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阿蘇灼熱ダンジョン編

ダンジョンアタックしたい人たち

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冬になった。
と言っても11月は、まだまだ秋服で過ごせるが人によっては肌寒い季節。

あれから3日後に魔石のカッティングが終わったので、みんなにあげた。
凄く喜ばれてた。
支部長からは、「カッティングされたB級魔石は100万円以上する」と言われた。
カッティング費が高いわけだ。
もちろん高いだけあって凄く綺麗な魔石に生まれ変わっている。
中の魔力も綺麗に見えるので、観賞用としてどこかに飾るかもしれない。

それからダンジョンアタックは天外天と話をして、やはり装備が来てからアタックすることが決まった。
この話し合いは警察と自衛隊も気になったらしく、浜田さんと宮地さんも同席していた。

それから契約書案が出来たと松嶋さんからデータが送られてきた。
魔石に関しては月締めで、B級魔石の総数の1割と記載があった。
つまり、10個組合に持ってきたら1個が松下魔力電機に行くということだ。
そのぐらいならいっかっと軽く考えてたら支部長と副支部長、鬼木さんの3人からストップがかかった。
「お前は一回のアタックで魔石を何個持って帰ってきた?」
「えっと、60近く?」
「オーバーだ。それで、月何回アタックするつもりだ」
「宝箱目的ですから、3回はしたいですね」
「単純計算で18個だ。1社にそれをすると後の3社も自分もと言ってくるぞ。計72個だ」
「私の条件も聞いたでしょ。B級魔石を月に1個。これでも会社からは感謝される数なのよ」
「それに市場というものも気にしてくれ。月に100個を超えるB級魔石が流れると価格崩壊が起きてしまう。瀬尾が永遠に粉骨砕身働きますと言うなら止めないが、ジジイになっても働きたいか?」

それは嫌だ。
僕たちはもらった案を印刷して、一言一言チェックしながら抜けがないかを確認していく。

「ん? これは・・・どうしましょうか?」

副支部長が肖像権についての項目を見せてきた。

「なになに、『乙は甲に対してテレビやコマーシャル、その他メディアへの出演を強要することはできない。ただし、乙社の商品を甲が使用している映像等について、乙はその映像を使用することができる』これはまた、微妙なラインを突いてきたな」
「何かいけないんですか?」
「これな、ダンジョンアタックで装備のデータを渡す際に、映像も渡すって話があったのを覚えているか?」
「なんか、もらった用紙にそんな事が書かれていた気が・・・」
「つまり、その映像からお前の部分を抜き出して、CMとかに使えるって内容なんだよ。音声も良さそうな会話があったら抜いて当てはめればあら不思議。商品宣伝の出来上がりーってな」
「・・・まあ、今の僕の害にならなければいいか、とは思いますけど」
「ふむ・・・じゃあ、『使用する場合は内容を明確に甲に説明しなければならない。また、各メディアで発信する場合は、必ず甲及び代理人に画像及び動画の確認を取ること。その際に甲が使用を禁止した場合、乙は該当するデータを使用してはならない』を追記してもらおう。これならいざという時止める事ができるはずだ」

ヤバい・・・この支部長、かなり出来る。
副支部長を見ると、満足そうに頷いていた。

契約案の修正希望を返信して、僕はやれやれと背もたれに体重を預けて背伸びをした。
デスクワークというのは、僕にはあっていないのかもしれない。
外でモンスターを倒してた方が楽だ。

「ところで、瀬尾はこの後は予定はあるか?」
「ないで・・・いやあります」
「嘘はいかんぞ嘘は」

逃げようとした僕の肩を、がっしりと掴まれた。
彼の手には、また色紙が握られている。

「瀬尾のサインは人気でな。特に、前回のお前の悪戯書き付きが転売されて今では10万近くの値がついている」

何の思入れもないサインなのでどうなってもいいのだが、それとこれと何の関係があるのかわからない。

「偽サインが出てきているんですよ。瀬尾さんのサインは組合で書かれたものと、熊本のホテル2件で書かれたもの、初期に阿蘇の住人たちが運良く貰えたもの以外に存在しません。そこに付け込んで、ネットのフリーマーケットで偽物を格安販売している輩がいるんですよ。買う方も買う方ですが、悪いのはやはり売る方です。なので『偽物には気をつけてね』と注意喚起も付けてサインをお願いします」
「・・・書かなければいいんじゃないかな? そうすれば、売られているのはほぼ偽物になるわけだし」
「支部長命令だ」
「4級た」
「つべこべ言わずに書け!」

強制的に書かされました。
ちゃんと『偽物には気をつけてね』も付けました。
無駄にハートマークも入れたりしました。
・・・左手が痛い。


サインを書き終えて、またしばらく経つと雪が降ってくるようになった。
新暦になって、地球の温顔化が緩和し、気候が2020年ごろまで戻っているそうだ。
地球にとっては、この新暦は救いだったのかもしれない。

「京平くん、今日はどうしようか?」

窓の外を見ながら、相変わらずな姿をしている莉乃さんを見ないようにして僕は考えた。

「・・・仙酔峡、カルデラ湖ダンジョンに行ってみますか? あそこなら通常装備でいけますよね?」
「いいね! 探索は終わっているから情報もあるし、灼熱より危険は少ないからみんなも来てくれるかも」

電話をしてもらうと、みんなからすぐオッケーの返事がきて、一度集まることになった。
僕と莉乃さんが喫茶店に入ってコーヒーを頼み、僕は砂糖のみ、莉乃さんは砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。
ゆっくり飲みながら3人を待っているとカランカランっと来客を告げる鐘が鳴った。

そこには3人がいた・・・。

思わず莉乃さんを見た。
彼女も自分の目が信じられないのか、何度も擦っている。
3人はゆっくりと僕たちの前に、静かに座った。

「・・・お久しぶりです?」
「3人とも・・・何があったの?」

僕たちが3人を凝視すると、揃って視線を逸らした。
3人とも・・・ポッチャリしていた。

「お・・・」
「お?」
「お金が悪いのよ!!」

高城さんの絶叫にビクッと体が跳ねる。
店員さんも何事かとこっちを見た。

「だって! 初めてなんだもん! 札束が立つなんて!」
「3級パーティになって、ようやく実感したの! 高ランクになったって実感したの!」
「装備もらえるんだよ! もう自分の装備にお金かけなくていいの! お金が余ったのよ! 食べるでしょ! 美味しい物を! 美味しい物は甘いのよ!」

魂の叫びだった。
今までの苦労を・・・苦しみを・・・全てをようやく報われた瞬間。
心の底からの本音。
喫茶店にいた、女性探索者が涙を流した。
苦しみの果てにある楽園。
彼女たちはそれを堪能したのだと。
そして、現実に戻ってきたのだと・・・。

それから彼女たちは、数日前まで普通に装備していた物を着て前の自分と今の自分を体感して、また涙を流す。
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