上 下
75 / 123
第六章 悪性胎動

第七十話 遭難

しおりを挟む
 数時間後。

 遭難しないよう、まとまって周囲を歩き回ってみたものの……どうしたものか、この森には動物どころか、魔物さえも見当たらない。

「……とりあえず山を降りないか?平原に降りれば、通る馬車や捜索隊がいないとも限らないだろう」

「でも、山が一つだけポツンとあるとは限らなくないかしら?下手したら、事態はもっと悪化するわよ」

「どういうことだ?」

「山を降りたと思ったら、横の低い山に移動しただけだと思ったとか、山に囲まれた盆地に降りただけだとか……そういうケースよ。仮にそうだった場合、今よりもさらに奥地へ進むことになる。遭難に遭難を重ねるだけになる可能性は大いに捨てきれない……とでも言うべきかしら」

「……うむむ、そうか……難しいな」

「おいらがひとっ走り行ってこようか?おいらなら速くで移動できるから、ささっとこの辺だけ探索してすぐに戻ってこれるかも」

「いや、やめておきましょ。万が一にも迷うと危険だし。……ジィン、『探る風』で周囲の地形は調べられる?」

「すみません。俺ができるのは、『激しく動くもの』と生体反応の探知だけなんです。しかも、あんまり精度も良くない割にそこそこ魔力使うので……」

「うーん。だったらそれも却下ね……」

 遭難におけるリソースの少なさは、やはり大きな不安に繋がるものである。
 そして、それが何より行動を遅くする原因となっているのだろう。

 もう数十分は次の行動について話し続けている。

 現代日本でも怪しいというのに、この世界の辺境と思しき山では、このまま動かなくても腹が減るばかりであるのは確実。
 ジリ貧は約束されたようなものであるが……むやみに動いても、かえって事態が悪化するだけの可能性は大いに付きまとう。

 そういえば、前世のワイドショーで行楽シーズンにおける遭難対策、といったような企画をやっていたような。

「……ガラテヤ様。ちょっと良いですか」

「ん?どうしたの?」

「『飛風フェイフー』で、とにかく上まで飛んでみてくれませんか?」

「あら、何か思いついたの?」

「ええ。山頂に行けば、どこから降りられるか分かる…‥みたいなら話、あるじゃないですか。わざわざ山頂まで登らなくても、高く飛べれば同じことができるかなと思って。それに、俺よりガラテヤ様の方がリソースも多いので」

「ああ、その手があったわね。分かったわ。ちょっと行ってくる」

 そう言うと、ガラテヤ様は全身に風を纏って天高くへ飛び上がる。

「おおっ!?ガラテヤ、何を!?」

「……ガラテヤ様お姉ちゃん、すごい」

 しかし、ガラテヤ様は木々の合間を抜けようとしたところで、何故か急に向きを変えて戻ってきてしまった。

「ガラテヤ様?まだ十分な高度までは飛んでないような……何かあったんですか」

「それが……何故か、地上から一定以上の高さには飛べないようになってるみたいなの」

「何だそれは。魔法か何かか?」

「ええ。誰かが私達を妨害しているのか、或いはそういう力場が何かしらの原因で発生しているのかは分からないけれど……上に飛んだ時、山の高さに合わせて上下してるオーラ的な天井……?みたいなものが見えたのよ。それで、いざ木々の間を抜けようとしたら、弾かれるような力を感じて……事故になる前に戻ってきたの」

「つまり、現時点で下山するための道を見つける方法は、山頂に登って下を見るしか無い…‥ってことですか?」

「信じたくないけど、そうみたい」

 どうやら、状況は思っていたよりも悪いようである。

 馬車に乗っている最中、目印らしきものは特に無かった。
 故に、それを辿って下山することは不可能。

 かといって、山頂に登るには食料や寝床、加えて魔力が追いつくか心配が残る。

 さらに、この山には原因不明の「天井」となる力場が存在し、それに類する謎のギミックが他にどれだけあるか全く分からない。

 俺達のサバイバル生活は、リソースを除いて振り出しに戻ってしまったようであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

処理中です...