悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

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第二章 魔神ルシフェル ≪永遠のロマンス≫

第66話 悪役令嬢は町人Sにおしおきされる

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 私はそれからも、しばらく、衰弱が続いた。
 生命の水ウンディーネを使って、完全に回復したはずなのに、忘却レーテーでラクになったはずなのに、心労がたたってか、何度も高熱を出しては倒れての繰り返し。

 その間も、ずっと、サイファがついていてくれた。

「サイファ様、どうして――? 穢され尽くしたあげく、私はこの手を血に染めた、みんなに石を投げられる魔女だよ。傍にいたら、サイファ様も悪く言われて傷つけられるよ。それなのに、どうして、見捨てないの? サイファ様、私の傍にいたら、幸せになれないよ……」

 やわらかく煮込んだミルクパンをスプーンですくって、私に食べさせてくれていたサイファが、じっと、私を見詰めた。

「わからないの?」

 ミルクパンを口に含んだサイファが、私に口移しにしてきたの。
 私、心臓が止まるかと思った。

「…あ……」

 二口、三口、そうして口移しにされて。
 いつの間にかあふれた涙が、ぱたぱた、床に落ちた。

「いやなら、言って」

 耳まで紅潮させた私が何も言えずにいたら、サイファがもう一口、口移しにしてきた。
 飲み込んだ後、自分でも驚くくらい、甘い声が出たの。

「こうした方が食べられる?」
「……」

 なんて、答えたらいいの。
 真っ赤になってうつむいた私に、サイファがもう一口、口移しにしてきた。

「いつまでも、僕を心配させてる、おしおきだからね、デゼル?」
「えっ……あ、あぁっ!」

 サイファに首筋を吸われて、すごく甘い悲鳴が出て、恥ずかしくて真っ赤になる私を、サイファが笑うのよ。

「可愛い」
「…っ……」

 どうしよう、嬉しい。

「デゼルには、僕が幸せじゃないように見えるの? 今、デゼルが可愛くて、とっても、幸せなんだけどな?」
「……っ!!」

 サイファはなんで、私のなだめ方を知っているの。

「一緒にいようね」

 何にも言えずに、こくんとうなずいたら、嬉しくて、また、涙が落ちた。

「熱が下がらなかったら、明日も、おしおきに口移しするから。元気になって」

 そんなこと言われたら、熱が上がりそうなのよ。

「サイファ様、私……」
「なに?」
「私、サイファ様のことが好きでもいい……? ずっと、好きでもいい……?」

 嬉しそうに笑ったサイファが、私と額をあわせて言った。

「うん、僕も」

 サイファが優しくて、私に優しすぎて、涙が止まらないの。
 私を寝台に横たえたサイファが、横顔に、耳元に、優しいキスをしてくれて。

「啼いて」

 えっ!?

 私のネグリジェの紐を解いたサイファが、左手で私の右手を寝台に縫いつけて、首のつけねのあたりから胸元にかけてキスを降らせた。

「あっ…! …あぁっ……!」

 どうして、サイファにされるとこんな甘い声が出るの!?
 恥ずかしいのよ。
 サイファったら、クスクス笑ってるし。

「熱が上がるからここまでね」

 サイファのいじわる、もう上がったもん!

「大丈夫だよ、デゼル。もう、怖い夢はみない。ずっと、僕にされたことだけ、考えていて」
「~!」

 サイファって、やっぱり、隠れSよね?
 からだの内にも外にも、いつまでも、サイファの優しい感触が残って、ほんとに、サイファのことしか考えられないまま、私はすうっと眠りに落ちたの。
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