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甘木市未確認ダンジョン編
未確認ダンジョンに入る少年たち
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暗い森の中に、僕たち4人は各々懐中電灯を持って入っていく。
時刻は真夜中の1時過ぎ。
登山をするには明らかに異常な時間帯だった。
「和臣くん、本当にあるのか?」
僕のすぐ後ろを歩いている香野孝宏が、僕も考えていたことを木下和臣に尋ねた。
「ああ! 俺の信頼するアニキからの情報だ! 絶対にあるからこのまま真っ直ぐだ!」
その自信はどこから湧き出てくるのか、凄く疑問なのだが、僕は手に持った鉈で邪魔な木の枝を切り払い、後ろの3人が通りやすい道を作る。
「京平! 遅いぞ! このままだと着く頃には夜明けになっちまうだろうが!」
「ご、ごめん・・・」
僕は反射的に謝るが、そもそも登山なんてしたことないし、こんな藪の中に入っていくなんて聞いていない。
彼から聞いていたのは、この先に未確認ダンジョンが存在することと、幾つかの道具を持ってこれから行くということだけだ。
・・・昨日の夜11時に家に押しかけてきて、僕は突然連れ出されたに過ぎない。
「結構ナイフ系を持ってきたけど、いいスキルが付くといいな」
右手に持ったお気に入りのナイフを眺めながら、安部浩が呟く。
80年以上前に神という存在が現れて、知的生命体の敵として生み出したダンジョン。
放っておけばダンジョンブレイクという大災害が起きると言い残して人類に混乱を与えたが、対抗措置として、神はあらゆる道具にスキルを与えた。
本来なら全ての知的生命体にレベルとスキルを与える予定だったらしいが、誰かの祈りが神に届いて取りやめたらしい。
その判断は今でもネットの掲示板で議論されているが、「バカが力を持つと世界が壊れる」との意見が賛同を集めた。
僕も同意見で、特に後ろにいる3人のような人たちが、「怪力」や「魔法」なんてスキルを得てしまった時のことを考えるとゾッとする。
「っち! 暗いとよく見えねぇ。ちゃんと枝を切り落とせよ、京平!」
「ごめん。僕もよく見えなくて・・・」
「愚図が! 俺が使ってやってんだから仕事しろや!」
言葉一つ一つに僕の体はビクッと反応してしまう。
高校に入って早々に・・・何の因果か僕は彼らに目をつけられた。
最初は「仲間に入れてやるよ」からきて、「俺のジュースを買ってきて」へ続いた。
今は軽いスキンシップという名の小突きに入っている。
このままだとまずいと思いながらも、元々の気弱な性格のせいで笑うことしかできない。
しばらく歩いて山の中腹までたどり着いただろうか。目の前にちょっと開けた空間が現れて、でん! と巨大な岩が鎮座していた。
「え、これって・・・」
「よっしゃ! やっぱりアニキは正しかった! 早速入るぞ!」
岩には大きな穴が空いていて、噂に聞くダンジョンの入り口のように見える。
そこに木下がずんずんと足を進めた。
「ちょ! ちょっと待って!」
僕にしては大きな声が出せた。
木下に続く香野と安部も立ち止まって僕を振り返る。
「ほ! 本当に入るの? 警察か自衛隊に連絡した方がいいんじゃ・・・ないのかな・・・」
声が尻すぼみになったが何とか言えた。
本来なら未確認ダンジョンを発見したらすぐに警察に連絡して、誰も入れないように規制し、脅威度を専門の人たちが調べて、民間に使用許可を出してから入れるようになる。
入れるようになっても、大学生なら一人で入れるが、僕らのような高校生は保護者の許可がなければ入れないのが国の方針となっている。
「ここまで来て何もせずに帰れるかよ。入り口に入ってすぐに持ってきたものを確認するだけだ。そう長い時間は掛からねーよ」
「ビビってんの? これだから瀬尾を連れて来たくなかったんだよ、俺は。和臣くんがお前のためを思って俺たちの意見に反対してまでこの場所に連れて来たんだぞ? 普通ならお前みたいにチクリそうなやつ連れてくると思うか? マジで有り得ねーから」
香野が僕に詰め寄って圧をかけてきた。
こうすれば僕の口は震えて何も言えなくなってしまう。
「まあまあ、孝宏。ちょっと落ち着け。京平もな、ちょっと考えろよ? 今の時代、高収入職業のトップがダンジョン探索者ってことはお前も知ってるよな?」
世界の常識に、僕は首を縦に振る。
ダンジョンは何も知的生命体の敵としてだけでなく、新しいエネルギー源としての役割も果たしている。
具体的に言うと、ダンジョンに棲むモンスターから取れる魔石。
今では電気を作る燃料として魔石が使われており、東京23区のひと月の電力を賄うのに、魔石がおよそ10万トン使用されていた。
日本で使用される魔石のほとんどは、自衛隊がダンジョンアタックして取ってくるのだが、国の許可を得た民間のダンジョン探索会社も参入していて、有名なチームであれば企業や国と年間契約をしている人たちもいる。
その全員が・・・超レアスキルが付いた装備品を持っていた。
「俺たち未成年は自由にダンジョンに入ることが出来ねー。でもさ、こういうのは早ければ早い方がいいだろう? いいスキルが付いた装備品を手に入れれば将来が約束されたも同然。この未確認ダンジョンなら何回でも物を持ってきて確認できるんだよ。・・・いい物だったら億単位で売れるんだぞ・・・欲しいんだろ? じいちゃんばーちゃんの世話になってるもんな」
ガシッと肩を組まれ、耳元で言われた言葉に心が揺さぶられた。
中学の時に両親を亡くして以来、父方の祖父母にお世話になっている。二人ともいい人で、学校生活に必要なお金をくれるのだが、そこまで裕福ではないため僕のせいで二人の負担を増やしている状況となっている。
「金、欲しいよな?」
僕は頷く。
「じゃあ行こうぜ。一攫千金の在処へ!」
幾つもの言い訳が頭に浮かんで消えていく。
僕はこの選択を後悔する日がくるのか・・・不安になりながらも洞穴へと足を運んだ。
穴の中は洞窟のようで、岩肌は剥き出し、場所によっては尖った岩なんかもあって手をつくのにも注意が必要なダンジョンだった。
「じゃ、じゃあここで持ってきた物を」
「もうちょっと中に行くぞ」
「えっ!」
さっき入り口で確認するって言ってたことは何だったのか。
ドンっと安部が僕の背中を押す。
どんどん中へと進んで、5人ぐらいの人数がゆっくり休める場所に着いた。
そこでようやく木下が立ち止まって、彼が持ってきた道具を下ろした。
「よし。ここで確認するぞ」
「よっしゃ! マジでワクワクしてきた!」
「これで俺も!」
3人は一気に持っていたリュックを逆さまにし、持ってきた物一つ一つを確認していく。
「くそ・・・動物愛護って何だよ。こっちは魔物を殺したいってのに」
「良心って冒険者に必要か?」
「関節可動域拡大って・・・」
軒並みハズレを引いているらしい。
僕の方でも手持ちの包丁などを確認したが、特に使えそうなスキルは見当たらない。
「どうしよう、これ・・・」
弾性というスキルが付いた鉈を弾くと、ビヨーンっと左右に揺れた。
硬くブレないのが鉈の良いところなのに、これでは使い物にならない。
「くそ。携帯ゲームみたいに何十個かでレア確定とかないのかよ」
着ている服も確認したのか、木下は一度脱いだそれを再度着る。
「・・・確率でいったら、ダンジョンから生み出されるアイテムの方がレアスキルが付きやすいらしいな」
安部が最後のナイフをつまらなさそうに放り投げてボソリと呟く。
「それマジな話? 浩くん」
「ああ、知人に3級の探索者がいるんだが、その人が100個の持ち込んだ道具で出たレアの数と、同じ数の同等スキルの付いたダンジョン産アイテムでどちらが効率がいいか確かめたらしい。その人は運が悪くて100個持ち込んでもレアはなかったが、ダンジョンで手に入れた短剣を鑑定してもらったら斬撃特化のスキルがあったらしい」
「うおおおお! マジかー! ダンジョン産アイテム! 夢があるな!」
話が怪しい方向に進み始めた。
「それじゃ・・・今日は一旦帰ろうか。モンスターが出たら今の僕たちじゃ・・・」
「よーし、進むぞ」
僕の言葉を丸無視して木下が立ち上がってズボンについた砂を払う。
「やっぱ、そうでなきゃ!」
「賛成する」
香野と安部も立ち上がって、僕の両腕を掴み上げた。
「行くぞ」
3人の冷たい目が僕を睨みつける。
「わ・・・わかったよ」
両腕を掴まれて引きずられるように中に進む。
僕の手持ちの道具で付いたスキルは、鉈の弾性、3本の包丁の臭気増、味覚減、料理小、衣類の糸密度増、視力減、人見知り増、注意力減、経年劣化などなど。
もし、モンスターが出てきたら対処できそうにない。包丁に切る増でも付いてくれてれば武器として使えただろうけど、ない物ねだりだ。
「こっちか? 宝箱があればいいんだが」
幾つかの分かれ道を通って、今度は公民館ほどの広さの部屋にたどり着いた。
その中央に・・・
「宝箱・・・」
香野の信じられないといった声が、広場に響いた。
「うおおおおおお! マジか! マジか!」
木下と香野が走って宝箱に駆け寄り、その後に安部が足を少しもつれさせながら宝箱に触れる。
「早速開けるぞ!」
木下の言葉に僕は焦った。
「罠の可能性! モンスターハウストラップかもしれないから注意して!」
「こんな入り口近くにそんなトラップがあるわけねーだろ。ビビってるなら下がってろ!」
強気に木下が宝箱の蓋を開けた。
僕はマニュアルどおりに地面にしゃがんで服で口と鼻を塞いだ。
「よっしゃーーー! 当たりだ!」
予想していたトラップ音は響かず、その代わり歓喜の声が広間に響き渡る。
「うおおお! 和臣くん、マジ最高!」
「運が強い。さすがビギナーズラック!」
木下の手には赤色の石が付いた指輪が一つ。
「スキルは・・・火魔法! マジの当たりだ! これから俺の伝説が幕を開けるぜ!」
本当の当たりアイテムだ。
売ってもよし装備してもよしのアイテム。
どうしてそんないいアイテムを・・・あいつが!
そもそも、ダンジョンで宝箱なんてそう簡単に出る物ではない。よほど運が良くないと出てこないはずなんだ。
僕の心を色々な感情が渦巻く中、突然その音は響いた。
「ギギギギギギギギ!」
僕らの動きが一瞬・・・止まった。
「ギギャ、ギギャ! ギギギギ!」
のそりとそれは、僕たちが入ってきた道から来てその姿を現す。
「カマキリタイプ・・・」
「チクショ・・・マジかよ」
虫系統のモンスターは群体で動くか単体で動くかによって生存率は変わってくると言われている。
群体相手では生存率が低く、単体の方が高い。
その点において、このモンスターが単体であることは幸運なのだろう。
だが・・・必ず一人死ぬ。
所謂、エスケイプゴート・・・生贄だ。
僕は迷わず懐中電灯の光をカマキリの目に向けた。
このような洞窟タイプのダンジョンのモンスターは目が退化していて光に弱い。
そこに一瞬のスキができるはずだ。
他の3人のことは考えず、カマキリが鎌で目を覆った瞬間、僕は駆け出す!
ドン!
「え?」
その駆け出す瞬間に、僕の体は衝撃を受けてよろめき、駆け出した力はそのままにカマキリの方へ進み、それにぶつかって止まった。
「さすが分かってんじゃねーか、京平。それがお前の役割だよ」
僕とカマキリの横を3人が駆け抜けていく。
「た、助けて!」
出した手が、バシッと安部に払われる。
「お前の勇姿は、俺たちがしっかりとみんなに伝えてやるよ! このダンジョンにはお前が自分の意志で入っていったってな!」
木下の言葉に、僕の思考が壊れていく。
「うぁ、うあああああああああああああああ!!!」
言葉にならない叫びが洞窟内に響いて消えていく。
そして・・・カマキリが目を覆っていた鎌を下ろした。
「ヒィ!」
頭ひとつ上にあるその顔を見て、思わずカマキリの胴体を押して離れた。
押したのは僕の右手。
その伸びきった腕の真ん中を鎌が通り過ぎた。
ドサッと倒れた後、僕の顔の横に、それがポトリと落ちる。
「ぎゃああああああああああ!」
右腕が切断されて激痛が身体中を駆け巡る。
「嫌だ! 嫌だ! イヤダ! いやだ!」
右手を抱え込んで転がり、立ち上がって少しでも離れようと左足を踏み出し、次に右足を踏み出したところでなぜか高さが合わずに、激痛とともに転がった。
「んが! なん、で」
頭を上げて右足を見ると、膝下からそれは無くなっていて血が溢れている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸が荒くなる。
死がすぐ側にあるのを嫌でも感じてしまう。
カマキリから目を離さずに這いずって壁際まで移動して背を預けた。
「いやだ・・・いやだ・・・」
僕は少しでも生存率を上げるために、奇跡に縋った。
「ヒール!」
動かない右手を切断面に合わせて、激痛に耐えながら唱え続ける。
「キュア! オペ! 接合! 状態回復!」
徐々にカマキリが近づいてくる。
「接着! 合着! あ、と・・・何だっけ!」
カシャカシャと響くカマキリの口の音が煩い。
「ポーション! エリクサー! イヤダ! イヤダ!!」
もう、言葉が思い浮かばない!
カマキリがゆっくりと鎌を上げて僕に狙いを定めた。
「あああああああ! 手当! 応急! 装備! ぎゃああああああああああああ!」
腕と足の痛みとは別の痛みが、突然僕の頭を襲い、視界から色が消えて・・・時が止まった。
『装備の意志を確認。対象、瀬尾京平。装備物、元瀬尾京平の右手』
何もかもが止まっているのに、激痛だけが僕の頭に居続けて、苦しみを与え続ける。
それに対して僕は叫び声を上げることすら許されない。
『骨の接合・・・不可。筋肉の接合・・・不可。神経の接合・・・不可。・・・不可、不可、不可、不可、不可・・・・・・魔力の接合・・・可』
そしてその痛みは急に引いた。
それからはまるでぬるま湯に浸かっているかのように、心地良い膜に覆われて時が過ぎていく。
『魔力による接合開始。装備物との適合性・・・100%。魔力の同一化を確認。装備物に腐敗防止のスキルが強制的に付与されます。装備品の多重スキルを確認。容量不足、容量不足。・・・瀬尾京平にスキルが移動します。スキルの変質を確認。瀬尾京平が生命力吸収を覚えました。知的生命体がスキルを獲得したため神の審査が発動しました。・・・・・・承認』
ぬるま湯の膜が剥がれて、足の痛みが戻ってくる。
それと同時に頭の中に響いていた言葉は遠のいていく。
『スキルを会得した最初の知的生命体に幸多く在らんことを』
最後にその言葉を残して、時間が元に戻った。
カマキリは鎌を振りかぶったままの体勢。
僕は覚えたそのスキルを発動させる。
「生命力吸収!」
半透明の膜が僕を中心に広がった。
「ギ・・・ギャ・・・」
カマキリの足が震え始め、立ち続けることができいなくなったのか何度かふらついて、ドサッと倒れる。
・・・擬態かもしれない。
僕は慎重に鎌が届かない場所を四つん這いになって移動し、僕の落ちていた右足を拾った。
「はぁ、はぁ。こっちも・・・出来てくれ!」
祈って右足の切断面を合わせる。
「装備!」
『装備の意志を確認。対象、瀬尾京平。装備物、元瀬尾京平の右足。骨の接合・・・不可。筋肉の接合・・・不可。神経の接合・・・不可。・・・不可、不可、不可、不可、不可・・・・・・魔力の接合・・・可』
右手の時と同じ激痛が訪れて時が止まり、頭の中に言葉が響きだす。
『魔力による接合開始。装備物との適合性・・・100%。魔力の同一化を確認。装備物に腐敗防止のスキルが強制的に付与されます。装備品の多重スキルを確認。容量不足、容量不足。・・・瀬尾京平にスキルの移動が出来ませんでした。瀬尾京平の魔力を使用し、元瀬尾京平の右足の容量の拡大を行います。拡大完了・・・装備が完了しました』
途中、何か体の中からごっそりと奪われた感じがしたが、それでも右足は僕の体とくっついた。
「・・・神経は繋がってないのか」
自分の思ったように動く・・・だが、右手と右足の感覚が全くない。
それでも・・・生きてる。
「だけど、スキルか・・・」
右手のスキルと違って、足のスキルは僕に移動しなかった。
右足をしっかりと視てスキルを確認する。
「加重? 重くなるのか・・・」
僕は立ち上がってカマキリの胸あたりに右足を乗せる。
「・・・加重」
右足にあるスイッチがカチッと入ったような感じがしてスキルが発動した。
「ギギギギィィィィィィィ!!!」
カマキリの口から悲鳴のようなものが漏れて響く。
重さは徐々に重くなっているのか、10秒程で胸の甲鎧がメキメキと音をたてた。
「いけそうだ」
甲鎧の形が歪み、カマキリがプルプルと震え出したその時、バキバキと甲鎧が割れて紫色の血が飛び散り、胴体が上下に分断された。
その結果にホッとして僕はカマキリの頭に足を乗せる。
スキルは切っていないのに、僕には重さは感じられない。
僕は試しに足を一度持ち上げ、勢いをつけてカマキリの頭を踏んだ。
パァン!
「おお、頭もそれなりに硬かったのに、踏み潰せた」
飛び散った紫色の血と身を無視して、立ったままでいると、カマキリの体が紫色の欠けらに変わって崩れていく。
そして、上半身があった場所に、親指の先から第一関節までぐらいの大きさの魔石がコロリと転がった。
モンスターが生きてるか死んだかが一目瞭然の瞬間。
飛び散った血も肉も、僕の体にかかった血も消えていく。
「・・・疲れた」
魔石をポケットに入れて、懐中電灯を拾って歩き出す。
右足の感覚がないためどうしても歩きづらい。
戻っている途中にモンスターは出ず、すんなりと外に出れた。
ほっと一息ついて、体が脱力する。
すると、先ほどのカマキリとの戦いが思い出して、急に胃が収縮して色々なものが込み上げてきた。
「うげえええええええ」
ビチャビチャとゲロ溜まりが出来た。
その匂いで更に胃が収縮して再度吐き出す。
「ぺっ! ぺっ!」
口の中の残留物を吐いて、僕はポケットから携帯を出す。
運良く壊れてなかったらしい。
録音を停止して、ちゃんと録音出来たか確認してみる。
『おせーぞ! いつまで待たせるんだ!』
『ご、ごめん』
『ほら、行くぞ』
『こんな時間に僕たち3人だけで何処に・・・』
『いい所だよ。近くなったら教えてやる』
『和臣くんが連れてくって言うからしょうがなくだからな。俺はいらねって言ったしよ』
しっかり録れてた。
録音時間は2時間8分。
これからいくつかの作業をしないといけない。
僕は体に鞭打って家路を急いだ。
時刻は真夜中の1時過ぎ。
登山をするには明らかに異常な時間帯だった。
「和臣くん、本当にあるのか?」
僕のすぐ後ろを歩いている香野孝宏が、僕も考えていたことを木下和臣に尋ねた。
「ああ! 俺の信頼するアニキからの情報だ! 絶対にあるからこのまま真っ直ぐだ!」
その自信はどこから湧き出てくるのか、凄く疑問なのだが、僕は手に持った鉈で邪魔な木の枝を切り払い、後ろの3人が通りやすい道を作る。
「京平! 遅いぞ! このままだと着く頃には夜明けになっちまうだろうが!」
「ご、ごめん・・・」
僕は反射的に謝るが、そもそも登山なんてしたことないし、こんな藪の中に入っていくなんて聞いていない。
彼から聞いていたのは、この先に未確認ダンジョンが存在することと、幾つかの道具を持ってこれから行くということだけだ。
・・・昨日の夜11時に家に押しかけてきて、僕は突然連れ出されたに過ぎない。
「結構ナイフ系を持ってきたけど、いいスキルが付くといいな」
右手に持ったお気に入りのナイフを眺めながら、安部浩が呟く。
80年以上前に神という存在が現れて、知的生命体の敵として生み出したダンジョン。
放っておけばダンジョンブレイクという大災害が起きると言い残して人類に混乱を与えたが、対抗措置として、神はあらゆる道具にスキルを与えた。
本来なら全ての知的生命体にレベルとスキルを与える予定だったらしいが、誰かの祈りが神に届いて取りやめたらしい。
その判断は今でもネットの掲示板で議論されているが、「バカが力を持つと世界が壊れる」との意見が賛同を集めた。
僕も同意見で、特に後ろにいる3人のような人たちが、「怪力」や「魔法」なんてスキルを得てしまった時のことを考えるとゾッとする。
「っち! 暗いとよく見えねぇ。ちゃんと枝を切り落とせよ、京平!」
「ごめん。僕もよく見えなくて・・・」
「愚図が! 俺が使ってやってんだから仕事しろや!」
言葉一つ一つに僕の体はビクッと反応してしまう。
高校に入って早々に・・・何の因果か僕は彼らに目をつけられた。
最初は「仲間に入れてやるよ」からきて、「俺のジュースを買ってきて」へ続いた。
今は軽いスキンシップという名の小突きに入っている。
このままだとまずいと思いながらも、元々の気弱な性格のせいで笑うことしかできない。
しばらく歩いて山の中腹までたどり着いただろうか。目の前にちょっと開けた空間が現れて、でん! と巨大な岩が鎮座していた。
「え、これって・・・」
「よっしゃ! やっぱりアニキは正しかった! 早速入るぞ!」
岩には大きな穴が空いていて、噂に聞くダンジョンの入り口のように見える。
そこに木下がずんずんと足を進めた。
「ちょ! ちょっと待って!」
僕にしては大きな声が出せた。
木下に続く香野と安部も立ち止まって僕を振り返る。
「ほ! 本当に入るの? 警察か自衛隊に連絡した方がいいんじゃ・・・ないのかな・・・」
声が尻すぼみになったが何とか言えた。
本来なら未確認ダンジョンを発見したらすぐに警察に連絡して、誰も入れないように規制し、脅威度を専門の人たちが調べて、民間に使用許可を出してから入れるようになる。
入れるようになっても、大学生なら一人で入れるが、僕らのような高校生は保護者の許可がなければ入れないのが国の方針となっている。
「ここまで来て何もせずに帰れるかよ。入り口に入ってすぐに持ってきたものを確認するだけだ。そう長い時間は掛からねーよ」
「ビビってんの? これだから瀬尾を連れて来たくなかったんだよ、俺は。和臣くんがお前のためを思って俺たちの意見に反対してまでこの場所に連れて来たんだぞ? 普通ならお前みたいにチクリそうなやつ連れてくると思うか? マジで有り得ねーから」
香野が僕に詰め寄って圧をかけてきた。
こうすれば僕の口は震えて何も言えなくなってしまう。
「まあまあ、孝宏。ちょっと落ち着け。京平もな、ちょっと考えろよ? 今の時代、高収入職業のトップがダンジョン探索者ってことはお前も知ってるよな?」
世界の常識に、僕は首を縦に振る。
ダンジョンは何も知的生命体の敵としてだけでなく、新しいエネルギー源としての役割も果たしている。
具体的に言うと、ダンジョンに棲むモンスターから取れる魔石。
今では電気を作る燃料として魔石が使われており、東京23区のひと月の電力を賄うのに、魔石がおよそ10万トン使用されていた。
日本で使用される魔石のほとんどは、自衛隊がダンジョンアタックして取ってくるのだが、国の許可を得た民間のダンジョン探索会社も参入していて、有名なチームであれば企業や国と年間契約をしている人たちもいる。
その全員が・・・超レアスキルが付いた装備品を持っていた。
「俺たち未成年は自由にダンジョンに入ることが出来ねー。でもさ、こういうのは早ければ早い方がいいだろう? いいスキルが付いた装備品を手に入れれば将来が約束されたも同然。この未確認ダンジョンなら何回でも物を持ってきて確認できるんだよ。・・・いい物だったら億単位で売れるんだぞ・・・欲しいんだろ? じいちゃんばーちゃんの世話になってるもんな」
ガシッと肩を組まれ、耳元で言われた言葉に心が揺さぶられた。
中学の時に両親を亡くして以来、父方の祖父母にお世話になっている。二人ともいい人で、学校生活に必要なお金をくれるのだが、そこまで裕福ではないため僕のせいで二人の負担を増やしている状況となっている。
「金、欲しいよな?」
僕は頷く。
「じゃあ行こうぜ。一攫千金の在処へ!」
幾つもの言い訳が頭に浮かんで消えていく。
僕はこの選択を後悔する日がくるのか・・・不安になりながらも洞穴へと足を運んだ。
穴の中は洞窟のようで、岩肌は剥き出し、場所によっては尖った岩なんかもあって手をつくのにも注意が必要なダンジョンだった。
「じゃ、じゃあここで持ってきた物を」
「もうちょっと中に行くぞ」
「えっ!」
さっき入り口で確認するって言ってたことは何だったのか。
ドンっと安部が僕の背中を押す。
どんどん中へと進んで、5人ぐらいの人数がゆっくり休める場所に着いた。
そこでようやく木下が立ち止まって、彼が持ってきた道具を下ろした。
「よし。ここで確認するぞ」
「よっしゃ! マジでワクワクしてきた!」
「これで俺も!」
3人は一気に持っていたリュックを逆さまにし、持ってきた物一つ一つを確認していく。
「くそ・・・動物愛護って何だよ。こっちは魔物を殺したいってのに」
「良心って冒険者に必要か?」
「関節可動域拡大って・・・」
軒並みハズレを引いているらしい。
僕の方でも手持ちの包丁などを確認したが、特に使えそうなスキルは見当たらない。
「どうしよう、これ・・・」
弾性というスキルが付いた鉈を弾くと、ビヨーンっと左右に揺れた。
硬くブレないのが鉈の良いところなのに、これでは使い物にならない。
「くそ。携帯ゲームみたいに何十個かでレア確定とかないのかよ」
着ている服も確認したのか、木下は一度脱いだそれを再度着る。
「・・・確率でいったら、ダンジョンから生み出されるアイテムの方がレアスキルが付きやすいらしいな」
安部が最後のナイフをつまらなさそうに放り投げてボソリと呟く。
「それマジな話? 浩くん」
「ああ、知人に3級の探索者がいるんだが、その人が100個の持ち込んだ道具で出たレアの数と、同じ数の同等スキルの付いたダンジョン産アイテムでどちらが効率がいいか確かめたらしい。その人は運が悪くて100個持ち込んでもレアはなかったが、ダンジョンで手に入れた短剣を鑑定してもらったら斬撃特化のスキルがあったらしい」
「うおおおお! マジかー! ダンジョン産アイテム! 夢があるな!」
話が怪しい方向に進み始めた。
「それじゃ・・・今日は一旦帰ろうか。モンスターが出たら今の僕たちじゃ・・・」
「よーし、進むぞ」
僕の言葉を丸無視して木下が立ち上がってズボンについた砂を払う。
「やっぱ、そうでなきゃ!」
「賛成する」
香野と安部も立ち上がって、僕の両腕を掴み上げた。
「行くぞ」
3人の冷たい目が僕を睨みつける。
「わ・・・わかったよ」
両腕を掴まれて引きずられるように中に進む。
僕の手持ちの道具で付いたスキルは、鉈の弾性、3本の包丁の臭気増、味覚減、料理小、衣類の糸密度増、視力減、人見知り増、注意力減、経年劣化などなど。
もし、モンスターが出てきたら対処できそうにない。包丁に切る増でも付いてくれてれば武器として使えただろうけど、ない物ねだりだ。
「こっちか? 宝箱があればいいんだが」
幾つかの分かれ道を通って、今度は公民館ほどの広さの部屋にたどり着いた。
その中央に・・・
「宝箱・・・」
香野の信じられないといった声が、広場に響いた。
「うおおおおおお! マジか! マジか!」
木下と香野が走って宝箱に駆け寄り、その後に安部が足を少しもつれさせながら宝箱に触れる。
「早速開けるぞ!」
木下の言葉に僕は焦った。
「罠の可能性! モンスターハウストラップかもしれないから注意して!」
「こんな入り口近くにそんなトラップがあるわけねーだろ。ビビってるなら下がってろ!」
強気に木下が宝箱の蓋を開けた。
僕はマニュアルどおりに地面にしゃがんで服で口と鼻を塞いだ。
「よっしゃーーー! 当たりだ!」
予想していたトラップ音は響かず、その代わり歓喜の声が広間に響き渡る。
「うおおお! 和臣くん、マジ最高!」
「運が強い。さすがビギナーズラック!」
木下の手には赤色の石が付いた指輪が一つ。
「スキルは・・・火魔法! マジの当たりだ! これから俺の伝説が幕を開けるぜ!」
本当の当たりアイテムだ。
売ってもよし装備してもよしのアイテム。
どうしてそんないいアイテムを・・・あいつが!
そもそも、ダンジョンで宝箱なんてそう簡単に出る物ではない。よほど運が良くないと出てこないはずなんだ。
僕の心を色々な感情が渦巻く中、突然その音は響いた。
「ギギギギギギギギ!」
僕らの動きが一瞬・・・止まった。
「ギギャ、ギギャ! ギギギギ!」
のそりとそれは、僕たちが入ってきた道から来てその姿を現す。
「カマキリタイプ・・・」
「チクショ・・・マジかよ」
虫系統のモンスターは群体で動くか単体で動くかによって生存率は変わってくると言われている。
群体相手では生存率が低く、単体の方が高い。
その点において、このモンスターが単体であることは幸運なのだろう。
だが・・・必ず一人死ぬ。
所謂、エスケイプゴート・・・生贄だ。
僕は迷わず懐中電灯の光をカマキリの目に向けた。
このような洞窟タイプのダンジョンのモンスターは目が退化していて光に弱い。
そこに一瞬のスキができるはずだ。
他の3人のことは考えず、カマキリが鎌で目を覆った瞬間、僕は駆け出す!
ドン!
「え?」
その駆け出す瞬間に、僕の体は衝撃を受けてよろめき、駆け出した力はそのままにカマキリの方へ進み、それにぶつかって止まった。
「さすが分かってんじゃねーか、京平。それがお前の役割だよ」
僕とカマキリの横を3人が駆け抜けていく。
「た、助けて!」
出した手が、バシッと安部に払われる。
「お前の勇姿は、俺たちがしっかりとみんなに伝えてやるよ! このダンジョンにはお前が自分の意志で入っていったってな!」
木下の言葉に、僕の思考が壊れていく。
「うぁ、うあああああああああああああああ!!!」
言葉にならない叫びが洞窟内に響いて消えていく。
そして・・・カマキリが目を覆っていた鎌を下ろした。
「ヒィ!」
頭ひとつ上にあるその顔を見て、思わずカマキリの胴体を押して離れた。
押したのは僕の右手。
その伸びきった腕の真ん中を鎌が通り過ぎた。
ドサッと倒れた後、僕の顔の横に、それがポトリと落ちる。
「ぎゃああああああああああ!」
右腕が切断されて激痛が身体中を駆け巡る。
「嫌だ! 嫌だ! イヤダ! いやだ!」
右手を抱え込んで転がり、立ち上がって少しでも離れようと左足を踏み出し、次に右足を踏み出したところでなぜか高さが合わずに、激痛とともに転がった。
「んが! なん、で」
頭を上げて右足を見ると、膝下からそれは無くなっていて血が溢れている。
「はぁ、はぁ、はぁ」
呼吸が荒くなる。
死がすぐ側にあるのを嫌でも感じてしまう。
カマキリから目を離さずに這いずって壁際まで移動して背を預けた。
「いやだ・・・いやだ・・・」
僕は少しでも生存率を上げるために、奇跡に縋った。
「ヒール!」
動かない右手を切断面に合わせて、激痛に耐えながら唱え続ける。
「キュア! オペ! 接合! 状態回復!」
徐々にカマキリが近づいてくる。
「接着! 合着! あ、と・・・何だっけ!」
カシャカシャと響くカマキリの口の音が煩い。
「ポーション! エリクサー! イヤダ! イヤダ!!」
もう、言葉が思い浮かばない!
カマキリがゆっくりと鎌を上げて僕に狙いを定めた。
「あああああああ! 手当! 応急! 装備! ぎゃああああああああああああ!」
腕と足の痛みとは別の痛みが、突然僕の頭を襲い、視界から色が消えて・・・時が止まった。
『装備の意志を確認。対象、瀬尾京平。装備物、元瀬尾京平の右手』
何もかもが止まっているのに、激痛だけが僕の頭に居続けて、苦しみを与え続ける。
それに対して僕は叫び声を上げることすら許されない。
『骨の接合・・・不可。筋肉の接合・・・不可。神経の接合・・・不可。・・・不可、不可、不可、不可、不可・・・・・・魔力の接合・・・可』
そしてその痛みは急に引いた。
それからはまるでぬるま湯に浸かっているかのように、心地良い膜に覆われて時が過ぎていく。
『魔力による接合開始。装備物との適合性・・・100%。魔力の同一化を確認。装備物に腐敗防止のスキルが強制的に付与されます。装備品の多重スキルを確認。容量不足、容量不足。・・・瀬尾京平にスキルが移動します。スキルの変質を確認。瀬尾京平が生命力吸収を覚えました。知的生命体がスキルを獲得したため神の審査が発動しました。・・・・・・承認』
ぬるま湯の膜が剥がれて、足の痛みが戻ってくる。
それと同時に頭の中に響いていた言葉は遠のいていく。
『スキルを会得した最初の知的生命体に幸多く在らんことを』
最後にその言葉を残して、時間が元に戻った。
カマキリは鎌を振りかぶったままの体勢。
僕は覚えたそのスキルを発動させる。
「生命力吸収!」
半透明の膜が僕を中心に広がった。
「ギ・・・ギャ・・・」
カマキリの足が震え始め、立ち続けることができいなくなったのか何度かふらついて、ドサッと倒れる。
・・・擬態かもしれない。
僕は慎重に鎌が届かない場所を四つん這いになって移動し、僕の落ちていた右足を拾った。
「はぁ、はぁ。こっちも・・・出来てくれ!」
祈って右足の切断面を合わせる。
「装備!」
『装備の意志を確認。対象、瀬尾京平。装備物、元瀬尾京平の右足。骨の接合・・・不可。筋肉の接合・・・不可。神経の接合・・・不可。・・・不可、不可、不可、不可、不可・・・・・・魔力の接合・・・可』
右手の時と同じ激痛が訪れて時が止まり、頭の中に言葉が響きだす。
『魔力による接合開始。装備物との適合性・・・100%。魔力の同一化を確認。装備物に腐敗防止のスキルが強制的に付与されます。装備品の多重スキルを確認。容量不足、容量不足。・・・瀬尾京平にスキルの移動が出来ませんでした。瀬尾京平の魔力を使用し、元瀬尾京平の右足の容量の拡大を行います。拡大完了・・・装備が完了しました』
途中、何か体の中からごっそりと奪われた感じがしたが、それでも右足は僕の体とくっついた。
「・・・神経は繋がってないのか」
自分の思ったように動く・・・だが、右手と右足の感覚が全くない。
それでも・・・生きてる。
「だけど、スキルか・・・」
右手のスキルと違って、足のスキルは僕に移動しなかった。
右足をしっかりと視てスキルを確認する。
「加重? 重くなるのか・・・」
僕は立ち上がってカマキリの胸あたりに右足を乗せる。
「・・・加重」
右足にあるスイッチがカチッと入ったような感じがしてスキルが発動した。
「ギギギギィィィィィィィ!!!」
カマキリの口から悲鳴のようなものが漏れて響く。
重さは徐々に重くなっているのか、10秒程で胸の甲鎧がメキメキと音をたてた。
「いけそうだ」
甲鎧の形が歪み、カマキリがプルプルと震え出したその時、バキバキと甲鎧が割れて紫色の血が飛び散り、胴体が上下に分断された。
その結果にホッとして僕はカマキリの頭に足を乗せる。
スキルは切っていないのに、僕には重さは感じられない。
僕は試しに足を一度持ち上げ、勢いをつけてカマキリの頭を踏んだ。
パァン!
「おお、頭もそれなりに硬かったのに、踏み潰せた」
飛び散った紫色の血と身を無視して、立ったままでいると、カマキリの体が紫色の欠けらに変わって崩れていく。
そして、上半身があった場所に、親指の先から第一関節までぐらいの大きさの魔石がコロリと転がった。
モンスターが生きてるか死んだかが一目瞭然の瞬間。
飛び散った血も肉も、僕の体にかかった血も消えていく。
「・・・疲れた」
魔石をポケットに入れて、懐中電灯を拾って歩き出す。
右足の感覚がないためどうしても歩きづらい。
戻っている途中にモンスターは出ず、すんなりと外に出れた。
ほっと一息ついて、体が脱力する。
すると、先ほどのカマキリとの戦いが思い出して、急に胃が収縮して色々なものが込み上げてきた。
「うげえええええええ」
ビチャビチャとゲロ溜まりが出来た。
その匂いで更に胃が収縮して再度吐き出す。
「ぺっ! ぺっ!」
口の中の残留物を吐いて、僕はポケットから携帯を出す。
運良く壊れてなかったらしい。
録音を停止して、ちゃんと録音出来たか確認してみる。
『おせーぞ! いつまで待たせるんだ!』
『ご、ごめん』
『ほら、行くぞ』
『こんな時間に僕たち3人だけで何処に・・・』
『いい所だよ。近くなったら教えてやる』
『和臣くんが連れてくって言うからしょうがなくだからな。俺はいらねって言ったしよ』
しっかり録れてた。
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これからいくつかの作業をしないといけない。
僕は体に鞭打って家路を急いだ。
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