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第一章 悪役令嬢はナイトメアモードを選ぶ
第10話 優しくて甘い夜
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「サイファ様、あのね」
月をかたどったナイトライトをつけて、サイファのとなりに座って、寄りかかったら、とっても安心できた。
「私、明日ね、ジャイロと話をつけるから。ジャイロがもし、サイファ様に助けを求めたら、許してあげてね」
「えっ……!?」
サイファがびっくりした顔で私を見た。
「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」
「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」
だから先生は、サイファが一方的に殴られているだけだと気がつかなかったのね。
「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい、デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」
「え、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」
「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」
「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」
ううんと、私はかぶりをふった。
「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる、だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」
怖い。
スニールはサイファの優しさにつけこむから。
恐怖に支配された弱い子は、どんな、卑劣な裏切りもできるから。
他人の不幸ばかり望む限り、救われることなどできないのに。
どんなに弱くても、惨めでも、他人の幸いを望む子なら、助けてあげられるけど。
スニールみたいな子は、ジャイロみたいな子の子分でいるのがしあわせだと思う。
あれほど病みの深い子をそばに置いて、感染しないジャイロは、その意味では思ったよりも強いのね。
サイファはスニールを、ジャイロのサンドバッグから、ジャイロの子分に格上げしてあげたんだもの、もう十分に、助けてあげたと思う。
「そんな……」
「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」
「駄目だよ、それは!」
「へいき」
だって、一人きりだった現世でだって、死ななかったもの。
何の力もなかった現世でだって、卒業まで、たった一人で耐えたもの。
今は、闇巫女の力があるし、サイファがいるから、ずっと、強くいられるよ。ほんとうに、へいき。
「サイファ様、キス、してもいい?」
「……」
サイファが優しく髪をなでてくれて、キス、してくれた。
唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。
すごく、甘くて優しい感触が降って、魂がとけるかと思った。
十七歳だったら、抱いてもらえたかなぁ。
あと十年、待たないといけないんだぁ。
「デゼル」
私が心地好さに酔った目でサイファを見たら、しばらく私を見詰めていたサイファが、もう一度、キスしてくれた。
「…んっ……」
舌、挿され――
胸の奥から指先まで、甘さに痺れたみたいになって、何にも、わからなくなった。
月をかたどったナイトライトをつけて、サイファのとなりに座って、寄りかかったら、とっても安心できた。
「私、明日ね、ジャイロと話をつけるから。ジャイロがもし、サイファ様に助けを求めたら、許してあげてね」
「えっ……!?」
サイファがびっくりした顔で私を見た。
「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」
「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」
だから先生は、サイファが一方的に殴られているだけだと気がつかなかったのね。
「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい、デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」
「え、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」
「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」
「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」
ううんと、私はかぶりをふった。
「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる、だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」
怖い。
スニールはサイファの優しさにつけこむから。
恐怖に支配された弱い子は、どんな、卑劣な裏切りもできるから。
他人の不幸ばかり望む限り、救われることなどできないのに。
どんなに弱くても、惨めでも、他人の幸いを望む子なら、助けてあげられるけど。
スニールみたいな子は、ジャイロみたいな子の子分でいるのがしあわせだと思う。
あれほど病みの深い子をそばに置いて、感染しないジャイロは、その意味では思ったよりも強いのね。
サイファはスニールを、ジャイロのサンドバッグから、ジャイロの子分に格上げしてあげたんだもの、もう十分に、助けてあげたと思う。
「そんな……」
「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」
「駄目だよ、それは!」
「へいき」
だって、一人きりだった現世でだって、死ななかったもの。
何の力もなかった現世でだって、卒業まで、たった一人で耐えたもの。
今は、闇巫女の力があるし、サイファがいるから、ずっと、強くいられるよ。ほんとうに、へいき。
「サイファ様、キス、してもいい?」
「……」
サイファが優しく髪をなでてくれて、キス、してくれた。
唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。
すごく、甘くて優しい感触が降って、魂がとけるかと思った。
十七歳だったら、抱いてもらえたかなぁ。
あと十年、待たないといけないんだぁ。
「デゼル」
私が心地好さに酔った目でサイファを見たら、しばらく私を見詰めていたサイファが、もう一度、キスしてくれた。
「…んっ……」
舌、挿され――
胸の奥から指先まで、甘さに痺れたみたいになって、何にも、わからなくなった。
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