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第三章 人
最終話
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その言葉に周りの鬼達とナナがどよめくが、大青鬼の「狼狽えるな!」という一喝で辺りは再び静寂に包まれる。
鬼達の視線を一挙に受けながら、あなたは腕組みをすると空を見上げて目を瞑った。
正直、あなた自身には鬼に因縁など感じていないので、別にこのまま無罪放免、としたって構わないのだが、勝負と決めて負けた以上しっかりケジメを付けなければメンツが立たないのだろう。
こんな時祖母なら、と考えかけたあなたはあの時の祖母の顔を思い出してにっと笑うと、一つの提案をする。
あなたの提案を聞いた大青鬼はまるで豆でも食らったような顔でしばらく固まると、
「本当にそれでいいのか?」
と聞き返してきた。
むしろあなたとしては、勝手に決めてよかったのかという気持ちの方が大きかったので、そっくりそのまま言葉を返す。
あなたの返答を聞いた大青鬼はゆっくりと顔を上げると、地に付けていた手の片方をあなたの方へ伸ばし、
「これからはよろしく頼むぞ、後継人」
五本指を広げてあなたの目の前で止めた。
もちろん普通の握手など成立するわけもないので、あなたは手をぐっと伸ばすと大青鬼の指先に軽く触れた。
「本当に面白い奴だ。ナナが惚れるのも合点がいった」
最後に大青鬼が何か言って、ナナがやたら騒いでいたような気がするが、あなたはその言葉を全て聞き終える前に地に伏していた。
「面白い小僧だな。お前達が入れ込むのも分かるというものだ」
「入れ込んでなどおらぬわ、デクの棒」
「そうだ、顔以外は何一つ似ておらぬからな」
「そこがまた面白いのであろう?」
「……ふん」
「ほざけ」
「まぁ、今までの事は忘れてこれからは一つ頼む」
「あやつがそう言ったならば仕方あるまい。その場にいれば物言いしてやったものを」
「私は認めんぞ、ウドの大木」
「がっはっは、いつでも来い」
めいから聞いた話だと、あなたは三日三晩眠り続けていたらしい。
その間にたくさんの異形が見舞いに来て、あなたに、後継人にぜひ顔見せをと騒いで大変だったらしい。
もちろん、寝ていたあなたにはさっぱりだが。
ズキズキと痛む体をなんとか起こして伸びをすると、あなたの腹がぐーっと大きな音を立てる。
「すぐに食事を用意致しますね」
と言い残してめいが立ち去った後、間髪入れずに襖がパーンと開け放たれたかと思うと、朝日を背に着物を着た少女が部屋へと入ってきた。
見たことのある白髪と青肌を持った少女。しかしあなたの記憶にある姿とはいろいろと合致しない少女。
妹か、姉か、と問いかけたあなたへ返答代わりに返ってきたのは、思い切り助走を付けた飛び蹴りだった。
「せっかく心配してきたのに……ばーか!」
逆さまの状態のまま壁に背が付くまで蹴飛ばされたあなたに向かって着物の少女、いや、ナナその人がべーっと舌を出して声を飛ばす。
そしてあなたが体勢を戻して何か言いかえそうとしたところで、ぴゅーっと廊下を走っていってしまった。
あなたは届く筈も無いのに反射的に伸ばしてしまった手でそのまま頭をわしわしと掻くと、大きく欠伸をしながらもう片方の手で伸びをした。
久しぶりに夢を見なかった朝。少し寂しくもあり、清々しくもある。
体の節々をこきこきと鳴らしながら廊下に出たあなたはまぶしい光に目を細めながら、漂ってくるいい香りだけを頼りに歩を進めた。
途中で「ぐおっ」と小さく声が聞こえた気がしたが、気にしないでおく。
「あ、やっと来た!」
「ご飯はどのぐらいお注ぎしましょうか?」
背中から不意打ちを食らわせてきた犬畜生に手刀を叩き込みながら、あなたはめいへ山盛りのジェスチャーを返す。
それを見てめいはふふ、と笑いながらそそくさと台所へ向かった。
お互いに空腹で決め手を欠く取っ組み合いを続けていたあなたとポチの耳に、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
音の正体は居間に繋がる縁側で立ち止まると、ぜぇぜぇと息を吐きながら、
「後継人様、大変です! 親分と狐の大将がまた取っ組み合いを……」
とそこまで言うと今度はごほごほと咳き込む。
あなたはその言葉を聞いてはぁ、と小さく息を吐いてからポチをぺっと庭へ放り投げた。
ころころと転がりながら風を巻き上げ、庭先に着地した時にはあの時の姿になったポチを見上げてから、あなたは振り返ってめいの名を呼んだ。
呼ばれためいが居間へ出てくるより先に、あなたは助走を付けて縁側から飛ぶとポチの首裏へしがみ付く。
「帰りが遅くなったらボクが全部食べちゃうからねー」
にしし、と笑うナナ。
「ワシの朝食を邪魔しおって。さっさと片付けるぞ、小僧」
めいが来るのを待たず、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
だんだんと空へ登って行くポチの背中で、あなたは何とか後ろを振り向くと、
「後継人様、いってらっしゃいませーっ」
見えなくなりそうなあなたへ必死に手を振るめいへ、あなたは手を振り返した。
今はまだ、後継人だとしても。
それでもいつかは、祖母のように。
祖母のいた街で、これからもずっと。
鬼達の視線を一挙に受けながら、あなたは腕組みをすると空を見上げて目を瞑った。
正直、あなた自身には鬼に因縁など感じていないので、別にこのまま無罪放免、としたって構わないのだが、勝負と決めて負けた以上しっかりケジメを付けなければメンツが立たないのだろう。
こんな時祖母なら、と考えかけたあなたはあの時の祖母の顔を思い出してにっと笑うと、一つの提案をする。
あなたの提案を聞いた大青鬼はまるで豆でも食らったような顔でしばらく固まると、
「本当にそれでいいのか?」
と聞き返してきた。
むしろあなたとしては、勝手に決めてよかったのかという気持ちの方が大きかったので、そっくりそのまま言葉を返す。
あなたの返答を聞いた大青鬼はゆっくりと顔を上げると、地に付けていた手の片方をあなたの方へ伸ばし、
「これからはよろしく頼むぞ、後継人」
五本指を広げてあなたの目の前で止めた。
もちろん普通の握手など成立するわけもないので、あなたは手をぐっと伸ばすと大青鬼の指先に軽く触れた。
「本当に面白い奴だ。ナナが惚れるのも合点がいった」
最後に大青鬼が何か言って、ナナがやたら騒いでいたような気がするが、あなたはその言葉を全て聞き終える前に地に伏していた。
「面白い小僧だな。お前達が入れ込むのも分かるというものだ」
「入れ込んでなどおらぬわ、デクの棒」
「そうだ、顔以外は何一つ似ておらぬからな」
「そこがまた面白いのであろう?」
「……ふん」
「ほざけ」
「まぁ、今までの事は忘れてこれからは一つ頼む」
「あやつがそう言ったならば仕方あるまい。その場にいれば物言いしてやったものを」
「私は認めんぞ、ウドの大木」
「がっはっは、いつでも来い」
めいから聞いた話だと、あなたは三日三晩眠り続けていたらしい。
その間にたくさんの異形が見舞いに来て、あなたに、後継人にぜひ顔見せをと騒いで大変だったらしい。
もちろん、寝ていたあなたにはさっぱりだが。
ズキズキと痛む体をなんとか起こして伸びをすると、あなたの腹がぐーっと大きな音を立てる。
「すぐに食事を用意致しますね」
と言い残してめいが立ち去った後、間髪入れずに襖がパーンと開け放たれたかと思うと、朝日を背に着物を着た少女が部屋へと入ってきた。
見たことのある白髪と青肌を持った少女。しかしあなたの記憶にある姿とはいろいろと合致しない少女。
妹か、姉か、と問いかけたあなたへ返答代わりに返ってきたのは、思い切り助走を付けた飛び蹴りだった。
「せっかく心配してきたのに……ばーか!」
逆さまの状態のまま壁に背が付くまで蹴飛ばされたあなたに向かって着物の少女、いや、ナナその人がべーっと舌を出して声を飛ばす。
そしてあなたが体勢を戻して何か言いかえそうとしたところで、ぴゅーっと廊下を走っていってしまった。
あなたは届く筈も無いのに反射的に伸ばしてしまった手でそのまま頭をわしわしと掻くと、大きく欠伸をしながらもう片方の手で伸びをした。
久しぶりに夢を見なかった朝。少し寂しくもあり、清々しくもある。
体の節々をこきこきと鳴らしながら廊下に出たあなたはまぶしい光に目を細めながら、漂ってくるいい香りだけを頼りに歩を進めた。
途中で「ぐおっ」と小さく声が聞こえた気がしたが、気にしないでおく。
「あ、やっと来た!」
「ご飯はどのぐらいお注ぎしましょうか?」
背中から不意打ちを食らわせてきた犬畜生に手刀を叩き込みながら、あなたはめいへ山盛りのジェスチャーを返す。
それを見てめいはふふ、と笑いながらそそくさと台所へ向かった。
お互いに空腹で決め手を欠く取っ組み合いを続けていたあなたとポチの耳に、バタバタと誰かが廊下を走る音が聞こえてきた。
音の正体は居間に繋がる縁側で立ち止まると、ぜぇぜぇと息を吐きながら、
「後継人様、大変です! 親分と狐の大将がまた取っ組み合いを……」
とそこまで言うと今度はごほごほと咳き込む。
あなたはその言葉を聞いてはぁ、と小さく息を吐いてからポチをぺっと庭へ放り投げた。
ころころと転がりながら風を巻き上げ、庭先に着地した時にはあの時の姿になったポチを見上げてから、あなたは振り返ってめいの名を呼んだ。
呼ばれためいが居間へ出てくるより先に、あなたは助走を付けて縁側から飛ぶとポチの首裏へしがみ付く。
「帰りが遅くなったらボクが全部食べちゃうからねー」
にしし、と笑うナナ。
「ワシの朝食を邪魔しおって。さっさと片付けるぞ、小僧」
めいが来るのを待たず、あなたの体をふわりと浮遊感が包んだ。
だんだんと空へ登って行くポチの背中で、あなたは何とか後ろを振り向くと、
「後継人様、いってらっしゃいませーっ」
見えなくなりそうなあなたへ必死に手を振るめいへ、あなたは手を振り返した。
今はまだ、後継人だとしても。
それでもいつかは、祖母のように。
祖母のいた街で、これからもずっと。
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