17 / 21
⑰
しおりを挟む
「嘆かわしいことだ。長きにわたる戦いを終結へ導いたお前があんな風に言われるとは」
「……お言葉はありがたいですが、私はただの人殺しですよ」
「ジン……」
陛下がジン様へ呼びかける声は、とても優しい。
「……私は死にぞこないです。本来はこんな場所にいるべきでもないでしょう」
「だが……お前は来てくれた。そのことがワシはとても嬉しいぞ」
「そのことについて、なのですが」
「国王陛下、女王陛下が準備を済まされたようです」
「おお、そうか……すまんな、ジン。話は後だ」
「……はい、陛下」
何かを言いかけたジン様を置いて、国王陛下が去っていく。
そのあとにエント様も続いて、広い大広間の隅で私とジン様は二人と一体きりになった。
「……疲れただろう。少し風にでも当たってくるといい」
私の頭をぽんぽんと叩きながらジン様はそう言ったが、それは私を気遣ってくれているようにもジン様自身が一人になりたいようにも聞こえて。
「ありがとう、ございます」
小さく頭を下げてから、私はバルコニーの方へと向かった。
陛下の話を聞くために人は出払っており、バルコニーには涼しい風だけが吹き抜けていて。
私は手すりに身を預けると、小さく息を吐いた。
(戦い、か……)
私が生まれる前の話ではあるが、最近までこの国が隣国と長きに渡る争いを繰り広げていた、と授業で習った。
今でこそ産業を主な活躍の場としている機械と魔法も、その頃は軍事的な理由で使われることが少なくなかったことも知っている。
「……ああ、もうっ」
風になびく邪魔な髪をむんずと掴み、せっかく整えてくれた仕立屋たちには悪いがそのまま荒々しく束ねてから結ぶ。
やはりこうでないと、落ち着かない。
「……ねぇ、ロイド。こういう時はなんて言ってあげるのがいいのかな」
ジン様はきっと、自分が戦いに参加していたことを隠していたかったのだ。
ならばこんな形で知られることも、望んでなどいなかったはず。
「分かりません」
簡潔な言葉を返すロイドと目が合った。
あえて人の目を模さずに作られた瞳。
その無機質な瞳の先で、私が不安そうな瞳で見つめ返してくる。
「ステラ……?」
ふいに、聞き覚えのある声がした気がして。
私はゆっくりと振り返る。
「ヴィント……」
見知っていた頃と比べて少しやつれたように見える元婚約者は私からの返答を確認すると、
「やっぱり、ステラだったのか……探したよ」
そう言いながら近づいてきた。
自分から婚約を破棄しておきながら、今度は探していたとは。
原因に大体検討は付くが、とりあえず黙っておく。
「……お言葉はありがたいですが、私はただの人殺しですよ」
「ジン……」
陛下がジン様へ呼びかける声は、とても優しい。
「……私は死にぞこないです。本来はこんな場所にいるべきでもないでしょう」
「だが……お前は来てくれた。そのことがワシはとても嬉しいぞ」
「そのことについて、なのですが」
「国王陛下、女王陛下が準備を済まされたようです」
「おお、そうか……すまんな、ジン。話は後だ」
「……はい、陛下」
何かを言いかけたジン様を置いて、国王陛下が去っていく。
そのあとにエント様も続いて、広い大広間の隅で私とジン様は二人と一体きりになった。
「……疲れただろう。少し風にでも当たってくるといい」
私の頭をぽんぽんと叩きながらジン様はそう言ったが、それは私を気遣ってくれているようにもジン様自身が一人になりたいようにも聞こえて。
「ありがとう、ございます」
小さく頭を下げてから、私はバルコニーの方へと向かった。
陛下の話を聞くために人は出払っており、バルコニーには涼しい風だけが吹き抜けていて。
私は手すりに身を預けると、小さく息を吐いた。
(戦い、か……)
私が生まれる前の話ではあるが、最近までこの国が隣国と長きに渡る争いを繰り広げていた、と授業で習った。
今でこそ産業を主な活躍の場としている機械と魔法も、その頃は軍事的な理由で使われることが少なくなかったことも知っている。
「……ああ、もうっ」
風になびく邪魔な髪をむんずと掴み、せっかく整えてくれた仕立屋たちには悪いがそのまま荒々しく束ねてから結ぶ。
やはりこうでないと、落ち着かない。
「……ねぇ、ロイド。こういう時はなんて言ってあげるのがいいのかな」
ジン様はきっと、自分が戦いに参加していたことを隠していたかったのだ。
ならばこんな形で知られることも、望んでなどいなかったはず。
「分かりません」
簡潔な言葉を返すロイドと目が合った。
あえて人の目を模さずに作られた瞳。
その無機質な瞳の先で、私が不安そうな瞳で見つめ返してくる。
「ステラ……?」
ふいに、聞き覚えのある声がした気がして。
私はゆっくりと振り返る。
「ヴィント……」
見知っていた頃と比べて少しやつれたように見える元婚約者は私からの返答を確認すると、
「やっぱり、ステラだったのか……探したよ」
そう言いながら近づいてきた。
自分から婚約を破棄しておきながら、今度は探していたとは。
原因に大体検討は付くが、とりあえず黙っておく。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

婚約者に捨てられた公爵令嬢ですが、冷酷公爵に愛されすぎて困ります
ゆる
恋愛
「君との婚約はなかったことにする。新しい聖女となったリリアナこそ、私の真の婚約者だ」
婚約者である第二王子エドワードから突然の婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ソフィア・エレナ。
新たに聖女として現れたリリアナにすべてを奪われ、名誉を傷つけられた彼女は、社交界で“落ちぶれた娘”として嘲笑されることに。
しかし、そんなソフィアに救いの手を差し伸べたのは、王国随一の実力者である“冷酷公爵”アレクシス・ヴァルフォードだった。
「君が望むなら、私が夫になろう。――これは政略ではなく、私の意志だ」
王家の圧力をものともせず、ソフィアとの結婚を宣言したアレクシス。
初めは“契約結婚”だったはずが、彼の真摯な愛と溺愛ぶりに、ソフィアの心は次第に溶かされていく。
一方、聖女として絶対的な支持を得たリリアナだったが、彼女の“力”にはある大きな秘密が隠されていて――?
「わたくしこそが、聖女としてこの国を導く存在! ソフィア様なんて、公爵様に捨てられるに決まってますわ!」
「……そうかしら? では、あなたは公爵様に聞いてみるといいわ」
婚約破棄されるはずが、公爵様に愛されすぎて大変です!?
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる