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甘木市未確認ダンジョン編
いつもとは違う学校
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朝起きても疲れは取れていなかった。
「4時寝で6時起きはやっぱりきつい」
ちょっとフラつきながらも歯を磨いて髪を水で整え、リビングに移動する。
「おはよう。じーちゃん、ばーちゃん」
「おはよう、京平ちゃん。朝ご飯は準備してるよ」
「ありがとう。いただきます」
席について右手で箸を掴み動かしてみた。
・・・やはり細かな動作が難しい。
指や手首の関節の調整がうまく出来ないのか、箸の先端を合わせることすらできない。
ゆっくりとご飯から食べ進め、目玉焼きに悪戦苦闘しながら口に運び、味噌汁をほっとしながら啜る。
「右手・・・どうかしたか?」
突然、前で新聞を読んでいたじーちゃんかこっちを見て質問してきた。
「あ、うん。・・・えっと、ちょっと痺れてて」
「昨日、夜中に何処かに出かけたみたいだが、悪いことしちゃいかんぞ。悪い友達ならキッパリと縁を切りなさい」
「・・・うん。大丈夫。今日には決着できると思う」
「そうか。・・・何があっても守ってやる。精一杯ぶつかりなさい」
「うん・・・」
食事が終わった後、少しの休憩を挟んで、僕は学校の制服に着替えて鞄を持ち、靴を履く。
「それじゃ、行ってきます」
「うむ」
「行ってらっしゃい」
家から学校まで20分。
田んぼが多い田舎道を歩いて進む。
左手には夜中に分け入った森があり、何となく見ないようにして歩き進む。
学校に着くと僕は腕時計でかかった時間を確認する。
・・・27分。
いつもより遅くなったのは右足のせいだろう。
そのまま校舎に入り、教室の扉を開けた。
「それでよ、アイツはよっぽど宝物が欲しかったみたいでよ」
教室の中では木下と香野が楽しそうに周囲のクラスメイトに話をしていた。
「おい、あれ・・・」
「え? 違うくない?」
僕に気づいた数名がザワザワしだす。
それが不快と感じたのか、香野が眉間に皺を寄せて周囲を見回して僕に気づいた。
「はぁ? え?」
「どうした、香野・・・」
木下も香野の視線の先にいた僕に気づいた。
教室内はシーンと静まり、誰一人として喋らない。
僕はその中を歩いて自分の席に着席した。
「よぉ、京平。お前生きてたんだ」
木下が強気に僕に話しかけてきた。
おそらく作り話をある程度していたから、収拾がつかないのだろう。
「んじゃ話は早いな。とりあえず、俺と孝宏に謝れ。迷惑かけてごめんなさいってな」
・・・なるほど。
確かにそれなら周りも納得する。
木下の話は真実で、迷惑をかけた僕が生きて戻ってきただけ。
・・・だけど・・・、
「するわけないだろ。この卑怯者」
僕は宣言なしで生命力吸収を発動させた。
今クラスにいる全員がその場で崩れ落ちた。
立っていた人たちは足から力が抜けて、座っていた人たちも姿勢を維持できずに床に倒れ、プルプルと体を震わせる。
何人か頭を打った人たちもいるようだが、僕からは何もしない。
「ヒュー、ヒュー」
「あ・・・あぅぁ」
そこら中から呻き声が聞こえる。
突然、僕の携帯が震えて着信を知らせた。
「はい」
『こちら、甘木警察署ダンジョン管理課ですけども、瀬尾京平さんの携帯でよろしかったでしょうか?』
「はい、そうです」
『今出られているのは、瀬尾京平さんご本人でしょうか?』
「はい、本人です」
『ありがとうございます。早速ですが、今日の4時に録音データを、こちらにメールで送られましたか?』
「はい。夜中にクラスメイトから強制されてダンジョンに連れて行かれた録音データを送りました」
僕の言葉に足下にいる木下の呼吸が荒くなった。
下を見ると木下が倒れたまま僕を睨んでいる。
・・・こんな状態でも僕の手は震えてしまう。
心が弱いから・・・どんなに強くあろうとしても、優位になっても変わらない。
『今からお話を伺いたいんですが、どちらにいらっしゃいますか?』
「学校に来ています。甘木高等学校です。僕を連れて行った2人も・・・今僕のスキルで動けなくしています」
『・・・今すぐ向かいます』
電話が切れて教室内に静寂が戻る。
「せいぜい、言い訳を考えておきなよ?」
反応は無いとわかっているけれど、僕は下を見ずに伝えた。
警察は5分ぐらいで到着した。
だが、その5分の間に担当の安達先生が教室に入って、倒れてる生徒に駆け寄って、3歩程で同じように倒れてしまった。
・・・女子生徒の上に倒れたけど、あれは大丈夫なのだろうか・・・色々と。
先生の今後を心配しつつ、次に現れた警察の人に注意喚起しようと考えていたが、流石にそこはプロといったところか、倒れている人をざっと見て、安全な所で僕を見た。
「瀬尾京平くんだね?」
「はいそうです。そちらは?」
「日野光一郎。階級は警部補だ。身の安全は保証するからスキルを解除して欲しい」
「・・・」
何か勘違いしているのか、僕に怯えている雰囲気がする。
「えっと、解除しますけど、この2人が逃げないように囲んで欲しいんですが」
「2人?」
「ええ。僕をダンジョンに連れてった木下と香野です」
足下の木下と、最初の場所から動かずに倒れている香野を指差す。
「分かった。窓の外にも待機させておく。スキルは生死に直結するものかな?」
「いえ、しばらくは大丈夫なはずです。皆んなまだ生きているので」
「・・・検証は?」
「人に対してはこれが初です」
「分かった。少し時間をくれ」
そう言うと、日野さんは僕に背を向けて何処かに電話をかけた。
そして数分後、窓の外からたくさんの足音がして人が集まってきた。
その中の1人が他の人に服を掴まれながら慎重に歩いてきて、ガクリと膝が崩れた瞬間、服を引いて効果範囲から退避させた。
見事な連携だ。
僕のスキルを聞いてすぐ対策を導き出したんだろう。
範囲スキルだから攻略は難しいと思ってたけど、僕の勘違いだったようだ。
「準備は整った。スキルを切ってくれ」
「3つ数える。0で切れるから頼みます。3! 2! 1! 0!」
スキルを切るのと同時に警官が全員突入して、僕と木下、香野の3人を捕まえた。
・・・まあ、学校に迷惑かけてるからね。捕まってもしょうがない。
「すまないが、警察署までいいかな?」
「はい、同行します」
「結構だ。ところで、音声データはマスコミにも流していたようだが、他にも送ったかな?」
「自衛隊に送りましたよ。ダンジョンのことなので周知した方がいいでしょう?」
「・・・ちょっと待ってろ」
日野さんはスマホを操作して何処かに電話をかけた。
「日野だ! 甘木高校の対象を確保した! それよりも緊急だ! 音声データが自衛隊にも流れてる! 急いで警察の権限で対象場所を封鎖しろ! 署長にも緊急承認を通達、急げ! 軍もどきの戦闘狂どもに勝手にさせるな!」
突然の大声にビクッとしてしまった。
「ああ! マスコミは抑えたが自衛隊は盲点だ。急げよ! 第一優先で動け!」
・・・日本を守る二つの組織なのに、仲が悪いのだろうか?
警察署では3人バラバラの個室に連れられて、僕は引き続き日野さんが担当することになった。
「さて、4時に送ってくれたデータから、ダンジョンの様子はある程度分かるからその話は後にしよう。今一番聞きたいのは、君が得たアイテムは何だ・・・」
僕を睨みながら、誤魔化しは許さないという雰囲気を出す。
でも、データを全部聴いていればすぐに分かることだ。
「答えなんて、見たままですよ」
右手を上げて2、3回握る。
「・・・データの中で装備したのはその右手か」
「右足もですけどね。こっちは加重というスキルです。カマキリタイプのモンスターを踏み潰すことができます」
「物理系重量操作か。生命力吸収に比べたら安全なスキルだな。DかEってところか」
「スキルのランクですか?」
「そうだ。だが、ランクが低いからといって弱いってわけじゃないぞ。安全性や瞬間的な攻撃力、操作性などを総合して判断しているだけだからな。どちらかといったら低いランクの方が我々は安心できる。まあ正式なランクは検査機関があるからそこを通す必要があるがな」
「へー。ちなみ生命力吸収はどのランクですか?」
生命力を吸うだけで、多分死ぬことはないスキルだから思ったより高くないかもしれない。
「問答無用でAだ」
「・・・まあ、Sじゃないので危険性はないって判断ですよね?」
「馬鹿タレ。Sなんてランクはない。正真正銘Aが最高ランクだ。お前のスキルはパーティレベルの戦況を一変できるスキルで間違いない。仲間まで巻き込む危険性も含めてAになるだろうよ」
ガックリしてしまった。
でも魔法系のスキルより危険ではないと思っていたのだが・・・。
「魔法系のスキルには呪文が必須なんだよ。省略関係のスキルと合わせれば危険度が跳ね上がるが、単体でのランクはCにしかならない」
確かに僕の僕のスキルは詠唱なんてないし、スキル名を言う必要もない。気づいたら範囲で必ず効果を発揮するスキルは確かに危険かもしれない。
「まあ、いいだろう。念の為忠告しておくが、強いスキルを得たからといって、1人でダンジョンに入るなんて無謀なことはしないように。そのランクのスキルを持った天狗の鼻をへし折るのは手間がかかるからな」
彼の言葉に僕は頷いた。
実際、学校で対策をとられたように、やりようはいくらでもある。
最悪、遠距離からのスナイプされれば一瞬で終わる話だ。
話が一区切りし、お互いに一息ついたところで、日野さんの携帯が鳴った。
「どうした? 前田」
『ダンジョン前で自衛隊とぶつかりました! 奴ら空自と一緒にきやがった! 普段いがみ合ってるくせにこんな時だけ!』
「クソッタレ! 他の地区に応援を要請するから持ち堪えろ! 羽島! 今すぐ連絡を取れ! 警察の意地を見せろ!」
「はい!」
ドアの横で待機していた警察官が、駆け足で去っていく。
「あの、自衛隊と仲悪いんですか?」
「ああ、あいつらは事あるごとに警察のことを安全地帯にいる引き篭もりと揶揄ってくる。ダンジョンアタックするからといって偉いわけでもないのに! そのダンジョンから漏れ出たモンスターを排除しているのは我々だぞ!」
「え、あ、そうなんですか」
「民間の奴らは国の危険など考えず、好き勝手ダンジョンアタックするし。警備している私たちを下に見ることは当たり前に行なってくる! どっちとも派手な神罰でも受けやがれ!!」
色々と溜まっているらしい。
フーっと長いため息ついて、日野さんは落ち着いた。
「時間がない。音声データについて、あれが全てか?」
「? ええ、全てです」
「では、浩という名前は、まだ覚えているか?」
・・・誰のことだろ。
僕は首を傾げた。
「やはりか。君と木下くんと香野くん、3人は認識改竄のスキルを受けた可能性がある」
「認識改竄?」
「そうだ。認識阻害や隠密などの潜伏系のスキルなのだが、先ほどの浩という人物はまるで君たちのクラスメイトであるかのような行動をしている」
「・・・」
僕の記憶に浩などというクラスメイトは存在しない。
なんとなく気持ち悪くなって血の気が引いていく。
「他にもこいつはビギナーズラックとかいうスキルを持っている可能性が高い」
「なんですか、それは」
「その名のとおり、初心者が幸運に恵まれるスキルなのだが、君たち3人の誰かにその装備を付けられたのだろう。認識改竄されていれば付けられた記憶も改竄されているだろうしな」
「木下だ」
「なに?」
思い当たるのはあいつしかいない。
「あいつが奥に進んで宝箱を見つけたんだ。しかも火魔法の指輪を手に入れていた。幸運が付いていたのなら納得がいく!」
「そうか」
「あいつになんでって思ったけど、それでか」
日野さんが備えられてた電話の受話器を取って番号を押した。
「こっちは大体終わった。そっちはどおだ?」
『こっちも大体は。ですが、アニキについては完全に不明ですね』
「そうか。アニキは木下しか会っていないはずだからな。完全に消されたか。ありがとう。後は規定どおりに進めてくれ」
受話器を下ろして日野さんは僕を見る。
「っと言うわけで、協力ありがとう。ダンジョンも含めて、後はこちらの仕事だ」
「アニキって何ですか?」
「ん? ああ、木下くんがね音声データの中で言っていた人物だよ」
「・・・」
僕は少し考えて、取り敢えず訊いてみることにした。
「彼、そんなこと言ってましたっけ?」
僕の言葉に、日野さんは大きく目を開いて、天を仰いで目を手で押さえた。
「マジかよ・・・」
その後は何も会話がなく、僕は警察署を出て、パトカーで学校まで送ってもらった。
僕が教室に戻ると、みんなの視線が僕に集まり、すぐに逸らされた。
別に、あの2人以外に何かするつもりはないのだけど・・・朝の巻き添えがよほど効いてしまったみたいだ。
数人、頭に包帯を巻いていたが、きちんと病院で検査をしてほしい。
僕からは言わないけど。
「授業の途中にすみません」
「あ、いや、問題ない。事情は聞いているから・・・席に座りなさい」
「はい」
それからの時間は、自分の無害さをアピールするために、授業を真面目に受けて休憩時間には目を閉じて寝るようにした。
そのおかげか、教室内での会話が徐々に増えて、僕はホッと胸を撫で下ろした。
それからの時間は何事もなく進み、今日の学校生活の終わりが見え始めた。
『生徒の呼び出しをします。瀬尾京平くん、瀬尾京平くん。校長室まで来てください』
「・・・何だろ」
「瀬尾、呼び出しだから行ってきなさい」
「はい。授業中なのにすみません」
僕は席を立って教室を出て、校長室に向かうと、扉の前に3人の人が睨み合っていた。
制服から別々の組織の人たちということは推測できるが、すごく剣呑な雰囲気を周りに振り撒くのはやめてもらいたい。
「あのー」
「あ?」
「ん?」
「んぁ?」
3人が一同に僕を見るが、目つきが悪すぎて怖すぎる。
思わず生命力吸収をうちたくなった。
「そこに入りたいんですけど」
僕が校長室を指差すと、3人は急に表情を変えて僕に道を譲った。
「ああ、瀬尾くんだね。どうぞどうぞ。そこのゴミのことは気にしないでいいよ」
「ごめんな、ちょっと邪魔だったね。クズがいるけど気にしなくていいからね」
「気付くのが遅れたね。カスのことは私に任せて行っていいよ。ちゃんと綺麗にするから」
「ん!?」
「あぁ!?」
「お!?」
再度睨み合いが始まった。
僕はひとまずその中を通って校長室の扉を叩く。
「入りなさい」
名前を言う前に入室を許可されたので、遠慮なく扉を開く。
「失礼します」
一礼して中に入ると、そこには、これまたヒリついた雰囲気の3人がソファーに座っていて、対面に校長先生が1人掛けソファーに座っていた。
そして、来たばかりの僕に救いを求めるような顔をしている。
「えっと、呼ばれましたので来ました。瀬尾京平です」
「ありがとう。こっちに座ってくれ」
校長の隣に座って3人を改めて見る。
右側に警察関係の制服を着た壮年の男性。
中央におそらく自衛隊だろう。軍服を着た壮年の男性。
左側にグレーのスーツを着たピアスをいくつも付けた女性。
みんなギスギスした雰囲気を一新して笑顔で僕を見ている。
「初めまして、甘木警察署長の梶原邦和です」
「初めまして、陸上自衛隊西部方面隊隊長の城島真一郎です」
「初めまして、全国探索者相互組合の鬼木玲花よ」
3人が名刺を僕に渡してきたので、何も考えずに受け取ったのだが、どうすればいいのだろう。
「名刺を自分の前に席に座っている通り並べなさい」
「あ、ありがとうございます。それで、僕に何か?」
「ふーぅ、それは御三方から説明がある。まずは聞きましょうか」
「はい」
校長先生の最初のため息が僕も不安を掻き立てる。
「ではまず私から」
署長の梶原さんが手を挙げる。
「瀬尾くんには、是非とも市民の安全を守る我々の補助をお願いしたい。基本的に君が倒したカマキリ以上のものは出ないと考えていい」
「嘘を言わないで」
梶原さんの言葉に鬼木さんが噛み付いた。
「あんたたちの言葉に騙されて命を落とした子たちがどれだけいるか、私が知らないとでも思っているの?」
「不慮の事故はどこにでもあるものだ。それに、貴方の言う子たちは自分の能力を過信してこっちの制止を無視して突進して行った人たちだ。当時の音声は全て保管している。我々は最大限安全を考えて行動していた」
梶原さんと鬼木さんが睨み合う。
その2人を無視して、次に城島さんが喋りだした。
「私たちとしては瀬尾くんを自衛官候補生として、給料が出る形態で契約をしたい。ダンジョンアタックの際も同行してもらうことになるが、装備品は自衛隊が責任を持って用意するし、銃の操作についてもちゃんと訓練をする。危険手当も付くから高給取りになれるぞ」
「嘘つかないでもらいたいな、軍もどき。何が高給か。ダンジョンアタックで出た魔石は全て国の物として扱うことになるから一切個人の懐には入らない。誰もが知っている自衛隊の悪いとこだ」
「出鱈目を言わないでもらいたいな、引き篭もり。確かに自衛隊としてダンジョンアタックをした際は、魔石は国の物扱いになるが、自衛官同士でパーティを組んで定められた時間以外にダンジョンアタックをする場合、報告義務はあるが得た魔石の7割が個人の物となるよう規定がある。でなければ、[黒曜]や[金剛]のような自衛隊所属のトップ探索者が出るわけがないだろう」
今度は城島さんと梶原さんの口論が始まり、視線がぶつかって火花が飛び散る。
「最後に私ですね。私としては瀬尾くんに民間のチームに所属して、その能力を遺憾なく発揮してもらいたいの。探索者が軒並み高額納税者に名を連ねているのは知っていると思うけど、私は貴方にもその素質があると感じているわ。それに民間であれば、ダンジョンで拾ったものは全て個人の物。好きにしていいのよ。だからこそ、強いチームが生まれやすいの」
「騙されるなよ瀬尾くん」
「その通りだ。我々3人の中で一番タチの悪い人は誰かと訊かれたら、私は必ず彼女を指差す」
「私もだよ。なんせ、魂胆が見え見えだからな。どうせ彼の周りを美女で固めていいように使い、魔石やレアな装備品を安く手に入れる考えなのだろうよ」
急な2人からの攻撃に、鬼木さんは目つきを鋭くして反論する。
「ふざけた事を言わないでほしいわ。私たちは個人の利益を侵害しないよう導いているだけ。その方法をとやかく言われる謂れはないわ」
「残念ながらあるんだよ。B級モンスターの魔石を他国に売却した事を我々は掴んでいるからな? 金を積まれれば国益を損なう行為を平然と行う銭ゲバどもめ」
「B級魔石があれば、スパコンの一つの性能が2世代先を行く。それを他国に渡して、お前たちは何がしたい? 自国の安全には無頓着なのか?」
「何を言っているの? 私たちは国が推奨する販売しかしていないわ。貴方たちが言っている魔石についても、国が認めるオークションで売却したにすぎない。自分たちが落札できなかったからといって、私を責めないでほしいわね」
3人のいがみ合いに、僕と校長先生は目を合わせてどっちからともなく苦笑いを浮かべた。
「4時寝で6時起きはやっぱりきつい」
ちょっとフラつきながらも歯を磨いて髪を水で整え、リビングに移動する。
「おはよう。じーちゃん、ばーちゃん」
「おはよう、京平ちゃん。朝ご飯は準備してるよ」
「ありがとう。いただきます」
席について右手で箸を掴み動かしてみた。
・・・やはり細かな動作が難しい。
指や手首の関節の調整がうまく出来ないのか、箸の先端を合わせることすらできない。
ゆっくりとご飯から食べ進め、目玉焼きに悪戦苦闘しながら口に運び、味噌汁をほっとしながら啜る。
「右手・・・どうかしたか?」
突然、前で新聞を読んでいたじーちゃんかこっちを見て質問してきた。
「あ、うん。・・・えっと、ちょっと痺れてて」
「昨日、夜中に何処かに出かけたみたいだが、悪いことしちゃいかんぞ。悪い友達ならキッパリと縁を切りなさい」
「・・・うん。大丈夫。今日には決着できると思う」
「そうか。・・・何があっても守ってやる。精一杯ぶつかりなさい」
「うん・・・」
食事が終わった後、少しの休憩を挟んで、僕は学校の制服に着替えて鞄を持ち、靴を履く。
「それじゃ、行ってきます」
「うむ」
「行ってらっしゃい」
家から学校まで20分。
田んぼが多い田舎道を歩いて進む。
左手には夜中に分け入った森があり、何となく見ないようにして歩き進む。
学校に着くと僕は腕時計でかかった時間を確認する。
・・・27分。
いつもより遅くなったのは右足のせいだろう。
そのまま校舎に入り、教室の扉を開けた。
「それでよ、アイツはよっぽど宝物が欲しかったみたいでよ」
教室の中では木下と香野が楽しそうに周囲のクラスメイトに話をしていた。
「おい、あれ・・・」
「え? 違うくない?」
僕に気づいた数名がザワザワしだす。
それが不快と感じたのか、香野が眉間に皺を寄せて周囲を見回して僕に気づいた。
「はぁ? え?」
「どうした、香野・・・」
木下も香野の視線の先にいた僕に気づいた。
教室内はシーンと静まり、誰一人として喋らない。
僕はその中を歩いて自分の席に着席した。
「よぉ、京平。お前生きてたんだ」
木下が強気に僕に話しかけてきた。
おそらく作り話をある程度していたから、収拾がつかないのだろう。
「んじゃ話は早いな。とりあえず、俺と孝宏に謝れ。迷惑かけてごめんなさいってな」
・・・なるほど。
確かにそれなら周りも納得する。
木下の話は真実で、迷惑をかけた僕が生きて戻ってきただけ。
・・・だけど・・・、
「するわけないだろ。この卑怯者」
僕は宣言なしで生命力吸収を発動させた。
今クラスにいる全員がその場で崩れ落ちた。
立っていた人たちは足から力が抜けて、座っていた人たちも姿勢を維持できずに床に倒れ、プルプルと体を震わせる。
何人か頭を打った人たちもいるようだが、僕からは何もしない。
「ヒュー、ヒュー」
「あ・・・あぅぁ」
そこら中から呻き声が聞こえる。
突然、僕の携帯が震えて着信を知らせた。
「はい」
『こちら、甘木警察署ダンジョン管理課ですけども、瀬尾京平さんの携帯でよろしかったでしょうか?』
「はい、そうです」
『今出られているのは、瀬尾京平さんご本人でしょうか?』
「はい、本人です」
『ありがとうございます。早速ですが、今日の4時に録音データを、こちらにメールで送られましたか?』
「はい。夜中にクラスメイトから強制されてダンジョンに連れて行かれた録音データを送りました」
僕の言葉に足下にいる木下の呼吸が荒くなった。
下を見ると木下が倒れたまま僕を睨んでいる。
・・・こんな状態でも僕の手は震えてしまう。
心が弱いから・・・どんなに強くあろうとしても、優位になっても変わらない。
『今からお話を伺いたいんですが、どちらにいらっしゃいますか?』
「学校に来ています。甘木高等学校です。僕を連れて行った2人も・・・今僕のスキルで動けなくしています」
『・・・今すぐ向かいます』
電話が切れて教室内に静寂が戻る。
「せいぜい、言い訳を考えておきなよ?」
反応は無いとわかっているけれど、僕は下を見ずに伝えた。
警察は5分ぐらいで到着した。
だが、その5分の間に担当の安達先生が教室に入って、倒れてる生徒に駆け寄って、3歩程で同じように倒れてしまった。
・・・女子生徒の上に倒れたけど、あれは大丈夫なのだろうか・・・色々と。
先生の今後を心配しつつ、次に現れた警察の人に注意喚起しようと考えていたが、流石にそこはプロといったところか、倒れている人をざっと見て、安全な所で僕を見た。
「瀬尾京平くんだね?」
「はいそうです。そちらは?」
「日野光一郎。階級は警部補だ。身の安全は保証するからスキルを解除して欲しい」
「・・・」
何か勘違いしているのか、僕に怯えている雰囲気がする。
「えっと、解除しますけど、この2人が逃げないように囲んで欲しいんですが」
「2人?」
「ええ。僕をダンジョンに連れてった木下と香野です」
足下の木下と、最初の場所から動かずに倒れている香野を指差す。
「分かった。窓の外にも待機させておく。スキルは生死に直結するものかな?」
「いえ、しばらくは大丈夫なはずです。皆んなまだ生きているので」
「・・・検証は?」
「人に対してはこれが初です」
「分かった。少し時間をくれ」
そう言うと、日野さんは僕に背を向けて何処かに電話をかけた。
そして数分後、窓の外からたくさんの足音がして人が集まってきた。
その中の1人が他の人に服を掴まれながら慎重に歩いてきて、ガクリと膝が崩れた瞬間、服を引いて効果範囲から退避させた。
見事な連携だ。
僕のスキルを聞いてすぐ対策を導き出したんだろう。
範囲スキルだから攻略は難しいと思ってたけど、僕の勘違いだったようだ。
「準備は整った。スキルを切ってくれ」
「3つ数える。0で切れるから頼みます。3! 2! 1! 0!」
スキルを切るのと同時に警官が全員突入して、僕と木下、香野の3人を捕まえた。
・・・まあ、学校に迷惑かけてるからね。捕まってもしょうがない。
「すまないが、警察署までいいかな?」
「はい、同行します」
「結構だ。ところで、音声データはマスコミにも流していたようだが、他にも送ったかな?」
「自衛隊に送りましたよ。ダンジョンのことなので周知した方がいいでしょう?」
「・・・ちょっと待ってろ」
日野さんはスマホを操作して何処かに電話をかけた。
「日野だ! 甘木高校の対象を確保した! それよりも緊急だ! 音声データが自衛隊にも流れてる! 急いで警察の権限で対象場所を封鎖しろ! 署長にも緊急承認を通達、急げ! 軍もどきの戦闘狂どもに勝手にさせるな!」
突然の大声にビクッとしてしまった。
「ああ! マスコミは抑えたが自衛隊は盲点だ。急げよ! 第一優先で動け!」
・・・日本を守る二つの組織なのに、仲が悪いのだろうか?
警察署では3人バラバラの個室に連れられて、僕は引き続き日野さんが担当することになった。
「さて、4時に送ってくれたデータから、ダンジョンの様子はある程度分かるからその話は後にしよう。今一番聞きたいのは、君が得たアイテムは何だ・・・」
僕を睨みながら、誤魔化しは許さないという雰囲気を出す。
でも、データを全部聴いていればすぐに分かることだ。
「答えなんて、見たままですよ」
右手を上げて2、3回握る。
「・・・データの中で装備したのはその右手か」
「右足もですけどね。こっちは加重というスキルです。カマキリタイプのモンスターを踏み潰すことができます」
「物理系重量操作か。生命力吸収に比べたら安全なスキルだな。DかEってところか」
「スキルのランクですか?」
「そうだ。だが、ランクが低いからといって弱いってわけじゃないぞ。安全性や瞬間的な攻撃力、操作性などを総合して判断しているだけだからな。どちらかといったら低いランクの方が我々は安心できる。まあ正式なランクは検査機関があるからそこを通す必要があるがな」
「へー。ちなみ生命力吸収はどのランクですか?」
生命力を吸うだけで、多分死ぬことはないスキルだから思ったより高くないかもしれない。
「問答無用でAだ」
「・・・まあ、Sじゃないので危険性はないって判断ですよね?」
「馬鹿タレ。Sなんてランクはない。正真正銘Aが最高ランクだ。お前のスキルはパーティレベルの戦況を一変できるスキルで間違いない。仲間まで巻き込む危険性も含めてAになるだろうよ」
ガックリしてしまった。
でも魔法系のスキルより危険ではないと思っていたのだが・・・。
「魔法系のスキルには呪文が必須なんだよ。省略関係のスキルと合わせれば危険度が跳ね上がるが、単体でのランクはCにしかならない」
確かに僕の僕のスキルは詠唱なんてないし、スキル名を言う必要もない。気づいたら範囲で必ず効果を発揮するスキルは確かに危険かもしれない。
「まあ、いいだろう。念の為忠告しておくが、強いスキルを得たからといって、1人でダンジョンに入るなんて無謀なことはしないように。そのランクのスキルを持った天狗の鼻をへし折るのは手間がかかるからな」
彼の言葉に僕は頷いた。
実際、学校で対策をとられたように、やりようはいくらでもある。
最悪、遠距離からのスナイプされれば一瞬で終わる話だ。
話が一区切りし、お互いに一息ついたところで、日野さんの携帯が鳴った。
「どうした? 前田」
『ダンジョン前で自衛隊とぶつかりました! 奴ら空自と一緒にきやがった! 普段いがみ合ってるくせにこんな時だけ!』
「クソッタレ! 他の地区に応援を要請するから持ち堪えろ! 羽島! 今すぐ連絡を取れ! 警察の意地を見せろ!」
「はい!」
ドアの横で待機していた警察官が、駆け足で去っていく。
「あの、自衛隊と仲悪いんですか?」
「ああ、あいつらは事あるごとに警察のことを安全地帯にいる引き篭もりと揶揄ってくる。ダンジョンアタックするからといって偉いわけでもないのに! そのダンジョンから漏れ出たモンスターを排除しているのは我々だぞ!」
「え、あ、そうなんですか」
「民間の奴らは国の危険など考えず、好き勝手ダンジョンアタックするし。警備している私たちを下に見ることは当たり前に行なってくる! どっちとも派手な神罰でも受けやがれ!!」
色々と溜まっているらしい。
フーっと長いため息ついて、日野さんは落ち着いた。
「時間がない。音声データについて、あれが全てか?」
「? ええ、全てです」
「では、浩という名前は、まだ覚えているか?」
・・・誰のことだろ。
僕は首を傾げた。
「やはりか。君と木下くんと香野くん、3人は認識改竄のスキルを受けた可能性がある」
「認識改竄?」
「そうだ。認識阻害や隠密などの潜伏系のスキルなのだが、先ほどの浩という人物はまるで君たちのクラスメイトであるかのような行動をしている」
「・・・」
僕の記憶に浩などというクラスメイトは存在しない。
なんとなく気持ち悪くなって血の気が引いていく。
「他にもこいつはビギナーズラックとかいうスキルを持っている可能性が高い」
「なんですか、それは」
「その名のとおり、初心者が幸運に恵まれるスキルなのだが、君たち3人の誰かにその装備を付けられたのだろう。認識改竄されていれば付けられた記憶も改竄されているだろうしな」
「木下だ」
「なに?」
思い当たるのはあいつしかいない。
「あいつが奥に進んで宝箱を見つけたんだ。しかも火魔法の指輪を手に入れていた。幸運が付いていたのなら納得がいく!」
「そうか」
「あいつになんでって思ったけど、それでか」
日野さんが備えられてた電話の受話器を取って番号を押した。
「こっちは大体終わった。そっちはどおだ?」
『こっちも大体は。ですが、アニキについては完全に不明ですね』
「そうか。アニキは木下しか会っていないはずだからな。完全に消されたか。ありがとう。後は規定どおりに進めてくれ」
受話器を下ろして日野さんは僕を見る。
「っと言うわけで、協力ありがとう。ダンジョンも含めて、後はこちらの仕事だ」
「アニキって何ですか?」
「ん? ああ、木下くんがね音声データの中で言っていた人物だよ」
「・・・」
僕は少し考えて、取り敢えず訊いてみることにした。
「彼、そんなこと言ってましたっけ?」
僕の言葉に、日野さんは大きく目を開いて、天を仰いで目を手で押さえた。
「マジかよ・・・」
その後は何も会話がなく、僕は警察署を出て、パトカーで学校まで送ってもらった。
僕が教室に戻ると、みんなの視線が僕に集まり、すぐに逸らされた。
別に、あの2人以外に何かするつもりはないのだけど・・・朝の巻き添えがよほど効いてしまったみたいだ。
数人、頭に包帯を巻いていたが、きちんと病院で検査をしてほしい。
僕からは言わないけど。
「授業の途中にすみません」
「あ、いや、問題ない。事情は聞いているから・・・席に座りなさい」
「はい」
それからの時間は、自分の無害さをアピールするために、授業を真面目に受けて休憩時間には目を閉じて寝るようにした。
そのおかげか、教室内での会話が徐々に増えて、僕はホッと胸を撫で下ろした。
それからの時間は何事もなく進み、今日の学校生活の終わりが見え始めた。
『生徒の呼び出しをします。瀬尾京平くん、瀬尾京平くん。校長室まで来てください』
「・・・何だろ」
「瀬尾、呼び出しだから行ってきなさい」
「はい。授業中なのにすみません」
僕は席を立って教室を出て、校長室に向かうと、扉の前に3人の人が睨み合っていた。
制服から別々の組織の人たちということは推測できるが、すごく剣呑な雰囲気を周りに振り撒くのはやめてもらいたい。
「あのー」
「あ?」
「ん?」
「んぁ?」
3人が一同に僕を見るが、目つきが悪すぎて怖すぎる。
思わず生命力吸収をうちたくなった。
「そこに入りたいんですけど」
僕が校長室を指差すと、3人は急に表情を変えて僕に道を譲った。
「ああ、瀬尾くんだね。どうぞどうぞ。そこのゴミのことは気にしないでいいよ」
「ごめんな、ちょっと邪魔だったね。クズがいるけど気にしなくていいからね」
「気付くのが遅れたね。カスのことは私に任せて行っていいよ。ちゃんと綺麗にするから」
「ん!?」
「あぁ!?」
「お!?」
再度睨み合いが始まった。
僕はひとまずその中を通って校長室の扉を叩く。
「入りなさい」
名前を言う前に入室を許可されたので、遠慮なく扉を開く。
「失礼します」
一礼して中に入ると、そこには、これまたヒリついた雰囲気の3人がソファーに座っていて、対面に校長先生が1人掛けソファーに座っていた。
そして、来たばかりの僕に救いを求めるような顔をしている。
「えっと、呼ばれましたので来ました。瀬尾京平です」
「ありがとう。こっちに座ってくれ」
校長の隣に座って3人を改めて見る。
右側に警察関係の制服を着た壮年の男性。
中央におそらく自衛隊だろう。軍服を着た壮年の男性。
左側にグレーのスーツを着たピアスをいくつも付けた女性。
みんなギスギスした雰囲気を一新して笑顔で僕を見ている。
「初めまして、甘木警察署長の梶原邦和です」
「初めまして、陸上自衛隊西部方面隊隊長の城島真一郎です」
「初めまして、全国探索者相互組合の鬼木玲花よ」
3人が名刺を僕に渡してきたので、何も考えずに受け取ったのだが、どうすればいいのだろう。
「名刺を自分の前に席に座っている通り並べなさい」
「あ、ありがとうございます。それで、僕に何か?」
「ふーぅ、それは御三方から説明がある。まずは聞きましょうか」
「はい」
校長先生の最初のため息が僕も不安を掻き立てる。
「ではまず私から」
署長の梶原さんが手を挙げる。
「瀬尾くんには、是非とも市民の安全を守る我々の補助をお願いしたい。基本的に君が倒したカマキリ以上のものは出ないと考えていい」
「嘘を言わないで」
梶原さんの言葉に鬼木さんが噛み付いた。
「あんたたちの言葉に騙されて命を落とした子たちがどれだけいるか、私が知らないとでも思っているの?」
「不慮の事故はどこにでもあるものだ。それに、貴方の言う子たちは自分の能力を過信してこっちの制止を無視して突進して行った人たちだ。当時の音声は全て保管している。我々は最大限安全を考えて行動していた」
梶原さんと鬼木さんが睨み合う。
その2人を無視して、次に城島さんが喋りだした。
「私たちとしては瀬尾くんを自衛官候補生として、給料が出る形態で契約をしたい。ダンジョンアタックの際も同行してもらうことになるが、装備品は自衛隊が責任を持って用意するし、銃の操作についてもちゃんと訓練をする。危険手当も付くから高給取りになれるぞ」
「嘘つかないでもらいたいな、軍もどき。何が高給か。ダンジョンアタックで出た魔石は全て国の物として扱うことになるから一切個人の懐には入らない。誰もが知っている自衛隊の悪いとこだ」
「出鱈目を言わないでもらいたいな、引き篭もり。確かに自衛隊としてダンジョンアタックをした際は、魔石は国の物扱いになるが、自衛官同士でパーティを組んで定められた時間以外にダンジョンアタックをする場合、報告義務はあるが得た魔石の7割が個人の物となるよう規定がある。でなければ、[黒曜]や[金剛]のような自衛隊所属のトップ探索者が出るわけがないだろう」
今度は城島さんと梶原さんの口論が始まり、視線がぶつかって火花が飛び散る。
「最後に私ですね。私としては瀬尾くんに民間のチームに所属して、その能力を遺憾なく発揮してもらいたいの。探索者が軒並み高額納税者に名を連ねているのは知っていると思うけど、私は貴方にもその素質があると感じているわ。それに民間であれば、ダンジョンで拾ったものは全て個人の物。好きにしていいのよ。だからこそ、強いチームが生まれやすいの」
「騙されるなよ瀬尾くん」
「その通りだ。我々3人の中で一番タチの悪い人は誰かと訊かれたら、私は必ず彼女を指差す」
「私もだよ。なんせ、魂胆が見え見えだからな。どうせ彼の周りを美女で固めていいように使い、魔石やレアな装備品を安く手に入れる考えなのだろうよ」
急な2人からの攻撃に、鬼木さんは目つきを鋭くして反論する。
「ふざけた事を言わないでほしいわ。私たちは個人の利益を侵害しないよう導いているだけ。その方法をとやかく言われる謂れはないわ」
「残念ながらあるんだよ。B級モンスターの魔石を他国に売却した事を我々は掴んでいるからな? 金を積まれれば国益を損なう行為を平然と行う銭ゲバどもめ」
「B級魔石があれば、スパコンの一つの性能が2世代先を行く。それを他国に渡して、お前たちは何がしたい? 自国の安全には無頓着なのか?」
「何を言っているの? 私たちは国が推奨する販売しかしていないわ。貴方たちが言っている魔石についても、国が認めるオークションで売却したにすぎない。自分たちが落札できなかったからといって、私を責めないでほしいわね」
3人のいがみ合いに、僕と校長先生は目を合わせてどっちからともなく苦笑いを浮かべた。
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