人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

文字の大きさ
上 下
43 / 151
ドラゴン来襲編

宮古島戦線

しおりを挟む
天空大陸がもう間も無く本州に再接近する。
自衛隊が算出した予測進路では、まるで台風のように弧を描く感じで動いていくようだ。
小笠原諸島などは、完全に上空を大陸が通り抜けていくらしい。
なので、住民は全員本州へ移動させたとテレビでアナウンサーが言っていた。
莉乃さんがいる宮古島も、住民は自衛隊が沖縄本島へ移動させたらしい。
探索者たちが、遠慮なくスキルを使えるようにとの配慮の気持ちもあったようだ。

僕たちは3人集まって、土尾さんの折りたたみ画面とテレビを繋いで、今の宮古島の様子を見ていた。
自衛隊の予測では、宮古島には今日再接近する予定となっている。
僕は何があっても助けに行くことができない。

「莉乃さん・・・どうか無事で」

もうテレビからでも分かるぐらい天空大陸が大きく見える。
そして、その周囲を飛行する物体も見え始めた。

「あれがワイバーンだ」

その内の一頭が、カメラの方に近づいてきて徐々に鮮明になってきた。

「デカい」
「これはぁ、ちょっとキツイかもねぇ」

大きさが単純に力になるわけではないが、物体としても重さは上から降ってくるだけでも驚異になりうる。
圧死は僕の衝撃無効でも防げない攻撃だ。

その姿がだいぶん近づいたところで、まず、自衛隊の対空攻撃が開始された。
相手がモンスターなので、問答無用の先制攻撃を仕掛けたようだ。
それに対抗して、ワイバーンも炎の球を吐き出すが、一回一回にそれなりの時間を要するらしく、自衛隊の物量に押されていた。

「炎の球は恐ろしいですが、今の状態なら撃退は出来そうですね」
「問題は、こいつが偵察だった場合だな」

僕は頷く。
もしこいつが1番弱い個体で、すぐ後ろに大群が待っているのなら、宮古島が崩壊する。

「不味い状況になった場合は、みんな避難できるようになっているんですか?」
「万が一に備えて、宮古島と石垣島を繋げた海底トンネルがあったはず。逃げるのならそれを使うだろ」

僕らが話をしている間に、単体で来たワイバーンは一回も地上に降りることなく戻っていった。

「逃げ帰りましたけど、手傷を負わせることが出来ませんでしたね」
「これからが本番だろう。向こうも多少の損害覚悟でくる」

しばらく探索者たちの姿が映し出され、各々が休憩を取っている様子が流れた。
天外天の人たちっぽい姿が見えた。
全員が灼熱ダンジョンで使う専用装備を着ていた。
飛行装備や動物対策装備、魔法強化装備のためだろう。
頭部装備を外して風を感じているようだ。

画面を通して緊張を感じていると、土尾さんの携帯が震えた。
耳に当てないところを見ると、メッセージが届いたようだ。
それから土尾さんが折りたたみの画像を少し扱うと、メインの画像以外に4つの画像が現れた。

「ドローンからの映像らしい」
「これで対策を考えろってことかなぁ」

多分その通りなのだろう。
僕は映像を観ていると、あることに気づいた。

「あれ? ミサイルがない?」

僕の言葉に、土尾さんが映像を次々入れ替えて確認を始めた。

「まさか、次は陸上戦をやるつもりか?」
「どうやって落とすつもりかなぁ?」
「いや、地面に段差がある。なんだあれ?」
「・・・塹壕だ! 何かを隠してる!」

僕たちからはわからない角度でしか映像が映されない。
そこには、おそらく自衛隊なのだろう、迷彩服を着た人たちが頭だけを出して警戒している。
不意に、何人かが空を指差した。

「来た!」

広場の中央を陣取っていた人たちが散らばり、ドローンも4方向に移動して全体を見渡せる位置で留まった。
そして上空から・・・ワイバーンが落ちて砂埃を上げた。
ズタボロになっていたため、すぐには判別が出来なかったが、先ほどの偵察できたワイバーンと思わしき個体が瀕死の状態で横たわっている。

「グルルルルルァァァァァァアアアアア!」

上空から咆哮が降り注いだ。
ドローンのカメラが向きを変えて上空を映す。

「3体か」

最初の一頭は、もう無視して問題ないだろうとみんなは判断したのか、全員が上空に注意を向けている間に、恐らく植木さんだと思うが、地に落ちたワイバーンが地面の中に完全に埋もれていった。

そして、最初に炎の球が降り注いだ。
現地にいる人たちは当たらないように逃げ回り、反撃の機会を伺う。
しばらく炎の球を打ち続けていたワイバーンだったが、避け続ける人間たちに苛立ったのか、3頭の高度が徐々に落ちてきた。

「仕掛けるなら・・・」

今だろう。
僕の思った通り、塹壕に隠れていた人たちが中から巨大な筒を起こして、ドォォン! と何かを打ち出した。
それも一つではない。
全部で3つの筒から塊が打ち出され、上空で広がってワイバーンたちに覆い被さった。

「網か!」
「でもぉ、引きちぎられないかなぁ?」

僕も入江さんと同じ意見だ。
A級モンスターには投網は通用しない。
ジャイアントゴーレムだと、網が覆っても体勢を崩すことなく引きずって歩くし、モンスターによっては網を溶かすやつまでいる。

「そうはなっていないみたいだぞ」

網が絡まって翼を広げることができないものや、網の中で広げてはいるが、何故か目が虚になってたり、起きては倒れ、また起きては倒れを繰り返している。

「まさか、デバフの付いた網?」
「なるほど、ハズレスキルの網か」

そんなワイバーンに、探索者たちや自衛隊、警察は襲いかかった。
そこに容赦はない。
剣で翼を切り裂き、ハンマーで頭をぶっ叩いてどんどん弱らせる。
莉乃さんも、翼を広げることが出来ずに転がっているものにめがけて単槍を突き出し、目玉を抉った。
たまらず口を大きく開けて叫ぶワイバーンに、今度は土がその口に侵入する。
生物は生きている限り呼吸をする。
このワイバーンも、その法則には従っているようで、口と鼻を塞がれ、悶え苦しみながら倒れて動かなくなった。

動かなくなったワイバーンには念の為2人が残って他の人たちは残りの2頭に襲いかかる。
その中の1頭は口から水蒸気を出して周囲を威嚇していた。

「水魔法はあまり効果が無いようだな」

なるほど、さっきの土魔法と同じように、水魔法で口と鼻を塞ごうとしたら、炎で蒸発されたのか。
だが、ワイバーンからの攻撃はここまでで、追加で襲ってきた人たちに、なす術なく蹂躙されていった。

「デバフの網と土魔法が欲しいですね」

その二つがあれば、ワイバーンなら対処が容易になる。

「・・・すぐには無理だな」
「今の今じゃぁ、きついかなぁ」

残念ながら入手は不可能なようだ。


その夜、僕は莉乃さんに電話をした。

「お疲れ様です、莉乃さん」
『本当に疲れたよ。網で動けなくなってても口から火出すし、酔っ払ってるのは行動が予測不能状態だったから踏まれないようにするのがきつかったー』
「どんなスキルが付いていたんですか?」
『なんか、ドジっ子属性と起き上がり不可と酔っ払いってスキルだったみたい。敵に装備させるなんて、裏技だよね」

確かに裏技だろう。
本能でしか動けない相手のみに有効で、知恵があると装備解除できるので、ただの網にしかならないが。

「こっちにもあれば良かったんですが、急には入手出来ないようで」
『同じようなスキルを探すのも一苦労だしね』
「なので、太めのロープを貰うことにしました」
『ロープで簀巻きにする?』
「生捕りは流石に危険なのでしませんよ。ジャンプした際に位置がずれていたら、それで捕まえるつもりです」
『輪投げの練習が必要だね』

実際はロープ投げなのだが、コツが掴めるかが心配だ。

「まだまだ気を抜くことが出来ませんが、生き残って帰りましょう。そしたらまた、宝探しです」
『そうだね! 頑張って生き残るぞ!』

電話を切って、僕はドラゴンについて検索した。
宮古島にはドラゴンは来なかった。
もし万が一、日本のどこかに来るようなことがあれば・・・、

「必ず倒さないと」

ここには棲家は作れないと教え込まなければならない。

徹底的に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。 少年の名はユーリ・グランマード。 剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。 先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。 生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。 その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。 しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。 ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。 有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。 【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。 そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。 ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。 そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。 魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。 その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――

処理中です...