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第四章 爆発

第三十五話 不変なるもの

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「これが、転生の秘密……それとついでに明かした、世界の秘密だよ」

 クダリ仙人はそう言って、再び俺の目と鼻の先まで迫る。

「そ、そうですか、それとちょっと近いです」

「あ、ごめんね。パーソナルスペースだっけ?そういうの遠い感じ?」

「クダリさんが近過ぎるだけです」

 俺は数歩引き、改めて問い直した。

「……つまり、俺が転生したのは五つ全部の前世に未練があったからで」

「うん」

「でも、今まで生きてきた世界は完成したから、まだ完成してないこの世界に転生したと」

「そうそう」

「で、クダリさんは全部の世界を観測してる神様で、ゲームプレイヤーのように降りてきては、俺みたいに転生経験者を対象に世界の満足度調査をしていると、そういうことですか?」

「ほぼ正解。一つ間違えてるのが、私は神の別の姿ってことくらいかな」

「ややこしや」

「別人格だと思ってもらえればいいヨ」

「は、はぁ」

 今日はやけに頭がこんがらがる日だ。

 しかし今、本当に高位の存在と話しているのであれば、それも当然のことだろう。
 むしろ、よく頭がこんがらがるくらいで済んでいるものだ。

「ところで、肝心なところを聞き忘れてたヨ。……君は今、幸せですか?」

「インターホン鳴ったら扉の前にいるおばちゃん?」

「誤解を招くような発言を訂正させてもらうヨ。君の身の上話をしてもらったのはいいんだけどネ、肝心の満足度調査を忘れてたと思って。……ま、私の主人格が君にロクな人生を提供できたかは、ぶっちゃけ自信ないんだけどネ」

「うーん……。一回目は本当に未練もへったくれもないくらいの死に方しましたけど……二回目の人生で教わった風牙流も、三回目の人生で覚えた戦争の恐ろしさも、四回目の人生で出会った尊姉ちゃんも……結果的に今、大切な俺の力になってるので……。結果としては今、幸せですよ。五回目の人生をくれてありがとうございます、神様」

 俺は確かに望まない死に方をして、その命に未練が無いわけではない。

 しかし俺は今、前世以前の記憶を活かして、大好きな尊姉ちゃんもといガラテヤ様と一緒に生きることができている。

 ガラテヤ様がいる限り、俺は幸せだ。
 だから今の俺は、とても幸せなのだ。

「……その言葉が聞けて嬉しいよ。こちらこそ、私の世界で幸せになってくれてありがとう」

 クダリ仙人はそう言うと、指先から何か光のようなものを俺に放ち、その光は俺の胸に収まって消えていく。

「今のは何ですか?」

「君は一回目の人生で、数少ない『巻き込まれた人』だった。あの街に正しい人が十人でもいれば、私の主人格はあの街を滅ぼさないつもりだったからネ。でも、結果としてあの街は滅びた。君が受けた最初の命は、片手の指で数えられる……どころか、滅びた原因ではないたった一人の人間だったんだよ」

 ソドムにて、滅んだ人間達。
 彼らは我が身可愛さに囚われ、奪い合い、殺し合った。

 しかし、あの街にいながらそれを知らなかった、たった一人の少年。

 それが、かつての俺だった……ということらしい。
 かなり昔のことであるため、身に覚えはないが……どうやら昔から変わらない俺の生き方は、当時にしては良識がある部類に入るものだったらしい。

「……なるほど?」

「だから、ちょっとオマケ」

「オマケですか」

「そう、オマケ。といっても、大魔法にも等しい力連発してを使えるとか、真理が解るとか、そんな大層なものではないけど」

「そうですか……まあ元々、そんなものがあるとは思ってなかったものなので……頂けるだけありがたいです」

「なら良かった。私が今、君に渡したオマケは……『君が持つ力の秘密が解る鍵』だよ」

「鍵?」

「そう、鍵。君が使う力は、ただの風じゃない。それは分かってるでしょ?」

「火封じ喰らっても効かなかった時のこと言ってます?」

「そうそう。だから……時が来れば、それが理解るようになるカギをプレゼントしたんだヨ」

「……非常に言いにくいんですけど……何のこっちゃって感じです」

「君が『そのこと』を知るのに相応しい時が来た時に閲覧できるように設定したビデオメッセージ。これで分かる?」

「なるほど、実感はありませんけど何となく分かりました」

 とりあえず時を待て、ということだろう。
 その鍵とやらが何なのかは、いずれの楽しみにしておくとしよう。

「あ、でも、その力が何なのか判明して、さらに理解できたとしても……過信しないことだヨ?パワーアップさせた訳じゃあないんだからネ」

「覚えておきます」

「ウム、素直でよろしい。じゃ、私はこれで失礼するヨ。まだまだやることはいっぱいあるからね」

「神様ですもんね。今日はありがとうございました」

「いやいや、いいんだヨ」

「あ、でも……最後に一つ、お願いしてもいいですか?」

「何?」

「帰り道、教えてください……。俺、導かれるままに来たので……道を全然覚えてなくて」

「ああ。なら、光の霧で道を作っておくから……それを辿れば君がいた屋敷に戻れるはずだヨ」

「ありがとうございます、クダリさん」

「じゃあ、これで本当にさよならだ」

「さようなら!」

 俺は霧の向こう側へ消え去っていくクダリさんを見送って、それから飛び回る無数のホタルが案内する道を辿り、男爵家へと戻る。

「あら、ジィン。朝の散歩?奇遇ね」

「ガラテヤ様。あれ、もう朝ですか」

 そして山を下りた頃には、すっかり夜が明けていた。

 目の前にはガラテヤ様。
 朝の散歩に出かけていたらしい。

 俺はガラテヤ様と並び、屋敷まで残り短い道を歩く。

「山で何か見つけたの?」

「どうしたの姉ちゃん?藪から棒に」

「顔つきが変わったと思って」

「……山の中で、仙人に会ったんだ。そしたら、俺の転生の話とか世界の秘密とか知ってて……代わりに、俺は人生の満足度調査に協力して……。そしたら、ついでに俺の力のことがわかる鍵をくれたらしいよ」

「うーんと?よく分からないけど、すごい人に会ったんだね」

「そうなんですよ。俺もまだ実感無いんだけど……あの人がデタラメを言っているようには見えなかった」

「……そう。私にはよく理解できなさそうだけど……その体験は、きっと大切なものだと思う」

「うん。俺もそう思う」

 そして俺は、しばし尊姉ちゃんモードなガラテヤ様と手を繋いで歩いた。

 あの体験は夢か現か、今となってはよく分からない。
 神秘とは、往々にして忘れ去られるものであると、お坊さんから聞いたことがある。

 しかし、あのクダリ仙人と話した経験は、もし夢だったとしても、確かに脳に刻み込まれている。
 それだけは、確かなのだ。
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