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第八章 終末のようなもの
第百話 上の空
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三日後。
俺達は、再び始まったウェンディル学園へ登校する。
実に一生ぶりの学園である。
もっとも、それは俺にとってだけの話だろうが。
寮から学校に向かう人達の顔は皆、明るい。
「ジィン、大丈夫?」
「……へ?」
「何だか、落ち着かないといった具合ね。『繋がっている』からか……ちょっと分かるの」
「ああ……。いや、そりゃそうですよ。だって今も、あのロディアが襲ってこないとは言い切れないんですから。逆にガラテヤ様は疲れてないんですか?結構、神経使うと思うんですけど」
「私は大丈夫。だって、ジィンがいるもの」
「俺の心労は無視ですかそうですか」
「それが貴方の仕事でしょ?」
「ぐう」
「なんて、冗談よ、冗談。……でも、ぐうの音は出るみたいね」
「シャレになりませんから」
「仕方ないわ。……今はこうするしか無いの。向こうから来られても困るけど、私達の方からなんて、もっとどうすることもできないのだから」
もどかしく、しかし今来られても困るという、詰みよりも悪い状況。
講堂で講義再開についての話を聞いている間も、魔法の講義を受けている間も、訓練場で剣を振っている間も、その情報が抜けることは無く、常に上の空といった具合であった。
「ジィンお兄ちゃん?今日、ぼけーっとしてる」
「あ?ああ……ファーリちゃんか。どうした?」
ガラテヤ様が受けている講義が終わるのを待っている間、俺は学園の敷地内を徘徊していた。
何やら男にはデリケートな講義であるようで、俺が合わせて履修することを拒まれた、数少ないものである。
これは思ったよりも重症かもしれない。
肩を叩いてくれるまで、ファーリちゃんが後ろで歩いていることに気づけなかった。
「なあ、ファーリちゃん。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」
俺は、自らの内を吐露する。
ロディアが裏切り者であるということは理解していたとはいえ、その正体が悪魔であり、あの禍々しいキメラのような姿が本来のロディアであるということ。
それに対してこちら側からどうすることもできず、かといって対処することも難しいだろうこと。
そして、この生殺しのような状況に、居ても立ってもいられないということ。
「……ふん、ちょっと分かる」
俺が話をする相手にファーリちゃんを選んだのは、単にガラテヤ様が講義を受けている最中であったというだけではない。
達観しいるガラテヤ様に言っても、「その時はその時だ」と、あのヒーローのような尊姉ちゃんになだめられるだけであることが、分かりきっていたからである。
いくら大好きな姉ちゃんとはいえ、話し相手に適任では無い場合だってあるのだ。
「こんな時、ファーリちゃんはどうしてたんだ?」
俺は話を聞いて欲しいだけではあったが、会話を繋ぐため、ファーリちゃんに話を振るような形とした。
「質問を質問で返すのは良くないって、分かってる。でも、何でおいらに聞いたの?」
故に、この際の返答はどうでも良かった。
「ファーリちゃん、猟兵だったじゃん?それに、『獣道』は、そこまで規模が大きい猟兵じゃ無かった。だから戦闘が絡むトラブルに関しては、俺よりも経験してきたかもしれないと思って」
「……もどかしいことは、よくあった。依頼を達成するには、普通に考えたら勝てない魔物を殺したり、猟兵より規模が大きい兵隊を相手にしたり、しなきゃいけなくて。でも、勝てないからって依頼をやめたら、お金も食べ物も、動物を狩る場所も無くて、生きていけなくて。……最悪、消すって脅されたこともあった」
「ああ」
「全部、運が良かった。だから、おいらはここにいる。でも、あのロディアと戦う時も、運が良いとは限らない」
「……そうだな」
「だから、今できることをする」
「やっぱり、それくらいが関の山か」
しかし、やはり明確な対処法が出てこないとなると、少し凹むというものである、
「ジィンお兄ちゃん、確認」
「何を?」
「今できること……鍛錬、武器と防具を整備するのと、作戦を練るの。それ以外に思いついてる?」
「へ?いや、特には。いつ、どこで襲われるとも分からないし」
「まだある」
「ま、マジか!
「キラキラしてる目。……これが、ロディアに通じるかは分からない。でも、役に立つかもしれない」
「その役に立つかもしれない今できることってのは……!」
「道具を、作ること」
自信満々にファーリちゃんが言う。
そして数秒後、俺は自らの抜けていた部分を自覚するのであった。
俺はいつの間にか、自らの力や技で戦うことだけを考えていた。
最初にガラテヤ様と出会った時、技はともかく、俺に力は無かった。
しかし、近くにあるものを有り合わせの武器として用い、ゴブリンに喰らいついたではないか。
「そうか、道具……!」
まだ、残っている。
環境と道具を利用した戦い方なら、時と場合に応じていくらでも思いつく。
実戦の役に立つかはともかく、せめてこの気持ちは紛れるであろう。
それが役に立てば、御の字である。
俺はファーリちゃんの手を引き、講義が終わったばかりのガラテヤ様にことわりを入れた後、にアドラさんの武器工房へ向かった。
俺達は、再び始まったウェンディル学園へ登校する。
実に一生ぶりの学園である。
もっとも、それは俺にとってだけの話だろうが。
寮から学校に向かう人達の顔は皆、明るい。
「ジィン、大丈夫?」
「……へ?」
「何だか、落ち着かないといった具合ね。『繋がっている』からか……ちょっと分かるの」
「ああ……。いや、そりゃそうですよ。だって今も、あのロディアが襲ってこないとは言い切れないんですから。逆にガラテヤ様は疲れてないんですか?結構、神経使うと思うんですけど」
「私は大丈夫。だって、ジィンがいるもの」
「俺の心労は無視ですかそうですか」
「それが貴方の仕事でしょ?」
「ぐう」
「なんて、冗談よ、冗談。……でも、ぐうの音は出るみたいね」
「シャレになりませんから」
「仕方ないわ。……今はこうするしか無いの。向こうから来られても困るけど、私達の方からなんて、もっとどうすることもできないのだから」
もどかしく、しかし今来られても困るという、詰みよりも悪い状況。
講堂で講義再開についての話を聞いている間も、魔法の講義を受けている間も、訓練場で剣を振っている間も、その情報が抜けることは無く、常に上の空といった具合であった。
「ジィンお兄ちゃん?今日、ぼけーっとしてる」
「あ?ああ……ファーリちゃんか。どうした?」
ガラテヤ様が受けている講義が終わるのを待っている間、俺は学園の敷地内を徘徊していた。
何やら男にはデリケートな講義であるようで、俺が合わせて履修することを拒まれた、数少ないものである。
これは思ったよりも重症かもしれない。
肩を叩いてくれるまで、ファーリちゃんが後ろで歩いていることに気づけなかった。
「なあ、ファーリちゃん。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」
俺は、自らの内を吐露する。
ロディアが裏切り者であるということは理解していたとはいえ、その正体が悪魔であり、あの禍々しいキメラのような姿が本来のロディアであるということ。
それに対してこちら側からどうすることもできず、かといって対処することも難しいだろうこと。
そして、この生殺しのような状況に、居ても立ってもいられないということ。
「……ふん、ちょっと分かる」
俺が話をする相手にファーリちゃんを選んだのは、単にガラテヤ様が講義を受けている最中であったというだけではない。
達観しいるガラテヤ様に言っても、「その時はその時だ」と、あのヒーローのような尊姉ちゃんになだめられるだけであることが、分かりきっていたからである。
いくら大好きな姉ちゃんとはいえ、話し相手に適任では無い場合だってあるのだ。
「こんな時、ファーリちゃんはどうしてたんだ?」
俺は話を聞いて欲しいだけではあったが、会話を繋ぐため、ファーリちゃんに話を振るような形とした。
「質問を質問で返すのは良くないって、分かってる。でも、何でおいらに聞いたの?」
故に、この際の返答はどうでも良かった。
「ファーリちゃん、猟兵だったじゃん?それに、『獣道』は、そこまで規模が大きい猟兵じゃ無かった。だから戦闘が絡むトラブルに関しては、俺よりも経験してきたかもしれないと思って」
「……もどかしいことは、よくあった。依頼を達成するには、普通に考えたら勝てない魔物を殺したり、猟兵より規模が大きい兵隊を相手にしたり、しなきゃいけなくて。でも、勝てないからって依頼をやめたら、お金も食べ物も、動物を狩る場所も無くて、生きていけなくて。……最悪、消すって脅されたこともあった」
「ああ」
「全部、運が良かった。だから、おいらはここにいる。でも、あのロディアと戦う時も、運が良いとは限らない」
「……そうだな」
「だから、今できることをする」
「やっぱり、それくらいが関の山か」
しかし、やはり明確な対処法が出てこないとなると、少し凹むというものである、
「ジィンお兄ちゃん、確認」
「何を?」
「今できること……鍛錬、武器と防具を整備するのと、作戦を練るの。それ以外に思いついてる?」
「へ?いや、特には。いつ、どこで襲われるとも分からないし」
「まだある」
「ま、マジか!
「キラキラしてる目。……これが、ロディアに通じるかは分からない。でも、役に立つかもしれない」
「その役に立つかもしれない今できることってのは……!」
「道具を、作ること」
自信満々にファーリちゃんが言う。
そして数秒後、俺は自らの抜けていた部分を自覚するのであった。
俺はいつの間にか、自らの力や技で戦うことだけを考えていた。
最初にガラテヤ様と出会った時、技はともかく、俺に力は無かった。
しかし、近くにあるものを有り合わせの武器として用い、ゴブリンに喰らいついたではないか。
「そうか、道具……!」
まだ、残っている。
環境と道具を利用した戦い方なら、時と場合に応じていくらでも思いつく。
実戦の役に立つかはともかく、せめてこの気持ちは紛れるであろう。
それが役に立てば、御の字である。
俺はファーリちゃんの手を引き、講義が終わったばかりのガラテヤ様にことわりを入れた後、にアドラさんの武器工房へ向かった。
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