人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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ドラゴン来襲編

最悪来襲の知らせ

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高城さんたちが、揉みくちゃにされながら組合の中に入ってきた。

「ごめんね、また今度ね」
「ありがとう。励みになるよ」
「またね、またね!」

組合員が急いで入り口に向かって、警備員と共に建物内に入ろうとした人たちを押し出す。

「高城ちゃん! こっち!」

手を振る莉乃さんを見て、高城さんはホッとした表情で2人に合図してこっちに歩いてくる。

「ちょっと椅子を持ってきますね」

僕が足りないあと2つの椅子を持ってこようと席を立つと、スススっと隣のテーブルの組の1人が自分の座っていた椅子を渡してきた。

「是非、高城さんに」
「え? は、はぁ」

不思議な条件だが、ありがたく椅子を受け取る。
その隣の席の人も椅子を差し出してきて、「植木嬢に・・・お願いします」と言ってきた。
鬼木さんが一度二つの椅子を見て、何事もないかのように席を寄せて椅子が入るように調整した。

「それじゃ、私たちがこう座りましょう。3人はここに座ってね。高城と植木はこっちで」

鬼木さんの指示で僕から時計回りで、莉乃さん、高城さん、植木さん、麻生さん、鬼木さんの順に座った。
椅子をくれた2人がガッツポーズで喜んでいた。
僕も何か変なものがついていないか、目視で確認したが、特に何もなかった。
・・・何がそんなに嬉しいのか分からない。

「気にしなくていいわよ。自分が使っていたものを推しが使ってくれることに喜びを見出す人たちだから」

・・・僕には分からない世界としておこう。

「今日はホテルにいると思ってたけど、どうかしたの?」
「うん。・・・私たちの今後について、はっきりしておかないと行けないと思って」

莉乃さんの表情が強張る。
もう既に考えていたようだ。
引退か継続か・・・。

「莉乃は知ってると思うけど、私たちは、さしてあれがしたい! って目標も無しに探索者を続けていたわ。まあ、C級であれば、私と乃亜、一美でやろうと思えばできたしね。でも、2人のおかげで大金が手に入ることになった。それでね・・・」

高城さんがゆっくりと息を吸った。

「私と一美は灼熱ダンジョンまで莉乃に付き合うことにしたわ。乃亜は2級に上がったから組合が手放さないだろうって予想だけど?」
「そうね。2級は有事の際に貴重な戦力となるから、宮下と一緒に私とメディアや方々の調整かな」
「・・・私って見栄えする容姿してないですよ」
「方法は色々あるわよ。何も問題はないわ」

獰猛な笑みを浮かべる鬼木さんに、ヒィっと引きつる植木さん。
植木さんの今後に期待大です。

「ところで、灼熱ダンジョンまで付き合うってことは・・・莉乃さんがアイテムを手に入れるまでっと僕は考えたんですが、それで合ってますか? 合ってたら最短で次のアタックになりますけど」
「それで合ってるわよ。まあ、アイテムを手に入れた後に一回は一緒に巡って莉乃の強さを実感してから辞めるわ」
「私も同じ。1級の強さは瀬尾くんで理解してるけど、新しいアイテムを手に入れた莉乃がどのくらい強くなれるのか見たいから」

高城さんと麻生さんが莉乃さんを見て頷く。
探索者を続ける仲間の強さを最後に確認して、安心して辞めたいのだろう。
タイミング良く僕の携帯が振動した。
宮地さんからだ。

「ちょっと電話に出ます」

僕は席を外して電話を通話にした。

「はい、瀬尾です」
『宮地です。今お時間大丈夫ですか?』
「はい、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
『ええ、今どちらですか? ホテルにいますか?』
「いえ、組合にいます」
『・・・ちょうどよかったと言いましょうか。しばらくそこにいてください』

これは・・・逃げられない流れ。

「ちょっと僕これから」『・・・』

断る間も無く切られていた。


宮地さんと浜田さんが組合に入ってきた。それを確認して、僕も席を立つ。

「あ・・・用事?」
「っぽいです。多分、支部長室だと思うので行ってきます」

受付で手続きを済ませた2人と合流してエレベーターに乗る。

「今日は何があったんですか?」
「まだ・・・あってはいません。ただ、日本の全組織が手を組む必要があるかもしれません」
「・・・」

宮地さんの言葉に、浜田さんが真剣な表情で頷く。
2人は事態を聞いているようだが、何も知らない僕は、とりあえず2人について行くことにした。

支部長室にあと少しのところで、急に扉が開いて携帯を耳に当てた支部長が出てきた。
同時に僕に携帯が振動する。

「あ、瀬尾もいたか。すまん、今電話した。中に入ってくれ」

支部長室でそれぞれがソファーに座り、支部長を見る。
彼の顔にも緊張が見られ、ただ事ではない事態が発生した事が見て取れた。

「話は・・・宮地さんからしてもらったほうがいいか?」

支部長の言葉に宮地さんは頷いて僕を見る。

「自衛隊の特別隊員・・・天空大陸ムーを監視している者から緊急通達が全自衛隊基地に送られました。今まで太平洋の南側にあった大陸が北に移動を開始しました。1ヶ月以内に日本に最接近し、ドラゴンどもが来ます。他の地区にいる1級探索者や特別隊員、別動公安部隊にも指示が行きますが、瀬尾くんを特別戦力として警察に一時的に所属してもらいたい」
「警察にですか?」

僕が浜田さんを見ると、彼は深く頷いた。

「別動公安部隊に特殊なスキルを持った2人がいます。『運び屋』と我々は呼んでいますが、抵抗無効と俺の道に敵は無しという凄まじい効果のあるスキル保有者です。その2人と同行してもらいます」
「ドラゴンの居場所に僕を連れて行くためですか?」
「はい。瀬尾くんが持ってきてくれた魔石のおかげで、ドラゴンキラーも沖縄に2機、高知に2機、北海道に3機、他7都県に1機ずつ配置予定です。1機につきB級魔石を10個エネルギーとして持って行くことになります」
「・・・ドラゴンは討伐・・・迎撃ではなく殺す計画ですか?」
「・・・その予定です。瀬尾くんの能力頼りですが、上はこの機会にドラゴンの素材を期待していますが、そもそもドラゴンキラーがどこまで有効か分かっていません。ですが、瀬尾くんの加重が今回期待できない以上、ドラゴンキラーに期待するしかないんです」
「僕の加重は使ったらダメなんですか?」
「ダメではありませんが、移動のたびに切ってもらう必要があります。火龍討伐の際には、どのぐらいの時間、スキルを使用してましたか?」

20分はかけていたはずだ。
今回は短時間で何箇所も廻る計画になる。
だが、そこで僕の頭に疑問が一つ浮かんだ。

「本州四国九州は、まだ橋などで繋がってるし、スキル次第で行けるかもしれませんが北海道まで物理的に遠いのも行けるんですか? それと沖縄はどうするんですか? そのスキルは海でも問題ないんですか?」

僕の質問に3人が渋い顔をする。

「沖縄と北海道は、探索者組合の2級と3級に行ってもらうことになった。もちろん討伐ではなく撃退が目標となる。今日から順次通達されるはずだ」
「僕でも不安なのに、3級にも要請を出すんですか?」
「3級以上の探索者の使命だ。だからこそ優遇されている」
「ドラゴンの相手をすることになるとは考えていなかったでしょうけど」
「この要請を断った場合は4級へ降格。有事の際の要請に参加するからこそ、国も優遇措置を認めているんだ」
「僕は嫌々なんですが」
「そこは・・・すまないと思っている」

僕のことはまだいいが、問題は莉乃さんたちだ。
下手に空中戦ができるだけに危険度が増している。

「天外天はどこに配属予定ですか?」
「沖縄の宮古島だ。阿蘇には4級以下を残して俺も沖縄に行くことになった」
「阿蘇山が噴火したらどうするつもりですか」
「副支部長に取りまとめを頼んでいる。復帰組も問題なく戦力になるから、通常の噴火なら問題ないはずだ。自衛隊もいるから大事にはならない」

それ以外にも、地域地域に連絡が取れやすい警察組織の方が、ドラゴンの目撃情報が集まりやすく、動きやすいそうだ。

前回の火龍からもう1年近く・・・あの時は火龍は僕をみくびっていたため、僕が有利な状態で戦えた。
今回は最初から飛んでいるドラゴンが相手となる。
不安が僕の心を広がって行く気がした。
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