四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
上 下
80 / 137
第六章 悪性胎動

第七十五話 異常発生 後編

しおりを挟む
 確かに、ケウキの頭部は吹き飛ばされた。
 頭部どころか、首元まで綺麗さっぱり抉られている。

 しかし。

「……おいおい」

「何か、おかしい」

 ケウキは脳の全てを失っても尚、何事も無かったかのように再び動き始めた。

「嘘でしょ……!?首が、無いのに!?」

 脳震盪で倒れたハズのケウキが、頭部を失っても動いている。

 このケウキには他に予備の脳があって、そちらへ肉体の制御を移したのだろうか?
 しかし、ケウキが別の脳を持つなどという話は聞いた事も無い。

 これが運悪く新種の魔物に出会ってしまった、というのならば、まだ良い方である。

 さらに妙な点として、首の断面に骨や肉といったものが見当たらず、ただ「真っ黒」であるということが、より俺達の不安を掻き立てた。

「マズい、足が……動かない……」

 マーズさんは、とうとうケウキの「奇妙さ」にやられてしまったのか。
 大剣を落とし、その場で棒立ちになってしまっている。

「ジィン!ファーリちゃん!私もそっちに行くわ!マーズには後方で待機してもらって、サポートはロディアに……ロディア?」

 声に反応して後方へ目をやると、そこにはキョロキョロと辺りを見回すガラテヤ様とマーズさん。
 二人の姿しかない。

 前方へ視線を移しても、そこにいるのは首無しのケウキと交戦しているファーリちゃんだけ。

「あれ、ロディア……いなくないですか?」

「いつの間に……?さっきの『死の国デッド・ゾーン』が効かなかったから怖くなって逃げた、のかしら?」

「いや、ロディアはそういうことするイメージ無いですけど……まさか、俺達以外に敵が?」

「それらしい気配は感じられなかったけれど」

 そういう敵が他にいるのか、怖気付いて逃げたのか。

 俺達もロディアも、この山に「連れて来られた」という共通点が妙に引っかかるため、何かそこに起因するものによって連れ去られるなり、吹き飛ばされるなりしたのだろうか。

 今はケウキへの対処で手が離せないが……ロディアの行方が心配だ。

 一体、この山で何が起きているというのか。
 何から何まで妙なことばかりである。

「ガラテヤ様!ロディアがいない以上、仕方ありません。引き続き、マーズさんの側にいてください!一人っきりにして、マーズさんまでいなくなったら大変です!」

「いや、それならジィンが下がって!嶺流貫レールガンを一発撃ったくらいじゃ、私のリソースは無くならない!ジィンの魔力残量、正直キツいでしょう?」

「よく分かりましたね」

「さっきから斬撃飛ばしてるんだもの、それくらい分かるわよ。さ、代わって!」

「じゃあ、そうさせてもらいます!」

 俺は「駆ける風」で速やかに後方、マーズさんの元へ。
 それと同時にガラテヤ様は「風の鎧」を纏い、「飛風フェイフー」で前線へ。

「ガラテヤお姉ちゃん、魔力、大丈夫?」

「大丈夫よ。私、貯められる魔力量には自信あるんだから」

 雷を纏いながら首無しのケウキに善戦するファーリちゃんと共に、空中を飛び回ってケウキの懐へ潜り込む。

 そして、ファーリちゃんに気を取られているケウキの胸を、「刹抜さつばつ」抉り取った。

「ジジジ、ジジ……」

 首を無くし、もはや言葉にもならない魔力の爆発音を鳴らしながら、首無しのケウキはそのままバランスを崩して地に伏せる。

「離れて、ガラテヤお姉ちゃん」

「分かったわ!」

 二人はケウキからそれぞれ距離をとった。
 そして、ガラテヤ様は後方へ。

 最後の力を振り絞ってか、ケウキは残った両前足の爪をファーリちゃんへ向けて発射する。

 しかし、ファーリちゃんはガラテヤ様へその爪が向かわないよう、あえて自分だけ残ったのだろう。
 待ってましたとばかりに、全身に纏っていた雷をナイフへ集約させる。

 そして発射された爪の上に飛び乗り、瞬時に跳躍。

「……【闢雷びゃくらい】」

 瞬く間に、残ったケウキの身体を粉々に切り裂いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

わけあって美少女達の恋を手伝うことになった隠キャボッチの僕、知らぬ間にヒロイン全員オトしてた件

果 一
恋愛
僕こと、境楓は陰の者だ。  クラスの誰もがお付き合いを夢見る美少女達を遠巻きに眺め、しかし決して僕のような者とは交わらないことを知っている。  それが証拠に、クラスカーストトップの美少女、朝比奈梨子には思い人がいる。サッカー部でイケメンでとにかくイケメンな飯島海人だ。  しかし、ひょんなことから僕は朝比奈と関わりを持つようになり、その場でとんでもないお願いをされる。 「私と、海人くんの恋のキューピッドになってください!」  彼女いない歴=年齢の恋愛マスター(大爆笑)は、美少女の恋を応援するようになって――ってちょっと待て。恋愛の矢印が向く方向おかしい。なんか僕とフラグ立ってない?  ――これは、学校の美少女達の恋を応援していたら、なぜか僕がモテていたお話。 ※本作はカクヨムでも公開しています。

【LUK】だけ上げて世界最強

七鳳
ファンタジー
☆お気に入り登録&コメント励みになります! 大学に入ってからの時間をほぼ全て、オンラインゲーム「ユグドラシルオンライン」…通称UGOに捧げていた主人公。彼は狂ったようにUGOにのめりこんでいた。 そんな彼が本当の異世界となったUGOの世界に転生してしまうありふれたお話。 ※見切り発車のため後に設定・内容が大きく変更される恐れもあります。

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...