魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑

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第2章

アリアとの夕食

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 イザークが町の食堂でクロエの父エドモンドと話をしている頃、クロエとアリアは食事をしながら女子トークに花を咲かせていた。

「クロエはイザーク様と何か進展はあった?」
「進展て何? 私は雇われている身だもの、何も無いわ。あ、この前……いや、あれは冗談だと思うけど……」
「なになに? 何か言われた?」
「さっき話したマリエラ様を帰らせるために、私の事を大切な人だと言って下さったの。その場限りの嘘だとわかっていても、凄く嬉しかったわ」

 アリアは呆れ顔でクロエを見た。

 この子は本気で言っているの? どう見てもイザーク様はクロエを大切に思っているのに。じゃなければ、わざわざ私の所になんか頼み事をしに来ないわよ。そのことを教えてあげたいけど、お母様の事はクロエに気付かせずに対処するつもりらしいから、今は内緒よ。ごめんね。

「ねぇ、アリアは誰かに魔力を体に流された事ある?」
「治癒魔法をかけられたとかではなく、魔力を? 魔力供給はまだ受けた事無いわ。もしかして、魔力切れを起こしたの? あれだけたくさんの魔道具を一斉に動かすんだもの、いつそうなってもおかしくないわよね。イザーク様の魔力を貰ったの?」

 コクリと頷くクロエは顔が真っ赤で恥ずかしそうに俯いている。

「クロエがイザーク様と上手く行っている様でよかったわ。相手は侯爵家の方だし先の事は分からないけど、今は幸せなのよね?」
「私、一緒に居られるだけで幸せよ。それ以上を望んではいけないと分かっているわ。身分の事もそうだけれど、この体は作り物なの。たとえ再生が進んで全てが本物になったとしても、人間の体を取り戻したとは言えない気がする。本物なのはこの髪の毛だけよ」
「それなんだけど、今度研究所付属の施設できちんと検査してみない? あなたの再生技術は完璧だと思うの。それでも自信が持てないと言うなら、きちんと調べるべきだわ」

 クロエも自分がどこまで人間に近付いているのか調べたいとは考えていた。しかし臓器移植を受けた記録も無いのに複数の魔道具が再生出来ていない今は無理な話だった。

「全てが再生したら、調べに行くわ。イザーク様の魔力を貰った時に魔法陣が浮かび上がったのだけど、残りは9個だと分かったの。こんなに早く再生が進むなんて思っていなかったけれど、多分一番最初の暴発した魔力を使って殆どが再生まで済んでいたのね」
「残り9個ですって?! あなた……あの馬鹿みたいな数の魔法陣を起動させただけじゃなく、再生まで賄える量の魔力を持っていたの? それを暴発させただなんて……恐ろしいわ。本当に今ここでこうして生きているのが奇跡としか言えないわね。本来ならこの建物だって残ってないレベルの衝撃よ。クロエ人形がすべて吸収してくれて本当に良かったわね」

 アリアが工房にクロエ人形を送っていなければ、工房と周辺の建物は無事では済まなかった。
 そんな話をしていると、トントン、と勝手口のドアをノックする音が聞こえた。

「誰かしら? イザーク様ならご自分で鍵を開けるはずなんだけど……持って行くのを忘れたのかもしれないわ」

 クロエがドアを開けに行こうとするのをアリアが制止した。イザークから不用意にドアを開けるなと言われているのだ。

「待って、ドアを開けちゃ駄目よ。あなたはここに居て。最近変な人がうろついているらしいから、私が小窓から外を確認してくるわ」
「え? そんな、だったら私が行くわ。お客様を危険な目に遭わせる訳には行かないもの」
「いいから、あなたは洗い物でもしていてね。心配いらないわ、見てくるだけよ」

 アリアは音を立てないよう慎重に勝手口のドアに近付き、小窓から外を見た。そこには体格の良い男性と子供が立っていた。アリアはクロエの元に戻り、外に居た人物の人相を伝える。

「ああ、グレンさんとランスだわ。こんな時間に来るなんてどうしたのかしら? 荷運びをしてもらってる人と、この工房の小間使いの少年よ」
「そう、私が用件を聞いてくるから、クロエはそのまま洗い物を済ませてちょうだい」

 そう言ってアリアは勝手口に近付いてドアを少しだけ開けた。

「クロエ、すまない。配達が遅くなって今戻ったんだが、もしかしたら先方からクレームが来るかもしれな……い?」

 ドアの隙間から見える人物がクロエでは無かった事でグレンとランスが驚いて固まってしまった。

「グレンさんと、ランス君、ですか?」

 グレンとランスはコクコクと頷き、クロエとはタイプの違う迫力美人に圧倒されて言葉を失った。グレンは耳まで真っ赤になりアリアの燃えるような赤い髪に目を奪われた。

「誰だ? クロエは居ないのか?」

 ランスは無遠慮にアリアに問う。

「そこにはあなた達の他に誰も居ない?」
「居ないよ、お姉さんもしかして、クロエの友達か?」
「ええ、アリアと申します。ここへは何度か遊びにきているけれど、お会いしたのは初めてね」

 アリアはそう言って外に出てドアを閉めた。

「あなた達はここへ良く来るの?」
「あ、はい! 俺、いや、私はこの工房に荷物を届けたり、配達を請け負ったりで毎日顔を出してます。こっちのランスは小間使いとして雇われていまして……」
「そう、ならお願いがあるんだけど、聞いて下さる?」
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