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第四章 叶わない願いはないと信じてる
【Side】 レーテー ~可愛い顔してるのに~ 【前編】
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うわぁ、サイファって、可愛い顔してるのに怖いッ!
主神に人の子が捧げられたのは、ぼくが知る限り初めてのこと。
神界に近い世界、人間が天国と呼ぶ世界に迎えられる人なら、それなりにいるんだよ。だけど、その天国にだって、サイファみたいに子供を守ろうとして死んだのに、ああまで落ち着いて「あの、ここは天国ですか?」なんて聞いた人は、いないんじゃないかな。
天寿をまっとうした人ならともかく、ああいう『非業の死』を遂げるとね。
とりわけ、まだ幼い子供を守ろうとして死んだ人は、たいてい、亡くなってすぐは混乱してるか錯乱してるか、最悪の場合、くぐれるはずだった天国の門を見逃してしまうのに、サイファってただ者じゃないよね。
死んでも、エトランジュのこと、大切に抱き締めてた。
エトランジュが大切な、大切な、宝物なんだね。
「あの、僕の声って、デゼルに届きますか?」
サイファはすごく冷静で、落ち着いて理性的な様子なんだけど、この辺、天然だよね。
死んじゃったの、わかってるようでわかってないみたい。
「届きません。あなたは死んでしまったから」
「そうですか……」
サイファ、しょんぼり。
よく、わからないなぁ。
死んじゃったの、わかってないようでわかってるみたい?
「そうだ、デゼル、こっちにおいでよ。僕のところにおいで。そう願ってみて?」
――えぇえ!?
ぱあっと、いいこと思いついたって顔で、何を思いついたのかなと思ったら!
あんまりいないよ!?
天国に迎えられるくらいの人で、まだ生きてる愛してた人に「こっちにおいで」って言い出す人!
悪霊になって、それ言い出す人ならたくさんいるけど!
よりによって、神界に捧げられたサイファがそれ言っちゃうの!?
すっごく得意そうだよ!?
マルスもアフロディーテもドン引き。
しかも、サイファの呼び声が第六感に届いたのか、デゼルが最後のお願いをそれに決めちゃったよ。
うんまぁ、これで、デゼルが『正しい願い』をかけられなくても、そう、ひどいことにはならなくなったけど。
主神に捧げられた『人』はね、ぼく達と同じ天使になるんだ。
一人で天使になって永遠の命を得るのは寂しいだろうからって、先に最愛の二人をサクリファイスに選んで、神界に迎えておくことにしたみたい。
いつだったか、主神がそう話してくれたよ。
だけど、サイファは主神のその真意を知らないのに、デゼルが泣きやんでよかったって、嬉しそう。
「よかったって、あなた、わかっているの? 今、デゼルに死ぬように言ったのよ?」
アフロディーテがズバっと言った。
僕もすごく気になる。サイファ、わかって言ってるのかな。
「――僕にとって生きるというのは、デゼルとエトランジュの傍にいられることで、死ぬというのは、デゼルの傍にもエトランジュの傍にもいられなくなることだから。デゼルも、僕と同じなんじゃないかと思って」
わ、サイファって死生観が独特なんだね。
しかも、デゼルとエトランジュのこと、そこまで愛してるんだ。
「……本当によろしいの? 聞こえたはずはありませんのに、デゼルが三人目のサクリファイスに彼女自身を選定し、あなたとエトランジュのところに逝きたいと願うことに決めましてよ?」
アフロディーテが念を押したら、サイファ、よかったって、すごく嬉しそうに微笑んだの。もう、びっくりだよ。
そうこうするうちに、デゼルが一つ目の願いをかけたけど、二つ目の願いが決まらない。
「デゼルはエトランジュなら何を願うか探していてよ?」
「エトランジュなら?」
それにしても、この三人って。
サイファとエトランジュの命を絶った主神を、三人とも、ちっともうらまないみたいなんだ。
デゼルなんて、魂が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい悲しんでて、サイファとエトランジュだって、そんなデゼルを心配してはいるんだよ?
「あの、僕とデゼルが出会えたのって、どなたのおかげなのかご存知でしょうか」
主神をちょっとジト目で見ながら指さしたら、みんなも思うところは同じだったみたい。
このゲーム、いくらなんでもデゼルに酷いんじゃないのかなって。
だけど、神様が出会わせてくれたんだって、納得したサイファは。
主神に人の子が捧げられたのは、ぼくが知る限り初めてのこと。
神界に近い世界、人間が天国と呼ぶ世界に迎えられる人なら、それなりにいるんだよ。だけど、その天国にだって、サイファみたいに子供を守ろうとして死んだのに、ああまで落ち着いて「あの、ここは天国ですか?」なんて聞いた人は、いないんじゃないかな。
天寿をまっとうした人ならともかく、ああいう『非業の死』を遂げるとね。
とりわけ、まだ幼い子供を守ろうとして死んだ人は、たいてい、亡くなってすぐは混乱してるか錯乱してるか、最悪の場合、くぐれるはずだった天国の門を見逃してしまうのに、サイファってただ者じゃないよね。
死んでも、エトランジュのこと、大切に抱き締めてた。
エトランジュが大切な、大切な、宝物なんだね。
「あの、僕の声って、デゼルに届きますか?」
サイファはすごく冷静で、落ち着いて理性的な様子なんだけど、この辺、天然だよね。
死んじゃったの、わかってるようでわかってないみたい。
「届きません。あなたは死んでしまったから」
「そうですか……」
サイファ、しょんぼり。
よく、わからないなぁ。
死んじゃったの、わかってないようでわかってるみたい?
「そうだ、デゼル、こっちにおいでよ。僕のところにおいで。そう願ってみて?」
――えぇえ!?
ぱあっと、いいこと思いついたって顔で、何を思いついたのかなと思ったら!
あんまりいないよ!?
天国に迎えられるくらいの人で、まだ生きてる愛してた人に「こっちにおいで」って言い出す人!
悪霊になって、それ言い出す人ならたくさんいるけど!
よりによって、神界に捧げられたサイファがそれ言っちゃうの!?
すっごく得意そうだよ!?
マルスもアフロディーテもドン引き。
しかも、サイファの呼び声が第六感に届いたのか、デゼルが最後のお願いをそれに決めちゃったよ。
うんまぁ、これで、デゼルが『正しい願い』をかけられなくても、そう、ひどいことにはならなくなったけど。
主神に捧げられた『人』はね、ぼく達と同じ天使になるんだ。
一人で天使になって永遠の命を得るのは寂しいだろうからって、先に最愛の二人をサクリファイスに選んで、神界に迎えておくことにしたみたい。
いつだったか、主神がそう話してくれたよ。
だけど、サイファは主神のその真意を知らないのに、デゼルが泣きやんでよかったって、嬉しそう。
「よかったって、あなた、わかっているの? 今、デゼルに死ぬように言ったのよ?」
アフロディーテがズバっと言った。
僕もすごく気になる。サイファ、わかって言ってるのかな。
「――僕にとって生きるというのは、デゼルとエトランジュの傍にいられることで、死ぬというのは、デゼルの傍にもエトランジュの傍にもいられなくなることだから。デゼルも、僕と同じなんじゃないかと思って」
わ、サイファって死生観が独特なんだね。
しかも、デゼルとエトランジュのこと、そこまで愛してるんだ。
「……本当によろしいの? 聞こえたはずはありませんのに、デゼルが三人目のサクリファイスに彼女自身を選定し、あなたとエトランジュのところに逝きたいと願うことに決めましてよ?」
アフロディーテが念を押したら、サイファ、よかったって、すごく嬉しそうに微笑んだの。もう、びっくりだよ。
そうこうするうちに、デゼルが一つ目の願いをかけたけど、二つ目の願いが決まらない。
「デゼルはエトランジュなら何を願うか探していてよ?」
「エトランジュなら?」
それにしても、この三人って。
サイファとエトランジュの命を絶った主神を、三人とも、ちっともうらまないみたいなんだ。
デゼルなんて、魂が壊れてしまうんじゃないかと思うくらい悲しんでて、サイファとエトランジュだって、そんなデゼルを心配してはいるんだよ?
「あの、僕とデゼルが出会えたのって、どなたのおかげなのかご存知でしょうか」
主神をちょっとジト目で見ながら指さしたら、みんなも思うところは同じだったみたい。
このゲーム、いくらなんでもデゼルに酷いんじゃないのかなって。
だけど、神様が出会わせてくれたんだって、納得したサイファは。
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