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第五章 追う者、去る者

第五十一話 話しておくべきこと

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 第一会議室の扉を開けると、そこにはレイティルさんが座っていた。

「バグラディから話は聞いているね。アレが罪人の与太話だったら良かったんたけどねぇ……各地の警備隊や密偵から情報が寄せられているし、ほぼ信じて良いと思うんだ。……というわけで、君達には作戦の大まかな概要を伝えておきたいと思うんだよ」

 ベルメリア領が絡んでいるということもあるが、俺達は半ば強制参加のようである。

「おいら達は無条件で手伝うことになっているんだね」

「地方のお嬢様を守る騎士が側にいるのに、連携をとらない訳にはいかないと思ってね。どうしても外せない用事があるならともかく、極力、協力をお願いしたいんだけど……ダメかな?」

「んん……ジィンお兄さん次第。もし、ここで協力しないって言うなら、おいらもしない」

「いやあ…‥流石に断る訳にはいかないよ。一応、俺もベルメリア家に仕える騎士だし。ガラテヤ様の護衛が担当とはいえ、領地の危機となれば……ガラテヤ様を守るためにも、動かなきゃ」

「そうね。実家が襲われるかもしれないのに指を咥えて見ているだけなんて、もどかしいわ」

「分かった。二人が言うならそうする」

「いやはや、ありがとう、三人とも。学園にいるマーズとロディア君にも、伝令を送ったところだ。時が来たら、パーティで合流してもらうことにはなるだろう」

「仕事早いですね」

「ハッハッハ。これでも隊長だからね。戦いが苦手な分、こういうところで役に立たなくっちゃあ」

 毎度思うが、俺が風に紛れて戦った際の「アレ」で「戦いが苦手」と宣うとは。
 王国騎士団、流石にレベルが高いところである。

「すみません、話の前に一つ良いですか?」

「何かな?」

「俺とガラテヤ様はベルメルア領の勢力ではあるんですけど……ファーリちゃんとロディア、それと一応、お宅のマーズさんも、冒険者なので……パーティとして行動する時は冒険者勢力として扱ってもらえるように、冒険者ギルドに掛け合ってもらうことってできますか?」

「ん?……ああ、分かったよ。戦果が冒険者のランクに反映されるようにして欲しいんだね?」

「ご明察よ。流石ですわ、第七隊長」

「ベルメリア家のご息女にそう言って頂けるとは、光栄だね。じゃあ後で、今回の作戦における功績が冒険者としてのキャリアに影響するよう、話をつけておくよ」

「ありがとうございます」

 冒険者としての格を示すランクは現在「Dランク」となっている。
 バグラディの件が反映されていれば、少しは違ったのだろうが……。
 アレに感じて俺達はトラブルの元に対応したに過ぎず、逮捕に関しては学園そのものの協力となったため、学内での評価こそ上がったものの、冒険者ランクにはあまり影響しなかったのである。

「それじゃあ……本題に行こうか」

 さて、俺達の頑張りが反映されるよう保障してもらったところで、作戦会議の始まり。

 まず、俺達はロディアとマーズさんの二人と合流し、ブライヤ村へ向かう。
 そこでラブラ森林に隠れていると思われる元バグラディ革命団の連中を待ち伏せて制圧。

 ベルメリア子爵家の警備はランドルフ様と近衛兵達が担当してくれるため、俺達は安心して領内の掃討に集中できるということらしい。

 俺だけではなく、ガラテヤ様にとっても因縁のある土地であるブライヤ村とラブラ森林。

 少しやりにくいような気持ちを抱えた俺達を察してくれたのか、ファーリちゃんがそれぞれ俺の左手とガラテヤ様の右手をそれぞれ握った。

「ありがとうね、ファーリちゃん」

「……ガラテヤお姉さん、ジィンお兄さん……二人とも不安そうだったから」

「俺達にとって、因縁の地だからね……。俺的にはあまり良い思い出も無いし、ガラテヤ様も……多分、同じだと思う」

「そうね」

「ごめんね、負担をかけてしまうようでね。……でも、思っていたより国の危機だったんだ。あのバグラディとかいう子、思ったよりも大きな火種を抱えてたみたいでね」

「はは……仕方ありませんよ」

 相手がどれくらいの規模なのか、どれだけの「お構い無し」具合なのかは分からない。
 相手の士気次第では、こちらもどうなるか分からないが……リーダーのバグラディがあの強さであれば、部下も大したことはなく、俺達でもある程度は貢献できるような気もする。
 しかし、そう順調に話は進まないだろう。
 何せ、そのバグラディは裏切られたのだ。
 
 理念に則って「リーダーは権力者だから省く」となった流れもあるのだろうが……他にも、何か戦力に自信を持つ要因があったのだろう。
 そうでなければ、わざわざ普通に考えれば戦力的に強いはずのリーダーを切り捨てた後にテロ行為へ及ぶ理由が分からない。
 
「……じゃあ、またよろしく。敵側にそれらしい気配があったら呼ぶから、それまでは待機でお願いできるかな。君達には宿泊棟に個室を用意しておいたから、ゆっくりしていて欲しい」

 そう言って、レイティルさんは俺達にそれぞれ個室の鍵を手渡す。

「ありがとうございます。……そういえば、ちょっと良いですか」

 俺はそのタイミングで、前々から聞きたかった父の行方を聞くことにした。

 盗み聞く訳にもいかないと思ったのか、ガラテヤ様はファーリちゃんを連れて先に来客が泊まるための宿泊棟へ向かう。

「……何かな?ガラテヤ様が何かを察したみたいに急いで行っちゃったけど」

「勘が鋭い人ですからね。俺がこれからデリケートな話をするって、分かったんでしょう」

「はて、デリケートな話って?」

「俺の父親の話です。結構な人数を殺して収容されているハズの『ジノア・セラム』という人間はご存知ですか?」

「……ああ、彼か。同じ名字だと思ったら、親子だったとは」

「やっぱり有名人なんですね、うちの父」

「そりゃあねぇ。今、彼は地下の特別な牢屋にいるよ」

「……理由は何となく察しました。おかしくなってる上に強いから、ですよね?」

 父は、母を事故で殺した馬車に乗っていた人達を一人残らず躊躇なく殺したのだ。
 現場に居合わせてはいないが、護衛も合わせて蹴散らしたということになれば、精神状態の異常さと力の強さは何となく察しがつく。

「ご明察。何故か逮捕した時よりも、彼は力を増しているようでね……。彼の内に何があったのかは知らないが、心に問題があるのは確かだから……制御できない力持ちは、地下に封じておくしか無いんだよ」

「そうですか……面会したいと思ってたんですけど、無理っぽいですね」

「そうだね。……いや、もしかすれば」

「はい?」

「……ジィン君。一つ、頼みができた。聞いてもらえるかな?」

「え、良いですけど……。何ですか?」

「ジノアが君を……無事に生きている息子を見れば、精神状態がある程度回復するかもしれないと思ってね。実験も兼ねてだが、比較的暇な明日なら……君さえ良ければ面会を許可しようと思うんだ」

 レイティルさんの口から飛び出してきた言葉。

 久しぶりに父の顔を見たい反面、今の父を見ることが不安でもある。

 しかし、ここで退いては後悔するかもしれない。
 ここへ襲撃を仕掛けたバグラディ革命団が、拘束されている父に何かしでかさないとも限らない上、そもそも俺がバグラディ革命団との戦いで死なないとも限らないのだ。

「……分かり、ました。明日、父に会わせて下さい」

 俺は父に会う決意を固める。
 そして同時に、父がどのように変わっていても、向き合うことを心に誓ったのであった。
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