悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

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第三章 願いの枠が余ったので

第72話 乙女ゲームの始まり

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 私はサイファを引っ張って、さらに後ろにさがった。
 ネプチューンて、ゲームでは、こんなじゃなかった。
 ファン投票でデゼルとトップ争いをするくらい、人気の高いキャラなのに。
 光の十二使徒もそれぞれ魅力的なんだけど、光の十二使徒はたくさんいすぎて、票割れを起こしてしまうの。
 ネプチューンはクールで傲慢ごうまんだけど、心から、ユリアを愛している設定だったから、恋愛至上主義の乙女達には人気が高かった。
 やっぱり、ゲームと同じにはいかないのかな。
 ユリアが生きていた頃のネプチューンは、ゲームの印象に近かったのに、私が公国の滅亡や、闇の十二使徒の闇落ちを阻止した影響なのかな。
 私がネプチューンを駄目にしたのかな。

「――ネプチューン様、あなたが拒否するデゼルに強いるつもりなら、これ以上、あなたにお仕えすることはできません」

 サイファ……。
 そうね、ネプチューンに仕えるのをやめることも、考えよう。
 ハッピーエンドになるはずのシナリオを崩すことは、こわいけど。
 シナリオの通りにしないと、ハッピーエンドにならないわけじゃ、ないはずだもの。
 公国だって、今頃は存在していないはずだったけど、十七年、平和が続いてきたもの。

 私はそっと、サイファだけに聞こえるようにささやいたの。

「ありがとう、サイファ様」

 サイファがきゅっと、つないだ手を握り返してくれて、ほっとした。

 私とサイファを冷たく一瞥いちべつしたネプチューンが立ち去って、ほどなく。
 とてつもない魔力が皇宮の地下神殿から放たれたと感じたの。

 サイファも感じたみたいで、緊張した様子で私を見た。

 キンコーン

==============================
 暗黒皇帝ネプチューンが聖サファイア共和国に対する侵攻を開始しました。
 これより、『星空のロマンス』のゲームがスタートします。

 闇巫女デゼルに運命の女神テュケーからの祝福が与えられました。
 女神の祝福により、すべてのステータスが一段階上昇し、運命の輪【Lv1】が付与されました。
 運命の輪【Lv1】により、闇巫女デゼルが起こすべきイベントを起こせます。
==============================

 どうして、ネプチューンは動いたの!?
 京奈に会って何を思って、私を抱くなんて言い出して、あげく、ユリア復活のための物語を始めることにしたの!?

「サイファ様、ネプチューンが地下神殿で、禁断の魔術を使った。今、たくさんの人達が魔物に変えられてしまった」
「行こう」

 燭台しょくだいの灯だけが頼りの地下神殿に、山羊ヤギか何かを生贄いけにえに捧げた様子のネプチューンがたたずんでいた。

「ネプチューン、どうしてこんなことを!」
「おまえこそ、どうしたデゼル。俺の副官などやめるんじゃなかったのか?」

 私、ほんとにやめていいならやめたい、ネプチューンの副官なんて。
 生贄は山羊とはいえ、血の海の中で妖艶に笑ってるネプチューンの気が知れないのよ。

「ああまで言われて、誰がおまえを信用するんだ。京奈がユリアなものか。信用しろと言うなら――」

 邪悪に微笑んだネプチューンが、私に血塗られた手を差し伸べた。

「俺に身も心も任せるんだな」
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