18 / 19
18 まさかの人物
しおりを挟む
「オードブルでございます」
ほどなくして前菜が運ばれてくると、そこからゆっくりコースの進行が始まった。
順番に並べられていく、見るからに高級な食材を使った華やかな料理たち。
「……ふむ」
(……うん、おいしい)
このランクの料理と私が普段作っている料理が比べられていると思うと。
元々比べられるほどの土俵にないとはいえ、やはり気が気でなくなってしまう。
その後も「うむ」とか「ふむ」とか言いながら食事は進み、気づけばデザートまで完食していた。
さすがにここまで歴然とした差があれば、味音痴疑惑のアルス様でもはっきりと分かるのではないか。
「美味しかったですね、アルス様」
あえてここは自分から、言うまでもない事とは分かりながらも切り出してみる。
「そうか、それはよかった」
色々想定して身構えていたが、アルス様からの返答は実に他人事のような感じで。
この調子だと本当に、味の付いているものであればなんでも美味しいとおっしゃられるつもりなのかもしれない。
「受付の無礼がなければ、もっとよかったのだがな」
「お言葉ですが、あれは無礼ではなく当然の対応かと……」
などと他愛もない話をしていた私たちの背に、
「スターチスッ!」
突然、大きな声が投げかけられた。
私は聞き覚えのあるその声に、思わず背後を振り返る。
「レイド……様?」
「おお、やはり見間違いではなかったか!こんなところにいたのかスターチス」
あれだけ堂々と言い放った婚約破棄などまるでなかったことかのように、馴れ馴れしく親しげに話しかけてくるレイド様。
少々げんなりされているようにも見えるが、いったい何があったのだろう。
「やはりキミでないとダメなんだ。私の元へ戻ってきてはくれないか」
「……どういうことですか?」
「あぁ、実はな……」
レイド様はやたら仰々しい身振りと手振りでなにやら長々と語っていたが、つまりは要約すると。
私が去った後、新しい婚約者は我儘放題で長続きせず。
屋敷の仕事を任せた使用人たちは十分に働かず。
にっちもさっちもいかなくなったので私を探していた、ということらしい。
(それ、私である必要あるのだろうか……)
レイド様の傍若無人ぶりを許容してくれて、屋敷の仕事も任せられる人物であれば誰でもよさそうな気がするが。
口ぶりからすると、新しく探すよりも手っ取り早いから私を探していたということなのだろう。
それでも、以前の私であれば。
他に行く当てもないからと、適当な理由で自分を納得させて話を受けていたかもしれない。
(……だけど、今は)
ほどなくして前菜が運ばれてくると、そこからゆっくりコースの進行が始まった。
順番に並べられていく、見るからに高級な食材を使った華やかな料理たち。
「……ふむ」
(……うん、おいしい)
このランクの料理と私が普段作っている料理が比べられていると思うと。
元々比べられるほどの土俵にないとはいえ、やはり気が気でなくなってしまう。
その後も「うむ」とか「ふむ」とか言いながら食事は進み、気づけばデザートまで完食していた。
さすがにここまで歴然とした差があれば、味音痴疑惑のアルス様でもはっきりと分かるのではないか。
「美味しかったですね、アルス様」
あえてここは自分から、言うまでもない事とは分かりながらも切り出してみる。
「そうか、それはよかった」
色々想定して身構えていたが、アルス様からの返答は実に他人事のような感じで。
この調子だと本当に、味の付いているものであればなんでも美味しいとおっしゃられるつもりなのかもしれない。
「受付の無礼がなければ、もっとよかったのだがな」
「お言葉ですが、あれは無礼ではなく当然の対応かと……」
などと他愛もない話をしていた私たちの背に、
「スターチスッ!」
突然、大きな声が投げかけられた。
私は聞き覚えのあるその声に、思わず背後を振り返る。
「レイド……様?」
「おお、やはり見間違いではなかったか!こんなところにいたのかスターチス」
あれだけ堂々と言い放った婚約破棄などまるでなかったことかのように、馴れ馴れしく親しげに話しかけてくるレイド様。
少々げんなりされているようにも見えるが、いったい何があったのだろう。
「やはりキミでないとダメなんだ。私の元へ戻ってきてはくれないか」
「……どういうことですか?」
「あぁ、実はな……」
レイド様はやたら仰々しい身振りと手振りでなにやら長々と語っていたが、つまりは要約すると。
私が去った後、新しい婚約者は我儘放題で長続きせず。
屋敷の仕事を任せた使用人たちは十分に働かず。
にっちもさっちもいかなくなったので私を探していた、ということらしい。
(それ、私である必要あるのだろうか……)
レイド様の傍若無人ぶりを許容してくれて、屋敷の仕事も任せられる人物であれば誰でもよさそうな気がするが。
口ぶりからすると、新しく探すよりも手っ取り早いから私を探していたということなのだろう。
それでも、以前の私であれば。
他に行く当てもないからと、適当な理由で自分を納得させて話を受けていたかもしれない。
(……だけど、今は)
11
お気に入りに追加
1,219
あなたにおすすめの小説
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

この愛だけは運命で永遠だから
黒彩セイナ
恋愛
旧華族、安斎家の当主の娘である椿は、妾の子であることから、一族から蔑まれて生きてきった。そんなある雨の日、一人の男性に傘を差し出すと、いきなりキスをされる。戸惑う椿。それから十年の歳月が流れる__。
十年後、椿は大手貿易商会社の営業事務として働き始めるも、会社の上司で、御曹司の隼人に政略結婚を持ちかけられる。一族からの解放を望んでいた椿。何より病気の母を助けるためにも、椿は隼人の求婚を受け入れるが……?
〜人物紹介〜
伊藤椿(いとうつばき)二十四歳
旧華族、安斎家の令嬢。
大手貿易商会社、宝月貿易、営業課所属
病気の母を支える。芯が強い。
宝月隼人(ほうづきはやと)二十八歳
大企業、宝月ホールディングスの次期総帥
傘下である宝月貿易の副社長
無口でクール、ときどき甘い?
望月紫(もちづきゆかり)三十三歳
大病院、望月医科大学病院の御曹司
隼人の幼馴染で、腕の良い外科医
爽やかな好青年

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」



復讐を果たした騎士は破滅の魔女の生まれ変わりと呼ばれる令嬢に出会う
紙條雪平
恋愛
一人の騎士は復讐を果たした。だが、彼がその時感じたのはこれからどうすればいいのだろうか、という感情であった。彼は逃走し、森の中をさまよう。ここに来なければならないというわけのわからない感情のために。彼はそして、一人の令嬢に出会う。破滅の魔女の生まれ変わりとされ、家族からは愛されずにこの森で過ごしていた彼女と。
彼女は家族への復讐を望んでいた。騎士はそれを引き留めようとする。復讐を果たしたもののとして、復讐ほどどうしようもないものはない、と。
主人公視点で一話主人公以外の視点で一話で基本的には構成されております。最後かなりご都合主義のハッピーエンドとなっております。
小説家になろう様のほうにて加筆修正を加えた改稿版を投稿し始めました。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる