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第五章 追う者、去る者
第四十九話 面会希望者
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バグラディとの戦いから三ヶ月後。
日々、学内の冒険者ギルドで学生向けの簡単な依頼をこなしながら学園へ通って講義を受ける、いつも通りの日常を取り戻してから久しいこの頃、自室のベッドでくつろいでいる俺の元に、レイティル隊長からの手紙だという封筒を持った兵士がやってきた。
「突然の訪問、失礼します。こちら、レイティル隊長からです」
「レイティルさんから?よりによって、何で俺に」
もしかして、ファーリちゃんを巡る戦いの時に変装して襲ったのがバレたのか?
「詳しくは私も知らされていません。では、私はこれで」
「ええ……あ、ありがとうございまーす。……なになに、何だって……?『ごきげんよう、ジィン君。突然の事だから、手短に済ませるよ。実は、君とガラテヤ様を襲ったというバグラディの処遇が決まったんだ。そこで……彼は君とガラテヤ様に面会を求めている。彼はロクでもない男だが、投獄前に話くらいは聞いてやってあげて欲しい。日程は追って伝える。無理にとは言わないが、前向きな検討をよろしく頼むよ。王国騎士団第七隊長、レイティル・デリア・ロックスティラ』……!」
どうやら、風のオバケとして戦った時のことはバレていないようである。
「どうしたの、ジィン?」
よほど複雑な表情をしていたのだろう。
配達員と入れ替わるように部屋へやってきたガラテヤ様は、横でこちらをまじまじと見つめてきた。
「いやあ、レイティルさんから手紙が来て……。処遇が決まったバグラディが、俺達と面会したいと」
デートの後はガラテヤ様に対する反応がとんでもないことになっていた俺だが、今となっては何とか落ち着き、普通に話せるように戻ってきた。
「アイツが!?」
一方のガラテヤ様はこのテンション。
以前にも増して、俺の前に限ってだが「尊姉ちゃん」としての面を出すようになってきた。
「そうみたいなんです。俺も何あったのかサッパリなんですけど、無理とは言わないから来てやってくれると嬉しいって言ってます。……どうします?」
「ジィンはどうしたいの?」
「ガラテヤ様次第ですかね。話をつけたいのが半分、顔見た瞬間ブン殴ってしまいそうなのが半分」
「同感ね。……でも、レイティル隊長から直々に呼ばれてるなら、行った方がいいんじゃないかしら?」
「……流石にそうですよね。俺達が五分五分なら、レイティルさんの意思を尊重して行ってあげましょう」
「そうね。じゃあ、そうしましょ」
それから待つこと三日。
再びレイティルさんから便りが送られてきた。
そこには、「もし来るなら、明後日の夕方頃に正門前に来てくれ」と書いてあった。
勿論、事前に行くと決めてある俺達が約束を破る理由は無い。
俺とガラテヤ様が正門前でレイティルさんを待っていると、遠くの馬車から、手を振る見慣れたおじさんの姿が近づいてきた。
「おーい!」
「レイティル隊長!」
「いやいや、待たせたね。さあ、行こうか……うん?その後ろにいる子は?」
「あっ、バレた」
レイティルさんは俺の後ろを指差す。
するとそこには見慣れた少女の姿が。
「ファーリちゃん?どうしたの?今回はついてこないで、留守の間はマーズと一緒なんじゃあなかったのかしら?」
「気が変わった。……隊長に色々聞くには、良い機会だと思ったから」
「ああ、君は……ファーリ君、だったかな。あの作戦で取り逃がした、元猟兵の少女」
「そうだけど」
「その節はすまなかったね。だが、今の君はもう冒険者だ。ベルメリア領の手際もあって、君達は既に赦されている。わざわざ赦された過去を取り上げて捕まえてやろうだなんて、そんなことを考える程、私達の頭は固く無いよ。だから、どうか警戒しないでおくれ」
「……分かった。じゃあ、安心して色々聞き出せる」
「ハッハッハ。お手柔らかに頼むよ」
こうして急な増員はしたものの、俺達はレイティルさんに連れられて、ベルメリア子爵領とメイラークム男爵領の境界付近に置かれている「キース監獄」へとやってきた。
普通ならば四日か五日で着くところだったらしいが、土砂崩れにより道が塞がれたことで回り道をしなければならなかったため、道の悪いルートを一週間ほどかけて移動しなければならなくなったようだ。
ここまで馬車を運転してくれたのは、レイティルさん専属の運転手らしい。
道中で魔物と遭遇した時も怯まず運転を続けながら炎の魔力で作った鞭を振るって追い払う、という技をやってのけた時点で、ただの運転手では無いとは思っていたが……専属とは。
そして、よほどハードな道だったのだろう。
その人ともあろうものが、監獄へ着いた時には、すっかりヘトヘトになってしまっていた。
ここでは、試験的に現代の刑務所に似た制度が採用されており、他の監獄よりかは幾分か「やさしい」待遇を受けることができるという話ではあったが……果たして、バグラディが大人しくしているだろうか。
そしてこの監獄には、幼い頃に逮捕された俺の父親も収監されているハズだ。
もっとも、それが「普通の囚人」と同じ待遇であれば、の話だが。
後でレイティルさんに、父と会えないか聞いてみるとしよう。
来客用の出入り口から入って進んでいくと、衛兵によるボディチェックが入った後、面会日への扉へ続く広間へと通されるのであった。
日々、学内の冒険者ギルドで学生向けの簡単な依頼をこなしながら学園へ通って講義を受ける、いつも通りの日常を取り戻してから久しいこの頃、自室のベッドでくつろいでいる俺の元に、レイティル隊長からの手紙だという封筒を持った兵士がやってきた。
「突然の訪問、失礼します。こちら、レイティル隊長からです」
「レイティルさんから?よりによって、何で俺に」
もしかして、ファーリちゃんを巡る戦いの時に変装して襲ったのがバレたのか?
「詳しくは私も知らされていません。では、私はこれで」
「ええ……あ、ありがとうございまーす。……なになに、何だって……?『ごきげんよう、ジィン君。突然の事だから、手短に済ませるよ。実は、君とガラテヤ様を襲ったというバグラディの処遇が決まったんだ。そこで……彼は君とガラテヤ様に面会を求めている。彼はロクでもない男だが、投獄前に話くらいは聞いてやってあげて欲しい。日程は追って伝える。無理にとは言わないが、前向きな検討をよろしく頼むよ。王国騎士団第七隊長、レイティル・デリア・ロックスティラ』……!」
どうやら、風のオバケとして戦った時のことはバレていないようである。
「どうしたの、ジィン?」
よほど複雑な表情をしていたのだろう。
配達員と入れ替わるように部屋へやってきたガラテヤ様は、横でこちらをまじまじと見つめてきた。
「いやあ、レイティルさんから手紙が来て……。処遇が決まったバグラディが、俺達と面会したいと」
デートの後はガラテヤ様に対する反応がとんでもないことになっていた俺だが、今となっては何とか落ち着き、普通に話せるように戻ってきた。
「アイツが!?」
一方のガラテヤ様はこのテンション。
以前にも増して、俺の前に限ってだが「尊姉ちゃん」としての面を出すようになってきた。
「そうみたいなんです。俺も何あったのかサッパリなんですけど、無理とは言わないから来てやってくれると嬉しいって言ってます。……どうします?」
「ジィンはどうしたいの?」
「ガラテヤ様次第ですかね。話をつけたいのが半分、顔見た瞬間ブン殴ってしまいそうなのが半分」
「同感ね。……でも、レイティル隊長から直々に呼ばれてるなら、行った方がいいんじゃないかしら?」
「……流石にそうですよね。俺達が五分五分なら、レイティルさんの意思を尊重して行ってあげましょう」
「そうね。じゃあ、そうしましょ」
それから待つこと三日。
再びレイティルさんから便りが送られてきた。
そこには、「もし来るなら、明後日の夕方頃に正門前に来てくれ」と書いてあった。
勿論、事前に行くと決めてある俺達が約束を破る理由は無い。
俺とガラテヤ様が正門前でレイティルさんを待っていると、遠くの馬車から、手を振る見慣れたおじさんの姿が近づいてきた。
「おーい!」
「レイティル隊長!」
「いやいや、待たせたね。さあ、行こうか……うん?その後ろにいる子は?」
「あっ、バレた」
レイティルさんは俺の後ろを指差す。
するとそこには見慣れた少女の姿が。
「ファーリちゃん?どうしたの?今回はついてこないで、留守の間はマーズと一緒なんじゃあなかったのかしら?」
「気が変わった。……隊長に色々聞くには、良い機会だと思ったから」
「ああ、君は……ファーリ君、だったかな。あの作戦で取り逃がした、元猟兵の少女」
「そうだけど」
「その節はすまなかったね。だが、今の君はもう冒険者だ。ベルメリア領の手際もあって、君達は既に赦されている。わざわざ赦された過去を取り上げて捕まえてやろうだなんて、そんなことを考える程、私達の頭は固く無いよ。だから、どうか警戒しないでおくれ」
「……分かった。じゃあ、安心して色々聞き出せる」
「ハッハッハ。お手柔らかに頼むよ」
こうして急な増員はしたものの、俺達はレイティルさんに連れられて、ベルメリア子爵領とメイラークム男爵領の境界付近に置かれている「キース監獄」へとやってきた。
普通ならば四日か五日で着くところだったらしいが、土砂崩れにより道が塞がれたことで回り道をしなければならなかったため、道の悪いルートを一週間ほどかけて移動しなければならなくなったようだ。
ここまで馬車を運転してくれたのは、レイティルさん専属の運転手らしい。
道中で魔物と遭遇した時も怯まず運転を続けながら炎の魔力で作った鞭を振るって追い払う、という技をやってのけた時点で、ただの運転手では無いとは思っていたが……専属とは。
そして、よほどハードな道だったのだろう。
その人ともあろうものが、監獄へ着いた時には、すっかりヘトヘトになってしまっていた。
ここでは、試験的に現代の刑務所に似た制度が採用されており、他の監獄よりかは幾分か「やさしい」待遇を受けることができるという話ではあったが……果たして、バグラディが大人しくしているだろうか。
そしてこの監獄には、幼い頃に逮捕された俺の父親も収監されているハズだ。
もっとも、それが「普通の囚人」と同じ待遇であれば、の話だが。
後でレイティルさんに、父と会えないか聞いてみるとしよう。
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