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第三章 願いの枠が余ったので
【Side】 京奈 ~女神様は親切で美しい~
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「どうかしら、ケイナ? あたしのスキルは優秀でしょう?」
誰よりも美しい女神エリスが、裏攻略情報を読みあさる私に言ったわ。
「エリス様、でも私、とんでもないことをしてしまった! 一時の感情でデゼルを殺すなんて!」
「あら、一時の感情だったの?」
わからない。昔からだったのかしら。
私、昔から、雪乃が嫌いだったのかしら。
だってあの子は。
同じひきこもりでも、私とは全然違った。
何をやっても人並みにすらできない私が、いったい、私は何のために生まれてきたのか、いじめに遭って、何の役にも立たない自分に絶望して、震えながら暗闇の中に隠れていたのとは全然違うの。
まだ、二人ともひきこもりじゃなかった頃に、いじめられている私を助けてくれたのが雪乃だった。
だけど、雪乃は良家のお嬢様で、勉強なんていつも一番で、絵画コンクールとかそういうのでまで、よく、表彰されてた。
神様は不公平よ。
どうして、雪乃ばかりが何もかも持っているのよ。
私には何もなかったのに。
それなのに、いったい、何が気に入らなくて、雪乃はひきこもりになったの?
就職だって、私なんて、どこの会社にも採用してもらえなかったのに、雪乃は苦労した様子もなく、正社員採用されていたわよ。
それが、何があったのか知らないけど、ひきこもりに転落してきて。
でも、全然、底辺のオーラじゃないの。
いつも、まるで雲の上から、地の底を這うように苦しむ私を見下ろしているようだった。
そうよ。
この世界でだって、デゼルはそうよ!
どうして!?
悪役令嬢のデゼルじゃない!
穢され尽くした汚物のくせに、あとは、私に倒されるだけの悲惨な悪役令嬢のくせに、なんで、あの子の方が聖女様みたいな顔をしているの!?
つらいとか、悲しいとか、苦しいとか。
どうして、そういう顔をしていないのよ!
憎しみとか、怨嗟とか、嫉妬とか。
どうして、暗い感情にとらわれないの!?
どうして、すべてに恵まれたヒロインに転生した私に、羨望の眼差しを向けないの!?
何なのよ、モブにしか相手にしてもらえない、穢され尽くした悪役令嬢のくせに、あの、幸せです、満ち足りてますってオーラは!
「知らなかったのよ、真ネル・エンドなんて! デゼルから、『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』をもらわないといけなかったのに」
凄絶に美しい女神エリスが高らかに笑ったわ。
「よかったわね、ケイナ。デゼルは死んでいないわよ? デゼルのステータスを確認してごらんなさいよ」
「え……!?」
デゼルは確かに、生きていた。
ふつうのシステムでは、悪役令嬢のステータスの確認なんてできないんだけど、エリス様のスキルはすごいの。
「え、なにこれ。デゼルの魅力がSSS!?」
「あぁ、それね。ネプチューンも、ユリシーズよりデゼルの色香に迷っているわよ? ネプチューンたら、もう一つ、ユリアそっくりのあなたに会えたのに情熱が足りないと思わなかった? デゼルが気になっているのよ」
「そんな!」
「大丈夫よ、ケイナ。もうすぐ、あなたにレーテーの祝福と承認が与えられる。スキルポイントを容姿端麗に振ればいいの。デゼルの容姿端麗は【Lv1】のままだもの、あなたの方が魅力的になれるわ。もちろん、ネプチューンの興味もあなたに戻るし、ユリシーズなんて、女として相手にもならなくなるわ」
「本当!? エリス様、あなたって、とても親切ね。どうしてあなたのような、親切で美しい方が災厄の邪神なの?」
親切で美しいエリス様が胸に手を当てて微笑まれたわ。
スタイルも抜群で、薔薇色のオーラも気品も超一級の、まさに女神様。
「十三霊の神々の中で、あたしだけが異世界の神の御使いだから仕方がないのよ。この世界の神には、あたしは気に入られていないの。たとえば、スキル一覧をよく見てごらんなさい? あたしのスキル一本で、十二霊の神々の上位スキルに匹敵するほど強力でしょう。あたしだけが、より優れた異世界の一柱の神、ルシフェル様の御使いだからよ」
そんな、主神ったらひどいわ。
こんなにも麗しくて優しいエリス様を、異世界の神の御使いだからって、『災厄の邪神』呼ばわりして貶めるなんて。
「なにもかも、あなたの望み通りになるわよ、ケイナ。だってあなたは、この世界のヒロイン。最高の女神であるあたしに選ばれた聖女様なのだから」
「ありがとう、女神エリス。私、あなたに従うわ。どうか、私を導いて」
それにしても、デゼルったらどうやって助かったのかしらね?
サイファを殺したのかしら。
そうよね、相手はただのモブ。ゲームのデゼルみたいに、モブのために命を捨てたりなんて、するわけがないわよね。
それとも、魅了スキルで洗脳を上書きしたのかしら。魅力SSSだものね、上書きされたのかもしれない。
だけど、もうすぐ私の魅力もSSSよ。
そうなったらもう、デゼルのスキルでは上書きできないわ。
今度、会った時にこそ、あなたの大切なモブリーダーに殺してもらうといいのよ。
私に『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』を寄越してからね。
あなたは悪役令嬢だもの、ヒロインに倒されなければならないの。
――あれ?
でも、私、殺したいほど雪乃が憎かったっけ……?
どうして、殺すべきだと感じるのかしら。
わからない。
でも、なんだか怖いの。
あの子が生きていると、私、怖いのよ。
私の大切なこの世界が、木っ端みじんに、壊されてしまうような気がするの……。
誰よりも美しい女神エリスが、裏攻略情報を読みあさる私に言ったわ。
「エリス様、でも私、とんでもないことをしてしまった! 一時の感情でデゼルを殺すなんて!」
「あら、一時の感情だったの?」
わからない。昔からだったのかしら。
私、昔から、雪乃が嫌いだったのかしら。
だってあの子は。
同じひきこもりでも、私とは全然違った。
何をやっても人並みにすらできない私が、いったい、私は何のために生まれてきたのか、いじめに遭って、何の役にも立たない自分に絶望して、震えながら暗闇の中に隠れていたのとは全然違うの。
まだ、二人ともひきこもりじゃなかった頃に、いじめられている私を助けてくれたのが雪乃だった。
だけど、雪乃は良家のお嬢様で、勉強なんていつも一番で、絵画コンクールとかそういうのでまで、よく、表彰されてた。
神様は不公平よ。
どうして、雪乃ばかりが何もかも持っているのよ。
私には何もなかったのに。
それなのに、いったい、何が気に入らなくて、雪乃はひきこもりになったの?
就職だって、私なんて、どこの会社にも採用してもらえなかったのに、雪乃は苦労した様子もなく、正社員採用されていたわよ。
それが、何があったのか知らないけど、ひきこもりに転落してきて。
でも、全然、底辺のオーラじゃないの。
いつも、まるで雲の上から、地の底を這うように苦しむ私を見下ろしているようだった。
そうよ。
この世界でだって、デゼルはそうよ!
どうして!?
悪役令嬢のデゼルじゃない!
穢され尽くした汚物のくせに、あとは、私に倒されるだけの悲惨な悪役令嬢のくせに、なんで、あの子の方が聖女様みたいな顔をしているの!?
つらいとか、悲しいとか、苦しいとか。
どうして、そういう顔をしていないのよ!
憎しみとか、怨嗟とか、嫉妬とか。
どうして、暗い感情にとらわれないの!?
どうして、すべてに恵まれたヒロインに転生した私に、羨望の眼差しを向けないの!?
何なのよ、モブにしか相手にしてもらえない、穢され尽くした悪役令嬢のくせに、あの、幸せです、満ち足りてますってオーラは!
「知らなかったのよ、真ネル・エンドなんて! デゼルから、『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』をもらわないといけなかったのに」
凄絶に美しい女神エリスが高らかに笑ったわ。
「よかったわね、ケイナ。デゼルは死んでいないわよ? デゼルのステータスを確認してごらんなさいよ」
「え……!?」
デゼルは確かに、生きていた。
ふつうのシステムでは、悪役令嬢のステータスの確認なんてできないんだけど、エリス様のスキルはすごいの。
「え、なにこれ。デゼルの魅力がSSS!?」
「あぁ、それね。ネプチューンも、ユリシーズよりデゼルの色香に迷っているわよ? ネプチューンたら、もう一つ、ユリアそっくりのあなたに会えたのに情熱が足りないと思わなかった? デゼルが気になっているのよ」
「そんな!」
「大丈夫よ、ケイナ。もうすぐ、あなたにレーテーの祝福と承認が与えられる。スキルポイントを容姿端麗に振ればいいの。デゼルの容姿端麗は【Lv1】のままだもの、あなたの方が魅力的になれるわ。もちろん、ネプチューンの興味もあなたに戻るし、ユリシーズなんて、女として相手にもならなくなるわ」
「本当!? エリス様、あなたって、とても親切ね。どうしてあなたのような、親切で美しい方が災厄の邪神なの?」
親切で美しいエリス様が胸に手を当てて微笑まれたわ。
スタイルも抜群で、薔薇色のオーラも気品も超一級の、まさに女神様。
「十三霊の神々の中で、あたしだけが異世界の神の御使いだから仕方がないのよ。この世界の神には、あたしは気に入られていないの。たとえば、スキル一覧をよく見てごらんなさい? あたしのスキル一本で、十二霊の神々の上位スキルに匹敵するほど強力でしょう。あたしだけが、より優れた異世界の一柱の神、ルシフェル様の御使いだからよ」
そんな、主神ったらひどいわ。
こんなにも麗しくて優しいエリス様を、異世界の神の御使いだからって、『災厄の邪神』呼ばわりして貶めるなんて。
「なにもかも、あなたの望み通りになるわよ、ケイナ。だってあなたは、この世界のヒロイン。最高の女神であるあたしに選ばれた聖女様なのだから」
「ありがとう、女神エリス。私、あなたに従うわ。どうか、私を導いて」
それにしても、デゼルったらどうやって助かったのかしらね?
サイファを殺したのかしら。
そうよね、相手はただのモブ。ゲームのデゼルみたいに、モブのために命を捨てたりなんて、するわけがないわよね。
それとも、魅了スキルで洗脳を上書きしたのかしら。魅力SSSだものね、上書きされたのかもしれない。
だけど、もうすぐ私の魅力もSSSよ。
そうなったらもう、デゼルのスキルでは上書きできないわ。
今度、会った時にこそ、あなたの大切なモブリーダーに殺してもらうといいのよ。
私に『月齢の首飾り』と『ネプチューンの緑石』を寄越してからね。
あなたは悪役令嬢だもの、ヒロインに倒されなければならないの。
――あれ?
でも、私、殺したいほど雪乃が憎かったっけ……?
どうして、殺すべきだと感じるのかしら。
わからない。
でも、なんだか怖いの。
あの子が生きていると、私、怖いのよ。
私の大切なこの世界が、木っ端みじんに、壊されてしまうような気がするの……。
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