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僕のお嫁さんが、ある日、三歳になりました。
第4話 全身全霊を懸けたけど、当たって砕け散りました。
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「ねぇ、サイファ。ちょっと、そこの棚にある魔法紙とって」
魔法紙?
「ええと、これですか? 何枚?」
「ぜんぶ」
何をするのかと思っていたら、デゼルと一緒にテラスに出たガゼル様が、デゼルを白いテーブルにつかせて不敵に微笑んだ。
「見ていて、サイファ。夜明けの公子の秘儀を見せてあげるよ」
なんだろう。
「デゼル」
笑顔でふり向いたデゼルが、びっくりして椅子の上で転びそうになった。
ガゼル様の手の平から光が溢れて、魔法紙にデゼルの姿を映しとられたんだ。
僕があわてて駆け寄って、抱きとめてあげたから、デゼルは無事。
ちょっとだけ、危なかったけど、さすがはガゼル様、すごい!
「わぁ」
「どう?」
僕はこくりとうなずくと、怯えて涙目のデゼルを手招いた。
「大丈夫だよ、デゼル。おいで。見てごらん」
「?」
デゼルには、魔法紙に映しとられたのが自分の姿だっていうのはわからないみたいだった。
「かわいい」
デゼルが魔法紙の中のデゼルを指さして言う。
「ね、とっても可愛い」
僕が笑顔でうなずいてあげると、わかってないデゼルが嬉しそうに跳ねて、ころころ転がった。
「デゼル」
ガゼル様が転がるデゼルのくびねっこを猫の子みたいにつかんで、テラスの白い椅子に座らせなおした。
くびねっこをつかまれて運ばれてる間、デゼルが面白がって笑う様子が、とっても、可愛らしかった。
ガゼル様はたぶん、お姫様だっこで運びたかったんだけど、くびねっこをつかまれて持ち上げられたデゼルが、すごく楽しそうに笑ったから、後に引けなくなったみたい。
テラスの白いテーブルの上に並べられていたお菓子を、ガゼル様がひとつとってデゼルに食べさせた後、デゼルの指についたお菓子を舐めとって、舌なめずりなさった。
あっ。
ちょっと、ガゼル様!
お菓子を食べて喉が渇いたデゼルが、こくこく、紅茶を飲み終わるのを待って、ガゼル様がデゼルにキスしたんだ。
びっくりして、目をまんまるにしてガゼル様を見詰めるデゼルに、ガゼル様が誘惑的な流し目をくれて、すごく甘くて綺麗なロイヤルスマイルで微笑みかけた。
「ねぇ、デゼル。私とサイファと、どちらが好き?」
僕、そこまでしていいとは言ってないよ!
「さいふぁ」
僕が抗議するよりはやく、デゼルの答えに、ガゼル様はガックリと落胆された。
あー……。
うん、そこまでして、あっさり、この答えじゃあんまりだよね。
なんだか、ガゼル様があんまり気の毒で、怒る気が失せちゃった。
「――ごめん、ちょっと、席を外すから。好きに遊んでいていいよ」
逃げるように顔を背けたガゼル様が、僕には、泣いてたように見えたんだ。
ガゼル様って、傷ついても怒らないどころか、泣いてるのを隠して笑ってみせようとなさる方だから、僕はすごく胸が痛かった。
「――ねぇ、デゼル」
**――*――**
しばらくして戻ってきたガゼル様に、デゼルがきゅっと抱きついた。
「がぜるさまが いなくて さみしかったです」
ガゼル様が心底、驚いた顔をして、デゼルを見た。
「デゼル、どうしたの? だって、サイファと一緒だったよね?」
こくんとうなずいたデゼルが、僕を見た。
デゼル、こっち見ちゃだめ。
「でも でぜる がぜるさまが すき」
「……」
抱き上げたデゼルをそっと、胸に抱き寄せたガゼル様が、デゼルの髪を優しくなでながら、僕に聞いた。
「サイファ、……君が、デゼルに演技指導したの?」
「えっと、あの……」
「うん。」
あ。
デゼルが答えちゃった。
「だけど、でぜる、がぜるもすきだもん。がぜる、どこかいたい? よしよししてあげるから、なかないで」
クスっと笑ったガゼル様が、それなりに嬉しそうに、デゼルと額を合わせた。
「ありがとう。お人好しだね、デゼルもサイファも」
よかった。
失礼だったらどうしようかと思ったけど。
ガゼル様が嬉しそうで、ほっとして、僕も微笑んだ。
魔法の効果は六時間だったみたいで、公邸で楽しく遊んでいたら、デゼルは無事、八歳に戻った。
すごく可愛いデゼルの姿を映しとった魔法紙のうち、何枚かを、ガゼル様が僕達にもお土産として持たせてくれたんだ。
ガゼル様は本当に、恋敵のはずの僕にも優しくて、親切で。
デゼルはどうして、そんなガゼル様より僕がいいんだろう。
すごく、不思議だけど嬉しいな。
【Side】 ガゼル
まったく、恋敵のはずの私にも優しくて親切なのはサイファの方だよ。
ほんとによくも、あんなに可愛いデゼルを私のところに連れてきてくれたよね。
私だって、サイファが傍にいると安心するんだ。
デゼルがどうしてサイファを好きなのかなんて、聞くまでもないよ。
うーん、私の誕生日に、三歳のデゼルと遊ばせてって頼んだら、聞いてくれそうかな?
やっぱり、三時間とはいえ、サイファが先に会うから駄目なんだ。
サイファに会ったことのないデゼルだったら、きっと、私を一番好きになってくれそうじゃない?
誕生日にちょっと、ガゼル様が誰よりも一番好きって言ってもらうくらい、いいよね。ささやかな夢だよね。
うん、今度、お願いしてみよう。
魔法紙?
「ええと、これですか? 何枚?」
「ぜんぶ」
何をするのかと思っていたら、デゼルと一緒にテラスに出たガゼル様が、デゼルを白いテーブルにつかせて不敵に微笑んだ。
「見ていて、サイファ。夜明けの公子の秘儀を見せてあげるよ」
なんだろう。
「デゼル」
笑顔でふり向いたデゼルが、びっくりして椅子の上で転びそうになった。
ガゼル様の手の平から光が溢れて、魔法紙にデゼルの姿を映しとられたんだ。
僕があわてて駆け寄って、抱きとめてあげたから、デゼルは無事。
ちょっとだけ、危なかったけど、さすがはガゼル様、すごい!
「わぁ」
「どう?」
僕はこくりとうなずくと、怯えて涙目のデゼルを手招いた。
「大丈夫だよ、デゼル。おいで。見てごらん」
「?」
デゼルには、魔法紙に映しとられたのが自分の姿だっていうのはわからないみたいだった。
「かわいい」
デゼルが魔法紙の中のデゼルを指さして言う。
「ね、とっても可愛い」
僕が笑顔でうなずいてあげると、わかってないデゼルが嬉しそうに跳ねて、ころころ転がった。
「デゼル」
ガゼル様が転がるデゼルのくびねっこを猫の子みたいにつかんで、テラスの白い椅子に座らせなおした。
くびねっこをつかまれて運ばれてる間、デゼルが面白がって笑う様子が、とっても、可愛らしかった。
ガゼル様はたぶん、お姫様だっこで運びたかったんだけど、くびねっこをつかまれて持ち上げられたデゼルが、すごく楽しそうに笑ったから、後に引けなくなったみたい。
テラスの白いテーブルの上に並べられていたお菓子を、ガゼル様がひとつとってデゼルに食べさせた後、デゼルの指についたお菓子を舐めとって、舌なめずりなさった。
あっ。
ちょっと、ガゼル様!
お菓子を食べて喉が渇いたデゼルが、こくこく、紅茶を飲み終わるのを待って、ガゼル様がデゼルにキスしたんだ。
びっくりして、目をまんまるにしてガゼル様を見詰めるデゼルに、ガゼル様が誘惑的な流し目をくれて、すごく甘くて綺麗なロイヤルスマイルで微笑みかけた。
「ねぇ、デゼル。私とサイファと、どちらが好き?」
僕、そこまでしていいとは言ってないよ!
「さいふぁ」
僕が抗議するよりはやく、デゼルの答えに、ガゼル様はガックリと落胆された。
あー……。
うん、そこまでして、あっさり、この答えじゃあんまりだよね。
なんだか、ガゼル様があんまり気の毒で、怒る気が失せちゃった。
「――ごめん、ちょっと、席を外すから。好きに遊んでいていいよ」
逃げるように顔を背けたガゼル様が、僕には、泣いてたように見えたんだ。
ガゼル様って、傷ついても怒らないどころか、泣いてるのを隠して笑ってみせようとなさる方だから、僕はすごく胸が痛かった。
「――ねぇ、デゼル」
**――*――**
しばらくして戻ってきたガゼル様に、デゼルがきゅっと抱きついた。
「がぜるさまが いなくて さみしかったです」
ガゼル様が心底、驚いた顔をして、デゼルを見た。
「デゼル、どうしたの? だって、サイファと一緒だったよね?」
こくんとうなずいたデゼルが、僕を見た。
デゼル、こっち見ちゃだめ。
「でも でぜる がぜるさまが すき」
「……」
抱き上げたデゼルをそっと、胸に抱き寄せたガゼル様が、デゼルの髪を優しくなでながら、僕に聞いた。
「サイファ、……君が、デゼルに演技指導したの?」
「えっと、あの……」
「うん。」
あ。
デゼルが答えちゃった。
「だけど、でぜる、がぜるもすきだもん。がぜる、どこかいたい? よしよししてあげるから、なかないで」
クスっと笑ったガゼル様が、それなりに嬉しそうに、デゼルと額を合わせた。
「ありがとう。お人好しだね、デゼルもサイファも」
よかった。
失礼だったらどうしようかと思ったけど。
ガゼル様が嬉しそうで、ほっとして、僕も微笑んだ。
魔法の効果は六時間だったみたいで、公邸で楽しく遊んでいたら、デゼルは無事、八歳に戻った。
すごく可愛いデゼルの姿を映しとった魔法紙のうち、何枚かを、ガゼル様が僕達にもお土産として持たせてくれたんだ。
ガゼル様は本当に、恋敵のはずの僕にも優しくて、親切で。
デゼルはどうして、そんなガゼル様より僕がいいんだろう。
すごく、不思議だけど嬉しいな。
【Side】 ガゼル
まったく、恋敵のはずの私にも優しくて親切なのはサイファの方だよ。
ほんとによくも、あんなに可愛いデゼルを私のところに連れてきてくれたよね。
私だって、サイファが傍にいると安心するんだ。
デゼルがどうしてサイファを好きなのかなんて、聞くまでもないよ。
うーん、私の誕生日に、三歳のデゼルと遊ばせてって頼んだら、聞いてくれそうかな?
やっぱり、三時間とはいえ、サイファが先に会うから駄目なんだ。
サイファに会ったことのないデゼルだったら、きっと、私を一番好きになってくれそうじゃない?
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うん、今度、お願いしてみよう。
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