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第二章・和の国
船酔いとの戦い
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船の旅がこれほど辛く苦しいものだと、誰か先に教えておいて欲しかったです。船に乗ってたったの数時間。私、ユーリアは人生初の船酔いに苦しんでおります。これが二ヶ月近く続くのですか、生きて和の国にたどり着ける気が致しません。
「ユーリアお嬢様、大丈夫ですか? お顔の色が真っ白です。こんな時どうしたら良いのかしら、水を飲んでも吐いてしまわれて、これではお体が持ちません。私、藤堂様を呼んで参ります」
慌てふためくナタリーは藤堂様をこの船室に連れて来るつもりなのです。やめてちょうだい。吐いてみっともない姿を見られたくないの。
「待ってナタリー。大丈夫だから、そのうち慣れるわ。しばらく横になっていれば、きっと……うぐっ」
もう吐く物など何も無いというのに、胃が出てしまうのではないかというくらい吐き気が止まりません。
「ちょっと行って対処法だけ聞いて参ります。横になって待っていて下さいませ」
ナタリーは急いで船室を出て、藤堂様の所へ行きました。三人は甲板という外の部分で寛いでいるらしいのです。しばらくして戻ってきたナタリーは私の荷物をあさり始めました。
「ユーリアお嬢様、着替えましょう。そのドレスがいけないのかもしれません。体を締め付けるのは良くないらしいのです。コルセットも取ってしまって、こちらのゆったりした普段用のワンピースに着替えましょう」
卒業式の後、学園で制服からドレスに着替えました。父が奮発して用意してくれた上等なドレスは、コルセットでウエストを締め付けるタイプの街で流行のドレスでした。私が恥ずかしい思いをしないようにとの配慮が、まさか裏目に出てしまうとは思いませんでした。慣れない物を着るものではありませんね。
私は普段家で着ている足捌きの良いふくらはぎ丈の楽なワンピースに着替え、靴も編み上げのブーツからヒールの無いペタンコ靴にかえました。
「ふぅ……確かに、大分楽になったわ」
「お嬢様、甲板に出てみませんか? 潮風が気持ち良いですよ」
「こんな青白い顔で?」
「先ほどより随分ましになりましたよ。おしゃべりするのも船酔いには効果があるようですから、言葉を教えて頂きませんか?」
部屋を出てみると、廊下で藤堂様が待っていました。
「ユーリア殿、具合は良くなりましたか?」
「藤堂様、ご心配お掛けして申し訳ありませんでした。今は大分良くなりましたわ」
「そうか。甲板に出るのであれば私に掴まりなさい。突然揺れる事もあるのでな」
「ありがとうございます……」
私は藤堂様の腕に掴まり甲板に出ました。外の空気は清清しく、潮風はとても気持ちの良いものでした。木島様が縁に寄りかかって座っているのが見えましたが、丹羽様が見当たりません。
「丹羽様はどちらにいらっしゃるのですか?」
藤堂様が指差す方を見ると、丹羽様は向こう側の縁につかまり海を覗き込んでいるようでした。
「何か見えるのですか? あんなに前のめりになって、落ちてしまいそうですけれど」
「くくく、何も見てなどいないと思うがな。あなたと一緒だ。あやつも舟に弱くてな。あなたの国に着いた日は、まだ揺れていると言って寝込んでおったのだ」
「まぁ、そうだったのですか。では私も降りた後、そうなってしまうかしら」
藤堂様、木島様と言葉の練習を続けた私とナタリーは到着までに日常会話程度なら不自由しない和の国の言葉を身につける事ができました。
やっと通訳無しで会話ができるようになり、木島様と丹羽様とはたくさんお話しをしました。お二人は私と会うまでお高く留まった貴族の娘なのだろうと予想していたそうで、知り合ったばかりでいきなり畑仕事を手伝わされた時はこれが本当に身分のある娘の行動なのかと驚いたらしく、この時点でお二人に認めて頂けたのだそうです。藤堂様が治める領地にはうちの領地と似たような家がいくつかあり、助け合いで乗り切っているのだそうです。手が足りなければ藤堂様達が自ら手伝う事もあり、私も同じ事をしていたので親近感が湧いたと仰っていました。
和の国の礼儀作法もきちんと教わり、私の心配事は一つ一つ解消して行きました。文字も覚えなければと思ったのですが、書く物が無いので文字を覚えるのは向こうに着いてからという事になりました。
途中立ち寄った港では藤堂様や木島様達のご家族にお土産を買いました。藤堂様にも妹がいるそうで、喜びそうなものを見繕って欲しいと言われ、私は髪飾りを選びました。イヤリングやネックレスをつける風習は無いそうで、装飾品と言えば髪飾りくらいなものなのだそうです。
いくつかの国を経由して約二ヶ月後、私達はやっと和の国に到着しました。初めて見る和の国は活気に溢れ、噂されていた後進国などでは決してありませんでした。
「ユーリアお嬢様、大丈夫ですか? お顔の色が真っ白です。こんな時どうしたら良いのかしら、水を飲んでも吐いてしまわれて、これではお体が持ちません。私、藤堂様を呼んで参ります」
慌てふためくナタリーは藤堂様をこの船室に連れて来るつもりなのです。やめてちょうだい。吐いてみっともない姿を見られたくないの。
「待ってナタリー。大丈夫だから、そのうち慣れるわ。しばらく横になっていれば、きっと……うぐっ」
もう吐く物など何も無いというのに、胃が出てしまうのではないかというくらい吐き気が止まりません。
「ちょっと行って対処法だけ聞いて参ります。横になって待っていて下さいませ」
ナタリーは急いで船室を出て、藤堂様の所へ行きました。三人は甲板という外の部分で寛いでいるらしいのです。しばらくして戻ってきたナタリーは私の荷物をあさり始めました。
「ユーリアお嬢様、着替えましょう。そのドレスがいけないのかもしれません。体を締め付けるのは良くないらしいのです。コルセットも取ってしまって、こちらのゆったりした普段用のワンピースに着替えましょう」
卒業式の後、学園で制服からドレスに着替えました。父が奮発して用意してくれた上等なドレスは、コルセットでウエストを締め付けるタイプの街で流行のドレスでした。私が恥ずかしい思いをしないようにとの配慮が、まさか裏目に出てしまうとは思いませんでした。慣れない物を着るものではありませんね。
私は普段家で着ている足捌きの良いふくらはぎ丈の楽なワンピースに着替え、靴も編み上げのブーツからヒールの無いペタンコ靴にかえました。
「ふぅ……確かに、大分楽になったわ」
「お嬢様、甲板に出てみませんか? 潮風が気持ち良いですよ」
「こんな青白い顔で?」
「先ほどより随分ましになりましたよ。おしゃべりするのも船酔いには効果があるようですから、言葉を教えて頂きませんか?」
部屋を出てみると、廊下で藤堂様が待っていました。
「ユーリア殿、具合は良くなりましたか?」
「藤堂様、ご心配お掛けして申し訳ありませんでした。今は大分良くなりましたわ」
「そうか。甲板に出るのであれば私に掴まりなさい。突然揺れる事もあるのでな」
「ありがとうございます……」
私は藤堂様の腕に掴まり甲板に出ました。外の空気は清清しく、潮風はとても気持ちの良いものでした。木島様が縁に寄りかかって座っているのが見えましたが、丹羽様が見当たりません。
「丹羽様はどちらにいらっしゃるのですか?」
藤堂様が指差す方を見ると、丹羽様は向こう側の縁につかまり海を覗き込んでいるようでした。
「何か見えるのですか? あんなに前のめりになって、落ちてしまいそうですけれど」
「くくく、何も見てなどいないと思うがな。あなたと一緒だ。あやつも舟に弱くてな。あなたの国に着いた日は、まだ揺れていると言って寝込んでおったのだ」
「まぁ、そうだったのですか。では私も降りた後、そうなってしまうかしら」
藤堂様、木島様と言葉の練習を続けた私とナタリーは到着までに日常会話程度なら不自由しない和の国の言葉を身につける事ができました。
やっと通訳無しで会話ができるようになり、木島様と丹羽様とはたくさんお話しをしました。お二人は私と会うまでお高く留まった貴族の娘なのだろうと予想していたそうで、知り合ったばかりでいきなり畑仕事を手伝わされた時はこれが本当に身分のある娘の行動なのかと驚いたらしく、この時点でお二人に認めて頂けたのだそうです。藤堂様が治める領地にはうちの領地と似たような家がいくつかあり、助け合いで乗り切っているのだそうです。手が足りなければ藤堂様達が自ら手伝う事もあり、私も同じ事をしていたので親近感が湧いたと仰っていました。
和の国の礼儀作法もきちんと教わり、私の心配事は一つ一つ解消して行きました。文字も覚えなければと思ったのですが、書く物が無いので文字を覚えるのは向こうに着いてからという事になりました。
途中立ち寄った港では藤堂様や木島様達のご家族にお土産を買いました。藤堂様にも妹がいるそうで、喜びそうなものを見繕って欲しいと言われ、私は髪飾りを選びました。イヤリングやネックレスをつける風習は無いそうで、装飾品と言えば髪飾りくらいなものなのだそうです。
いくつかの国を経由して約二ヶ月後、私達はやっと和の国に到着しました。初めて見る和の国は活気に溢れ、噂されていた後進国などでは決してありませんでした。
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