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「私が相手だと嫌だっただろうか……」

「だーっはっはっは! なんだ、本人の了承も取っておらんのかお前は!」

 しょげかえるユウリ様と、そんなわが子バシバシと叩きながら笑う女王様。

「……嫌だなんてことはない、です」

 これ以上場がややこしくならぬよう、返事だけは素早く返す。

「どこのお嬢さんだか知らないが、本当にこんなヤツでいいのか?」

 ケラケラと笑っていた女王様の青い瞳が、私の方をじっと見つめてくる。
 その瞳の中で私が、私の事を見つめ返してきた。

「……むしろ私なんかで、いいんでしょうか」

 私がユウリ様へ視線を変えながらそう言うと、女王様と同じ青い瞳が力強く瞬き、

「キミじゃなきゃ、ダメなんだ」

 そう言葉が返ってきた。

「……たったあれくらいのことが、決め手で?」

「キミにとってはあれくらい、なのだろうが。多くの者にとってはそうではないのだ」

「……そう、でしょうか」

「少なくとも、人混みから逃げるために変装した私を気に掛けるものなどいなかった」

 次第に熱を帯びながら、ユウリ様が私の言葉へ答えを返してくる。

「……っ!」

 そこに一息ついたところで、声に籠る熱量に負けず劣らずの力強さで両の手がギュッと握られた。

「キミさえよければこの話、受けてはくれないだろうか」

「……私なんかで、よければ」

 ユウリ様の瞳は不思議な力を持っている。
 人の目を見るのが苦手な私でも、不思議と視線を逸らす事が出来ない。
 まるで何か魔法のような力すら感じるほどに。

「コラ、女の子にそんな迫り方をしたらダメだろう」

 女王様に引きはがされる形でユウリ様が離れるまで、私の目はユウリ様の瞳に釘付けだった。

「とりあえず、お前は落ち着きなさい。その間に私はこの子と少し話をしておくから」

 言いながら女王様は腰かけて、ユウリ様へはドアの方を指差して促す。

「む……分かりました」

 渋々といった様子で部屋を去るユウリ様を見送ってから、女王様がこちらの方へ向き直った。

「そう畏まらなくてもいいよ。未来の娘かもしれないんだし」

 女王様は私の事を上から下まで流し見しながら小さく笑う。

「……その、ユウリ様はあのように仰って、いましたが」

「うん」

「……本当に問題、ないのでしょうか」

 先ほどユウリ様にした質問を、女王様にも同じように投げかけてみる。

「そうだねぇ……あの子、今までどれだけ機会を設けても逃げ出すばかりだったから」

 女王様はそこで一旦小さく息を吐くと、

「とりあえず、女の子に興味がないわけじゃなかったと分かって一安心かな」

 そう言ってまたケラケラと笑った。 
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