人類はレベルとスキルを獲得できませんでした。

ケイ

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屋久島奪還編

熊本市→鹿児島市→種子島

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僕は朝6時に必ず起きる。
習慣として体が起きるのだが、ベッドから降りてゆっくりと体をほぐし、柔軟体操を10分ほど行って筋トレを開始する。
今度宮下さんと約束している火口ダンジョンは、装備が重くなるため体力はつけておく必要がある。
いつもより負荷をかけて30分間の筋トレを終えてシャワーを浴びた。
それから朝食を頼もうかと思っていたところで宮地さんが僕をビュッフェに誘った。
騒ぎにならないか心配だったけど、そんな事は全くなく、のんびりと食事をすることができた。

「私もそれなりに騒がれる方だけど、今日はすごく快適ね」

後から合流した鬼木さんが、コーヒーを飲みながら携帯をいじっている。

「今日は12時ぐらいの新幹線ですよね?」
「ええ、1時間ほどで鹿児島市に着きますよ。駅弁は何か候補はありますか?」
「えっと、黒いクマのランチボックス、この肉のやつで」
「私は天草のやつね」
「良いですよ。座席に着いたら持ってきてもらえるよう手配しておきます」

そう言って何処かに電話をかけた後、僕らはチェックアウトまで思い思いに過ごし、荷物をまとめてロビーに集まることになった。

熊本市からの出発は快適・・・とは言えないが、それなりにスムーズにできた。
人も集まっていたけれど、ちゃんと通ることができ、集まっているみんなもカメラを向けることはしても過度に騒いだりせず、ちょっとホッとした。
警察の人がプラカードを持ってて何かをお願いしていたらしい。
手を振っている子供もいたので、小さく手を振り返した。

僕が手を振った姿がネットニュースになった。

「・・・数分前だったはずでは?」
「ネットに直結するカメラができた瞬間から、情報は鮮度が命の時代に突入したのよ」
「瀬尾くんはまだまだ情報というものが分かっていませんね。あれはある意味怪物だと思わないと潰されますよ」

大人2人が厳しい視点で僕に伝える。

「そうね。コメント機能は開放しない方がいいかも」
「もう既に手配済みです。瀬尾くんに関するニュースではコメント欄無しにするよう通達しました」
「コメント欄って・・・」
「匿名で自分の意見を好き勝手書ける場所なんですが、旧暦に法規制が入ってニュースになる特定の人が承諾しない限りコメント欄は開放されないようになりました」
「自殺者や心を病んでいく人が多かったらしいわ。否定的なコメントを見てしまうと、まるで世界が自分を否定するような気がするらしいわよ」
「特に心が弱い人にとっては致命傷になりかねません。瀬尾くんはその点が弱そうなので、保護者代理として守るべきところは守ります」
「宮地さんが僕の保護者代理なんですか?」

また新しい情報が出てきた。

「いえ、私だけではありません。探索者組合からは鬼木さんと柊さん、警察からは梶原さんと浜田さん、自衛隊からは城島隊長も保護者代理となっています。細かくいうとさらに上がいるんですが、窓口は私たちになります」
「未成年だからね。強いスキル保持者とはいえ、小国町みたいなことは二度とあわせたくないのよ」
「あれは・・・僕も二度とごめんです」

あの時は天外天の4人が関わったから、そこから鬼木さんに情報がいったのだろう。
町役場の近くに探索者組合があったのだが、今はどうなったか分からない。
まだあるとしても、人は入れ替わっていると思いたい。

それから鬼木さんのスキルの話になって、取得経緯を聞いてみると、これもまた特殊なケースだった。

昔、鬼木さんはヤンキーに部類する人だったらしい。
今でこそ黒髪ストレートなのだが、当時は金髪パーマで地元負けなしの親泣かせだったとのこと。
負けん気が強く、当時地元に発生したE級ダンジョンを金属バット一つで完全攻略して警察や地元の偉い人に怒られて、ムカついて右肩甲骨に般若の面を彫って再度別のダンジョンに行ったらこのスキルがついていた。

「まさか刺青にスキルが付くなんて思わなかったからビックリしたわ。ただ、それからが問題で、この刺青が傷ついたり歪んだりすると、スキルの効力が発揮されなくなるの。一時期ふと・・・ポッチャリしてた時期があって、その時スキルが上手く発動しなくて疑問に思って刺青を見たら面が歪んでいたのよ。焦ってダイエットしたら元に戻ったけど・・・あれ以来、この場所は何があっても守るようにしているわ」
「スキルってそんなに簡単に発動しなくなるものなんですか?」
「そこはスキル次第ですよ。変なスキルが付いた刀を鋳潰して塊にしたのに、しっかりスキルは発動した例は腐るほどありますから」

スキルの謎はまだまだいっぱいあるという事だ。

それからみんなで食事を摂った。
黒いクマの弁当箱を開けると、びっしりと詰められた牛肉と金糸卵。
匂いからして涎が出そうだったので、箸をとってすぐに口の中に肉多めで入れる。
・・・美味い!
なるべく金糸卵と均等に肉とご飯を食べ進める。そしてお茶を飲んで背もたれに体重を預けた。

「やっぱり美味しいわね。なるべく同じ弁当は選ばないようにしているはずなんだけど、ハズレなしだわ」

鬼木さんの言葉に宮地さんは深く頷く。

それから柊さんという初めて聞く名前に、僕は二人に尋ねると、阿蘇の組合支部長の名前だった。
柊雪之丞と言うらしい。
何となく細身のイケメンを思い浮かべてしまう名前だが、支部長室に座っている人はめちゃくちゃゴツイ人だ。
スキルは5個持ちで超レアはなし。
最終ランクは3級だったらしい。

「まあ優秀な方よ。使えるスキルを5個手に入れた幸運も含めて戦い方も上手かったし、当時のパーティのメンバーは一人以外役員になってるわね」
「一人?」
「他4人を庇って死んだのよ。遺体を運んで戻ってきたって聞いたわ」
「・・・それ、喋って良いんですか?」
「ちょっと調べたら分かるわ。本人も知られることについて何も言わないし」

当時、支部長は霊峰富士をアタックしていたが、後に死神と呼ばれたモンスターに出会ってしまったらしい。
その後、拡大する被害に事態を重く見た組合が依頼を出し、当時の高ランクが集まったレイドが開始された。
そのレイドで参加した鬼木さんのパーティ告死天使が死神を討伐。
その際にも彼女のパーティメンバーの腕を切り飛ばし、鬼木さんも全身に切り傷を負いながら倒したそうだ。

「ただ、私のパーティもその討伐を最後に解散。みんな死を覚悟した戦いだったわ」
「どんな敵だったんですか?」
「八手の骸骨よ。力も素早さもA級並み。武器も8種類、接近・遠距離・中距離何でもござれ、知能に至っては人類同等よ。脳みそがないとは思えない敵だったわ」
「自衛隊でも被害が出ましたね。銃は当たらない、手榴弾は弾き返す、地雷は避ける。接近戦しか許さない相手でとんでもなかったと聞きました」

そんな怖いモンスターがいたのか。
しかも骸骨なら僕の生命力吸収も効かない。
そういう相手は僕みたいなスキル頼りの探索者ではなく、本当の高ランクパーティに任せるしかない。
現在、探索者組合の1級は5人、その内戦闘に完全に特化したのは2人。
自衛隊の特別隊員は3人、戦闘に完全に特化したのは1人。
まだまだ人手が足りない状況だ。

「辞めた人のスキルをそのまま受け継げればいいんですけどね」
「本当にね。何故か劣化コピーにしかならないし」
「稀に同等の能力を有する人もいますから、組合の研究者たちは必死にアイテムを集めてますけどね」

首を捻る二人だが、支部長と城島さんが情報を公開すれば解決するだろう。
僕からは何も言わないでおく。


鹿児島中央駅に着いて出てみると、駅のホームは誰もいなくてホッとしてエスカレーターで改札に向かうと、改札の外にいっぱい居た。

「迷惑をかけなかったら手を振ってくれると思ってるらしいよ」

どんな誤情報ですか。

「そのおかげで快適に出れるんだからいいじゃない。それとも、出てすぐ居て欲しかった?」
「いや、こっちの方がいい」

快適重要。
僕はみんなに微笑んで手を振る。
みんなも口を手で押さえて静かに手作りの団扇を振ったりジャンプして手を振っている。

ネットの速報に「瀬尾くんは静かな人が好き」って載ってた。
何だか尾鰭が付いているがこれだったらいいか。
僕らはそこから車に乗り換えて、埠頭に着いて船に乗った。

「何処に向かうんですか?」
「種子島です。島の南の土地を自衛隊が借りて、戦闘機の離着陸の滑走路を作ってます。そこで泊まってもらい、作戦の打ち合わせや隊員との交流をしてもらいます」
「でも、海に出るんですよね? 海ってアトランティスの影響で受肉したモンスターがそこら中に居るって聞きましたよ?」
「ええ、実際種子島にも居ますよ、海竜が。ただ、安納芋が大好きみたいで、それを持っていれば出会しても問題ありません。それどころか、遠洋の海産物を貰えるので、絶対攻撃してはならない対象にしています」

食べ物の好みは人それぞれ、モンスターもそれぞれなのだろう。
この日は海竜も別の場所に行っているのか、僕たちが乗ってる船とは会わなかった。
流石に島になると人もおらず、僕は思いっきり背伸びをした。

「瀬尾くんは船に強いのね。以前乗ったことある?」
「正真正銘初めてですよ。海なんて行くもんじゃないって考えていましたから」
「酔わない体質なんでしょうね」
「私はちょっと気分が悪くなるのよね。まあ、船や飛行機なんてそうそう乗ることはないけど」

航空自衛隊の戦闘機も、訓練は全て低空で行われていて、竜たちの縄張りである雲の上に行くことはない。
海竜は世界のネットで交流ができたなど報告があるが、竜に関しては襲われたニュースしかない。

「あ、あの車ですね」

車の前に待機していた人が、宮地さんの姿を見てビシッと背筋を正した。
僕は軽くお辞儀をして、鬼木さんは何もせずに車に乗り込む。
そのまま車は島を縦断して南の端に造られた基地に入って行った。

「本当に南の端なんですね」
「滑走路を作れる場所が、ここか町の中しか選択肢が無かったらしいです。東西に長方形に造れたので縄文杉には真っ直ぐ行けるんですけどね」
「行ったらハエ叩きに遭うんでしょ? 蝿王の籠手を装備した人がハエ叩きに遭うとか笑えないからやめてね」

不吉な予言をする鬼木さん。
フラグを立てるとか鬼ですか?
ああ、鬼木なだけに・・・。

「鬼畜鬼と同じにしないでね」
「・・・はい」

考えを読まれたか?
ちょっと心臓がドキドキする。

「それじゃ、一旦宿舎に行って休憩しましょう。18時になったら食事になります。交流も兼ねて、今回の作戦参加者を全員食堂に集めて立食パーティーしなりますので17時半には呼びに来ますね」

鬼木さんは女性用の宿舎へ別れて、僕は案内された部屋に入る。
そこはワンルームでトイレ有り。
お風呂は無いようなので、何処かにみんなで入れる場所があるのだろう。

「あれ? 僕の装備はまだ来ていないんですか?」

ベルゼブブの籠手もそうだが、それ以外の装備もまとめて一緒のケースに入れていたため、無くすことだけは避けたい。

「流石に貴重な物なので、担当の者がしっかりと保管しておりますよ。ゾウが踏んでも壊れない金庫に入れているはずです」

責任を持った人が保管しているのなら問題はないだろう。
無くなっても島の外には持ち出せないだろうし、この時点でそんな事をしたらあからさま過ぎる。
宮地さんが「ごゆっくり」と言って扉を閉めたので、僕はベッドに横になった。

こうしていると、福岡の自衛隊で訓練をしたいた頃を思い出す。
時間に厳しく、布団の畳み方にも注意を受けたな・・・。

僕はちょっとだけ目を閉じて、懐かしい故郷を想った。
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