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第二章 駆け出し冒険者、兼、学生
第十二話 学園へようこそ
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二時間後。
長い長い学長の話を眠らずに何とか耐え、更に何人ものゲストにより繰り広げられる自分語りを経て、グダグダと続く入学式を無事に終えた俺達は早速、男女に分けられた寮へ案内される運びとなった。
「ふぁぁ……疲れた」
「有り得ない……これでは入学式ではなくトークショーではないか」
全くもっておっしゃる通りである。
講堂から男子寮へと案内されている間、ロディアはずっと溶けたようにぐったりと背を曲げて歩いていた。
そして、歩くこと数分。
そこには、ビッグ・ベンで有名なイギリスの国会議事堂ことウェストミンスター宮殿をそのまま一回り大きくしたような建物があった。
「到着しました!こちらが、これから貴方達が四年間を過ごす寮ですよ!」
「これまた荘厳な」
「へぇ……一部屋だけで、もう僕の実家よりはるかに広そうだね」
「実家……狭いんだ……」
「貧困とまではいかなくとも、あまり裕福な家庭の出身ではないからねぇ。騎士様が羨ましいよ。ベルメリア卿の屋敷、広いんでしょ?」
「広いね。かなり広い。……でも俺だって騎士になる前は、村の嫌われ者だったからね。その時の家に比べたら、この寮は信じられないくらい大きいよ」
「……何か君、会話の端々からそういう雰囲気は感じてたけど……結構な人生を送っているみたいだね?」
「うん。親の事情で、色々あってさ」
「ふぅん。ま、今日会ったばかりの僕に、そういうヘビーな話を聞かせろって言う資格は無いと思うから……気が向いたら聞かせてよ」
「ああ。その内、ね」
そして俺達は寮内へ入り、食堂や浴室など一通りの施設について説明を受けた後、それぞれに割り当てられた部屋へと案内されることとなった。
学生寮にしては珍しく、自由と平等が理念であるが故に個人主義を重視した結果なのか、相部屋ではなく、部屋自体は小さいものの、壁が厚い石造りの部屋を一人で一つ使えるという贅沢仕様。
王都の貧民街出身の学生が「実家より良い生活環境を求めて、さらに資格もオマケで付いてくる」という感覚で寮へ入るケースが普通にあるとは聞いていたが、なるほど、これは確かに広さ以外はありがたい部屋である。
さらに運良く俺は角部屋、そして右隣はロディアの部屋であったため、隣人とのトラブルも無さそうで一安心。
こういった冒険者を育てる環境は、殆どが国によって整備されたものである。
……就業支援の対象となるものが、文明や風土の関係でたまたま冒険者であっただけなのだろうが……一大事業として、国の見込み以上に冒険者達は成果を上げているようであり、ロジーナさん曰く、下手な領主よりも冒険者に関わるお偉いは金持ちなのだそうだ。
「……ふぅ」
俺は一息つき、窓から外を眺める。
「姉ちゃん、大丈夫かな……」
一方その頃。
「ガラテヤ様、あの騎士の人とはどういったご関係なの?」
「いいお話が聞けると思って、試験の時から目を付けてたのよー!入学試験の時、やけに仲が良さそうだったじゃない!どうなの、ねぇ、ねぇ!」
「聞かせて頂戴よー!」
「え、えと……幼馴染……かしらね」
「「「あーもう焦れったいですわねー!」」」
「人の人間関係を焦れったいって言うなぁー!」
ガラテヤ様こと「私」は、入寮初日にして「ガラテヤお嬢様」としてのベールが剥がれ、すっかり「尊姉ちゃん」としての喋り方を露にしてしまっていた。
「あら、気に障ったかしら」
「ごめんなさいね、そんなつもりは無かったの」
「また何か進展があったら話して頂戴!」
「もう、何なんだよぉ……。ただの姉弟……なんて言えないしなぁ……。あっ、そういえばさっき口調崩れてたかも……?ヴ、ヴン!!で、ですわ!」
大きな咳払いを挟んで、口調を直す。
「……やれやれ、大変だな。貴族様は早速質問攻めか。どうせ君と隣にいた騎士との関係でも聞かれていたのだろう?」
それとほぼ同時に、入学式の直前に講堂で友達になった「マーズ・バーン・ロックスティラ」という、肉体だけでいえば「お姉さん」にあたる十八歳の少女が、人混みをかき分けて現れた。
「その通りよ……。マーズは?」
「私も、色々聞かれたよ。『可愛らしいと思う女の子はどんな子か』とか、『女の子との恋愛はアリか』とか」
彼女の両親が王国政府直属の騎士団に所属するであるためか、その家の次女であるマーズ本人もその「武人的な家の性格」からは逃れることはできなかったらしく、結果として今まさに、彼女自身は無自覚でありながらイケメン女子としての頭角を現しに現してしまっているようである。
「想像通り過ぎるわね」
「そう、なのか?」
「女子寮でのカッコいい女騎士っていうのはそういう役回りになりがちなのよ」
「……どういうことだ?」
「女子寮は女の子しかいない空間。登校中はともかく、私達は、『素の自分』を出しがちな寮で過ごす自由時間は、ほとんど女子としか交流をしないという環境に置かれているわよね?」
「ああ、そうだな」
「そして素に近い自分で在る環境に、男の子はいない。カッコいい男の子が見当たらないどころかそもそも滅多に居る訳がない環境に、男勝りで、なんなら下手なイケメンよりもカッコいい貴方が居たら……ね?」
「ああ……あ、ああ……な、なるほど……何というか、それは……照れるな。期待に応えることは出来なさそうだが、嬉しくないと言えば嘘になるだろうな。そうか、私……カッコいい、のか……」
「ふふっ。これから四年間、大変でしょうね。主にそっち方面で」
「はは……これは困った事になったな」
そんな前途多難な寮生活を前にしている友人を連れて、私は食堂へ向かう。
そして、そこで注文した山盛りのマッシュポテト……のようなものを完食し、この学校で初めての友人に「騎士でもこんなに食べる人は珍しい」とドン引きされたのであった。
長い長い学長の話を眠らずに何とか耐え、更に何人ものゲストにより繰り広げられる自分語りを経て、グダグダと続く入学式を無事に終えた俺達は早速、男女に分けられた寮へ案内される運びとなった。
「ふぁぁ……疲れた」
「有り得ない……これでは入学式ではなくトークショーではないか」
全くもっておっしゃる通りである。
講堂から男子寮へと案内されている間、ロディアはずっと溶けたようにぐったりと背を曲げて歩いていた。
そして、歩くこと数分。
そこには、ビッグ・ベンで有名なイギリスの国会議事堂ことウェストミンスター宮殿をそのまま一回り大きくしたような建物があった。
「到着しました!こちらが、これから貴方達が四年間を過ごす寮ですよ!」
「これまた荘厳な」
「へぇ……一部屋だけで、もう僕の実家よりはるかに広そうだね」
「実家……狭いんだ……」
「貧困とまではいかなくとも、あまり裕福な家庭の出身ではないからねぇ。騎士様が羨ましいよ。ベルメリア卿の屋敷、広いんでしょ?」
「広いね。かなり広い。……でも俺だって騎士になる前は、村の嫌われ者だったからね。その時の家に比べたら、この寮は信じられないくらい大きいよ」
「……何か君、会話の端々からそういう雰囲気は感じてたけど……結構な人生を送っているみたいだね?」
「うん。親の事情で、色々あってさ」
「ふぅん。ま、今日会ったばかりの僕に、そういうヘビーな話を聞かせろって言う資格は無いと思うから……気が向いたら聞かせてよ」
「ああ。その内、ね」
そして俺達は寮内へ入り、食堂や浴室など一通りの施設について説明を受けた後、それぞれに割り当てられた部屋へと案内されることとなった。
学生寮にしては珍しく、自由と平等が理念であるが故に個人主義を重視した結果なのか、相部屋ではなく、部屋自体は小さいものの、壁が厚い石造りの部屋を一人で一つ使えるという贅沢仕様。
王都の貧民街出身の学生が「実家より良い生活環境を求めて、さらに資格もオマケで付いてくる」という感覚で寮へ入るケースが普通にあるとは聞いていたが、なるほど、これは確かに広さ以外はありがたい部屋である。
さらに運良く俺は角部屋、そして右隣はロディアの部屋であったため、隣人とのトラブルも無さそうで一安心。
こういった冒険者を育てる環境は、殆どが国によって整備されたものである。
……就業支援の対象となるものが、文明や風土の関係でたまたま冒険者であっただけなのだろうが……一大事業として、国の見込み以上に冒険者達は成果を上げているようであり、ロジーナさん曰く、下手な領主よりも冒険者に関わるお偉いは金持ちなのだそうだ。
「……ふぅ」
俺は一息つき、窓から外を眺める。
「姉ちゃん、大丈夫かな……」
一方その頃。
「ガラテヤ様、あの騎士の人とはどういったご関係なの?」
「いいお話が聞けると思って、試験の時から目を付けてたのよー!入学試験の時、やけに仲が良さそうだったじゃない!どうなの、ねぇ、ねぇ!」
「聞かせて頂戴よー!」
「え、えと……幼馴染……かしらね」
「「「あーもう焦れったいですわねー!」」」
「人の人間関係を焦れったいって言うなぁー!」
ガラテヤ様こと「私」は、入寮初日にして「ガラテヤお嬢様」としてのベールが剥がれ、すっかり「尊姉ちゃん」としての喋り方を露にしてしまっていた。
「あら、気に障ったかしら」
「ごめんなさいね、そんなつもりは無かったの」
「また何か進展があったら話して頂戴!」
「もう、何なんだよぉ……。ただの姉弟……なんて言えないしなぁ……。あっ、そういえばさっき口調崩れてたかも……?ヴ、ヴン!!で、ですわ!」
大きな咳払いを挟んで、口調を直す。
「……やれやれ、大変だな。貴族様は早速質問攻めか。どうせ君と隣にいた騎士との関係でも聞かれていたのだろう?」
それとほぼ同時に、入学式の直前に講堂で友達になった「マーズ・バーン・ロックスティラ」という、肉体だけでいえば「お姉さん」にあたる十八歳の少女が、人混みをかき分けて現れた。
「その通りよ……。マーズは?」
「私も、色々聞かれたよ。『可愛らしいと思う女の子はどんな子か』とか、『女の子との恋愛はアリか』とか」
彼女の両親が王国政府直属の騎士団に所属するであるためか、その家の次女であるマーズ本人もその「武人的な家の性格」からは逃れることはできなかったらしく、結果として今まさに、彼女自身は無自覚でありながらイケメン女子としての頭角を現しに現してしまっているようである。
「想像通り過ぎるわね」
「そう、なのか?」
「女子寮でのカッコいい女騎士っていうのはそういう役回りになりがちなのよ」
「……どういうことだ?」
「女子寮は女の子しかいない空間。登校中はともかく、私達は、『素の自分』を出しがちな寮で過ごす自由時間は、ほとんど女子としか交流をしないという環境に置かれているわよね?」
「ああ、そうだな」
「そして素に近い自分で在る環境に、男の子はいない。カッコいい男の子が見当たらないどころかそもそも滅多に居る訳がない環境に、男勝りで、なんなら下手なイケメンよりもカッコいい貴方が居たら……ね?」
「ああ……あ、ああ……な、なるほど……何というか、それは……照れるな。期待に応えることは出来なさそうだが、嬉しくないと言えば嘘になるだろうな。そうか、私……カッコいい、のか……」
「ふふっ。これから四年間、大変でしょうね。主にそっち方面で」
「はは……これは困った事になったな」
そんな前途多難な寮生活を前にしている友人を連れて、私は食堂へ向かう。
そして、そこで注文した山盛りのマッシュポテト……のようなものを完食し、この学校で初めての友人に「騎士でもこんなに食べる人は珍しい」とドン引きされたのであった。
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