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第七章 もう一度

第九十三話 正体

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 牢の幻覚を抜け、十数分。

 道中では壁という壁を殴って幻の壁を晴らしながら、時々現れるロディアの分身を蹴散らしつつ、今度こそ、洞窟の最奥へ到着した。

「……広い」

 そこに広がるは、円形の広間。
 ここまでは幻覚のおかげで道が見えていたが、ファーリちゃんが電気の玉を放ってくれなければ、真っ暗で何も見えないところであった。

 一応、幻覚を取り払おうと、いくつの小石を投げたが……それは普通に転がったため、視界に映っている広間は洞窟そのまんまの景色なのだろう。

 いかにも洞窟の最奥に作られたドームといったような風だが、あのロディアが、ただの広間へと続く道に何の意図もなく、幻覚を見せる魔法と分身を配置しておくとは思えない。

 俺は刀を構え、先陣を切る。
 そしてファーリちゃん、ガラテヤ様と続いた。

 先へ先へ、ゆっくりと進む。
 定期的に幻覚避けとして小石を投げたり風を飛ばしたりしたが、やはりそれらしき力も、人の気配も感じない。

 この広間のどこかに仕掛けが……。

 しかし、そのようなことを考える間も無く、敵は天井を突き破って姿を現した。

「……アァ」

 それは見覚えのあるような、どこか違うような。
 人間のような形の、しかし人間とは明らかに違う、巨大な……魔物?ともつかないもの。

「構えて!」

「ええ!」

「うん……!」

 ロディアと同じような力を感じるが、確実にロディアではない。

 この山羊に似た二本角が特徴的な、よく分からない人型の敵は明確を持っているようには見えなかったが……しかし動きに迷いは無く、鋭い爪を向けてこちらへ襲いかかってきた。

「【雀蜂スズメバチ】!やあっ!」

 俺は風を纏わせたナナシちゃんの剣でそれを弾き、もう一振りの剣で腕を斬りつける。

「ァァァァ!」

 意外と呆気なく、その敵は切り傷をつけられた左腕を押さえ、地面に左膝を突いた。

「あれ、思ったより……」

「隙アリだよ、ジィン」

「なッ……!」

 その呆気なさに気を緩めたのが運の尽きか。
 突き破られた天井から降りてきたロディアが、こちらへ魔力の塊を飛ばしてくる。

 今から刀を振ったとて、反応速度の問題で身体の動きが間に合わない。

「フンッ。私をお忘れかしら、ロディア?」

 しかし、ガラテヤ様が空気の塊を飛ばしてロディアの攻撃を相殺してくれたことで、俺は難を逃れたようであった。

「勿論、覚えているとも。君も重要な接触対象だからね。でも……今、重要なのはそんなことじゃないんだよ」

「まだ何があるのかよ……」

「いやあ、ごめんね。でも、ご存知の通り……人間として生きてた時の身体はもう、首落とされちゃったからさ。いつまでも人間に化けているのも何だから、早く本当の姿を見せたいと思って……冥土の土産に、見ていくと良いよ。きっと話題になるから」

 ロディアはそう言うと、全身から真っ黒の、血とも煙ともつかないものを放出する。

「退避、退避ーッ!」

 みるみるうちに二本角の魔物を取り込みながら、巨大化していくロディア。
 洞窟内が揺れる程の衝撃を発しながら身体の形を変えていくそれを、俺達はただただそれを見守ることしかでかなかった。

 そして、すっかり人間の要素は二足歩行くらいのものしか残らなくなってしまったロディアは、一つ。

「これが、僕の本来の姿だよ」

 そう言って、全身に禍々しい闇の魔力を纏った、まさに悪魔のような形を見せつけた。
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