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阿蘇灼熱ダンジョン編

フィールドワークと知らぬ場所での争奪戦

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その日の朝、外で体を動かした後部屋に戻って、何時ごろに組合に顔を出そうか考えていた時に、高城さんから電話が入った。
必要になるかもということで、昨日食事の席でみんなと電話番号を交換しあっていた。

「はい、瀬尾です。どうかしました?」
『高城だけど、今日の予定ってもう決まった?』
「いえ。これから考えるところでした」
『それじゃ、フィールドダンジョンで周辺探索でもしてて。間違っても組合にはこない方がいいわ。すごく混乱が起きると思うから』
「えっと、なんだか恐ろしいですが、言う通りにします」
『うん、お願い。どうせ莉乃もそっちいるんでしょ?』
「ええ、まだ寝てますけど」
『仲良くお出かけすればいいわよ。それじゃ、私もまだまだ豪遊するわよ!』
「はい、気をつけて」

電話を切って、布団に包まった莉乃さんの側に座る。

「昨日鬼木さんが言ってた事なんだろうな」

何が起きているのか分からないが、組合には近づかないでおこう。

しばらく莉乃さんの髪の毛で遊んでいると、「うーん」っと言いながら莉乃さんの腕が布団から飛び出した。

「おはよう、莉乃さん。もう9時過ぎだよ」
「おはうぉぇあ。もーちょ・・・」
「そうですか。じゃあ、僕1人でフィールドに行きますね」

髪から手を離して立とうとすると、見てもないのにガシッと腕を掴まれた。

「・・・起きる」
「はいはい。待ってますよ」
「20分後に・・・」
「後出し禁止!」

容赦なく布団を剥いで、お風呂場に押し込む。
何でTシャツだけしか着ていないんだ!
僕は男で気になるって言ってるのに!

莉乃さんがしっかり目を覚まして、どこに行くか本格的に決めようとしたとき、ある問題に気づいた。

「装備、組合に預けたままですね」
「私も、単槍を預けてる。アクセサリー系は基本外さないから大丈夫だけど」
「うーん、僕は莉乃さんと一緒なら安全な場所のほうがいいかな。・・・食べれる物がある木の場所に行ってみますか?」
「え! ホント? 行く行く。ダンジョンの採集品とか、ゲームではよくあるけど、現実は消えちゃうもんね」
「そうなんですよね。美味しそうな木の実でも食べれませんからね。あれは貴重ですよ」
「味は言わないでね。食べて感じたいから!」

それから僕らは、阿蘇地区の北側へ行き、南小国町との境をゆっくりと探索した。
夏の間だけかなと思っていた木の実はまだなっていて、僕らはそれを取って食べた。

「枇杷みたいな味?」
「7月ごろはキウイフルーツみたいな味だったんですけど」
「まさか季節によって味が変わるのかな?」
「冬も来てみましょうか。今から楽しみですね」
「そうだね!」

そこから東へゆっくりと歩いて阿蘇市に戻る。

「あっという間だったね」
「勿体無いぐらい貴重な時間でしたね」

もうお昼を過ぎているが、さっきの実を食べたので全くお腹が空いていない。
そのままショップなどを巡って組合の近くに来たので、こっそり物陰から見ると、急に携帯が鳴ってショートメッセージが届いた。

『覗くな・近寄るな』

単純なその二言に僕は恐怖した。

「察知スキル持ってましたっけ?」
「多分、藤森さんね。索敵から気配察知まで、彼がいるときはネズミも近づけないとまで言われている人よ」

確か甘木ダンジョンのときに、何かの機会で出会った気がする。
そんなに凄い人だったんだ。

それからは、ダンジョンに行く気もせず、フラフラと街の中を歩いてカフェに入り、僕はホットコーヒーとアイスを、莉乃さんはメロンソーダフロートを食べてのんびりした時間を過ごした。

しばらくまったりしていると、僕と莉乃さんの携帯が同時に震えてショートメッセージが届いた。

『瀬尾、宮下、組合、来い』

鬼木さんからだった。
単語で呼び出されることがこんなにも怖いと思うことは今後ないだろう。


組合に戻って中に入ると、受付の人が急いで手招きをして「第3応接室に行ってください」と言われた。
なんだかコソコソしなければならない雰囲気だったので、莉乃さんと一緒に足音を立てないように2階に移動して応接室に入る。

「あれ? お久しぶりです浜田さん」
「やあ、久しぶりだね、瀬尾さん」

中に入ると、ぐったりしている浜田さんと支部長がいた。

「あー、しばらくあいつらの相手はしたくない」
「大変でしたね。ああいうのは私も苦手で・・・何を言っても隙間を突かれそうな気がします」
「何があったんですか?」

僕が3人ソファーの真ん中に座り、莉乃さんがその横に座る。

「瀬尾さんを巡る各企業の思惑と欲望の渦に巻き込まれただけですよ」
「松嶋さんのことですか?」

僕と話をする限り、そこまで話術で掻き乱すような人だとは思わなかったのだが、僕の勘違いだったのだろうか?

「いえいえ、その人は第一交渉権を得てますから、余裕を持って座っていましたよ。完全に聞き手に回ってました。問題はその他の企業で、最低でも魔石の権利を得ようと必死になって攻めてきたんですよ」
「・・・」

浜田さんの話を聞く限り、どうも複数の企業が押しかけてきたようだ。

「あいつらと話をするたびに、自分の話術の拙さを痛感するな。モンスターを相手にする方がはるかに容易い」
「本当ですね。私も現場を走っていた方が楽だと感じました。そちらの副支部長は凄いですね。髪の毛一本乱れていませんでしたよ」
「優秀だからな。自衛隊の宮地さんも堂々としてたな。せめて格好だけでもそれなりに見えるようにしないとつけ込まれる。・・・滅多にないことではあるんだがな」

僕なんかがその場にいたら、言葉尻を取られて、すぐに不利な契約を結ばされるんだろうな。
保護者代理をしてもらっている人たちには、もっと感謝をしなければならないのかもしれない。
・・・今度B級魔石をカッティングしてもらってプレゼントするかな・・・。

「さて」

支部長がぐったりしていた首を持ち上げて僕を見た。

「企業がある程度絞られた。今別室で当畑、鬼木そして宮地さんが対応している企業がほぼ決定と考えていいだろう。瀬尾の性格も考えて、また過去の話も少しさせてもらったが、眉一つ動かさなかった」
「どこの会社なんですか?」
「松下魔力電機産業以外は、東京通信、松尾食糧工業、大鷲製薬だったかな。松下魔力電機が第1にいたこともあって、同業者は結構攻めてきたが、結局席を立つことになった。焦ったぞ、魔石のことを逐一細かく確認してきたときは。手汗が止まらなかった」
「言葉尻をあそこまで拾えるからこそ、大企業の営業なのでしょうね」
「全くだ。化成工業の営業部長は怖かった」
「私はFK相互保険の営業課長ですね。目線が鋭かったです」

一癖も二癖もある人たちが押し寄せてきたようだ。

「その場にいなくてよかったね」
「うん。美味しく食べられたかもしれない」
「とりあえず、今の面子で打ち合わせが終わったら顔を出してくれ。最低限、CMとかの出演とかはNGにしたから安心していいぞ」

支部長には絶対魔石をプレゼントしよう。
本当に感謝しかない。

一回下に降りて受付の人に、前回のダンジョンアタックの際に手に入れた魔石のうち、僕の取り分にあたる数から5個を受け取ることにして、カッティングの依頼を出した。

「いつ頃できますか?」
「阿蘇にも職人がいますので、張り切って請け負ってくれると思います。想定で3日でしょうか? 正確な日数は本人に聞いてみないと分かりませんが、最優先でやってくれると思いますので問題ないと思います」
「支部長とかにあげる物なので、多少期限はオーバーしてもいいので確実でお願いします」
「承知しました。依頼先にそう伝えます」

それから上に上がると、副支部長がみんなと一緒に待っていた。

「お待ちしてました。色々と打ち合わせが終わりましたので同行をお願いします」

いつもより固い口調で副支部長が案内してくれた。
今日は髪もしっかり決めて気合いが入っているが、流石に疲れたのか後ろ髪が乱れていた。
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