四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第八章 終末のようなものについて

第百八話 アロザラ町へ

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 王都出発から一週間後。

 王国北部の中心都市、アロザラ町へ到着した俺達は、一旦馬車を止め、食料をはじめとした物資の調達を行うこととした。

 馬車を町の南門前に駐め、警備をしてくれる衛兵に料金を払ってから、いざ町の中へ。

 北の方にある街とはいえ、ここはまだ比較的、天候が穏やかな方なのだろうか。
 若干の肌寒さはあるものの、せいぜい十五度前後といったところである。

 これから行く先は、森の奥に雪山の上、そして洞窟の中。

 通った道を示したり、懐中電灯の代わりに使ったりするための光る石、香辛料を中心とした身体を温める食材、何かと使うことが多いロープ……暖をとるための焚き火に使う薪も、現地で調達できるとは限らない。
 用意しておかなければならないものは多そうだ。

 この町に滞在するのは三日間を予定しているが……その間に、ギルドにも顔を出しておこうか。
 短時間で済む依頼なら受けても良さそうだ。

 各々、これから三日間のスケジュールを伝え合い、俺とガラテヤ様が最後にチェックインを済ませた宿を出ようとしたその時。

「オヤオヤ~?ソコのオニイサン、何か忘れてマスヨォ~?」

 片言の男に指を差された。

「忘れ物?したっけなぁ。っていうか誰ですか?何で忘れた物が俺の物だって分かるんです?」

 いきなりどうしたと言うのだろうか。
 怖いったらありゃあしない。

「特に忘れ物をした覚えは無いのだけど?」

「イヤイヤ、違いマス。ソコのオネエサンは何も忘れてまセンヨ」

「は、はぁ。ご、ご親切にありがと……?」

 ガラテヤ様も困惑している。

「じゃあ、俺が何か忘れてるのか」

「ソウソウ、ソウデス!何を忘れてると思いマスか?」

 何かを忘れておいて言うのも何だが……普通に教えてくれても良いのに。

「えっ、何だろう?財布?水筒?」

「ス、スイトウ?」

「水袋って言えばわかります?」

「アア、ソレね!チガウチガウ」

「ええ……?じゃあ……カバン?」

「カバンでも無いヨ。モット、モットフツウなモノ。ワカル?」

「……?」

「もし、お兄さん。この子はもうお手上げみたいだから……そろそろ何を忘れてるのか、教えてもらっても良い?」

 久しぶりに聞いた、尊姉ちゃんっぽい喋り方。

「アア、ワカラナイデスカ。ナラバ!この親切なジョン様ガ、教えてアゲマショウ!」

 すると、ジョンと名乗った男は短剣を取り出す。

「ジィン!」

「ヤバい油断した」

 俺が刀を抜く前に、ジョンは俺の胸を抉り取るように短剣を振るう。
 その慣れた手つきは、明らかに素人の動きでは無い。

「……カラダ、デスヨ。忘れ物」

 しかし、向こうに敵意は無かったらしい。
 刺さるはずの短剣が透けていると言わんばかりに俺の胸を指差し、ジョンはすぐにそれを納めた。

「身体?あるけど?」

「自分でワカラナイんデスカ。……アナタ、モウ人間ヤメテマスヨ」

 俺がガラテヤ様無しでは生きることができない身体になってしまっていることを言っているのだろうか。
 それに自力で気づいたのは大したものだが……生憎、こちらは俺とガラテヤ様以外も含めて全員知っていることだ。

「……は、はあ……知ってますけど、忘れ物って、命のことだったりします?

「エ、アナタ知ってたンデスカ。テッキリ、オバケか何かダト」

「半分くらいはオバケだと思いますよ」

「ええ。ホント、半分くらいは私の守護霊みたいな感じね」

「エ……。ワ、ワケがワカリマセン。ナンデ、二人トモ平然ト受ケ入レテイルンデスカ……?」

「「だって……そういうものだし……」」

「……ハラヒレホレハレ」

 俺達が目を見合わせて答えると、ジョンと名乗る男は「あり得ない」と言わんばかりに腰を抜かし、そのまま失神してしまった。

 この人が何者だったのかは分からない。
 おそらく、何か霊的なものに慣れている人間なのだろう。

 それとは別に、ここで一つ、別の疑問が生まれた。

 今まで、物が身体を透けることは無かった。

 食べ物だって、ついさっきまでは普通に食べることができていたし、実際に身につけている刀や服も、普通に透けること無く持つことができている。

 しかし、あの短剣は俺の身体を無いものとしてすり抜けていた。

 あの短剣に何かがあったのだろうか。
 霊的な要素が強いものには透けてしまうとか。

 実体と霊体に、「存在としてのチャンネル」のようなものがあったとするならば、今後何か、俺の「存在そのものの座標」によって、不自由なことや、逆に俺だからこそできることも増えていくことだろう。

 ラジオのチャンネルを周波数で合わせるように、存在そのものにも、そのチャンネルのようなものがあったとするならば。

 自分で思っているよりも、今の俺は「オバケ」なのかもしれない。
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