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「あの、王子……その娘が、何か?」

 今まで私の前では常に高圧的な態度を崩さなかった義母も、さすがに王子の前ともなるといつもの様子が見る陰もない。
 義妹もそんな母の姿を察してか、その背に隠れて出方をうかがっている。

「この者は私の恩人だ。丁重にお礼がしたい」

 王子が放った一言があまりにも予想外だったのか、義母は目を丸くして唖然としたまま固まってしまった。

「……恩人だなんて、私はなにも」

 匿ったことに対してなのか、それともお守りの事についてなのか。
 どちらの事にしても、わざわざお礼を言いに来るようなことではなかったことのように思ったが。

「あの格好の私に、手を差し伸べてくれる者はキミ以外にいなかった。

 どうやらそうでもなかったらしい。

「そうだ、名乗るのがまだだったな……私はユウリ、一応、この国の第一王子だ」

 ユウリ様はそう言いながら、私の方へ歩み寄り手を伸ばす。

「私は……リリ、と申します」

 そんなユウリ様へ合わせるように、別に聞かれてもいない名を返しながら自然とその手を取った。

「……っ」

 立ち上がった瞬間、不意に身体から力が抜けるのを感じる。
 よろけた所をユウリ様に受け止められるのと同時に、くぅと小さくお腹が鳴った。
 そうなって、昨日からほぼ丸一日何も食べていなかったことを思い出す。

「……これはお礼のし甲斐がありそうだ」

「……?」

 そんな足元のおぼつかない私を見かねたのか、ユウリ様が私の身体を優しく抱きかかえた。
 ふわりと浮かび上がる視界の端で、明らかな敵意をむき出した視線を二つ感じたような気がしたが。

(……まるで、おとぎ話のお姫様になったみたい)

 今の私には正直、どうでもいい事で。
 そのままあれよあれよという間に私は抱きかかえられたまま馬車に乗せられ、抱きかかえられたまま馬車に揺られ、抱きかかえられたまま見知らぬ場所へと連れてこられた。

「……あの、ユウリ様」

「む?」

 当然、そんな状態だと悪目立ちもいいところなわけで。

「……自分で歩けますので、その」

 それとなく降ろしてもらえないかと聞いてみるも。

「これも礼の一部だからな」

 などと答えにならない答えではぐらかされてしまった。

「まずは食事……いや、女性ならそれよりもまず……?」

 何やらブツブツと呟き始めたユウリ様にこれ以上声を掛けても邪魔になるだけな気がして。
 成り行きに身を任せていると、ユウリ様はどこかの部屋をバンと開き、そこでやっと解放してくれた。
 どうやらここは使用人の控室らしく、突然の来訪に気を緩めていた使用人と思しき人たちが立ち上がりこちらへ向き直ったのが見えた。
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