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夕さりに君を追う
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空の端からオレンジが滲みはじめた夕焼け空がうつくしかった。
息を切らして君を追いかけていたのに、歩道橋の上で僕はその色彩に見惚れて束の間惚けた。
その隙に、とん、と軽やかな足取りで君は手すりに飛び乗った。制服のスカートがひるがえる。頬はわずかに上気していた。それでやっと、君も人間なのだと思えるくらいだった。記憶している最後の君は、もっとずっと疲れた顔をしていた。
止めなくちゃ。そう思うのに、ずいぶん長い間君を追いかけていたから、足に力が入らない。僕が一歩足を引きずる時間さえ、君はかろやかに飛び越えていくだろう。確信に似た諦念を振り払えないまま、僕は君を見ていた。それしかできなかった。
何か言葉をかけるには息が乱れすぎていた。それに、なにもかも投げ捨ててきた君の手を引くには、僕の手には荷物が多すぎた。
背中で手を組んで、まっすぐ前を見据えている君は、もう僕のことなんて見えてさえいないようだった。
わずかに背中を反らして、口角を上げて。
息を飲むような夕映えに、君の横顔が吸い込まれて消えていくのを、僕は最後まで、ずっと見ていた。君がいなくなってからも、しばらくの間、夕焼けに残影を見ていた。
そういえば、僕らはいつだってそうだった。
君と最後に目が合ったのはいったいいつだったのか。まるで思い出せなかった。
息を切らして君を追いかけていたのに、歩道橋の上で僕はその色彩に見惚れて束の間惚けた。
その隙に、とん、と軽やかな足取りで君は手すりに飛び乗った。制服のスカートがひるがえる。頬はわずかに上気していた。それでやっと、君も人間なのだと思えるくらいだった。記憶している最後の君は、もっとずっと疲れた顔をしていた。
止めなくちゃ。そう思うのに、ずいぶん長い間君を追いかけていたから、足に力が入らない。僕が一歩足を引きずる時間さえ、君はかろやかに飛び越えていくだろう。確信に似た諦念を振り払えないまま、僕は君を見ていた。それしかできなかった。
何か言葉をかけるには息が乱れすぎていた。それに、なにもかも投げ捨ててきた君の手を引くには、僕の手には荷物が多すぎた。
背中で手を組んで、まっすぐ前を見据えている君は、もう僕のことなんて見えてさえいないようだった。
わずかに背中を反らして、口角を上げて。
息を飲むような夕映えに、君の横顔が吸い込まれて消えていくのを、僕は最後まで、ずっと見ていた。君がいなくなってからも、しばらくの間、夕焼けに残影を見ていた。
そういえば、僕らはいつだってそうだった。
君と最後に目が合ったのはいったいいつだったのか。まるで思い出せなかった。
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