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第三章 変わったこと

幕間 足音

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 これはファーリちゃんが編入するよりも前、猟兵団「獣道」を巡る戦いから数日後。

「いってててててててててて……ごめん、姉ちゃん……。俺、騎士なのに」

 レイティルさんとの戦いで無理をしたツケを払うように、見事なまでにベッドから起き上がることができなくなってしまった俺は、前世のように、ガラテヤ様に面倒をみてもらっていた。

「いいんだよ、大和くん。それよりも……大丈夫?遠くから馬車で見てたけど……相当エグい無茶してたでしょ」

「全身が魂ごと弾け飛ぶかと思った」

「やっぱり……。もう、あんな無理しちゃダメだよ?お姉ちゃんとの約束」

「……気をつける。ありがとう、姉ちゃん」

 俺は、ガラテヤ様もとい尊姉ちゃんが差し出した前世よりも小さな小指に自身の小指を絡めて約束の指切りをする。

「じゃあ、また後で来るね」

「うん、お願い」

 ガラテヤ様は、いつも通り男子寮の廊下……ではなく、窓から飛び降りて部屋を出ていく。

「ほっ!」

「じゃ、じゃあね……。………………ゲホォッ!ガハァッ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホッゲホッ!ゲホッ!ガァァァァァァァッ!ゲホッ!ゲホォォォッ!」

 それと同時に、俺は今まで我慢していた咳を全て吐き出した。

 肺、気管、喉、全てが痛む。

 風牙流が流行らなかったのはこれが原因なのだろう、それにしても相変わらず酷い反動である。

 ベッドから起き上がろうにも、全身が軋んで動こうとする度に激痛が走る。

 肉体の隅々、魂から湧き出る力までもを武器や弾丸として放つ攻撃。
 王国直属の騎士団、その第七部隊長を倒すほどの攻撃。
 その代償は、やはり相応ではあったようだが……まさか、これ程までとは。

 一方でマーズさん曰く、レイティルさんはあの心身を削りに削った攻撃を食らっておいて本当に気絶していただけであったらしく、今ではすっかりピンピンしているようだ。
 恐るべし、部隊長。

 俺はサイドテーブルに置いていたリンゴをかじりながら、休んでいた必修の講義でガラテヤ様がとっておいてくれていたノートを読んでいた。

 どうやら今日の午前中に行われたシータ先生の講義で、火封じが効かない正体不明の風の魔法使いとして、レイティルさんが報告した俺……もとい「風の悪魔」についての話が出たらしい。

 自分について語られている講義、出席してみたいものではあったが……。

 その話は、順調に怖い話としても広まってしまっているようで。

「ファヴァーダ平原、閉鎖だってよォ」

「風のバケモンが出たって噂だぜェ?」

「ウヒョーッ!怖えなァ」

 窓の外でも、男子学生同士が喋っている。

「……しばらく、モザイク……どころか『不可知槍』は使えないな」

 俺はガラテヤ様のノートをサイドテーブルへ戻し、頭を軽く抱えた後、またしばらくの眠りにつくのであった。
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