四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

文字の大きさ
上 下
51 / 140
第四章 爆発

第四十七話 鬼を狩る鬼

しおりを挟む
 模擬戦翌日、昼頃、

 俺は私服にファルシオンと弓矢、そして秘蔵の風を纏わせた特別な矢を持ち、マハト霊山へと向かった。

「じゃあ、行ってきます」

 俺はパーティの皆とケーリッジ先生、ムーア先生、メイラークム先生に見送られ、獣道を登っていく。

 この山は大して高くない。

 数時間歩けば、普通に歩いていても山頂まで辿り着くことができる程だ。

 しかし、バグラディが上から攻撃をしてこないという保証も無い。

 俺は周囲を警戒しながら、少しずつ山頂へ近づいていった。

 山を登っていくと、広場が見えてきた。
 ここは、模擬戦の時にガラテヤ様に告白された広場だ。

 今までアプローチをかけていたのは俺の方だが、まさかここでガラテヤ様にアタックされることになるとは。

 あの時の言葉に応えるために。
 皆で無事に王都へ帰って、二人でデートするために。

 俺はガラテヤ様を助ける覚悟を今一度決め直し、広場を抜ける。

 バグラディが何を企んでいるかは、大体分かった。

 アイツは、そういう類の人間だ。

 バグラディの恨みを「終わらせてやる」では無いが、何とか誤解を解かなければならない。

 一度はガラテヤ様に沈められ、二度目をメイラークム先生達に沈められても懲りないと言うのならば、三度目も沈めるまでである。
 それも、これまでとは比べ物にならない程、完膚なきまでに叩き潰す。

 世界が思い通りになったら嬉しいのは、皆同じだ。
 あくまでもそちらがそう言うのであれば、俺にだって考えがある。

 山頂が近づくにつれて、胸騒ぎはどんどん大きくなっていく。

 そして、頂を示す看板が目に入った瞬間。
 瞳に映る、不適な笑みを浮かべたバグラディが網膜に映ると同時に、俺は弓を引いていた。

「よう、ジィン。随分と熱くなってんじゃあねェか」

「当然だろ、こっちは主人を誘拐されてんだよ」

「だが……少しは冷静になれよ?でないと、交渉が思うようにいかねェだろうが。それに、矢も明後日の方向に飛んで行っちまったぜ?」

 俺が放った例の風を纏った矢は、バグラディに掠るどころか、見当違いの方向へ飛んでいってしまう。

「ハァ、ハァ……悪いな、もしかしたら矢が当たるかも知れないと思ったんだ」

「無駄な足掻きはやめろ。ホラ、お前の愛するガラテヤ様なら、俺の後ろにいるぜ」

 バグラディに誘導されるまま山頂に顔を覗かせると、そこには服がところどころ破れる程に痛めつけられた上で、大木に縛りつけられているガラテヤ様の姿があった。

「ガラテヤ様ッ!……いくら敵同士とはいえ、これが、世界をより良いものに変えようと、民を解放しようとしている人間のやる事とは。片腹痛いな」

「ほざけ。お前ら権力者は、民には含まれていない。……さあ、それが分かったら、とっととこの契約書にサインをしろ。その契約書には、俺特製の魔法陣が刻まれている。俺が示した条件を飲み、目的を達成するまで……その魔法陣は効果を発揮し続けるのさ」

 得意げな表情で、契約書の仕様を説明するバグラディ。

「……破ったらどうなる?」

「お前の身体が一瞬で消し炭と化す」

「こりゃまた大層な魔法で。……で、筆記用具は?筆とかペンとか、そういうの無いワケ?」

「ハ?お前が用意して来るんだろうが。俺は条件さえ飲めば、この女を解放してやるっつってんだよォ。お前が用意するんだよ、こういう時は」

「あー、ごめんごめん。じゃ、貸して」

「無いから言ってんだ……あ、あった。ホラ、ペン貸してやるから、早く名前を書けや」

「……チッ。えーっと、あっ、ペン落としちゃった」

「何やってんだァ!拾って来い!」

「あーハイハイ、スンマセンスンマセン。……あれ、この辺だったっけな。ここでもない、ここでもない……」

「早くしろォ!コイツがどうなっても良いのかァ!」

 バグラディは痺れを切らしてきたのか、ペンを探す俺を怒鳴りつける。

「ダメだから今探してるんだろうが。こっちは契約書にサインする気はあるっつってんだ、落としたペンを探すのも待てないのか?器が小さいなぁ」

「いいから早くしろっつってんだァ!」

「うーんと、えー……っと……。ああ、あった!これだよな、ペンって」

「それだから早く名前を書けェ!」

「分かった、分かったって……そう怒んなよ。……あれ、ジィンってどう書くんだっけ」

「ンンンン!!!」

 バグラディのイライラは最高潮に達したようである。
 とうとうガラテヤ様の首元にナイフを突き立て始めた。

「参ったなあ。俺、実は異国の出身でさ……この国の文字、実は全部覚え切れてるか怪しいんだわ」

「あと五つ数える内に書け!さもないと、この女は殺す!そしてその次は、お前も一緒にあの世へ連れて行ってやるぞッ!」

 嘘は言っていない。
 俺はソドム出身で、最も長く滞在しているのは日本だ。

「……へー。あ、そろそろ時間稼ぎ終わりかなー。……いいの?そんな事言って」

「ハァ?」

「あと三つ数える内に、ガラテヤ様から離れろ。さもないと酷い目に遭う」

「何言ってんだ?気でも狂ったかァ?」

「これは予言だ。マジの予言。ほら数えるぞ、三、二、一」

「決めた!もう決めた!ガラテヤ・モネ・ベルメリア!まず、お前を殺すッ!その次にジィン!お前も殺す!うおああああああああああああァァァァ!」

 突き立てられたナイフが、勢いをつけてガラテヤ様の首元へ三寸の距離まで迫る。

「ゼロ」

 しかし俺がカウントダウンを終えると同時に、ナイフが握られたバグラディの右手を、俺が山頂の看板を見た際に放った風を纏う矢が貫いた。

「はっ、ガァァァァァァァ!?」

「だから言ったんだ。酷い目に遭うって」

「き、貴様ァァァァ!」

 拳に炎を纏い、バグラディはこちらへ向かって来る。

「【駆ける風】!」

「は、速い……!」

「風牙の太刀……『蜘蛛手くもで』を応用した、更なる風の洗礼……。喰らえ。【女郎蜘蛛じょろうぐも】!!!」

 しかし、俺は後退しながら風を纏った刃を「蜘蛛手くもで」よりも多く、そして激しく、他方向から飛ばした。

「ぐォッ、オオオオオオオオッ!?」

「フゥ……。そして、本番はこれからだ。俺がこの一日で、僅か一日の間に溜め切った怒りを……全てぶつけてやる」

「ハァ、ハァ……!許さねェ、許すものかァァァ……!【戦終せんしゅう……!」

 これより繰り出すは、「風車」を改良した、新たなる剣技。

 風を超えた霊の力を剣に込め、回転しながら、巨大な魔力の螺旋を描く。

「奥義……【曲威裂くるいざき】」

「……ァ……ガ」

 魔力を纏った刃が、回転と共にバグラディの全身を抉る。

 両腕、両足、胴体、頭部。
 急所はあえて外しつつ、それ以外の全てを抉り取りながら、俺自身は懐深くへ潜り込んでいく。

「これで終わりだ。もういっぺん頭冷やしとけ、盲目カス野郎」

「ア……」

 そして一撃、みぞおちに魔力を纏った拳を叩き込み、その勢いで顎までを突き上げた。

 その勢いで吹き飛び、バグラディは山頂から、メイラークム男爵邸の方へと転げ落ちていく。

 そこで、後をつけていたらしいメイラークム先生とムーア先生、そしてマーズさんとファーリちゃんがバグラディを受け止め、すぐさま拘束具でその身を捕縛。

「『バグラディ・ガレア』。貴様を、誘拐罪と傷害罪、殺人未遂……その他諸々の疑いで現行犯逮捕、拘束する。これは元王国騎士たる、私の権限だ。……ジィン君、よくやってくれた。君とはやはり、いずれ手合わせしてみたいものだな」

 この世界の法律は、どうやらしっかりしているらしい。
 そしてムーア先生による速やかな拘束、やはり流石である。

「ま、またいつか、別日でお願いします……それと、ガラテヤ様をよろしく……ぐは」

 しかし、よほど無理をしたのか。
 俺はその場で倒れ込み、全身を蝕む痛みに意識を持って行かれてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

領地育成ゲームの弱小貴族 ~底辺から前世の知識で国強くしてたらハーレムできてた~

黒おーじ
ファンタジー
16歳で弱小領地を継いだ俺には前世の記憶があった。ここは剣と魔法の領地育成系シュミレーションゲームに似た世界。700人の領民へ『ジョブ』を与え、掘削や建設の指令を出し、魔境や隣の領土を攻めたり、王都警護の女騎士やエルフの長を妻にしたりと領地繁栄に努めた。成長していく産業、兵力、魔法、資源……やがて弱小とバカにされていた辺境ダダリは王国の一大勢力へと上り詰めていく。 ※ハーレム要素は無自覚とかヌルいことせずにガチ。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

杜の国の王〜この子を守るためならなんだって〜

メロのん
ファンタジー
 最愛の母が死んだ。悲しみに明け暮れるウカノは、もう1度母に会いたいと奇跡を可能にする魔法を発動する。しかし魔法が発動したそこにいたのは母ではなく不思議な生き物であった。  幼少期より家の中で立場の悪かったウカノはこれをきっかけに、今まで国が何度も探索に失敗した未知の森へと進む。  そこは圧倒的強者たちによる弱肉強食が繰り広げられる魔境であった。そんな場所でなんとか生きていくウカノたち。  森の中で成長していき、そしてどのように生きていくのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

処理中です...