四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第七章 もう一度

第七十七話 何故か

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 俺はゆっくりと立ち上がり、周囲を見回す。

「は?え?あ、ちょ、え?えーっと?」

 思わず、声が漏れ出てしまった。

 俺は死んでいたのだろう。

 あの不思議な空間で、あの不思議なクダリ仙人がそう言ったのだ。
 死を疑ってかかるには状況が整いすぎている。

 しかし、まさか棺の中で目を覚ますことになるとは思っていなかった。

 立ち上がってみると、棺の上。
 一瞬、辺りが静まり返る。

「おい、何で……!」

「た、確かに、私は義を執り行いました……そんな、こんなことが……!」

「魔物になったようには見えません!でも……!」

 人々は口々に、俺がいかにも普通の生きた人間であるかのように振る舞っていることへの疑問を吐き出す。

 見たところ、メイラークム邸の庭にいるハズだが……目の前にはロジーナ様までいる。

 おそらく俺達はケウキのような何かとの戦闘を終えた後、メイラークム先生か、その関係者に助けてもらったのだろう。

 そしてボロボロだった俺は、襲撃を仕掛けてきた例の青年に襲われて力尽きてしまい、その葬式はやむなくメイラークム邸で催された、と。

「……ジィン?」

 目の周りが赤く、腫れぼったいガラテヤ様が、こちらへ一歩ずつ近づいてくる。

「はい、ガラテヤ様」

「嘘じゃ、夢じゃ……無いわよね?」

「勿論です。貴方の騎士、『ジィン・ヤマト・セラム』は、ここに」

「ジィン……!ジィン!ジィン!!!」

 ガラテヤ様は次々と足を前へ出し、間もなく俺の肩へ飛びつく。

「……ただいま、ガラテヤ様」

「おかえり……おかえりなさい、ジィン……!!!」

 ガラテヤ様の涙は、瞬く間に俺の肩を死に装束から透けて見える程に濡らす。

「心配かけました」

「本当よ!本当に、本当に……悲しくて、悔しくて、怖くて……!」

「俺も怖かったです。ガラテヤ様を、また置いていってしまうことが……」

 俺はガラテヤ様の頭を撫で、そのまま体勢を変えて抱きかかえた。

 すると、ガラテヤ様と俺との再会を邪魔しないように気を遣ってくれていたのか、マーズさんとファーリちゃんがこちらへやってくる。

「ジィン君……大丈夫、なのか?」

「……寂しかった。ジィンお兄ちゃん、本当に生き返ったの?」

 ガラテヤさまを抱きかかえている俺の脚に抱きついてくるファーリちゃんと、腕を組みながらそれを見守るマーズさんの目にも、涙が浮かんでいた跡がある。

「おかげさまで。身体は普通に動くし、ちょっと魔力に違和感があるけど……何とかなったっぽい」

「こんなの、見たことが無いわ……ジィン君、流石に後で調べさせてもらうけれど、良いわね?」

「はい。是非、俺の方からもお願いします。実際に今、俺の体がどうなっているのか……自分でも分からないので」

「ジィン君……まずは何が何だか分からんが、とりあえず、おめでとう。そして……ガラテヤを大切にしてくれて、ありがとう」

「いえ、こちらこそ。俺にガラテヤ様の騎士を続けさせてくれて、ありがとうございます。おかげで、毎日が楽しいです」

 マーズさんとファーリちゃんが少し離れたタイミングで、続けてメイラークム先生とロジーナ様がやってきた。

 こうして、自身が死んでしまうことで心配をかけてしまう人が、こんなにもいる。

 俺は幸せ者だ。

 抱きかかえられたまま、俺の胸に寄りかかって意識を手放したようであるガラテヤ様の顔を見ると、少しだけ、涙が溢れてくる。

「いやはや……驚きました。まさか亡くなった方が、人間としての理性を残したまま蘇るなんて……それこそ、神話や私達の教典でこそ聞いてはいましたが、何しろ現実で見たのは初めてだったものですから……」

 こちらを不思議そうに、舐め回すように見ながらバネラウス司教が近付いてくる。

「死体から蘇る系の魔物には生まれ変わってないみたいですし、俺としても不思議なんですよね。参考までに聞いておきたいんですけど、『信奉者たち』の教典に書いてあった復活の話って……どういうやつなんですか?」

「おお、興味を持って頂けるとは。司教として嬉しいものですねえ。エー、少し長いんですが、噛み砕いて説明致しますと……」

 正直な話、噛み砕かれたところで長かったが……更に要約すると、内容はこうだ。

 あるところに、美しい少女がいました。

 彼女は世界から理不尽を少しでも消そうと頑張りましたが、都合が悪いと考えた当時のエリート層は、彼女を魔物だらけの森へ放り込み、「そんなに理不尽が嫌なら、この森に巣食う魔物を片付けるところから始めてみろ」と言いました。

 三日後、その少女は死体で見つかりましたが、何ということでしょう。

 その死体を街まで持ってきたのは、あろうことか、少女が放り込まれた森に生息していた魔物達だったのです。

 そして葬式の間も、その後も、魔物達は人間を見ても危害一つ加えず、それどころか次第に身近な人間達を手伝うようになりました。

 あの乱暴な魔物達が、人間を見つけ次第襲う魔物達が、これではまるで善良な人間ではありませんか。

 再び困ったエリート達は、善良な魔物達と、彼らを擁護する人々をまとめて殺すことで、少女の行動による功績を揉み消そうとしました。

 しかしどうでしょう。

 少女の死から四十九日が経った頃、突然、お墓の中から少女が生きていた頃のままの姿で、殺された魔物と巻き添えになって死んだ人々を従えて、空の向こうへと飛んでいってしまったではありませんか。

 そして彼女の死後、少女の行動に賛同し、この物語に惹かれた者達によって結成された団体が、現在「信奉者たち」と呼ばれる者達の原型である……いうことであった。

「で、それを現実でやったのが俺だってことですか」

「いかにもその通りです。私としては、今すぐに貴方を『信奉者たち』へお招きしたいのですが……そちらも、お忙しいでしょう」

「正直なところ……はい。対処すべきことが、まだ全然片付いていなくて」

「そうね。特にジィンは健康状態の確認も含めて、これからもっと忙しくなると思うから……またの機会にでも、マーズとファーリちゃんも連れて立ち寄らせてもらうわね」

「ええ。ですので、気長に待つことにします。気が向いたらで良いので、ぜひいらっしゃってください。何か私どもの力が必要でしたら、喜んで協力させて頂きます」

「ありがとうございます。その時は、俺の方からもお願いします」

 それから俺達は、片付けに戻っていくバネラウス司教を見送った後、メイラークム男爵邸へ戻り、「貴重な瞬間を見失った」と残念そうにしていたとメイラークム先生から聞いている男爵から、もうしばらくの宿泊許可を頂いた上で、メイラークム先生によるバイタルチェックを行うことになった。

 しかし俺達は、そこでまたしても不思議な話を聞くことになるのであった。
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