四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第七章 もう一度

第八十話 ブライヤ村での一幕

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 数日後。

 ブライヤ村へと到着した俺達は、馬車から降りて宿屋へと向かうことにした。

 アデューラ岳までは遠く、また捜索が何日続くとも分からないが故に、出来る限り長く動けるよう、持てる限りの物資も用意しておくことになっている。

 とは言え、一泊でも時間を持て余すだろう。
 何か、少しでもアデューラ岳に関する情報を聞き出せれば良いものだが……。

 良くも悪くも、俺が「ジィン・セラム」であると気づかれていない以上、変に「ブライヤ村」というコミュニティへ深入りするわけにもいかない。

 おそらく「忌み子」としか扱っていないためであろうが、「やった方は忘れていても、やられた方は覚えている」という話が、いよいよ真実味を増してくるところである。

 今の俺は、すっかりフラッグ革命団から村を守った英雄達の一人である「騎士ジィン」なのだ。
 幸か不幸か、忌み子である「ジィン・セラム」の戸籍さえ村には残っていなかったのだろう。

 ある意味、由緒正しい騎士ではなかったことを喜ぶべきなのだろう。
 どこを探しても、「セラム」という名字の騎士は俺を除いて一人も存在していない。

 そして、特に名のある家から出たでもない騎士の名字など、全国どころか領地の主要都市でさえ、一般的には知られないのである。

「ようこそいらしてくださりました、ガラテヤ様、ジィン様、マーズ様、ファーリ様。革命団との戦い以来ですな。歓迎致しますぞ」

 馬車を駐めると、偶然散歩中であったらしき村長がこちらへ駆け寄って、歓迎の言葉をかけに来た。

 社交辞令か、或いは英雄扱いか。
 後者であれば、村を救った連合軍の主要メンバーであったとはいえ、随分と調子の良いものである。

「少しの間、アデューラ岳の捜索を行う上で、ベースキャンプとして使用させてもらうことになるわ。よろしくお願いするわね、村長」

「いやはや、喜んで。ありがたいですなぁ、こうして、また村へ来て頂けるとは……どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」

 フラッグ革命団と戦う前に、騎士の名前が殺人鬼の息子と同じ名前だということを、わざわざ話したことで軽く揉めてしまったガラテヤ様が、今目の前にいるということを忘れてしまったかのようだ。

「普通にしていれば、普通に良い村長っぽいのに……残念ね」

 一方のガラテヤ様は、村長と少し揉めたことを覚えているらしく、大きなため息をついて座り込んだ。

「お疲れ様、ガラテヤ。……また、ここに来ることになるとはな」

「ガラテヤお姉さん、あんまり嬉しい顔してない。村長さんのせい?」

「ううん。村長のことはもう気にするのをやめた。ただ、ジィンが心配で」

「俺がですか」

「ごめんなさい、何度もブライヤ村を見せるようなことをしてしまって。嫌でしょう?」

「何だ、そんなことですか。良いんですよ。ガラテヤ様が中継地点に選んだのなら、俺は従うだけです。それに、向こうは俺が殺人者の息子だって気付いてないんですから。『ジィンという名の騎士』として普通に過ごせば大丈夫です」

「そう、なら良いのだけれど……」

 一息、今度は安堵のため息をつくガラテヤ様をよそに、ファーリちゃんが駆け寄ってくる。

「ねぇ。ジィンお兄ちゃ、お兄さん」

「お兄ちゃんで良いよ」

 また一歩、心を許してもらえたのだろうか。
 元々「ジィン兄さん」と呼ばれていたのが、今や「お兄ちゃん」とは。
 
「ガラテヤお姉ちゃん、マーズお姉ちゃんも。……買い出しが終わったら、話したいことがある」

「うっ、かわいい」

「マーズ、落ち着きなさい」

「はぁ、はぁ……ふぅ。買い出しの後だな。構わないが……用件は何だ?」

「おいらがあの山で思い出したことと、力の秘密……伝えておいた方が、良いと思って」

 戦いの最中に、ファーリちゃんは急激に力を増した。
 それは、ロディアが作り出した幻の類か、或いは魔力の塊であろうが、首無しのケウキを相手に一人で互角に戦ってしまう程であった。

 確かに気になってはいたが、俺が一度死んだせいであろう。
 勇気を出して何かをカミングアウトしようとするものの、それを話すタイミングを逃したのだと踏んだ俺達は、特に反対するでも無く、速やかに食料や道具の買い出しを済ませて、宿屋へと戻るのであった。
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