賢者様の仲人事情

冴條玲

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第二章 カムラ帝国の混沌

2-4. お姫様は賢者様に聞いてみた

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 あぁ、あぁ、あぁ、もう。
 そー言ってる間に、血が出てるんだってば!

「ああもう、わかったよ! 行かねーよ! オレはここにいるし、おまえも遊びに来ていいからっ。だから、頼むから手当てしてくれよぅ~……」

 どうしよう、泣きそうだ。
 だって痛そうだし。
 彼女を庇って受けた傷だとわかっているから、余計に痛い。

「……」
「レオン?」
「あ……ああ……」

 行かないと言われて満足したのか、レオンは思い出したように腕を押さえた。

「痛いな」
「当たり前だろ!?」
「おまえのせいで斬られた」

 痛いじゃないかとぶーぶー言う。こいつは……。

「悪かったな!」

 もちろん、自分のせいだと思っていたのだけれど。
 何か、レオンに言われると腹が立つ。助けてやったのに。
 正直、言うことを聞かせようとする時にも、そのことで一言も責めないレオンに感心していただけに、がくっときた。

「痛いぞ」
「見りゃわかるって。待ってろよ、すぐ、誰か呼んで来てやるからな」

 すると、レオンが大丈夫だとティリスを止めた。
 大丈夫じゃないだろ! とふり向きかけ、ティリスは心臓が止まるかと思った。
 いきなり飛んできた光弾が、レオンを打ち抜いたのだ。

「レオン!」

 しかし、レオンは平然としている。

「何だ?」
「い……今のは……? 平気なのか……?」

 レオンは少し不思議そうにティリスを見た。何のことだ? と。

「ロズの方術だ。この程度の傷ならすぐにも塞がる。ロズは偉大だと言っただろう」
「……」

 今、何つった?

「冗談……方術って言ったら、神聖魔法だぞ!? ゾンビに使えていいのかよっ!」
「偉大なるロズに不可能はない」

 ティリスは酷く疲れた。

 ……神様って、何考えてるんだ……。

 緊張が途切れると、どっと疲れが襲い、ティリスはそこに座り込んだ。そのティリスを案外あっさり放したレオンが、土砂の方へと踏み込んで行く。
 刺客を確認する気だろうか。
 こいつらも、片付けなきゃな~と、ティリスはぼんやりそれを見ていた。

「……ロズ、ありがとな」
「うん? こちらこそ。レオンを助けてくれてありがとう」
「んー、でも、どうなんだろう。やっぱ、オレが余計なことしたから、レオン、怪我したのかもしれないし。何か……レオンって、強いんだな。カタリーナ相手にした時は、何で、死霊術使わなかったんだろう」

 それは、彼女を殺す気がなかったからだろうねと、ロズが穏やかに言った。

「余計なことではないよ、姫。昨晩も、今日も、貴方が庇っていなければ、レオンは殺されていたと思う。私は見ての通りの死者だから、素早くは動けなくてね。時間を稼いでもらえて良かった」
「……そう?」

 ティリスがちょっと赤くなる。
 もっとも、ロズはもうちょっとは早く現場に到着していた。
 ピンチになるまで助けに入らなかったのは、ここだけの秘密だ。

「……あのさ、ロズ。レオンて、何が本気なのか、よくわかんないんだけど……オレのこと、何度も殺そうとしたのに、何で庇うのかな」
「それは、姫と同じだろうね」
「え……う……んー。でも、オレにとってはレオンて国賓だし、シグルドで不祥事があっちゃ困るんだよ。でもな~。レオンて、そーゆーの気にしなそうだし。あんま、オレが姫だからって庇ったようには見えないっつーか……」

 普段はきっぱりさっぱりしているティリスが、妙に慣れない理屈をこねる。
 ロズは「おや」という顔でティリスを見た。

「……キス、したのは? あいつ、普段から平気であーゆーことすんの……? なんか……自分は死んでもいいとか言ってさ。オレは別に、命まで張る気、なかったのにさ」

 言って欲しい答えがあるんだねと、ロズは微笑ましげにティリスを見た。

「そうだね……。姫には申し訳なく思う。けれど、レオンはあまり深く考えていないよ。女性に言うことを聞かせる時にはああするようにと、お爺様の教育でね。間違っているから、教育し直してくれるかい?」
「……は…………?」

 ちょっと待て、ジジイ。どーゆー教育だ。

「何だよ、それ!? じゃあ、相手構わずしてんのか!」

 何だろう、すごくムカつく。
 泣きそうだ。

「いや、初めてだよ。レオンに逆らう女性なんていなかったし、レオンが女性に何かを望むこと自体、なかったから。あの子は……少し心を病んでいてね。死者を受け入れない者は、拒むんだよ。『構うな』という以外のことは、女性に望まなかった」
「……」
「貴方に言うことを聞かせようと思った時に、慣れないことだから、お爺様に教わった方法しか、思いつかなかったんだろうね」

 何だか変に動揺して、ティリスは頭をふった。
 どうかしてる。
 特別扱いされたのは、特別だから。
 ロズと平気で話せる者がほとんどいないのは、夜会で証明済みだ。
 それだけだ。

「レオンが死んでもいいと言ったのは、少なくとも自分の命よりは、姫が大切だと思ったからだろう。多分……貴方が駆け込んできて、嬉しい反面、レオンは心底、怖かっただろうと思う」

 ロズが言った。
 ……えっ……。

「な……、何言ってんだよ。昨日の今日だぞ、そんなわけ……」

 ふいに、断末魔のような声がした。
 光景を見て、ティリスは息を呑んだ。
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