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第1章
魔法省魔道具研究所
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学園では魔道具を使うための魔力の使い方だけでなく、魔力を魔法として攻撃や治癒などに使える知識も学んだ。魔法に関しては体質により向き不向きはあるが、普通の平民には教えても貰えない技能だった。
クロエにはもう一つ習得すべき事があった。
それは本来、平民ですら幼い頃に親から習う事であり、クロエはその年頃に母と離れ、父は酒びたりという環境だった故に未だ誰にも教わらないまま過ごしていた。
魔力の量が大幅に増える10代に、それを知らずに過ごすのは自殺行為だというのに。
クロエの卒業制作「自分の意思で自由に動かせる義手(改)」は最優秀を取った。
そして13歳の春、念願の魔法省入りを果たした。
すぐに魔道具研究所への配属が決まり、新人で在りながら個人の研究室を与えられ、主に義肢(人口四肢)の研究者として日夜研究に明け暮れていた。
「ねぇクロエ、あなたいい加減ダイエットしなきゃ駄目よ。年頃の娘がこんなに肉を付けて」
そう言ってぐにっとクロエのわき腹を掴むのは、同時に魔道具研究所へ配属されたアリアだ。
「皆が痩せ過ぎなだけで、これくらい普通だと思うけど?」
「あなた、全身を鏡で見たことがあるの? 学園に入った頃と今とじゃ、まったくの別人じゃないの。だからあれほど止めたのに、あなたったら全然言う事聞かないんだから。今でも先輩達をいい人だなんて思ってないでしょうね?」
「だって、いい人達だったでしょ? 嫌味を言ったり暴力振るったりしてないわ。私達をお茶会に誘って、甘いお菓子を食べさせてくれただけだもの。先輩達が仲良くしてくれたお陰で同級生からの嫌がらせも無くなったし、何がいけないの?」
クロエは在学中、一年目は全学年の男子生徒にチヤホヤされ、全学年の女子生徒からは毎日嫌味を言われ、さらには影で暴力も受けていた。
そして二年目、男子生徒は変わらずチヤホヤし、一つ上の女生徒達は毎日の様にクロエ達をお茶会に誘い始めた。同級生達はそれにより手を出しにくくなり、下級生も同様だった。
まだ子供だったクロエには、お菓子をご馳走してくれる先輩達は良い人としか思えなかった。アリアの忠告を聞かず、疑う事無くお茶会に参加していた。
それが先輩達の、卒業までの一年をかけた壮大な嫌がらせとも気付かずに。
子供特有のガリガリな体形だったクロエは徐々に丸みを帯びていき、先輩達が卒業するころには体重が15キロも増えていた。身長の伸びはあったがそれでも増え過ぎであった。
ずっとチヤホヤしてきた男子学生達は潮が引くように去って行き、同年の女生徒達は先輩の偉業に溜飲を下げた。
先輩の意思を引き継ぎクロエにお菓子を与え続け、卒業までに更に5キロ増量。そして現在に至る。
「クロエには何度も言ったでしょ。私達を太らせるつもりだから、お菓子を食べ過ぎちゃ駄目だって。あのお茶会を断ることは私達には出来なかったけど、少しつまむだけで良かったのにクロエったら全部食べちゃうからこうなったのよ」
と言ってアリアは更に強く腹を掴む。
「痛い痛い痛い。わかったから、お肉掴むのやめて」
「私達もう大人なのよ? 研究も大事だけど、恋だってするでしょ? 好きな人が出来たとき、今の自分に自信が持てるのかしら。あなたが心配よ」
「アリア、私、研究にしか興味無いわ。誰かに恋する自分なんて想像も出来ないもの。この話はこれでお終いよ。手を動かしてちょうだいね?」
まだ個人の研究室を与えられていない新人は半年助手として部屋持ちの研究員の手伝いをすることになっている。自分の希望する研究室へ入れるのでアリアと他に、平民出身のカール達3人もクロエの研究室に入った。
「アリアはクロエに厳しいよな。そんなズケズケ言いにくい事言うなよ。クロエが可哀想だろ」
大きめの独り言を言ったのは茶髪に茶色の目で眼鏡をかけたカール。入学当時ぽっちゃり体型だった彼は卒業までに背がグンと伸び、すっかり痩せてインテリ系の美男子になっていた。
「カール、次はこれもお願いね。レオはこっちの融合を手伝ってくれる?」
クロエが手伝いを頼んだレオは、異国の血が混じった褐色の肌、黒い髪に金色の目は当時のままだが3人の中で一番身長が伸び、在学中に鍛えた体は研究員と言うより騎士と言った方がしっくり来る。
「フランツ遅いわね。資料室まで行って資料探しに何時間かかるのよ」
アリアが文句を言っている相手は、波打つ金髪にアイスブルーの目をした、前は天使のようだったフランツ。今はその美しい外見に群がる貴族令嬢たちと浮名を流すプレイボーイと化している。
「また途中で誰かに捉まったんでしょ。ところで皆は私の手伝いをしながら、ちゃんと自分の研究は進めてるの?」
研修期間はもうすぐ終わり各自研究室を与えられ個人活動を始めるのだ。半年皆が手を貸してくれた事で随分研究が捗っはかどた。クロエも手伝える事があれば手伝いたいと考えていた。
「私は女性の美を追求するわ。クロエの研究を手伝う間に思いついた事があるの。女性は美の追求にお金を惜しまない、絶対に儲かるわよ。ふふふ」
アリアは元から美人であったが、成長してさらに美しくなった。迫力美人の黒い笑顔は周りの者を凍りつかせる。
「アリア、また悪い顔してる。レオとカールが怯えているわ」
そんな他愛も無い会話をしていると、研究室のドアをノックする音が響いた。
コンコン
「はい、お待ちください」
他人のアイディアを盗んではならないと言う決まりはあっても、盗作防止のため許可無く他の研究室に出入りする事は禁止されている。結界が張られているので入室許可証を持たなければドアを潜ることも出来ないし、誰がいつ入室したのか記録が残る仕組みになっている。
クロエはパーテーションの奥にあるドアを開けた。
「お嬢ちゃん、久しぶりだね」
ニタリと笑った男がそこに立っていた。
クロエにはもう一つ習得すべき事があった。
それは本来、平民ですら幼い頃に親から習う事であり、クロエはその年頃に母と離れ、父は酒びたりという環境だった故に未だ誰にも教わらないまま過ごしていた。
魔力の量が大幅に増える10代に、それを知らずに過ごすのは自殺行為だというのに。
クロエの卒業制作「自分の意思で自由に動かせる義手(改)」は最優秀を取った。
そして13歳の春、念願の魔法省入りを果たした。
すぐに魔道具研究所への配属が決まり、新人で在りながら個人の研究室を与えられ、主に義肢(人口四肢)の研究者として日夜研究に明け暮れていた。
「ねぇクロエ、あなたいい加減ダイエットしなきゃ駄目よ。年頃の娘がこんなに肉を付けて」
そう言ってぐにっとクロエのわき腹を掴むのは、同時に魔道具研究所へ配属されたアリアだ。
「皆が痩せ過ぎなだけで、これくらい普通だと思うけど?」
「あなた、全身を鏡で見たことがあるの? 学園に入った頃と今とじゃ、まったくの別人じゃないの。だからあれほど止めたのに、あなたったら全然言う事聞かないんだから。今でも先輩達をいい人だなんて思ってないでしょうね?」
「だって、いい人達だったでしょ? 嫌味を言ったり暴力振るったりしてないわ。私達をお茶会に誘って、甘いお菓子を食べさせてくれただけだもの。先輩達が仲良くしてくれたお陰で同級生からの嫌がらせも無くなったし、何がいけないの?」
クロエは在学中、一年目は全学年の男子生徒にチヤホヤされ、全学年の女子生徒からは毎日嫌味を言われ、さらには影で暴力も受けていた。
そして二年目、男子生徒は変わらずチヤホヤし、一つ上の女生徒達は毎日の様にクロエ達をお茶会に誘い始めた。同級生達はそれにより手を出しにくくなり、下級生も同様だった。
まだ子供だったクロエには、お菓子をご馳走してくれる先輩達は良い人としか思えなかった。アリアの忠告を聞かず、疑う事無くお茶会に参加していた。
それが先輩達の、卒業までの一年をかけた壮大な嫌がらせとも気付かずに。
子供特有のガリガリな体形だったクロエは徐々に丸みを帯びていき、先輩達が卒業するころには体重が15キロも増えていた。身長の伸びはあったがそれでも増え過ぎであった。
ずっとチヤホヤしてきた男子学生達は潮が引くように去って行き、同年の女生徒達は先輩の偉業に溜飲を下げた。
先輩の意思を引き継ぎクロエにお菓子を与え続け、卒業までに更に5キロ増量。そして現在に至る。
「クロエには何度も言ったでしょ。私達を太らせるつもりだから、お菓子を食べ過ぎちゃ駄目だって。あのお茶会を断ることは私達には出来なかったけど、少しつまむだけで良かったのにクロエったら全部食べちゃうからこうなったのよ」
と言ってアリアは更に強く腹を掴む。
「痛い痛い痛い。わかったから、お肉掴むのやめて」
「私達もう大人なのよ? 研究も大事だけど、恋だってするでしょ? 好きな人が出来たとき、今の自分に自信が持てるのかしら。あなたが心配よ」
「アリア、私、研究にしか興味無いわ。誰かに恋する自分なんて想像も出来ないもの。この話はこれでお終いよ。手を動かしてちょうだいね?」
まだ個人の研究室を与えられていない新人は半年助手として部屋持ちの研究員の手伝いをすることになっている。自分の希望する研究室へ入れるのでアリアと他に、平民出身のカール達3人もクロエの研究室に入った。
「アリアはクロエに厳しいよな。そんなズケズケ言いにくい事言うなよ。クロエが可哀想だろ」
大きめの独り言を言ったのは茶髪に茶色の目で眼鏡をかけたカール。入学当時ぽっちゃり体型だった彼は卒業までに背がグンと伸び、すっかり痩せてインテリ系の美男子になっていた。
「カール、次はこれもお願いね。レオはこっちの融合を手伝ってくれる?」
クロエが手伝いを頼んだレオは、異国の血が混じった褐色の肌、黒い髪に金色の目は当時のままだが3人の中で一番身長が伸び、在学中に鍛えた体は研究員と言うより騎士と言った方がしっくり来る。
「フランツ遅いわね。資料室まで行って資料探しに何時間かかるのよ」
アリアが文句を言っている相手は、波打つ金髪にアイスブルーの目をした、前は天使のようだったフランツ。今はその美しい外見に群がる貴族令嬢たちと浮名を流すプレイボーイと化している。
「また途中で誰かに捉まったんでしょ。ところで皆は私の手伝いをしながら、ちゃんと自分の研究は進めてるの?」
研修期間はもうすぐ終わり各自研究室を与えられ個人活動を始めるのだ。半年皆が手を貸してくれた事で随分研究が捗っはかどた。クロエも手伝える事があれば手伝いたいと考えていた。
「私は女性の美を追求するわ。クロエの研究を手伝う間に思いついた事があるの。女性は美の追求にお金を惜しまない、絶対に儲かるわよ。ふふふ」
アリアは元から美人であったが、成長してさらに美しくなった。迫力美人の黒い笑顔は周りの者を凍りつかせる。
「アリア、また悪い顔してる。レオとカールが怯えているわ」
そんな他愛も無い会話をしていると、研究室のドアをノックする音が響いた。
コンコン
「はい、お待ちください」
他人のアイディアを盗んではならないと言う決まりはあっても、盗作防止のため許可無く他の研究室に出入りする事は禁止されている。結界が張られているので入室許可証を持たなければドアを潜ることも出来ないし、誰がいつ入室したのか記録が残る仕組みになっている。
クロエはパーテーションの奥にあるドアを開けた。
「お嬢ちゃん、久しぶりだね」
ニタリと笑った男がそこに立っていた。
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