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第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ
【Side】 サイファ ~きっと、僕が選ばれる~
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「サイファ、闇巫女様とあまりなかよくするのは、よくないのよ? やめられないの?」
「母さん?」
神殿から戻った僕に、母さんがひどく不安そうに、そう言った。
「そんな、デゼルを裏切るようなことできないよ」
「裏切るも何も、闇巫女様は公子様と内々にご婚約が決まっているのよ」
――えっ!?
「……それ、デゼルは知ってるの?」
「どうかしら」
公子様と婚約って――
「デゼルの気持ちは?」
僕にあんなに懐いてくれてるデゼルが、そんな婚約――
血まみれになってまで、ジャイロから僕を庇ってくれたデゼルが、他の人と婚約?
初めてキスした時の唇の甘さだって――
そんなはず、ないと思う。
デゼルとのこと、少なくとも僕は真剣なんだ。
デゼルだって!
あんな風に庇って欲しくなかったけど、デゼルが僕のために命を懸けてくれたのは、確かなこと。
ジャイロの正気を取り戻そうとしたデゼルは、凄かった。
デゼルがふつうの子じゃないのは、わかってる。
身分の違いとかより、デゼルはもう、ふつうの子とは風格が違う。
だけど、僕はすごく強いデゼルが、すごく弱いことも知ってる。
デゼルは怖くないわけでも、痛くないわけでもないんだ。
僕の腕の中で震えていたし、泣いていた。
デゼルには僕が必要なんだって、初めて一緒に眠った夜にも、昨日の夜にも、感じたんだ。
デゼルは僕が抱いていてあげないと、すごく、つらそうなんだ。
「サイファ、気持ちは変わるのよ」
「変わらないよ、母さん。僕の気持ちもデゼルの気持ちも」
この気持ちが変わるなんて、とても、信じられない。
デゼルが僕じゃない誰かを好きになるなんてことも、想像できないんだ。
だって、デゼルの澄んだ瞳と透き通る声には力がある。
時々、すごく鮮烈な瞳をして、何かを見詰めてる。
絶対に、いつか変わるような心で持てる力じゃないと感じるのに。
「――母さん、夏休みは帰れないことが多くなると思う。デゼルを守って、もしかしたら外国まで、行くかもしれないから」
「サイファ!」
「これ」
マリベル様から頂いた先月分の給与を、母さんにそのまま渡した。
「母さん――再婚しても、いいよ? 仕送りは続けるけど、僕はもう、母さんの傍にあんまり、いてあげられないかもしれない」
「サイファ、聞いていたの!? 闇巫女様は公子様とご婚約なさっているのよ」
「デゼルはきっと知らないし、――僕を選ぶよ」
ずっと、僕の気持ちもデゼルの気持ちも変わらないなんて、母さんは、信じてくれないと思うけど。
だって、父さんは帰ってきてくれなくなったんだから。
でも、僕は――
僕の気持ちも、デゼルの気持ちも変わらないと信じてる。
それに、大切なのは、今この時、目の前のデゼルに僕が必要だってことなんだ。
気持ちが変わるか、変わらないかなんて、今から、話したって仕方ないと思う。
だって、経験しなきゃ、僕は絶対に、そんなこと信じられないんだから。
「母さん?」
神殿から戻った僕に、母さんがひどく不安そうに、そう言った。
「そんな、デゼルを裏切るようなことできないよ」
「裏切るも何も、闇巫女様は公子様と内々にご婚約が決まっているのよ」
――えっ!?
「……それ、デゼルは知ってるの?」
「どうかしら」
公子様と婚約って――
「デゼルの気持ちは?」
僕にあんなに懐いてくれてるデゼルが、そんな婚約――
血まみれになってまで、ジャイロから僕を庇ってくれたデゼルが、他の人と婚約?
初めてキスした時の唇の甘さだって――
そんなはず、ないと思う。
デゼルとのこと、少なくとも僕は真剣なんだ。
デゼルだって!
あんな風に庇って欲しくなかったけど、デゼルが僕のために命を懸けてくれたのは、確かなこと。
ジャイロの正気を取り戻そうとしたデゼルは、凄かった。
デゼルがふつうの子じゃないのは、わかってる。
身分の違いとかより、デゼルはもう、ふつうの子とは風格が違う。
だけど、僕はすごく強いデゼルが、すごく弱いことも知ってる。
デゼルは怖くないわけでも、痛くないわけでもないんだ。
僕の腕の中で震えていたし、泣いていた。
デゼルには僕が必要なんだって、初めて一緒に眠った夜にも、昨日の夜にも、感じたんだ。
デゼルは僕が抱いていてあげないと、すごく、つらそうなんだ。
「サイファ、気持ちは変わるのよ」
「変わらないよ、母さん。僕の気持ちもデゼルの気持ちも」
この気持ちが変わるなんて、とても、信じられない。
デゼルが僕じゃない誰かを好きになるなんてことも、想像できないんだ。
だって、デゼルの澄んだ瞳と透き通る声には力がある。
時々、すごく鮮烈な瞳をして、何かを見詰めてる。
絶対に、いつか変わるような心で持てる力じゃないと感じるのに。
「――母さん、夏休みは帰れないことが多くなると思う。デゼルを守って、もしかしたら外国まで、行くかもしれないから」
「サイファ!」
「これ」
マリベル様から頂いた先月分の給与を、母さんにそのまま渡した。
「母さん――再婚しても、いいよ? 仕送りは続けるけど、僕はもう、母さんの傍にあんまり、いてあげられないかもしれない」
「サイファ、聞いていたの!? 闇巫女様は公子様とご婚約なさっているのよ」
「デゼルはきっと知らないし、――僕を選ぶよ」
ずっと、僕の気持ちもデゼルの気持ちも変わらないなんて、母さんは、信じてくれないと思うけど。
だって、父さんは帰ってきてくれなくなったんだから。
でも、僕は――
僕の気持ちも、デゼルの気持ちも変わらないと信じてる。
それに、大切なのは、今この時、目の前のデゼルに僕が必要だってことなんだ。
気持ちが変わるか、変わらないかなんて、今から、話したって仕方ないと思う。
だって、経験しなきゃ、僕は絶対に、そんなこと信じられないんだから。
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