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甘木市未確認ダンジョン編
はぐれモンスター
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3人からの提案について、僕は一度祖父母に相談することを伝えて帰ってもらった。
「とんでもない話になってきたね」
校長先生が僕に話しかけてきた。
「学校側としては君の意志を尊重する。高校は義務教育ではないし、未来を見据えた若者たちの妨げになってはいけないからね。ただ、私個人としてはもっと高校生活で色々ことに目を向けて、幅広い未来を見てほしいと思うよ。この国には探索者になって金持ちになるという未来だけじゃなくて、農業、製造業、建設業、商業等多種多様な仕事がある。芸術の道に進んだっていい。君の人生なのだから他人に流されないようにだけは注意しなさい」
「はい。ありがとうございます」
校長先生の言葉はありがたかったが、残念なことに僕は高校デビューをミスった人間。今回のことでクラスで友達ができることはほぼ無いに等しいだろう。
勉強だけのために学校に来るのもどうなのだろう・・・。
「あと、木下くんと香野くんはしばらく休学扱いとなる。ただ、出席日数が足りなくなるため留年が確定した」
「何でですか? イジメに近いことを僕にしていましたけど、客観的に見てもまだイジメと言えるまでにはいっていなかったはずですが」
「中学でも学んでいるはずだが、ダンジョン法だよ。利用された事を考えても、警察か自衛隊、若しくは大人の誰かに伝えることができたはずだ。ダンジョンは周辺区域を危険に晒す。見つけたら報告する義務が国民にはあるのだよ」
確かに中学で学んだことだけど、当たり前なことだったため思い浮かばなかった。
情状酌量の余地があるとはいえ、私利私欲を優先させてしまうとこうなるのか・・・。
「彼らにやり返すつもりでメールを送ったんですが・・・私利私欲に僕も走ってました。彼らと同じ罰は受けなくていいんですか?」
僕の言葉に校長先生が笑った。
「君への罰は既に決定しているよ」
「?」
「先ほどに3人と、今後も付き合っていかないといけないことが君への罰だよ」
その瞬間の僕の顔を見て、校長先生はすごく楽しそうに笑って、僕に退室を促した。
「遅いわよ。女性を待たせるにはまだまだは・や・い」
僕の罰が僕を待っていた。
・・・うん、意味不明な事を考えてしまった。
「どうかしましたか? えっと、鬼木さん」
「おっ! 私の名前を覚えてくれたんだ。これは脈ありかな?」
「・・・ま、まだ考えさせてください」
スススっと距離を詰めてくる彼女に、僕は後ろに下がってその分を開ける。
「うーん、ウブなのかな? まあ、徐々に仲良くなるしかないわね」
「梶原さんと城島さんは?」
「2人は仕事に戻ったわよ。流石にお偉いさんを有望とはいえスカウトに縛り付けておくわけにはいかないでしょ。多分後で担当の人が来るんじゃないかしら?」
そういえば、扉の前で言い合いをしていた人たちもどっかに行っている。
この人がどのくらい偉いのか分からないが、僕がどんな人間かも分からないのに1人にするだろうか?
思わず周囲を確認するが、それらしい人はいない。
「どうかした?」
「いえ・・・何も」
気にしすぎだろうか?
「鬼木さんは仕事に戻らないんですか?」
「今の私の仕事は貴方をスカウトすることよ」
「あー、なるほどです。でも、僕のスキル目当てですよね。正直僕の右手を持って行っても装備出来ないでしょうし・・・僕は戦闘経験も1回しかないので足手まといですよ?」
「うーん。瀬尾くんは漫画とかラノベとか読む人?」
「はい、読みますけど・・・」
唐突な質問に戸惑いながらも僕は答えた。
「じゃあ、今の時代でも漫画みたいにナイフを腕で受け止めたり、気を溜めて前方に打ち出したりなんて出来ないってことも知っているよね?」
僕は頷いた。
神の存在が明らかになったこの世界でも、人は人のまま超人にはなれない。
唯一、ダンジョンアイテムだけが、超常現象を許されている。
「じゃぁ・・・君みたいに自分の周辺に影響を与えるスキルって、魔法以外に何があると思う?」
「えっと、剣技か剣術とかで衝撃波を飛ばすとか?」
「出来て数メートル。しかも敵を倒す力はないわ」
「威圧で相手を竦ませるとか」
「威圧は精神系のスキルで、心を強く持ったら跳ね除けることができるの」
「空間操作とかで歪ませたり破壊したり?」
「時間とか空間については、まだスキル自体が発見されていないわ。アイテムバッグみたいな漫画でよく見るアイテムもよ。もし見つかったら世紀の大発見になるわね」
・・・。
「君のスキルはこれから検証する必要があると思うけど、カマキリのモンスターの生命力を吸ったということは、既存のダンジョンの中層までの全てのモンスターに効果があるわ。つまり君がいれば、中層まで遠足気分で行くことができるのよね」
僕は右手を見た。
あの時、これを装備した時、頭の中で鳴り響いた声は言っていた。
”スキルの変質を確認”
じゃあスキルが変質する前、こいつはどんなスキルだったのだろうか?
そもそも、スキルが移動するって普通のアイテムでもあり得るのだろうか?
ゾクリと悪寒がして体が震えた。
その後もたわいもない話をしながら歩いていると、鬼木さんの携帯が鳴り響いた。
「はいはい~、え? あ、ちょい待って」
素早く操作してスピーカーで僕にも会話が聞こえるようにした。
「ごめん、もう一回お願い」
『鬼木さんの予想通り、森の中で邪妖精が発見されました。警察が倒して死体が残った事を確認してましたよ。あのダンジョンがいつ発生したものかわかりませんが、警察は山狩りを行うみたいですね。福岡の探索組合に応援要請がありました』
「福岡だと時間がかかりそうだけど?」
『自衛隊が送ってくれるそうです。甘木公園と甘木中学の敷地の使用要請が出されました』
「何人ぐらい来れそう?」
『白狼と鷹の目が動くとの情報がありました。個人だと高橋尚樹、柊智、あ・・・宮下莉乃が来るそうです』
「宮下・・・あの子は阿蘇の大火口に行ってるはずなのに・・・また無申請で移動したのね」
鬼木さんの声のトーンが一段階低くなった。
『ま、まあ、よくある事ですし』
「よくあっちゃ困るのよ。あの子は3級の探索者なのよ? 周りに期待される探索者なの! あの子の保護者どもはどうしたの!? 高城は! 麻生は! 植木は!!」
怒りのゲージが上がっているようだ。電話の向こう側から『ヒィーー』と声が聞こえた。
それから鬼木さんは「ちょっと用事ができた」と言って背中に般若を背負ってどこかに行ってしまった。
・・・威圧スキルは跳ね除けることができるって言ってたけど、僕には無理みたいです・・・足が笑って動けません。
大きく深呼吸して屈伸を5回ほどしてから歩くのを再開する。
季節は夏。
・・・まだ日はあるというのに、なぜか寒気がしてならない。
右側には甘木公園に隣接している神社へ続く石段があり、何となくそれを見ながら歩いていると、緑色の何か小さいものが転がり出てきた。
それは周囲をキョロキョロと見回し、明らかに何かを警戒しているが、道路を挟んで反対にいる僕の姿を確認した。
「・・・」
「・・・」
数秒間見つめ合った。
姿形からゴブリンに似ているが、身に付けている装飾品が凄い。
頭には羽飾り、首には牙のネックレス、腕には木や青銅などで作ったのだろう腕輪がいくつか、指にも何かをつけているように見える。
後、ドクロが装飾された幅の広い刀を持っていた。
「あ、目が山羊みたいだ」
「きえええええええええ!」
僕が迂闊にも言葉を発した瞬間、それは奇声をあげて僕に襲いかかってきた。
だが、その刀が届く前に、生命力吸収が発動して、ゴブリンらしきものはヨロヨロと僕に近づこうとして道のど真ん中でうつ伏せに倒れた。
うん、ここはまずい。
車を運転している人に僕のスキルが影響したら大事故が起きてしまう。
僕は急いで道路に飛び出てゴブリンみたいなものの髪を掴んで引きずって階段を駆け上る。
神社に近いところまで登って道路を見ると、車は問題なく走っていてホッとした。
「どうしよう・・・これ」
ダンジョンのカマキリみたいに踏み潰すことは、何となくできない。
多分二足歩行であることが、ちょっと心に引っ掛かりを与えているのだろう。
僕は携帯を出して、着歴を見て朝警察からかかってきた電話番号を選択した。
『はい、こちら甘木警察署ダンジョン整備課です』
「あ、朝そちらから電話をもらった瀬尾って言います。録音データを送った者です」
『その節はご協力ありがとうございます』
「ご丁寧に・・・えっと、日野さんは?」
『日野は現在、大平山の討伐に参加しておりますが、何かご用ですか?』
あー、確かにあの人戦力になりそうだったから、参加するよね。
「えっとですね、大平山の近くに甘木公園があるんですが、そこからいろんな物を装備したゴブリンみたいなものが一匹出てきまして」
『・・・』
「今、公園に隣接している神社にいるんですが、え、金の刀の・・・」
『金刀比羅?』
「そうです、それです」
『今すぐ日野を向かわせます! 最悪、他の人にゴブリンを殺されてもいいですが、奪われないようにしてください!』
ガシャン! と勢いよく受話器が下されたのだろう。大きな音を出すほど冷静でいられなかったのかな?
仕方ないので、ボーとしながら日野さんを待っていると遠くの方でジャリジャリと複数の人が歩く音が聞こえてきた。
「ん? 誰だこの子は」
男女混合の5人組。
一番目立つのは白い狼の顔を肩に乗せた背の高い男だろう。
不用意にこっちに近づいてきた。
「おい、ガキンチョ。お前」
「ヒュー、そこでストップだよ」
目立つ男が歩いてくるのを、女が止めた。
「そこから先は危険よ」
「あいつが何かしてるのか?」
「さあ、あいつか、それとも誰か。私にわかるのは、危険ってだけ」
「ふん! おい、ガキ! 何かしてるならさっさと解除してそいつをよこしな! 今なら許してやる!」
僕は彼を可能な限り無視するよう心がけるため、左手を何度もグーパーを作りる。
彼の恫喝は正直怖い。
「おい! 無視してんじゃねーぞ! キサラ! まだか!?」
「解除されてないわ。する気がないみたいね」
「ふざけやがって! 俺が突っ込む! サポートしろ!」
ヒューと呼ばれた男が一歩進んだ。
・・・そして倒れた。
「が・・・ゲホ・・・」
「ヒュー! おい! ヒューに何をした!」
冷静に見ていたもう1人の男が焦り出した。
「ダメよ! ヒューに近づいちゃダメ! 大丈夫。死ぬほどの危険じゃないわ。まだ赤くない」
キサラと呼ばれた女性の言葉に、男は冷静を取り戻す。
「あれは諦めた方がいいか?」
「そうね・・・あの刀は良品だけど・・・」
「アッちゃんの火力が上がりそうだったけど・・・むぅー」
女性陣は諦めムードが漂っているが、まだ完全に諦めきれないよう。
そうこうしていると上から何かが降ってきた。
「よし! 間に合った! 瀬尾くん、何もされてないな!?」
「はい大丈夫です。日野さんがきてくれて助かりました。えっと、まだ生きているのでスキルが切れないんですが、どうしますか?」
「ちょっとそれから離れてくれ」
日野さんの言う通りにゴブリンから3歩ほど離れる。
「我、日野光一郎が風のマナに命じる。疾く刃となれ! 我が敵を滅せよ! 風の刃!」
空気がうねって僕の目でもわかるぐらい形を取り、スパッとゴブリンの首を撫でた。
一拍してゴブリンの首が割れて紫色の血が噴き出す。
「よし、もうスキルを解除していいぞ」
「えっと、そちらの人たちは大丈夫ですか?」
「俺を前にして何かする度胸は無いよな?」
日野さんの言葉に、4人は無言で頷く。
倒れているヒューも悔しそうだ。
僕がスキルを解除すると、彼は無言で立ち上がり、他の4人と一緒に去っていく。
意外と聞き分けが良かった。
でも、後で因縁とかつけられないように注意しないといけないな。
「あの人たちって探索者なんですか?」
「おお、4級の探索者パーティ白狼だよ。
阿蘇山の中層と上層の間ぐらいまで行ってるパーティだ。最近は福岡の中洲で装備狙いで不夜城にチャレンジしていたって話だったが、あの様子だといいアイテムには出会えなかったみたいだな。さてと・・・」
日野さんはゴブリンに近づいて、装飾品と死体のチェックをして、にっこりと笑みを浮かべる。
「佐竹の言ったとおり、はぐれモンスターだな、こいつは」
「はぐれモンスター?」
「ああ。こいつはただのゴブリンなんだが、それにしては装飾品が多すぎる。武器も不釣り合いな物で、多分だが、キングクラスの装備をくすねたんじゃないかな。この装備一式が無いせいで、山の中にいるゴブリンキングはかなり弱体化しているだろうよ。こういった知能が他より高く、不釣り合いな装備をしている個体をはぐれモンスターって呼んでいるんだ」
腰蓑以外の装飾品を剥ぎ取り、死体もそのままにせず、手を握って引きずった。
「すまんが、頭を持ってきてくれ。放置しても消えないから、一箇所にまとめて焼却施設に持っていかないといけないんだ」
「ダンジョンでは消えるのに、不思議ですね」
「腐れたりするから迷惑なんだけどな。昔はよく放置されたりして、受肉災なんて言われてたよ。アイテムは後で渡すが・・・どれか一個だけ俺にくれないか? キングクラスの装備って滅多に手に入らないから、装備出来なくても欲しくてね」
「いいですよ。ちょっと躊躇してましたし。日野さんが来てくれたおかげで助かりましたから。でも、勝手に取っちゃっていいんですか?」
「山狩りでは、倒したモンスターの持ち物は倒したやつの物。でないと、民間の探索者は来てくれないからな」
「電話の人は、最悪モンスターが殺されてもいいって言ってましたけど、そうなった場合揉めませんか?」
「揉めはする。でも今回は明らかに瀬尾くんが押さえ込んでいることがわかるからな。実力行使されても君の方が有利だっただろうよ」
信頼か期待か。
日野さんの僕への評価は過剰なような気がする。
・・・僕はまだまだ心が弱いから、あの人の恫喝に対してスキルを展開して待つしかできなかった。
揉めれば・・・いろいろ諦めていたかもしれない。
「死体置き場は・・・こっちか」
死体を集めている場所は、臭いですぐに判明した。
流石にこの臭いはくさすぎる。
僕らは臭いを辿ってその場所に着いた。
「あれ? そういえば魔石とか無いんですか?」
「ん? アニメの知識か? 現実はこんなもんだよ。尿結石でもない限り、体から石が出ることはない。魔石が取れるのはダンジョンの中だけさ」
そう言って、胴体を放り投げる。
僕も頭を放り投げて手を払った。
「それじゃ、洞窟に行くぞ!」
「はい!」
返事をしたところで日野さんの携帯が鳴って、僕にすまなそうにしながら携帯を取った。
「もしもし、佐竹か? どうした」
『・・・! ・・・!』
「ああ、確保した。アイテムはこれからダンジョンに入って鑑定するところだ」
『!・・・! ・・・!』
「いや、あれは俺のじゃなくて、瀬尾くんのだぞ?」
「! ! ! ・・・!!」
「わーった、わかった、訊くから喚くな!」
電話の向こうで何か要求されたみたいだ。
「すまん。電話で俺を誘導した佐竹から、アイテムを一つ貰ってくれって要求があってな・・・図々しいかもしれないが・・・いいか?」
片手で僕に拝みながら催促する日野さんに苦笑して、小さく頷いた。
実際、ゴブリンが持っていたアイテムは刀1本、羽飾り1つ、指輪3つ、腕輪2つ、首飾り1つと結構な数になっていた。
本来なら全てゴブリンキングの持ち物だったらしい。
刀には斬撃特化という当たりスキルが付いていて、これを売るだけでも数百万は稼げるらしい。
羽飾りには速度上昇弱。指輪は手先器用、料理上手、身体強化。腕輪は直感弱、腕力上昇弱。首飾りは病気耐性弱だった。
この中で日野さんには羽飾りを、佐竹さんという方には腕輪の直感弱をあげた。
「いいアイテム持ってますね、瀬尾くん。運まで味方してるなんて羨ましい」
「げっ! 鬼木!」
「おやおや、元3級探索者で警部補の日野さんではないですか。羽振りが良さそうですね」
「いやいや、俺はただのいち公務員。羽振りなんて全く・・・」
「そうですか? ・・・まあいいです。今は瀬尾くんが優先ですから」
「僕ですか?」
鬼木さんが真面目な顔で頷いた。
「白狼と揉めたと聞きました」
日野さんが何か言おうとするのを鬼木さんが止める。
「状況は正しく把握してます。向こうにもそれを伝えたら苦虫を2、3匹噛み潰したような顔をしてましたよ」
「藤森も来てるのかよ・・・」
「いちよ、君には近づかないよう伝えたから、忠告を無視するほど馬鹿ではないチームだから安心してちょうだい」
「ありがとうございます。助かります」
お辞儀を一つする。刀がそれなりの大きさなのでちょっと邪魔だ。
「ところで、そのアイテムはどうするの?」
「刀は売ります」
「買った!!!」
突然声が割り込んできた。
「買った! 買います! もう私の物!」
「・・・えっと」
突如乱入してきた女性に、僕は他じろきながら鬼木さんを見ると、背中に般若を背負って彼女は女性を睨みつけていた。
「み~や~し~た~。あんたって子は!」
「ぎゃあああ! 鬼木さん! やめて! スキル般若が発動してのアイアンクローはきつい! 痛い! 潰れる!!」
あ、そういうスキルだったのか。
僕の幻覚かと思っていたが、どうやらみんなに見えているみたいだ。
「因みに、超レアスキルで、周囲に恐怖と萎縮の状態異常を与えて、自分には腕力上昇と体術上昇が付与される。鬼木も元々探索者でな、ランクは2級。鬼子母神なんて二つ名もつけられてる。日本で指折りのバケモノだよ」
「聞こえているわよ! 日野さん!」
「うぉ、やべえ。俺は署に戻る。アイテムありがとな!」
早速羽飾りを装備して、少し上昇した素早さで日野さんはその場から立ち去ってしまった。
「もう! 人のことばかりバケモノ扱いして!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒る彼女の足下には、グッタリと倒れた女の人。
「さて、その刀だけど、売るなら探索者組合を通さない? 売上の5%を組合が手数料として貰うけど、安心安全に売却出来るわよ?」
「それなら・・・お任せしたいです」
「うん、任せてちょうだい」
刀が僕から鬼木さんに渡った瞬間、周囲の山狩りに参加した人たちがあからさまにガッカリした。
足下にいる人も「私の刀が~」と言いながら涙を流している。
「気にしなくていいわよ」
「え?」
「瀬尾くんは自分の利益を適正に貰うだけ。こいつらは君から安く手に入れようとしただけ。だから全く気にしなくて大丈夫」
「・・・組合通して売ったらそんなに高く売れるんですか?」
「斬撃特化の刀でしょ? 場所を選ばず物理攻撃が当たる敵なら万能よ。オークションで高値がつくのは間違いないと思うわ。問題があるとすれば魔力適性だけど、それは買い手側の問題だからね。600万いくかしら? 新車1台は確実に買える金額になるはずよ」
その金額に、僕の手が震え出した。
それだけあれば、じーちゃんとばーちゃんに少しでも楽させてあげることが出来る。
手持ちのアイテムを全て売れば、もう少し貰えるのだろうが、これらは一つを除いてじーちゃんとばーちゃんにあげる予定だ。
「よろしくお願いします」
「了解したわ。また今度、今度は組合の口座をつくる書類とかも持ってくるから、その時はご実家にお邪魔するわね」
「はい」
こうして甘木市の大平山の山狩りは幕を下ろした。
僕は家に帰ってじーちゃんとばーちゃんにアイテムを渡すと、最初はビックリして次に嬉しそうに微笑んで2人とも受け取ってくれた。
料理上手のスキルのおかげか、ばーちゃんの晩御飯はいつもより美味しかった。
「とんでもない話になってきたね」
校長先生が僕に話しかけてきた。
「学校側としては君の意志を尊重する。高校は義務教育ではないし、未来を見据えた若者たちの妨げになってはいけないからね。ただ、私個人としてはもっと高校生活で色々ことに目を向けて、幅広い未来を見てほしいと思うよ。この国には探索者になって金持ちになるという未来だけじゃなくて、農業、製造業、建設業、商業等多種多様な仕事がある。芸術の道に進んだっていい。君の人生なのだから他人に流されないようにだけは注意しなさい」
「はい。ありがとうございます」
校長先生の言葉はありがたかったが、残念なことに僕は高校デビューをミスった人間。今回のことでクラスで友達ができることはほぼ無いに等しいだろう。
勉強だけのために学校に来るのもどうなのだろう・・・。
「あと、木下くんと香野くんはしばらく休学扱いとなる。ただ、出席日数が足りなくなるため留年が確定した」
「何でですか? イジメに近いことを僕にしていましたけど、客観的に見てもまだイジメと言えるまでにはいっていなかったはずですが」
「中学でも学んでいるはずだが、ダンジョン法だよ。利用された事を考えても、警察か自衛隊、若しくは大人の誰かに伝えることができたはずだ。ダンジョンは周辺区域を危険に晒す。見つけたら報告する義務が国民にはあるのだよ」
確かに中学で学んだことだけど、当たり前なことだったため思い浮かばなかった。
情状酌量の余地があるとはいえ、私利私欲を優先させてしまうとこうなるのか・・・。
「彼らにやり返すつもりでメールを送ったんですが・・・私利私欲に僕も走ってました。彼らと同じ罰は受けなくていいんですか?」
僕の言葉に校長先生が笑った。
「君への罰は既に決定しているよ」
「?」
「先ほどに3人と、今後も付き合っていかないといけないことが君への罰だよ」
その瞬間の僕の顔を見て、校長先生はすごく楽しそうに笑って、僕に退室を促した。
「遅いわよ。女性を待たせるにはまだまだは・や・い」
僕の罰が僕を待っていた。
・・・うん、意味不明な事を考えてしまった。
「どうかしましたか? えっと、鬼木さん」
「おっ! 私の名前を覚えてくれたんだ。これは脈ありかな?」
「・・・ま、まだ考えさせてください」
スススっと距離を詰めてくる彼女に、僕は後ろに下がってその分を開ける。
「うーん、ウブなのかな? まあ、徐々に仲良くなるしかないわね」
「梶原さんと城島さんは?」
「2人は仕事に戻ったわよ。流石にお偉いさんを有望とはいえスカウトに縛り付けておくわけにはいかないでしょ。多分後で担当の人が来るんじゃないかしら?」
そういえば、扉の前で言い合いをしていた人たちもどっかに行っている。
この人がどのくらい偉いのか分からないが、僕がどんな人間かも分からないのに1人にするだろうか?
思わず周囲を確認するが、それらしい人はいない。
「どうかした?」
「いえ・・・何も」
気にしすぎだろうか?
「鬼木さんは仕事に戻らないんですか?」
「今の私の仕事は貴方をスカウトすることよ」
「あー、なるほどです。でも、僕のスキル目当てですよね。正直僕の右手を持って行っても装備出来ないでしょうし・・・僕は戦闘経験も1回しかないので足手まといですよ?」
「うーん。瀬尾くんは漫画とかラノベとか読む人?」
「はい、読みますけど・・・」
唐突な質問に戸惑いながらも僕は答えた。
「じゃあ、今の時代でも漫画みたいにナイフを腕で受け止めたり、気を溜めて前方に打ち出したりなんて出来ないってことも知っているよね?」
僕は頷いた。
神の存在が明らかになったこの世界でも、人は人のまま超人にはなれない。
唯一、ダンジョンアイテムだけが、超常現象を許されている。
「じゃぁ・・・君みたいに自分の周辺に影響を与えるスキルって、魔法以外に何があると思う?」
「えっと、剣技か剣術とかで衝撃波を飛ばすとか?」
「出来て数メートル。しかも敵を倒す力はないわ」
「威圧で相手を竦ませるとか」
「威圧は精神系のスキルで、心を強く持ったら跳ね除けることができるの」
「空間操作とかで歪ませたり破壊したり?」
「時間とか空間については、まだスキル自体が発見されていないわ。アイテムバッグみたいな漫画でよく見るアイテムもよ。もし見つかったら世紀の大発見になるわね」
・・・。
「君のスキルはこれから検証する必要があると思うけど、カマキリのモンスターの生命力を吸ったということは、既存のダンジョンの中層までの全てのモンスターに効果があるわ。つまり君がいれば、中層まで遠足気分で行くことができるのよね」
僕は右手を見た。
あの時、これを装備した時、頭の中で鳴り響いた声は言っていた。
”スキルの変質を確認”
じゃあスキルが変質する前、こいつはどんなスキルだったのだろうか?
そもそも、スキルが移動するって普通のアイテムでもあり得るのだろうか?
ゾクリと悪寒がして体が震えた。
その後もたわいもない話をしながら歩いていると、鬼木さんの携帯が鳴り響いた。
「はいはい~、え? あ、ちょい待って」
素早く操作してスピーカーで僕にも会話が聞こえるようにした。
「ごめん、もう一回お願い」
『鬼木さんの予想通り、森の中で邪妖精が発見されました。警察が倒して死体が残った事を確認してましたよ。あのダンジョンがいつ発生したものかわかりませんが、警察は山狩りを行うみたいですね。福岡の探索組合に応援要請がありました』
「福岡だと時間がかかりそうだけど?」
『自衛隊が送ってくれるそうです。甘木公園と甘木中学の敷地の使用要請が出されました』
「何人ぐらい来れそう?」
『白狼と鷹の目が動くとの情報がありました。個人だと高橋尚樹、柊智、あ・・・宮下莉乃が来るそうです』
「宮下・・・あの子は阿蘇の大火口に行ってるはずなのに・・・また無申請で移動したのね」
鬼木さんの声のトーンが一段階低くなった。
『ま、まあ、よくある事ですし』
「よくあっちゃ困るのよ。あの子は3級の探索者なのよ? 周りに期待される探索者なの! あの子の保護者どもはどうしたの!? 高城は! 麻生は! 植木は!!」
怒りのゲージが上がっているようだ。電話の向こう側から『ヒィーー』と声が聞こえた。
それから鬼木さんは「ちょっと用事ができた」と言って背中に般若を背負ってどこかに行ってしまった。
・・・威圧スキルは跳ね除けることができるって言ってたけど、僕には無理みたいです・・・足が笑って動けません。
大きく深呼吸して屈伸を5回ほどしてから歩くのを再開する。
季節は夏。
・・・まだ日はあるというのに、なぜか寒気がしてならない。
右側には甘木公園に隣接している神社へ続く石段があり、何となくそれを見ながら歩いていると、緑色の何か小さいものが転がり出てきた。
それは周囲をキョロキョロと見回し、明らかに何かを警戒しているが、道路を挟んで反対にいる僕の姿を確認した。
「・・・」
「・・・」
数秒間見つめ合った。
姿形からゴブリンに似ているが、身に付けている装飾品が凄い。
頭には羽飾り、首には牙のネックレス、腕には木や青銅などで作ったのだろう腕輪がいくつか、指にも何かをつけているように見える。
後、ドクロが装飾された幅の広い刀を持っていた。
「あ、目が山羊みたいだ」
「きえええええええええ!」
僕が迂闊にも言葉を発した瞬間、それは奇声をあげて僕に襲いかかってきた。
だが、その刀が届く前に、生命力吸収が発動して、ゴブリンらしきものはヨロヨロと僕に近づこうとして道のど真ん中でうつ伏せに倒れた。
うん、ここはまずい。
車を運転している人に僕のスキルが影響したら大事故が起きてしまう。
僕は急いで道路に飛び出てゴブリンみたいなものの髪を掴んで引きずって階段を駆け上る。
神社に近いところまで登って道路を見ると、車は問題なく走っていてホッとした。
「どうしよう・・・これ」
ダンジョンのカマキリみたいに踏み潰すことは、何となくできない。
多分二足歩行であることが、ちょっと心に引っ掛かりを与えているのだろう。
僕は携帯を出して、着歴を見て朝警察からかかってきた電話番号を選択した。
『はい、こちら甘木警察署ダンジョン整備課です』
「あ、朝そちらから電話をもらった瀬尾って言います。録音データを送った者です」
『その節はご協力ありがとうございます』
「ご丁寧に・・・えっと、日野さんは?」
『日野は現在、大平山の討伐に参加しておりますが、何かご用ですか?』
あー、確かにあの人戦力になりそうだったから、参加するよね。
「えっとですね、大平山の近くに甘木公園があるんですが、そこからいろんな物を装備したゴブリンみたいなものが一匹出てきまして」
『・・・』
「今、公園に隣接している神社にいるんですが、え、金の刀の・・・」
『金刀比羅?』
「そうです、それです」
『今すぐ日野を向かわせます! 最悪、他の人にゴブリンを殺されてもいいですが、奪われないようにしてください!』
ガシャン! と勢いよく受話器が下されたのだろう。大きな音を出すほど冷静でいられなかったのかな?
仕方ないので、ボーとしながら日野さんを待っていると遠くの方でジャリジャリと複数の人が歩く音が聞こえてきた。
「ん? 誰だこの子は」
男女混合の5人組。
一番目立つのは白い狼の顔を肩に乗せた背の高い男だろう。
不用意にこっちに近づいてきた。
「おい、ガキンチョ。お前」
「ヒュー、そこでストップだよ」
目立つ男が歩いてくるのを、女が止めた。
「そこから先は危険よ」
「あいつが何かしてるのか?」
「さあ、あいつか、それとも誰か。私にわかるのは、危険ってだけ」
「ふん! おい、ガキ! 何かしてるならさっさと解除してそいつをよこしな! 今なら許してやる!」
僕は彼を可能な限り無視するよう心がけるため、左手を何度もグーパーを作りる。
彼の恫喝は正直怖い。
「おい! 無視してんじゃねーぞ! キサラ! まだか!?」
「解除されてないわ。する気がないみたいね」
「ふざけやがって! 俺が突っ込む! サポートしろ!」
ヒューと呼ばれた男が一歩進んだ。
・・・そして倒れた。
「が・・・ゲホ・・・」
「ヒュー! おい! ヒューに何をした!」
冷静に見ていたもう1人の男が焦り出した。
「ダメよ! ヒューに近づいちゃダメ! 大丈夫。死ぬほどの危険じゃないわ。まだ赤くない」
キサラと呼ばれた女性の言葉に、男は冷静を取り戻す。
「あれは諦めた方がいいか?」
「そうね・・・あの刀は良品だけど・・・」
「アッちゃんの火力が上がりそうだったけど・・・むぅー」
女性陣は諦めムードが漂っているが、まだ完全に諦めきれないよう。
そうこうしていると上から何かが降ってきた。
「よし! 間に合った! 瀬尾くん、何もされてないな!?」
「はい大丈夫です。日野さんがきてくれて助かりました。えっと、まだ生きているのでスキルが切れないんですが、どうしますか?」
「ちょっとそれから離れてくれ」
日野さんの言う通りにゴブリンから3歩ほど離れる。
「我、日野光一郎が風のマナに命じる。疾く刃となれ! 我が敵を滅せよ! 風の刃!」
空気がうねって僕の目でもわかるぐらい形を取り、スパッとゴブリンの首を撫でた。
一拍してゴブリンの首が割れて紫色の血が噴き出す。
「よし、もうスキルを解除していいぞ」
「えっと、そちらの人たちは大丈夫ですか?」
「俺を前にして何かする度胸は無いよな?」
日野さんの言葉に、4人は無言で頷く。
倒れているヒューも悔しそうだ。
僕がスキルを解除すると、彼は無言で立ち上がり、他の4人と一緒に去っていく。
意外と聞き分けが良かった。
でも、後で因縁とかつけられないように注意しないといけないな。
「あの人たちって探索者なんですか?」
「おお、4級の探索者パーティ白狼だよ。
阿蘇山の中層と上層の間ぐらいまで行ってるパーティだ。最近は福岡の中洲で装備狙いで不夜城にチャレンジしていたって話だったが、あの様子だといいアイテムには出会えなかったみたいだな。さてと・・・」
日野さんはゴブリンに近づいて、装飾品と死体のチェックをして、にっこりと笑みを浮かべる。
「佐竹の言ったとおり、はぐれモンスターだな、こいつは」
「はぐれモンスター?」
「ああ。こいつはただのゴブリンなんだが、それにしては装飾品が多すぎる。武器も不釣り合いな物で、多分だが、キングクラスの装備をくすねたんじゃないかな。この装備一式が無いせいで、山の中にいるゴブリンキングはかなり弱体化しているだろうよ。こういった知能が他より高く、不釣り合いな装備をしている個体をはぐれモンスターって呼んでいるんだ」
腰蓑以外の装飾品を剥ぎ取り、死体もそのままにせず、手を握って引きずった。
「すまんが、頭を持ってきてくれ。放置しても消えないから、一箇所にまとめて焼却施設に持っていかないといけないんだ」
「ダンジョンでは消えるのに、不思議ですね」
「腐れたりするから迷惑なんだけどな。昔はよく放置されたりして、受肉災なんて言われてたよ。アイテムは後で渡すが・・・どれか一個だけ俺にくれないか? キングクラスの装備って滅多に手に入らないから、装備出来なくても欲しくてね」
「いいですよ。ちょっと躊躇してましたし。日野さんが来てくれたおかげで助かりましたから。でも、勝手に取っちゃっていいんですか?」
「山狩りでは、倒したモンスターの持ち物は倒したやつの物。でないと、民間の探索者は来てくれないからな」
「電話の人は、最悪モンスターが殺されてもいいって言ってましたけど、そうなった場合揉めませんか?」
「揉めはする。でも今回は明らかに瀬尾くんが押さえ込んでいることがわかるからな。実力行使されても君の方が有利だっただろうよ」
信頼か期待か。
日野さんの僕への評価は過剰なような気がする。
・・・僕はまだまだ心が弱いから、あの人の恫喝に対してスキルを展開して待つしかできなかった。
揉めれば・・・いろいろ諦めていたかもしれない。
「死体置き場は・・・こっちか」
死体を集めている場所は、臭いですぐに判明した。
流石にこの臭いはくさすぎる。
僕らは臭いを辿ってその場所に着いた。
「あれ? そういえば魔石とか無いんですか?」
「ん? アニメの知識か? 現実はこんなもんだよ。尿結石でもない限り、体から石が出ることはない。魔石が取れるのはダンジョンの中だけさ」
そう言って、胴体を放り投げる。
僕も頭を放り投げて手を払った。
「それじゃ、洞窟に行くぞ!」
「はい!」
返事をしたところで日野さんの携帯が鳴って、僕にすまなそうにしながら携帯を取った。
「もしもし、佐竹か? どうした」
『・・・! ・・・!』
「ああ、確保した。アイテムはこれからダンジョンに入って鑑定するところだ」
『!・・・! ・・・!』
「いや、あれは俺のじゃなくて、瀬尾くんのだぞ?」
「! ! ! ・・・!!」
「わーった、わかった、訊くから喚くな!」
電話の向こうで何か要求されたみたいだ。
「すまん。電話で俺を誘導した佐竹から、アイテムを一つ貰ってくれって要求があってな・・・図々しいかもしれないが・・・いいか?」
片手で僕に拝みながら催促する日野さんに苦笑して、小さく頷いた。
実際、ゴブリンが持っていたアイテムは刀1本、羽飾り1つ、指輪3つ、腕輪2つ、首飾り1つと結構な数になっていた。
本来なら全てゴブリンキングの持ち物だったらしい。
刀には斬撃特化という当たりスキルが付いていて、これを売るだけでも数百万は稼げるらしい。
羽飾りには速度上昇弱。指輪は手先器用、料理上手、身体強化。腕輪は直感弱、腕力上昇弱。首飾りは病気耐性弱だった。
この中で日野さんには羽飾りを、佐竹さんという方には腕輪の直感弱をあげた。
「いいアイテム持ってますね、瀬尾くん。運まで味方してるなんて羨ましい」
「げっ! 鬼木!」
「おやおや、元3級探索者で警部補の日野さんではないですか。羽振りが良さそうですね」
「いやいや、俺はただのいち公務員。羽振りなんて全く・・・」
「そうですか? ・・・まあいいです。今は瀬尾くんが優先ですから」
「僕ですか?」
鬼木さんが真面目な顔で頷いた。
「白狼と揉めたと聞きました」
日野さんが何か言おうとするのを鬼木さんが止める。
「状況は正しく把握してます。向こうにもそれを伝えたら苦虫を2、3匹噛み潰したような顔をしてましたよ」
「藤森も来てるのかよ・・・」
「いちよ、君には近づかないよう伝えたから、忠告を無視するほど馬鹿ではないチームだから安心してちょうだい」
「ありがとうございます。助かります」
お辞儀を一つする。刀がそれなりの大きさなのでちょっと邪魔だ。
「ところで、そのアイテムはどうするの?」
「刀は売ります」
「買った!!!」
突然声が割り込んできた。
「買った! 買います! もう私の物!」
「・・・えっと」
突如乱入してきた女性に、僕は他じろきながら鬼木さんを見ると、背中に般若を背負って彼女は女性を睨みつけていた。
「み~や~し~た~。あんたって子は!」
「ぎゃあああ! 鬼木さん! やめて! スキル般若が発動してのアイアンクローはきつい! 痛い! 潰れる!!」
あ、そういうスキルだったのか。
僕の幻覚かと思っていたが、どうやらみんなに見えているみたいだ。
「因みに、超レアスキルで、周囲に恐怖と萎縮の状態異常を与えて、自分には腕力上昇と体術上昇が付与される。鬼木も元々探索者でな、ランクは2級。鬼子母神なんて二つ名もつけられてる。日本で指折りのバケモノだよ」
「聞こえているわよ! 日野さん!」
「うぉ、やべえ。俺は署に戻る。アイテムありがとな!」
早速羽飾りを装備して、少し上昇した素早さで日野さんはその場から立ち去ってしまった。
「もう! 人のことばかりバケモノ扱いして!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒る彼女の足下には、グッタリと倒れた女の人。
「さて、その刀だけど、売るなら探索者組合を通さない? 売上の5%を組合が手数料として貰うけど、安心安全に売却出来るわよ?」
「それなら・・・お任せしたいです」
「うん、任せてちょうだい」
刀が僕から鬼木さんに渡った瞬間、周囲の山狩りに参加した人たちがあからさまにガッカリした。
足下にいる人も「私の刀が~」と言いながら涙を流している。
「気にしなくていいわよ」
「え?」
「瀬尾くんは自分の利益を適正に貰うだけ。こいつらは君から安く手に入れようとしただけ。だから全く気にしなくて大丈夫」
「・・・組合通して売ったらそんなに高く売れるんですか?」
「斬撃特化の刀でしょ? 場所を選ばず物理攻撃が当たる敵なら万能よ。オークションで高値がつくのは間違いないと思うわ。問題があるとすれば魔力適性だけど、それは買い手側の問題だからね。600万いくかしら? 新車1台は確実に買える金額になるはずよ」
その金額に、僕の手が震え出した。
それだけあれば、じーちゃんとばーちゃんに少しでも楽させてあげることが出来る。
手持ちのアイテムを全て売れば、もう少し貰えるのだろうが、これらは一つを除いてじーちゃんとばーちゃんにあげる予定だ。
「よろしくお願いします」
「了解したわ。また今度、今度は組合の口座をつくる書類とかも持ってくるから、その時はご実家にお邪魔するわね」
「はい」
こうして甘木市の大平山の山狩りは幕を下ろした。
僕は家に帰ってじーちゃんとばーちゃんにアイテムを渡すと、最初はビックリして次に嬉しそうに微笑んで2人とも受け取ってくれた。
料理上手のスキルのおかげか、ばーちゃんの晩御飯はいつもより美味しかった。
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