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第六章 冥王招来
6-6b. ゾンビがなぜ
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顔を上げると、ロズは腐って土気色をした指を組み、短い呪を唱えた。
ターン・アンデッドだった。
数体残っていた骸骨兵が、灰となり、消えた。
ロズが追いついた時、方術師たちは既にあらかた死霊に倒されるか、逃げ去るかしていた。
聖アンナの加護が失われつつある、効果の落ちたカムラ方術では、死霊を土に還すことができなかったのだ。
レダスだけが、かろうじて結界を張り、そこに生きて留まっていた。
「――アルベール、貴方には、こんなけがれのない姫の言葉さえ、届かなかったのか」
そのレダスに歩み寄り、ロズが哀しげに語りかけた。
「……な……」
レダスが何事かと目を見開く。ゾンビがなぜ、彼の名をと。
「姫の発するオーラが、貴方に見えなかったはずがない。それとも、それすら見えなくなるほど、力を落としたのか。違う。今、そうして死霊を抑えているのだから」
「……おまえ……おまえ、まさか……」
レダスの目に、驚愕と混乱と、恐怖と畏怖。
アルベール・レダス。彼をアルベールの名で呼ぶのは。
「貴方を信じていた……。姫の心に触れ、その声を聞けば、真っ直ぐな想いを見れば、思い出してくれると信じていた……。そのために、何の罪もない、レオンの支えとなるはずだった姫を、誰より美しかった姫を、死なせてしまった……」
そんなはずがないと、おまえが『あの方』であるはずがないと、レダスがうわごとのようにつぶやく。
「……私には、とうとう、務めが果たせなかったようだね…………私は出来損ないなのかもしれない。……私も、もう、眠ろう……」
ロズが、静かに目を伏せる。……た、つもりだったが、まぶたがなかった。
これ以上、貴方に力を貸すことはできないと、つぶやいた。
「う、うわああああっ!」
結界が解け、死霊がスっと、レダスに鎌をもたげた。
なす術もなく死霊に命を狩られ、こと切れたレダスが地に伏した。
ロズはもう一度呪を唱えると、最後に残った死霊の魂を、天に還した。
ターン・アンデッドだった。
数体残っていた骸骨兵が、灰となり、消えた。
ロズが追いついた時、方術師たちは既にあらかた死霊に倒されるか、逃げ去るかしていた。
聖アンナの加護が失われつつある、効果の落ちたカムラ方術では、死霊を土に還すことができなかったのだ。
レダスだけが、かろうじて結界を張り、そこに生きて留まっていた。
「――アルベール、貴方には、こんなけがれのない姫の言葉さえ、届かなかったのか」
そのレダスに歩み寄り、ロズが哀しげに語りかけた。
「……な……」
レダスが何事かと目を見開く。ゾンビがなぜ、彼の名をと。
「姫の発するオーラが、貴方に見えなかったはずがない。それとも、それすら見えなくなるほど、力を落としたのか。違う。今、そうして死霊を抑えているのだから」
「……おまえ……おまえ、まさか……」
レダスの目に、驚愕と混乱と、恐怖と畏怖。
アルベール・レダス。彼をアルベールの名で呼ぶのは。
「貴方を信じていた……。姫の心に触れ、その声を聞けば、真っ直ぐな想いを見れば、思い出してくれると信じていた……。そのために、何の罪もない、レオンの支えとなるはずだった姫を、誰より美しかった姫を、死なせてしまった……」
そんなはずがないと、おまえが『あの方』であるはずがないと、レダスがうわごとのようにつぶやく。
「……私には、とうとう、務めが果たせなかったようだね…………私は出来損ないなのかもしれない。……私も、もう、眠ろう……」
ロズが、静かに目を伏せる。……た、つもりだったが、まぶたがなかった。
これ以上、貴方に力を貸すことはできないと、つぶやいた。
「う、うわああああっ!」
結界が解け、死霊がスっと、レダスに鎌をもたげた。
なす術もなく死霊に命を狩られ、こと切れたレダスが地に伏した。
ロズはもう一度呪を唱えると、最後に残った死霊の魂を、天に還した。
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