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第2章
再生
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幸せな夢を見て目覚めたクロエは目の前にいる好きな人の胸に頬を寄せ、その幸せに微笑みを浮かべた。
「くすぐったい。頭を動かすな」
寝ていると思っていたイザークの声が頭の上から聞こえ、クロエは驚いて体を離そうとする。するとイザークは逆にぎゅっと抱きしめてきた。
「もう起きないと、私朝食の準備をしてきます」
「体は何とも無いか?」
「はい。もう大丈夫ですから、魔力供給は必要ありませんよ」
「ああ、もう必要無いだろうな」
クロエはそれがどういう意味なのか考えてみた。
もう必要ない? 魔力切れする前の状態に戻ったから必要ないという意味ですよね。体内に残る魔道具を全て再生させたって意味じゃない、でしょ?
クロエは体内を巡るイザークの魔力を感じた。今まで微弱で自分でもギリギリだと思っていた魔力は事故の前と遜色ないものになっていた。
「イザーク様! あれからまた魔力供給をしたんですね? どうしてですか、私はもう良いと言いましたよね?」
「待てなかった。これを人の体ではないと落ち込むお前を見るのはもう嫌だったのだ。俺の魔力を使えば再生が早く進むと分かっていて、何もせずに居られるわけが無いだろう」
「だからって……顔を見せて下さい。昨夜は顔色が悪かったです。体が少し冷たく感じますし、無理をして今度はイザーク様が魔力切れを起こしかけているのではないですか?」
イザークは抱きしめる力を強くして頑なに顔を見せなかった。クロエは背中に回した手の平から、今度は自分の魔力をイザークに注ぎ始める。
「うくっ、な、何を……」
「黙って受け取って下さいっ。再生が済んだ後、急激に魔力が復活したみたいです。人に分けるくらいの量は十分ありますから、初めは体がザワザワすると思いますけど、横になっていれば力が抜けても平気ですよ」
「ふうっく……やめよ、んっく、駄目だ。これは……ハァ、まずい……!」
抵抗するイザークの動きで簡易ベッドはギシギシと軋み、その音を部屋に響かせていた。
イザークは小刻みに体を震わせ、力の入らない腕で強引にクロエから体を離した。そこまで大量に送ったつもりは無かったが、十分補充できたようでイザークの顔から昨夜はあったクマは消え、血色が良くなっていた。
「ハァ、ハァ、俺は、こんな事を、お前にしていたのか。クロエ、もう朝食の準備に行きなさい。着替えはバスルームで済ませるように。俺はもう少し横にならせてもらう。用意ができたら呼んでくれ」
気だるい表情で指示を出したイザークは布団を頭から被り、寝てしまった。クロエはタンスから着替えを取り出してバスルームに向い、シャワーを済ませて朝食の準備に取り掛かった。アリアは既にダイニングでコーヒーを飲んでいて、なぜかもじもじとクロエを見ていた。
「おはよう、アリア。昨日は心配掛けてゴメンね。魔力切れは解消したわ。それにね、イザーク様が私の体を全て再生してくれて、今の私は完全な人の体なのよ。これで検査も出来るわ。どうしたの? 顔が赤いけど」
「ん、何でもないわ。おはよう、再生が済んで良かったわね。これでクロエは普通の女の子に戻ったのよね。うん、めでたいわ。……じゃあ、朝から色っぽい声が聞こえたのは、ついにイザーク様と?」
クロエは目を丸くして顔から蒸気が出るほど赤面した。
「にゃ!? にゃにを言ってるの! そんなふしだらな事、結婚前にするわけ無いでしょっ。イザーク様が私に魔力を使い過ぎていたから、少しお返ししてただけよ! もう、変な事言わないで!」
アリアは肩をすくめてコーヒーを一口飲んだ。するとクロエの部屋からイザークが出てきて早足で二階へと行ってしまった。
「イザーク様、ご自分のお部屋に戻ったのね。お元気になって良かったわ」
「私、お邪魔かしら。自分がここに居ていいのか、正直悩むわ」
「もう、からかうのは止めてよ!」
朝食の場に自ら現れたイザークと、この二人に挟まれたアリアとの間に気まずい空気が流れていたが、特にやましい事はしていないと思っているクロエがいつもの調子でパンを頬張る姿を見て、二人は癒された。
「クロエは本当に美味しそうに食べるわよね。見てると幸せな気持ちになるわ。でも食べすぎは駄目よ」
「わかってるわよ。前ほど食べられなくなったから、心配いらないわ」
コン、コンコン、コンコンコンコンコン……
「え? ちょっと何? またマリエラ様なの? 今度は勝手口に回るなんて、怖すぎるわ」
「アリア、違うと思う。でもどうして? ここに来るわけ無いのに」
勝手口のドアをリズミカルに連打する音にビクつくアリアに対し、クロエは警戒もせず不思議そうにドアに向った。
「駄目よ、クロエ、確認せずにドアを開けないで! イザーク様も止めて下さい」
アリアの制止を振り切って、クロエはドアを開けた。
「おお、元気そうだなクロエ。おはよう、アリア」
「父さん! どうしてここが分かったの?」
「くすぐったい。頭を動かすな」
寝ていると思っていたイザークの声が頭の上から聞こえ、クロエは驚いて体を離そうとする。するとイザークは逆にぎゅっと抱きしめてきた。
「もう起きないと、私朝食の準備をしてきます」
「体は何とも無いか?」
「はい。もう大丈夫ですから、魔力供給は必要ありませんよ」
「ああ、もう必要無いだろうな」
クロエはそれがどういう意味なのか考えてみた。
もう必要ない? 魔力切れする前の状態に戻ったから必要ないという意味ですよね。体内に残る魔道具を全て再生させたって意味じゃない、でしょ?
クロエは体内を巡るイザークの魔力を感じた。今まで微弱で自分でもギリギリだと思っていた魔力は事故の前と遜色ないものになっていた。
「イザーク様! あれからまた魔力供給をしたんですね? どうしてですか、私はもう良いと言いましたよね?」
「待てなかった。これを人の体ではないと落ち込むお前を見るのはもう嫌だったのだ。俺の魔力を使えば再生が早く進むと分かっていて、何もせずに居られるわけが無いだろう」
「だからって……顔を見せて下さい。昨夜は顔色が悪かったです。体が少し冷たく感じますし、無理をして今度はイザーク様が魔力切れを起こしかけているのではないですか?」
イザークは抱きしめる力を強くして頑なに顔を見せなかった。クロエは背中に回した手の平から、今度は自分の魔力をイザークに注ぎ始める。
「うくっ、な、何を……」
「黙って受け取って下さいっ。再生が済んだ後、急激に魔力が復活したみたいです。人に分けるくらいの量は十分ありますから、初めは体がザワザワすると思いますけど、横になっていれば力が抜けても平気ですよ」
「ふうっく……やめよ、んっく、駄目だ。これは……ハァ、まずい……!」
抵抗するイザークの動きで簡易ベッドはギシギシと軋み、その音を部屋に響かせていた。
イザークは小刻みに体を震わせ、力の入らない腕で強引にクロエから体を離した。そこまで大量に送ったつもりは無かったが、十分補充できたようでイザークの顔から昨夜はあったクマは消え、血色が良くなっていた。
「ハァ、ハァ、俺は、こんな事を、お前にしていたのか。クロエ、もう朝食の準備に行きなさい。着替えはバスルームで済ませるように。俺はもう少し横にならせてもらう。用意ができたら呼んでくれ」
気だるい表情で指示を出したイザークは布団を頭から被り、寝てしまった。クロエはタンスから着替えを取り出してバスルームに向い、シャワーを済ませて朝食の準備に取り掛かった。アリアは既にダイニングでコーヒーを飲んでいて、なぜかもじもじとクロエを見ていた。
「おはよう、アリア。昨日は心配掛けてゴメンね。魔力切れは解消したわ。それにね、イザーク様が私の体を全て再生してくれて、今の私は完全な人の体なのよ。これで検査も出来るわ。どうしたの? 顔が赤いけど」
「ん、何でもないわ。おはよう、再生が済んで良かったわね。これでクロエは普通の女の子に戻ったのよね。うん、めでたいわ。……じゃあ、朝から色っぽい声が聞こえたのは、ついにイザーク様と?」
クロエは目を丸くして顔から蒸気が出るほど赤面した。
「にゃ!? にゃにを言ってるの! そんなふしだらな事、結婚前にするわけ無いでしょっ。イザーク様が私に魔力を使い過ぎていたから、少しお返ししてただけよ! もう、変な事言わないで!」
アリアは肩をすくめてコーヒーを一口飲んだ。するとクロエの部屋からイザークが出てきて早足で二階へと行ってしまった。
「イザーク様、ご自分のお部屋に戻ったのね。お元気になって良かったわ」
「私、お邪魔かしら。自分がここに居ていいのか、正直悩むわ」
「もう、からかうのは止めてよ!」
朝食の場に自ら現れたイザークと、この二人に挟まれたアリアとの間に気まずい空気が流れていたが、特にやましい事はしていないと思っているクロエがいつもの調子でパンを頬張る姿を見て、二人は癒された。
「クロエは本当に美味しそうに食べるわよね。見てると幸せな気持ちになるわ。でも食べすぎは駄目よ」
「わかってるわよ。前ほど食べられなくなったから、心配いらないわ」
コン、コンコン、コンコンコンコンコン……
「え? ちょっと何? またマリエラ様なの? 今度は勝手口に回るなんて、怖すぎるわ」
「アリア、違うと思う。でもどうして? ここに来るわけ無いのに」
勝手口のドアをリズミカルに連打する音にビクつくアリアに対し、クロエは警戒もせず不思議そうにドアに向った。
「駄目よ、クロエ、確認せずにドアを開けないで! イザーク様も止めて下さい」
アリアの制止を振り切って、クロエはドアを開けた。
「おお、元気そうだなクロエ。おはよう、アリア」
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