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11 スターチスの性分

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 次の日の朝。
 連日通りに朝食を作り、執務室へと運ぶ。
 ここ数日繰り返してきた作業だが、服装が変わったせいかおかげかなんだか身がしまる感じがする。
 黒を基調としたデザインに、身動きを阻害せぬよう最低限でタイトに設計されたフリル。
 平均より少し背の高めな私にもフィットするように作られたそれは、私がここへ来たときに着ていた服よりも上質な素材で作られたもので。
 
(確かにこれほどの物が使われずに埃をかぶっているのは勿体ないな)

 そんな風に思わせるほど造りのよいものだった。

「ふむ、やはり思った通りだな」

 アルス様も同じように思ったのか、皿を運ぶ私の方を見ながらそんな事を仰られる。

「これまでの方は使われなかったんですか」

「替えの服が必要になるほどの期間、続けた者がいなかったからな」

「……なるほど」

 確かにこの屋敷に他の使用人がいないと聞いたとき、正直私も驚いた。
 自賛をしたいわけではないので、その場で帰ってしまう人たちの気持ちも理解はできる。

「だからお前の仕事ぶりには感謝している」

「いえ、私はただ……逃げることなどできぬ身なだけですので」

「そのことが仕事ぶりと何の関係がある?」

「ですから、必要に駆られればこのくらいやるのは普通かと」

 私も学ばないもので、また思った通りをそのまま口にしてしまった。
 私の返答を聞いたアルス様の目が、怪しい光をたたえながらゆっくりと細まる。
 一見すると睨みつけているようにも見えるこの目付きだが、実際のところはいたずらっ子などがときおり見せる不敵な笑みのようなものと同義で。

「なるほど、それは屋敷をこの状態で放置していた私への嫌味というわけか」

 なんてことを言いだす前触れだったりする。

「……そういうつもりでは、なかったのですが」

「ほう、ではどういうつもりだったのだ」

「それは……その」

 やはり返答が思うように出てこない。
 ああ、また手玉に取られてしまっている。

「困るくらいなら最初から素直に言葉を受け取ればよいものを」

「もうしわけ……んんっ」

 喉元まで出かかった言葉を、なんとか飲み込んで。

「なにぶんこれが、性分なもので」

 すんでのところで違うものへと変える。

「性分か、なるほど」

 そんな私の様子を見て、アルス様の目がまた細まった。

「まぁそれはさておき。私はお前の働きぶりに報いたいと思っているのだ」

「……身に余る光栄ではございます、が」

 どれだけの意味があるかは分からないが、出来る限り言葉は慎重に選ぶ。

「給金は十分すぎるほどいただいておりますので、これ以上の必要は」

「これは単純に私の気持ちだ。そういったものは関係ない」

 言葉を選ぶこと自体が無意味だった。

「それでは……食材の買い出しなど、よろしいですか?」

 食料の備蓄はまだまだあるが、そこから思いつくパターンはほぼ出尽くしていて。
 飽きを防ぐ意味では買い出しが必要に思える。

「……ふむ、いいだろう」

「ありがとうございます」

 なぜだか今度は少し呆れたような表情をされているのが気になったが、これ以上面倒事はごめんなのでとりあえず素直に頭を下げておく。
 
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