悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

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第三章 願いの枠が余ったので

第74話 聖なる杖が暴く闇

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 星ロマのメインシナリオが始まって、二ヶ月ほどが経った頃。
 ネプチューンから、京奈が魅了を解く杖を手に入れたから気をつけるようにと言われた私は、次のイベントを起こすことにしたの。

運命の輪テュケー【Lv1】――『聖なる杖が暴く闇』」

 聖サファイア共和国のはずれの小さな村が、山賊に襲われるイベントよ。
 山賊が現れたところで連れてきた闇主たちに止めさせて、あとは、京奈を待って、逃げ遅れた子供をサイファに拾ってもらって逃げるの。

「エトランジュ、今頃、どうしてるかな」
「ルーカスを泣かせていないといいけど」

 シナリオのために動く時には、エトランジュはいつも、ユリシーズに見てもらっているの。
 ルーカスっていうのは、ユリシーズとネプチューンの間の三歳になる男の子。
 ネプチューンの指示を受けて外で動くのは、もっぱら、闇主たちを手勢としている私で、ユリシーズのシナリオ上の出番は、最終決戦のみ。

「きた」

 まず、現れた山賊が闇主たちと交戦し始めた。
 サイファには、シナリオだとかイベントだとかは説明しようがないから、村が山賊に襲われることを、私が闇の神のお告げで知ったことにして、ついてきてもらっているの。

 ほどなく、京奈の姿を見つけて、私はサイファにうなずいて見せた。

「聖女様がいらしたから、あとは、大丈夫。逃げ遅れた子供だけ、私達で村の人達に返してあげよう」

 微笑んだサイファが子供を助けに走る。
 サイファが子供に優しく声をかけて、抱き上げようとした時だった。

「動くな!」

 光の使徒の一人、蒼紫が、抜いた短剣をサイファの喉元に突きつけるのを見て、私は悲鳴を上げたの。

 どうして!?
 先回りしていたの!?
 京奈だってシナリオは知ってる、先回りできるのはわかるけど、何のために!?
 これじゃ、シナリオと違う!

「やめて、サイファを放して! 私の闇主はあなた達にも、村人達にも危害を加えない! 私達、襲われている村を助けにきたの!」
「蒼紫様、魔女に騙されては駄目!」

 京奈の言葉に蒼紫がうなずいて、サイファに油断なく短剣を突きつけたまま、私を睨んだ。
 進み出た京奈が私に向けてロッドを構えると、容赦なく、光の攻撃魔法を撃ってきた。

「デゼル!」
「きゃあ!」

 私の抗魔力はもうSSだから、魔法攻撃で即死はしないけど、京奈、どうしてなの!?

「サイファというの? 彼が大切なのね、デゼル」

 京奈は怒っているふうでも、私を憎んでいるふうでもなくて、まるで、知らない人に言うように、淡々と言ったの。
 まるで、ゲームキャラのデゼルに言うように。

「お願い、サイファを傷つけないで。私達、あなた達に何もしない!」
「本当かどうか、見届けさせてもらうわ。その間にデゼル、この手紙をユリシーズに届けてきて欲しいの。私達、しなくていい争いならしたくない。ユリシーズとあなたがネプチューンを止めてくれれば、争わなくてよくなるかもしれないでしょう? できる限り、話し合いで解決したいの。あなたを魔法で傷つけたことは謝るわ。以前、あなたが闇主たちを冷酷に見捨てるのを見たものだから、彼だけは特別なのか、確かめておきたかったの」

 私は少し、ほっとした。
 よかった、京奈は京奈だった。
 もしかしたら、ユリアだった頃の記憶がないのかな。
 それなら、京奈がこうする理由もわかるもの。

「わかりました、すぐに、届けます」

 私は少し先の木陰に身を隠すと、クロノスを宣言した。

時空クロノス【Lv7】――目標、ユリシーズ」


 **――*――**


「きゃっ」

 いきなり、私が降ってきたものだから、ユリシーズが小さな悲鳴を上げたけど、エトランジュとルーカスを遊ばせてくれていたみたいだった。
 二人とも目を丸くして私を見ていて、とっても可愛い。

「ユリシーズ、いきなり、ごめんなさい。京奈からの手紙を読んで欲しいの。ネプチューンと争いたくないって」

 見る間に、ユリシーズの表情が硬くなった。
 ユリシーズにしてみれば、京奈は恋敵こいがたきだもの。
 いい返事をもらえなかったら、どうしよう。

「仕方ないわね」

 ため息をつきながら手紙の封を切ったユリシーズが、薄い手紙を取り出して、首を傾げた。

「なにかしら、これ? 京奈からなの?」
「うん。私も、見てもいい?」
「いいわよ?」

 手紙はたったの一行だった。

『あなた、雪乃なの? だったら、話があるから、ちょっと来て』
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