ってっちゃうからね」
「この前の50億ってわざとバラしたのかも」
「ほぼわざとでしょ。上手くいけば国からおこぼれが貰えるかもって考えてたかもしれないけど、ほぼ嫌がらせよ、あれは」
あの瞬間は、みんなの顔が酷いことになったからな・・・。
探索者組合もA級を一個使っているらしいから、その効果は知っていたはずだし。
支部長はその辺についてどうでもいいと思っているかもしれないが、手に入れた時の松嶋さんのあの顔を思い出すと、他の人にとっては何よりも手に入れたいものなのだろう。
「それじゃ、みなさんマップと僕のスキルラインを表示してください」
僕は耳のダイヤルを回して、マップとスキル範囲を表示する。
そこにはみんなの位置がそれぞれの色で表示されていた。
これなら何も心配することなくスキルのオンオフが出来る。
「それでは、今日は15時にはここに戻る予定で行動します。質問はありますか?」
みんなが首を横に振ったのを見て、僕はいつもの通路を進んだ。
通路で出てくるモンスターは、基本B級なので叩き落として踏んづける。
必要だったら、後で来る麻生さんか植木さんが拾う予定だ。
今回のアタックも速度重視なので、カートは持ってきていない。
バックも、僕と麻生さん、植木さんの3人が持っていて攻撃担当の2人には持たせないことにした。
そして、十分に離れたのを確認して、僕は生命力吸収を発動した。
さて、今日は手早く行こう。
目的はあくまで宝箱だから。
最初の部屋は、いつも通りのカバと精霊が3体だった。
僕はさっさとカバを踏んで倒し、残りの精霊も空中から引き摺り下ろして踏みつけた。
次の部屋はB級しかいなかったので、サクッと終わらせて安全を確認した。
「一旦集まりましょうか」
僕がスキルを切って呼びかけると、天外天のみんなが集まってくる。
「前みたいにおんぶに抱っこって感覚はないけど、やっぱり京平くんは凄いね」
「進行速度が段違い。天外天だけだとこうはならないよね」
「だけど・・・感覚がおかしくなってきたかも。B級がゴミに見える」
「・・・ヤバイわね」
正直、B級魔石のことは、僕もどうでもいい存在だと思っている。
「そんなことより宝箱ですからね。それじゃ、みなさんMAPの確認をしましょう」
各自フェイスガードに映された画面を見る。
「先日僕と莉乃さんで行ったルートは右の方になります。一番右には鬼がいたので、そこは回避しました。2番目の奥には、溶岩の海を見渡せるルートにつながっていて、そこからは飛べない限り先には進めません。そうすると、真ん中のルートのどこかに溶岩の海につながる道があるはずです」
「それでなかった場合は・・・」
「一番右のルートになるね。」
あの青い奴が落ちてくるか、戦うことになるか。
どう考えても普通のA級よりも格上なので、できれば避けたいところだ。
「真ん中にルートがあることを祈りましょう」
そうして僕らは真ん中の道を進み、次の広間についた。
途中の道は、左や右よりも進みやすかったが、途中で休憩できそうな場所はなかった。
「・・・あれは初めて見ますね」
「私たちも行く。スキル切って待ってて」
莉乃たちが追いついてきて一緒に中を覗いた。
「妖狐? にしては大きいわね」
「うーん、尻尾は一本だから妖怪系ではなさそう」
「青い火が浮いてるね。ちょっと手強そうな感じがするよ」
「周囲の小さい狐も厄介そうね。檻に閉じ込めてどのくらい耐えれるかな・・・」
しばらくみんなで考えて、麻生さんは全員のバフ、植木さんは狐のロック、莉乃と高城さんは漏れた狐の討伐、僕があの大狐に向かうことになった。
「それじゃ、行きます!」
まず僕1人が飛び出て駆け出し、スキルの範囲からみんなの点が外れたのを確認して
生命力吸収を使用する。
まず、2匹の狐が僕のスキルに気づけずその場に倒れた、ちょっと離れた場所にいた他の2匹がそれを見て後ろに飛び退き臨戦態勢を取る。
大狐も僕に向けて、青い炎を飛ばしてきた。
僕はその炎を避けながら大狐を目指す。
動けなくなった狐は、植木さんの魔法で四角い土の箱に閉じ込められたみたいだ。
それを見た大狐が何かを言って、2匹の狐が飛び上がり、天井を走って植木さんに襲いかかる。
「そっちに行きました!」
「うん! 大丈夫!」
大量の高城さんの壁ができていた。
あれは視覚的に怖い。
狐たちも怖かったのか、空中でバランスを崩して変な体勢になっている。
あれならもう大丈夫だ。
莉乃がその隙を見逃すはずはない。
「それじゃ、僕はお前に集中しようか」
ぐったり倒れている大狐。
面倒臭いので飛び乗って加重で踏み潰した。
出た魔石は当然ながらA級。
後3つないと貰えなかった人の顔が恐ろしいことになるので、後2つを何としても手に入れないと。
それから鬼のいないルートを巡っていたが、宝箱は一向に出ず、A級とスモモがたまっていく。
「A級がもう3つたまったよ?」
「スモモも同数ですね。今行ってない場所は何処になりますか?」
「通路に鬼がいた奥と2箇所だけですね・・・どうしましょう」
「鬼の奥を一回覗くのはアリかも。なんか、一番宝箱がありそうな気がする」
となると、右奥になるのか。
ただ、あそこはまだ部屋はどんな様子なのかわからない。
慎重に進む必要がある。
「溶岩の海は・・・あそこは私も万全じゃないと行けないかな」
莉乃は今日は飛べないからな・・・。
「分かりました。ただし、今できる万全で行きましょう。みんなの装備の魔石を入れ替えます。後、何かあったら意地でも逃げてください」
僕の言葉にみんな頷いた。
おそらく、あの鬼が出てくる。
どういう出現のしかたをするか分からないが、他の人もそれを理解していて表情が硬い。
通路の鬼を倒して初めての広間を覗く。
「うわー」
「これは綺麗ですね」
「たまにこういう光景に出会えるから、探索者を辞めることを躊躇うのよ」
水晶の広間がそこにはあった。かなり奥まで続いているようで、入り口からでは奥まで見ることができない。
「莉乃さん、罠はありませんか?」
「無いね。入るだけなら問題なさそう」
「入ってみますか」
僕から足を踏み入れ中に入っていく。
「凄い・・・」
岩が熱で赤く光を発しているのとは違い、ここは水晶が光を反射させて少し青がかっている。
「これ、持って帰れないかしら?」
「折れそうなものを選んで折ってください。光になって消えなければ持って帰れます」
「折れるの?」
「折ってみましょう」
僕は斜めに生えた水晶の一つに乗って、根元を蹴った。
相当な加重になっているはずなのに、5発も蹴った。
ゴキン! と綺麗に折れたが、次の瞬間には光に変わっていく。
「あー、持って帰れないか。残念」
それから、しばらく周囲を注意しながら探索し・・・それに莉乃と高城さんが反応した。
「いた!」
「奥にいるわね」
僕らは全員で奥に進み、その姿を確認した。
青い巨大な鬼だった。
髪や髭は燃え盛る青い炎で出来ていて、かなり強そうだ。
「攻撃方法は、炎ですかね?」
「単純に考えたらそうね。もう十分よ。戻りましょう」
僕らが後ろに一歩下がる。
その瞬間、鬼がこっちを見た!
「逃げて!」
「グォォォォオオオオオオオオオ!」
鬼から逃げる。
幸い距離があったから追いつかれる可能性はないだろう。
僕らは走って入り口に向かった。
「え!? 待って!」
「莉乃? どうした・・・入り口がない!?」
「そんな! 何で!」
「後ろから来てるよ!」
ドスンドスンという音が大きくなってくる。
僕は振り返って鬼を睨んだ。
「全員距離をとって!」
鬼に向かって走る出す。
フェイスガードには、まだみんなの印が円の中に入っている。
頼む、早く出てくれ!
青鬼が腕を振り上げる。
いざとなったら右か左に飛ばなくてないけない。
鬼の右腕が振り下ろされる。
僕は左に飛んだ。
姿勢を低くした僕の上を右腕が通り過ぎる。
地面で一回転する時には4人は僕のスキル範囲から外れていたので、僕は焦ってスキルを使った。
「倒れろ、デカブツ!」
グラリと鬼の巨体が傾いた。
よし! 倒れればこっちのものだ!
そう思ったら、鬼は外側を何か透明なもので覆い始めた。
それがクリスタルだと気づいた時にはほぼ全身を覆っていて、さらに地面から2体のクリスタルゴーレムが現れた。
その2体は示し合わせていたかのように莉乃たちを襲い出した。
こいつ!
今までの僕たちの戦いを見ていて学習している!
「僕がこいつを倒すまで逃げてください!」
僕はクリスタルに覆われた鬼の上に登ってレバーを上げ、首筋を狙って思いっきり蹴った。
僕の体が弾き飛ばされた。
「嘘だろ!?」
地面に転がってすぐ起き上がり、再度こいつの体を上る。
ぱっと見5メートル以上はある体を屈んでいるとはいえ登るのは時間がかかる。
「おとなしく倒れればいいものを!」
登り着いて忘れていたボタンを押し、十分に重さが乗った右足を振り下ろす。
ゴガキィン!
まるで金属同士がぶつかった音がして、僕の足はクリスタルにヒビ一つ入れることができなかった。
「この!」
同じ場所を何度も踏みつける。
何の日々が全く入らない。
今まで蹴った中で一番硬い物質だ。
「この、デカブツが!」
視界の右下で、赤いライトが緑に変わった。
僕は急いでレバーを上げて踏みつける。
ドラゴンバスターの力がクリスタルに遮られて、僕の体がまた宙に飛ばされた。
だが、流石に同じ場所というのが効いたのか、ようやく蜘蛛の巣状にヒビが入った。
2発目で効果がなかったら別の策を考えなければいけないところだった。
僕はまた転がって起き上がり、すぐにボタンを押して巨体を登る。
「これで砕けなかったら、お前は放置する! 出口を探した方が百倍マシだ!」
レバーを上げて蹴り付ける。
3度目のドラゴンバスター。
アイスドラゴンの氷の繭みたいに、修復する機能がなくてよかった。
ドラゴンバスターがクリスタルを貫いて、鬼の首にダメージを与える。
続いて僕の右足が、同じ場所を踏みつけ、巨体が地面に倒れた。
「油断はしない! 光になるまで潰れろ!」
徹底して踏んだ。
ここで油断したら、僕は死ぬ。
僕だけじゃなく、みんな死ぬ。
ようやく巨体から光が出て、僕は踏むのをやめて莉乃たちを探した。
この鬼が死んだのなら、クリスタルのゴーレムも消えているはずだ。
「莉乃さん! みんな! 何処ですか!?」
レーダーの範囲外にいるのか、彼女たちのマークが映っていない。
「入ってきたところから右に行ったとこ。みんなそこにいるよ」
「そっちに行きます!」
急いで向かうと、槍を持って立っている莉乃と床に座った高城さん、その横で「大丈夫?」と声をかけている麻生さんと植木さんがいた。
「どうかしましたか?」
「高城ちゃんがゴーレムの攻撃を受けたの。右足と右腕は折れてる」
「だ、大丈夫よ。意識はあるわ・・・。痛いけど、温泉に入るいい機会よ」
痛そうに口を歪ませているが、強気に高城さんは言った。
「私のことよりも、あの鬼倒したんでしょ? 魔石は?」
「魔石よりもみなさんですよ。でもホッとしました。取りに行ってきます」
「莉乃も行ってきて。もう敵はいないだろうから、私たちだけで大丈夫よ」
「うん、何かあったら呼んでね」
僕たちは巨人がいた場所まで戻ると、そこにはメロン大の魔石が転がっていた。
「どうりで・・・強かったわけだ」
「ほんと・・・もう戦いたくないかも」
僕がそれをリュックに入れて立ち上がり、周囲を見渡す。
宝箱はここ以外の場所で探すべきだろう。
そう思って莉乃を見ると、彼女がある一点を指差していた。
「宝箱だ・・・」
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俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
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クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
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13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
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※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
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