悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

文字の大きさ
上 下
17 / 177
第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ

第10話 優しくて甘い夜

しおりを挟む
「サイファ様、あのね」

 月をかたどったナイトライトをつけて、サイファのとなりに座って、寄りかかったら、とっても安心できた。

「私、明日ね、ジャイロと話をつけるから。ジャイロがもし、サイファ様に助けを求めたら、許してあげてね」
「えっ……!?」

 サイファがびっくりした顔で私を見た。

「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」
「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」

 だから先生は、サイファが一方的に殴られているだけだと気がつかなかったのね。

「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい、デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」
「え、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」
「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」
「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」

 ううんと、私はかぶりをふった。

「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる、だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」

 怖い。
 スニールはサイファの優しさにつけこむから。
 恐怖に支配された弱い子は、どんな、卑劣な裏切りもできるから。
 他人の不幸ばかり望む限り、救われることなどできないのに。
 どんなに弱くても、惨めでも、他人の幸いを望む子なら、助けてあげられるけど。

 スニールみたいな子は、ジャイロみたいな子の子分でいるのがしあわせだと思う。
 あれほど病みの深い子をそばに置いて、感染しないジャイロは、その意味では思ったよりも強いのね。

 サイファはスニールを、ジャイロのサンドバッグから、ジャイロの子分に格上げしてあげたんだもの、もう十分に、助けてあげたと思う。

「そんな……」
「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」
「駄目だよ、それは!」
「へいき」

 だって、一人きりだった現世でだって、死ななかったもの。
 何の力もなかった現世でだって、卒業まで、たった一人で耐えたもの。
 今は、闇巫女の力があるし、サイファがいるから、ずっと、強くいられるよ。ほんとうに、へいき。

「サイファ様、キス、してもいい?」
「……」

 サイファが優しく髪をなでてくれて、キス、してくれた。
 唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。
 すごく、甘くて優しい感触が降って、魂がとけるかと思った。
 十七歳だったら、抱いてもらえたかなぁ。
 あと十年、待たないといけないんだぁ。

「デゼル」

 私が心地好さに酔った目でサイファを見たら、しばらく私を見詰めていたサイファが、もう一度、キスしてくれた。

「…んっ……」

 舌、挿され――
 胸の奥から指先まで、甘さに痺れたみたいになって、何にも、わからなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢っぽい子に転生しました。潔く死のうとしたらなんかみんな優しくなりました。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したので自殺したら未遂になって、みんながごめんなさいしてきたお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 …ハッピーエンド??? 小説家になろう様でも投稿しています。 救われてるのか地獄に突き進んでるのかわからない方向に行くので、読後感は保証できません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

公爵夫人は愛されている事に気が付かない

山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」 「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」 「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」 「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」 社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。 貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。 夫の隣に私は相応しくないのだと…。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

処理中です...