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ガラテヤの手記
悪足掻きでも
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目を覚ますと、ベッドの上にいた。
「……ん、ふぁぁぁ」
あくびと共に、大きく伸びをして目を覚ます。
外から光が差し込む部屋に寝かされていたらしい。
日差しが、別れの朝が到来したと伝えた。
ベッドの横にはメイラークム先生と、お母様。
「おはよう、ガラテヤ」
「お母様……?どうしてここに」
「ジィン君が亡くなったと、サニラから知らせが届いてな。領地はランドルフと子供達に任せて、急遽駆けつけたのだ」
「そうそう。小さい頃、ロジーナさんにはお世話になったの。父は良く言えば真面目、悪く言えば非情だから……。流石に会場の領主もいなくて、ジィン君の家の人もガラテヤちゃん以外にいないっていうのも、騎士の葬式としてはどうかと思うでしょう?」
「そ、それはそうですけれど……」
「そういう訳で、ダメ元で呼んだのよ。まさか本当にロジーナ様が来てくれるなんて思わなかったけど」
貴族同士の繋がりというものにはあまり関わらないで生きてきたつもりだったが……世間は狭いものである。
「……そろそろ時間じゃないか?」
「そうね。マーズちゃんとファーリちゃんの準備もできているから、ガラテヤちゃんの着替えが終わり次第、葬式を始めることになるわ。本当に、最後の最後に、心の準備もしておいてね」
「……はい」
私はあの山に来て行ったままの服から、綺麗に畳まれている喪服へ着替える。
メイラークム先生とお母様に手を繋がれ、式場へ。
ジィンが眠る棺の前には、祭服の中年一人。
フラッグ革命団との戦いにも参戦していた、「信奉者たち」のバネラウス・グリンドロット司教であろう。
一応は顔見知りとして、入場する際に一礼をしてくれた。
マーズさんとファーリちゃんが並ぶ席の隣に、私、お母様、メイラークム先生の順で並ぶ。
「ジィン君……」
「うっ、うっ……!ジィンお兄さん……!まだ、おいら、やっと新しい居場所を……見つけたと、思ったのに……!」
泣き崩れる二人に釣られて、私はまた、涙を流してしまった。
もう、泣かないつもりだったのに。
安心して後を任せてもらえるように、笑顔では無くとも、元気に送り出すつもりだったのに。
バネラウス司教が書を唱え始める。
葬式は「信奉者たち」の礼拝形式になっており、それは即ち国民によく馴染んだ儀礼であった。
そして死者を送り出す言葉を唱え終えたバネラウス司教が一歩下がり、参列者は一人ずつ棺に花を置く。
ジィンの遺体がどんどん花で埋め尽くされていくにつれて、花の数だけ別れが迫ってくるように感じた。
私の番は最後。
メイラークム先生、ファーリちゃん、マーズ、お母様の順番で、その次が私。
四人とも涙を流しながら花を置く。
メイラークム先生は頭を撫で、マーズも横たわるジィンの肩を抱く。
そしてお母様はジィンの胸に手を当て、ファーリちゃんは、その頬にキスをした。
「……さあ、ガラテヤ。悲しいが、最後は主人のお前が、別れを告げる番だぞ」
そして最後、私の番。
この花を添えて、別れを済ませてしまえば、ジィンは棺の中から二度と帰ってこない。
しかし、ここで駄々をこねたところで、ジィンが戻ってくるでもない。
私はジィンに花を添え、最後の最後に、もう一度だけ唇を合わせる。
力、心、思い出、私の全てを込めた、最後のキス。
私の瞳から落ちた涙は、落ちた涙がジィンの瞼を垂れる。
その瞬間。
再び、魔力を吸い尽くされるような感覚に襲われた。
身体中の力が抜け、驚いた私は思わず目を瞑る。
同時に、何かが砕かれるような音と共に、暖かな風が吹く。
倒れ込んだ私に駆け寄る人々。
そして、彼らから次々に言葉が失われた。
それはほんの少し、数秒だけの短い時間。
しかし、徐々に人々の中から声が漏れ出した。
「……ん、ふぁぁぁ」
あくびと共に、大きく伸びをして目を覚ます。
外から光が差し込む部屋に寝かされていたらしい。
日差しが、別れの朝が到来したと伝えた。
ベッドの横にはメイラークム先生と、お母様。
「おはよう、ガラテヤ」
「お母様……?どうしてここに」
「ジィン君が亡くなったと、サニラから知らせが届いてな。領地はランドルフと子供達に任せて、急遽駆けつけたのだ」
「そうそう。小さい頃、ロジーナさんにはお世話になったの。父は良く言えば真面目、悪く言えば非情だから……。流石に会場の領主もいなくて、ジィン君の家の人もガラテヤちゃん以外にいないっていうのも、騎士の葬式としてはどうかと思うでしょう?」
「そ、それはそうですけれど……」
「そういう訳で、ダメ元で呼んだのよ。まさか本当にロジーナ様が来てくれるなんて思わなかったけど」
貴族同士の繋がりというものにはあまり関わらないで生きてきたつもりだったが……世間は狭いものである。
「……そろそろ時間じゃないか?」
「そうね。マーズちゃんとファーリちゃんの準備もできているから、ガラテヤちゃんの着替えが終わり次第、葬式を始めることになるわ。本当に、最後の最後に、心の準備もしておいてね」
「……はい」
私はあの山に来て行ったままの服から、綺麗に畳まれている喪服へ着替える。
メイラークム先生とお母様に手を繋がれ、式場へ。
ジィンが眠る棺の前には、祭服の中年一人。
フラッグ革命団との戦いにも参戦していた、「信奉者たち」のバネラウス・グリンドロット司教であろう。
一応は顔見知りとして、入場する際に一礼をしてくれた。
マーズさんとファーリちゃんが並ぶ席の隣に、私、お母様、メイラークム先生の順で並ぶ。
「ジィン君……」
「うっ、うっ……!ジィンお兄さん……!まだ、おいら、やっと新しい居場所を……見つけたと、思ったのに……!」
泣き崩れる二人に釣られて、私はまた、涙を流してしまった。
もう、泣かないつもりだったのに。
安心して後を任せてもらえるように、笑顔では無くとも、元気に送り出すつもりだったのに。
バネラウス司教が書を唱え始める。
葬式は「信奉者たち」の礼拝形式になっており、それは即ち国民によく馴染んだ儀礼であった。
そして死者を送り出す言葉を唱え終えたバネラウス司教が一歩下がり、参列者は一人ずつ棺に花を置く。
ジィンの遺体がどんどん花で埋め尽くされていくにつれて、花の数だけ別れが迫ってくるように感じた。
私の番は最後。
メイラークム先生、ファーリちゃん、マーズ、お母様の順番で、その次が私。
四人とも涙を流しながら花を置く。
メイラークム先生は頭を撫で、マーズも横たわるジィンの肩を抱く。
そしてお母様はジィンの胸に手を当て、ファーリちゃんは、その頬にキスをした。
「……さあ、ガラテヤ。悲しいが、最後は主人のお前が、別れを告げる番だぞ」
そして最後、私の番。
この花を添えて、別れを済ませてしまえば、ジィンは棺の中から二度と帰ってこない。
しかし、ここで駄々をこねたところで、ジィンが戻ってくるでもない。
私はジィンに花を添え、最後の最後に、もう一度だけ唇を合わせる。
力、心、思い出、私の全てを込めた、最後のキス。
私の瞳から落ちた涙は、落ちた涙がジィンの瞼を垂れる。
その瞬間。
再び、魔力を吸い尽くされるような感覚に襲われた。
身体中の力が抜け、驚いた私は思わず目を瞑る。
同時に、何かが砕かれるような音と共に、暖かな風が吹く。
倒れ込んだ私に駆け寄る人々。
そして、彼らから次々に言葉が失われた。
それはほんの少し、数秒だけの短い時間。
しかし、徐々に人々の中から声が漏れ出した。
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