四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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ガラテヤの手記

喪失

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 アルクス達は王都を出て北へと向かった。
戦など何もなかったかの様に静かだったが、その静けさが何かの前触れであるかの様にも思える順調な道程だった。

「せっかく王国に来たから伯爵領に寄って、クレディスとクラウディアに会いたかったなぁ。」
「また来る機会もあるでしょ。ところでその2人は誰?」

アルクスは学園時代の友人のことをクリオに説明した。
その流れでアルクスがどんな学生生活を送っていたのかを話すことになり、皆興味深そうに聞いていた。

「学園かぁ、アルフグラーティには無いけどもし同年代の子がいっぱいいたら、私も行ってみたかったかも。」
「メルドゥースではアルクスが来てから孤児院でみんな勉強する様になってとっても楽しかったけど、昔はそんな感じじゃなかったよね。」
「まぁ皆なんだかんだやることがあったからな。アルクスが来て変わったよな。」
「自分にできることをやっただけだよ。もっと色んなことができる様になりたいけど、自分だけじゃ難しいし手伝ってくれる仲間を増やすことも考えないといけないな。」
「とりあえず俺達と商会はお前の味方だぜ!」

アリシアも何か言いたそうにしていたが、バルトロに先を越されたのかタイミングを失っていた。

その後、立ち寄った街々には北の戦場に近い街や村から避難してきた人々が多くいた。

「今まで通ってきた街は何事もなかったけど、やっぱり戦場の近くは大変なことになっているのかな。」
「あの山を越えたら国境も近くだろうし、この辺りまで来ると戦争の影響が大きいのかもな。」

アルクス達は山を越えようと北上すると、今までとは違い道の途中で避難してきている人々とすれ違った。
そのまま登山を続け、山の頂上付近へと到達した。

「すごい景色!海もよく見える!あれが国境かな?」
「多分そうじゃ無いかな。あの大きな橋みたいなのが国境かな。
 あと山の麓に見えるあれが騎士団の拠点のはずだよ。」

橋の近くにある平野部でたまに光が上がっている。

「もしかしてまだ戦いって続いているの?」
「結果は敗北だとは聞いているけど、小規模な小競り合いとかはまだ続いているのかもね。
 こういう時は野盗とかも活発になるって聞くし。」

アルクス達は国境地帯一面を見渡していると、ところどころで煙が上がっているのを見つけた。
生活の煙でも戦いが起きているわけでもなさそうなので、何か起きているのかもしれない。

「盗賊が村を荒らしているのか?」
「わからない、とりあえず一番近いところへ向かってみよう。」

山を下り、近くの村に辿りつくとまだ複数の煙が上がり、悲鳴が聞こえてきた。
アルクス達は何事かと思い慎重に村の中へと入ると兵士らしき容貌の甲冑に身を包んだ者達が略奪・虐殺を行っていた。
村には戦う力を持つ者がいないのか、兵士達に為されるがままになっていた。

「アルクス、止めないと!」

アリシアの声に気が付いたのか、1人の兵がこちらに近寄ってきた。

『なんだお前ら、まだ残っていやがったか。』

近づくなり、剣を振りかぶって襲ってくるが、バルトロが殴りとばした。

「帝国語を使っていたな。略奪をしているところを見ると正規の兵ではなく、逃げ出した脱走兵かもしれないな。
 村の様子を見るにまだ複数いるだろう。気をつけよう。」

物音に気づいたのか、他の仲間らしき者達が集まってくる。

『おい、なんか凄い音がしたぞ…  な、なんだお前達は!囲め!』

仲間の1人が倒れているのに気づいたらしく、アルクス達を取り囲んだ。

『こんな村にまだ俺達に逆らうやつがいたらしい。村人達と少し風貌が違うがたったの4人だ。
 お前達やってしまえ!』

アルクス達を取り囲むと最初に殴られた兵が起き上がって喚いた。
どうやら隊長格だったのか、他の仲間達はその言葉に従い、アルクス達に襲いかかった。

『がっ…』『ぐっ…』『げふっ...』

意気揚々と襲いかかってきたものの、個人個人の強さは大したものではなく、アルクス達に敵う者はいなかった。

『くっ、こんな強者が隠れ潜んでいたとは。このままでは作戦が…
 お前達、これまでだ決行するぞ!』
『い、嫌だ!俺はまだ死にたくない!』

1人が狼狽え逃げようとする、だが隊長格の男が何かを取り出すと地面に向かって叩きつけた。
瓶の割れる音が響き、そこからどす黒い煙が吹き出し始めた。

『帝国は最強だ、これから世界は帝国が征服する!今の皇帝は神をも超えるお方・・・皇帝陛下、万歳!』

隊長格の男を含めて煙を吸い込んだ者達は血を吐き出し、地面へと倒れて行った。

「みんな私の後ろに下がって!念の為、息を吸わないでね!」

咄嗟にクリオが風の障壁を生み出してアルクス達を包み込んだ。
あたり一面が黒い煙に覆われるも、アルクス達に届くことはなかった。

しばらくして煙が薄くなった後、風を巻き起こして周囲の煙を吹き飛ばした。

「クリオ、ありがとう。
 さっきのは周囲を巻き込む自決用の毒だったのかな?」

アルクス達が相手と共倒れになるために毒煙を撒き散らしたと判断しようとすると、倒れていた者達が徐々に起き上がった。

「まだ生きていたのかっ…
 あれは自決用の毒じゃなかった…?
 とりあえず皆、気をつけて!」

起き上がった者達から鈍重な動きで襲いかかってくる。
回避するのは容易いが、先程よりも膂力が上がっているのか、周囲の建造物が壊されていく。
アルクス達が斬りつけるも、特に何事もなかったかの様に振る舞っている。

「どういうことだ。目の光も消えて、意識を失っている様に見えるけど…」
「なんだか、人ではない何かになったみたい…」

そうアリシアが呟くと村の奥からも何かが動く気配がした。

「まだ生きている人がいるのかもしれない、急いで助けに行こう!」
「私に任せて!」

クリオが突風を起こして近くにいた者達を吹き飛ばした。
アルクスが念のため土壁で囲んで封じ込めた。

村の奥へ向かうと起き上がっている人がいた。

「良かった、まだ生きている人がいた…
 大丈夫ですか!?」

アルクスが声をかけると先程の者達と同じ様に鈍重な動きで襲いかかってきた。
斬りかかるわけにもいかず、転ばせた後、先程と同様に土壁で囲み動けない様にした。
周囲を見渡すと他にも同じように歩き回る村人らしき人々が複数いたが、意識がある様には見えなかった。

「もしかしてこれがさっきの煙の効果なのかな?」
「この人達って生きているのかな?これだけ血を流して生きていられるとは思わないけど…」
「確かに既に乾いているが、辺り一面血の海という表現が似合いそうだな。」
「もしかして…」
「クリオ、何か知っているの?」
「うーん、レヴァナントって言われる死んだ人を操る術や薬の研究をしている賢者が昔にいたって話を小さい頃に聞いたことがあるけど、それも結構昔の話みたいだし、色々と問題があって上手くいかなかったって聞いたから違うのかなって気がする。」
「だからといって動いている人達を斬るのも抵抗があるな。
 そうしたら皆死んでしまっていると判断して土に埋めようか。
 もし立ち寄った人達が襲われたら危ないしね。
 僕がナトゥと協力してやるから皆は休んでて。」

アルクスは魔術を用いて村の中心に深く大きな穴を掘り、徘徊している村人や帝国兵らしき者達を全て埋めてしまった。 

「これで外に出ることはないはずだよ。さて、これからどうしようか。」
「隊長格の男の最後の言葉から考えると、彼らは脱走兵じゃなくて何か目的があってこの村を襲っていたのかな?」
「帝国が世界を征服するって言ってたから、レヴァナントを生み出して王国を滅ぼそうとしているとか?」
「うーん、戦争で勝っているのにわざわざ危険を冒してまでそんなことするのかな。」
「今後に向けた実験かもよ。自国民で実験するわけにもいかないだろうし。」
「こんな非道を許すわけにはいかないよ。おそらく騎士団に気付かれないように小さい村や街が狙われているかもしれない。他にも同じ様な村や街がないか探してみよう。アーラが空から近くで煙が出ているところがないか調べればすぐ見つかるはず。」

アルクス達は帝国兵による非道を止めるため、周辺の街や村を調べることにした。


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