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第二章・和の国
もう婚約破棄はさせません
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「カヤ様、すまぬが手を離して下さい。許婚の前です、このような振舞いは今後控えて頂きたい」
藤堂様の言葉に笑みをこぼし、その女性は言います。
「許婚……ふふ、何を言っているのですか? その話は無しになったのですよ。清雅様の留守中に決まった事ですけれど、木島様から説明を受けたのではないのですか? 戻った私と添わせると兄様が決めて下さったのです。我慢して敵国に嫁がされていた三年の間、あなたを思って耐えてきた甲斐がありました」
私とナタリーはお互い目を合わせ、同じ事を考えました。この方は木島様がこっそり教えてくれた藤堂様の元婚約者、鮫島勝成様の妹のカヤ様ではありませんか。確か三年前に敵国と和睦を結ぶ為、藤堂様との婚約は取り消され、嫁がされたと聞きました。その方が何故ここにいるのでしょうか。
「どうしてもと言うなら、この方は側室か妾にする事を考えても良いですよ。せっかく遠い海の向こうから連れて来たのですし、私も譲歩致します」
自分は一体何をしにこの国まで来たのでしょうか。次の船が来たら、母国へ帰るべきかもしれません。そもそも藤堂様もカヤ様をお慕いしていたという話です。カヤ様が嫁がされてから藤堂様は落ち込んでしまい、自暴自棄になっていた頃にお父様を海岸で保護して下さったのだとか。
お互い好きあっていたのに、政略結婚で切り離された二人がこうして夫婦になれる時が来たのです。私の淡い恋心は封印し、二人を祝福すべきなのではないでしょうか。
「その件は、お館様と話をします。カヤ様の事はすでに子供の頃の良い思い出となりました。私はユーリア殿以外を妻にする気はございません。失礼します」
藤堂様は私の手を引いて母屋に入って行きます。
「あの、藤堂様?」
「あなたは何も心配する事は無い。家族にもわかってもらう」
家族の団欒の場に連れ出された私は、藤堂様のお母様、セツ様、雅高様、他にも親戚の方などが集まる前に出され、好奇の目に晒されてしまいました。
「清雅、カヤ様はどうしたのです。失礼な態度を取ってはいけませんよ。わかっていると思いますが、鮫島様の言う事は絶対なのです。気持ちはわかりますが私達には逆らえないのですよ」
「母上、私の気持ちは変わりません。明日お館様への報告の際に説得致します」
「やめなさい! 逆らえば討たれてしまいますよ。これはあなた一人の問題では無いのです。この家も潰されてしまうかも知れません!」
鮫島様というお方はどれだけ力を持った方なのでしょうか。お母様は本気で怯えているようです。他の方々も懇願するように藤堂様を見ています。
「あの……私が身を引けば、すべて丸く収まるのでしょうか?」
「え? あなたこの国の言葉を話せるのですか? では全て理解できたでしょう。そうです、あなたには申し訳無いけれど、間が悪かったのです。清雅のためにも身を引いてちょうだい」
藤堂様に睨まれてしまいました。
私は好きになった人と結ばれない運命なのでしょうか。また自分が身を引けば良いという状況に追い込まれてしまったけれど、どうしても今回はすんなり引き下がれそうにないのです。
「申し訳御座いません。私も藤堂様と……清雅様と添い遂げる覚悟で国を出て参りました。私も一緒にお館様の所へお連れ下さい。一緒に説得致しましょう」
藤堂様と見つめ合い、互いの心が一致したと感じたその時、背後から聞き覚えの有る声が聞こえました。
「ふ、はっはっはっはっは、面白い娘だ。気に入った! 俺がお前を引き取ってやろうと思い迎えに来てやった。が、やめだ。まさか、義理で引き受けた娘をここまで気に入るとは思いもせんで余計な事をしたようだな。カヤの希望を叶えてやろうとも考えたが、俺は清雅の方が大事だからな。その娘との祝言は年が明けたら執り行う。媒酌は俺がしてやろう。明日、二人で城に来い。カヤ! 帰るぞ!」
「兄様! 酷いです。散々喜ばせておいてこのような仕打ち!」
私の周りでは皆一斉に頭を下げていました。藤堂様も膝を付き頭を下げています。私もそれに習い土下座しようと床に座ると、鮫島様に止められてしまいました。
「止めよ、お前の国ではこのような風習は無いのであろう、無理に合わせる事は無い」
「はい、あ……昨日は止めて下さり、ありがとうございました」
「ふん、お前の顔を見に行っただけだ。引っ掻き回して悪かったな。家の者も、この娘を快く迎えてやれ。この国にとってとんでもない価値のある娘なのだ」
それが何のことかは分からないけれど、とにかく結婚を許されて良かったと安心しました。私の価値とは何でしょうか。思い当たることなど無いのですが。
鮫島様たちが去ってすぐに、お母様は謝罪してくれました。
「ごめんなさいね、カヤ様の手前あなたを歓迎する言葉は言えなかったのです。清雅が言っていた通り、来るのを楽しみにしていたのですよ」
「ユーリア様、私からも弁解させて下さい。母上の言った言葉はカヤ様の言葉です。決してあのような事思っていませんよ。私もすぐに話しかけたかったのです。こんなに綺麗な姉上ができてとても嬉しいです」
セツ様とも仲良くなれそうでホッと致しました。弟の雅高様は恥ずかしがって声をかけてはくれませんでしたが、笑顔を向けて下さいました。私も皆様に笑顔を返し、改めて自己紹介をしました。
「ユーリア・シェルクヴィストと申します。不束者ではございますが、末永くよろしくお願いいたします」
藤堂様に教わった通り床に手を付いて頭を下げます。シーンとして、誰も何の反応もしませんでした。ただ呆然と私の動きを見ていたようです。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。ユリ様。ユリ様で良いわよね?」
「はい、セツ様。皆様もどうぞユリとお呼び下さい」
その晩は歓迎の宴を開いていただき、皆さんと打ち解ける事ができました。
藤堂様の言葉に笑みをこぼし、その女性は言います。
「許婚……ふふ、何を言っているのですか? その話は無しになったのですよ。清雅様の留守中に決まった事ですけれど、木島様から説明を受けたのではないのですか? 戻った私と添わせると兄様が決めて下さったのです。我慢して敵国に嫁がされていた三年の間、あなたを思って耐えてきた甲斐がありました」
私とナタリーはお互い目を合わせ、同じ事を考えました。この方は木島様がこっそり教えてくれた藤堂様の元婚約者、鮫島勝成様の妹のカヤ様ではありませんか。確か三年前に敵国と和睦を結ぶ為、藤堂様との婚約は取り消され、嫁がされたと聞きました。その方が何故ここにいるのでしょうか。
「どうしてもと言うなら、この方は側室か妾にする事を考えても良いですよ。せっかく遠い海の向こうから連れて来たのですし、私も譲歩致します」
自分は一体何をしにこの国まで来たのでしょうか。次の船が来たら、母国へ帰るべきかもしれません。そもそも藤堂様もカヤ様をお慕いしていたという話です。カヤ様が嫁がされてから藤堂様は落ち込んでしまい、自暴自棄になっていた頃にお父様を海岸で保護して下さったのだとか。
お互い好きあっていたのに、政略結婚で切り離された二人がこうして夫婦になれる時が来たのです。私の淡い恋心は封印し、二人を祝福すべきなのではないでしょうか。
「その件は、お館様と話をします。カヤ様の事はすでに子供の頃の良い思い出となりました。私はユーリア殿以外を妻にする気はございません。失礼します」
藤堂様は私の手を引いて母屋に入って行きます。
「あの、藤堂様?」
「あなたは何も心配する事は無い。家族にもわかってもらう」
家族の団欒の場に連れ出された私は、藤堂様のお母様、セツ様、雅高様、他にも親戚の方などが集まる前に出され、好奇の目に晒されてしまいました。
「清雅、カヤ様はどうしたのです。失礼な態度を取ってはいけませんよ。わかっていると思いますが、鮫島様の言う事は絶対なのです。気持ちはわかりますが私達には逆らえないのですよ」
「母上、私の気持ちは変わりません。明日お館様への報告の際に説得致します」
「やめなさい! 逆らえば討たれてしまいますよ。これはあなた一人の問題では無いのです。この家も潰されてしまうかも知れません!」
鮫島様というお方はどれだけ力を持った方なのでしょうか。お母様は本気で怯えているようです。他の方々も懇願するように藤堂様を見ています。
「あの……私が身を引けば、すべて丸く収まるのでしょうか?」
「え? あなたこの国の言葉を話せるのですか? では全て理解できたでしょう。そうです、あなたには申し訳無いけれど、間が悪かったのです。清雅のためにも身を引いてちょうだい」
藤堂様に睨まれてしまいました。
私は好きになった人と結ばれない運命なのでしょうか。また自分が身を引けば良いという状況に追い込まれてしまったけれど、どうしても今回はすんなり引き下がれそうにないのです。
「申し訳御座いません。私も藤堂様と……清雅様と添い遂げる覚悟で国を出て参りました。私も一緒にお館様の所へお連れ下さい。一緒に説得致しましょう」
藤堂様と見つめ合い、互いの心が一致したと感じたその時、背後から聞き覚えの有る声が聞こえました。
「ふ、はっはっはっはっは、面白い娘だ。気に入った! 俺がお前を引き取ってやろうと思い迎えに来てやった。が、やめだ。まさか、義理で引き受けた娘をここまで気に入るとは思いもせんで余計な事をしたようだな。カヤの希望を叶えてやろうとも考えたが、俺は清雅の方が大事だからな。その娘との祝言は年が明けたら執り行う。媒酌は俺がしてやろう。明日、二人で城に来い。カヤ! 帰るぞ!」
「兄様! 酷いです。散々喜ばせておいてこのような仕打ち!」
私の周りでは皆一斉に頭を下げていました。藤堂様も膝を付き頭を下げています。私もそれに習い土下座しようと床に座ると、鮫島様に止められてしまいました。
「止めよ、お前の国ではこのような風習は無いのであろう、無理に合わせる事は無い」
「はい、あ……昨日は止めて下さり、ありがとうございました」
「ふん、お前の顔を見に行っただけだ。引っ掻き回して悪かったな。家の者も、この娘を快く迎えてやれ。この国にとってとんでもない価値のある娘なのだ」
それが何のことかは分からないけれど、とにかく結婚を許されて良かったと安心しました。私の価値とは何でしょうか。思い当たることなど無いのですが。
鮫島様たちが去ってすぐに、お母様は謝罪してくれました。
「ごめんなさいね、カヤ様の手前あなたを歓迎する言葉は言えなかったのです。清雅が言っていた通り、来るのを楽しみにしていたのですよ」
「ユーリア様、私からも弁解させて下さい。母上の言った言葉はカヤ様の言葉です。決してあのような事思っていませんよ。私もすぐに話しかけたかったのです。こんなに綺麗な姉上ができてとても嬉しいです」
セツ様とも仲良くなれそうでホッと致しました。弟の雅高様は恥ずかしがって声をかけてはくれませんでしたが、笑顔を向けて下さいました。私も皆様に笑顔を返し、改めて自己紹介をしました。
「ユーリア・シェルクヴィストと申します。不束者ではございますが、末永くよろしくお願いいたします」
藤堂様に教わった通り床に手を付いて頭を下げます。シーンとして、誰も何の反応もしませんでした。ただ呆然と私の動きを見ていたようです。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。ユリ様。ユリ様で良いわよね?」
「はい、セツ様。皆様もどうぞユリとお呼び下さい」
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