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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第104話 聖女の杖をヒロインに【後編】
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「……駄目よ、光の使徒達が私を許さない。光の使徒に敬愛されない聖女なんて聖女じゃない、聖サファイアを支えられない!」
「大丈夫、見ていてね」
まず、翡翠様の前に立ったデゼルが、静かに宣言した。
「忘却【Lv4】――ターゲット・翡翠。エリスの影響下にあった京奈の記憶を抹消します」
すごく巧い、忘却のかけ方に、僕はすっかり感心してた。
デゼルって優しいね。
エリス様の影響下でデゼルを刺してしまったこと、エトランジュ達に忘れてもらえたら、僕だって、ほっとするもの。
エトランジュもルーカスも、全然、僕を怖がらないし、デゼルが僕の意思じゃないと信じてくれたからよかったけど、信じてもらえなかったら、つらかった。
レーテーのやわらかな聖光が翡翠様を包んで消えると、はっとしたように、翡翠様がきょろきょろと辺りを見回した。
「どうして――僕、どうしてあんな酷いこと! デゼル、サイファが! サイファは何にも悪くなかったのに!」
目を丸くして、デゼルと翡翠様を見ているケイナ様に、デゼルが屈託なく微笑みかけた。その後、デゼルは次々と、光の使徒達の記憶を同じように抹消したんだ。
僕も、これでいいと思う。
エリス様の影響下での行いを、ケイナ様の意思とするのは、あんまり酷だもの。
ケイナ様が光の聖女にふさわしい方かどうかは、エリス様の影響がなくなった今からの行いで、証して欲しいと思う。
「光の使徒の皆様、意識ははっきりしていますか。私は闇巫女デゼルと申します」
光の十二使徒の目を、一人ずつ見て確かめたデゼルが、優しい儚さで微笑んだ。
「災厄の邪神エリスの呪いから、皆様を解放しました。皆様も、京奈さえも邪神エリスの呪いに侵され、恐ろしい事をなさったことを、覚えていますか」
翡翠様が目に涙をためてうなずいたのを最初に、他の光の使徒達も、一人また一人と血の気を引かせてうなずいた。
僕の右腕を斬ったり、左目を抉ったりさせられた光の使徒に至っては、僕の血に染まった己の手と装束を見て、今にも倒れそうな様子だった。
災禍の魔法に支配されていなければ、光の十二使徒はみんな、誠実で優しい人達なんだ。
「もしも、この罪を償いたいと思って下さるならば、どうか、私に力を貸して下さい。皇帝ネプチューンの魔力で魔物にされてしまった人々を、すべて、元に戻してあげたいのです。そしてまた、皆様を侵したものと同じ呪いに、ネプチューンがいまだ侵されています。私と京奈がネプチューンの呪いを解く間、ネプチューンを殺さずに抑えて頂きたいのです。ネプチューンの呪いが解けた時には、彼を許して頂きたいのです」
僕の知らないことだったから、驚いた。
陛下のやることなすこと、違和感は強かったけど、そうか――
災禍の種をばらまくようだった陛下の行いも、エリス様の影響だったんだ。
邪神を前にしては無力でも、人間の相手をさせたら、陛下はとてつもなく強い。
だから、デゼルは災禍の呪いのことを知っていても、陛下に忘却と解呪の魔法であるレーテーをかけられなかったんだ。
実際、デゼルがレーテーをかける間、陛下を殺さずに抑えてなんて、僕に頼まれても無理だったし、ジャイロの力を借りたとしても、焼け石に水。
陛下って、皇宮ごと天界に持ち込むような、三千人まとめて魔物に変えてしまうような、桁外れの魔力を持っていて。
その上、光の使徒に勝るとも劣らない身のこなし。
あまつさえ、神の武具の一段上、魔神の武具である堕天の剣と災禍の盾に選ばれた魔皇なんだ。
あんまり、選ばれても嬉しくない武具なんだけどね。
魔神の武具には、いったん手にしたら破滅するまで捨てられない呪いがかかっていそうだって、デゼルが言ってた。
僕もそんな気がするよ。
ちょうど、また数匹の魔物が狩り出されてきたから、今度はデゼルが呪いを解いて、人の姿に戻して見せたんだ。
聖女の杖は太陽みたいな強烈な聖光を放ったけど、公国の秘宝である銀月の杖は、陽の光の中ではあまりに儚い、あえかな聖光をキラキラと零した。
夜闇の中なら、とっても綺麗なんだよ。
「デゼル、あなたはずっと、邪神の呪いを祓い、魔物に変えられてしまった人々を元に戻すために働いていたのか」
「はい」
「――私達はなんということを――もちろん、償わせてもらう。いずれの仕事にも力を貸そう」
よかった。
見事な金髪の長身の光の使徒が、すごくショックを受けた様子で、真摯に謝ってくれた。
だけど、ほっとしたように微笑んだデゼルが、糸が切れたように気を失って、倒れかかるのを見て。
デゼル、無理をし過ぎたんだね。
支えようとして、僕は――
「大丈夫、見ていてね」
まず、翡翠様の前に立ったデゼルが、静かに宣言した。
「忘却【Lv4】――ターゲット・翡翠。エリスの影響下にあった京奈の記憶を抹消します」
すごく巧い、忘却のかけ方に、僕はすっかり感心してた。
デゼルって優しいね。
エリス様の影響下でデゼルを刺してしまったこと、エトランジュ達に忘れてもらえたら、僕だって、ほっとするもの。
エトランジュもルーカスも、全然、僕を怖がらないし、デゼルが僕の意思じゃないと信じてくれたからよかったけど、信じてもらえなかったら、つらかった。
レーテーのやわらかな聖光が翡翠様を包んで消えると、はっとしたように、翡翠様がきょろきょろと辺りを見回した。
「どうして――僕、どうしてあんな酷いこと! デゼル、サイファが! サイファは何にも悪くなかったのに!」
目を丸くして、デゼルと翡翠様を見ているケイナ様に、デゼルが屈託なく微笑みかけた。その後、デゼルは次々と、光の使徒達の記憶を同じように抹消したんだ。
僕も、これでいいと思う。
エリス様の影響下での行いを、ケイナ様の意思とするのは、あんまり酷だもの。
ケイナ様が光の聖女にふさわしい方かどうかは、エリス様の影響がなくなった今からの行いで、証して欲しいと思う。
「光の使徒の皆様、意識ははっきりしていますか。私は闇巫女デゼルと申します」
光の十二使徒の目を、一人ずつ見て確かめたデゼルが、優しい儚さで微笑んだ。
「災厄の邪神エリスの呪いから、皆様を解放しました。皆様も、京奈さえも邪神エリスの呪いに侵され、恐ろしい事をなさったことを、覚えていますか」
翡翠様が目に涙をためてうなずいたのを最初に、他の光の使徒達も、一人また一人と血の気を引かせてうなずいた。
僕の右腕を斬ったり、左目を抉ったりさせられた光の使徒に至っては、僕の血に染まった己の手と装束を見て、今にも倒れそうな様子だった。
災禍の魔法に支配されていなければ、光の十二使徒はみんな、誠実で優しい人達なんだ。
「もしも、この罪を償いたいと思って下さるならば、どうか、私に力を貸して下さい。皇帝ネプチューンの魔力で魔物にされてしまった人々を、すべて、元に戻してあげたいのです。そしてまた、皆様を侵したものと同じ呪いに、ネプチューンがいまだ侵されています。私と京奈がネプチューンの呪いを解く間、ネプチューンを殺さずに抑えて頂きたいのです。ネプチューンの呪いが解けた時には、彼を許して頂きたいのです」
僕の知らないことだったから、驚いた。
陛下のやることなすこと、違和感は強かったけど、そうか――
災禍の種をばらまくようだった陛下の行いも、エリス様の影響だったんだ。
邪神を前にしては無力でも、人間の相手をさせたら、陛下はとてつもなく強い。
だから、デゼルは災禍の呪いのことを知っていても、陛下に忘却と解呪の魔法であるレーテーをかけられなかったんだ。
実際、デゼルがレーテーをかける間、陛下を殺さずに抑えてなんて、僕に頼まれても無理だったし、ジャイロの力を借りたとしても、焼け石に水。
陛下って、皇宮ごと天界に持ち込むような、三千人まとめて魔物に変えてしまうような、桁外れの魔力を持っていて。
その上、光の使徒に勝るとも劣らない身のこなし。
あまつさえ、神の武具の一段上、魔神の武具である堕天の剣と災禍の盾に選ばれた魔皇なんだ。
あんまり、選ばれても嬉しくない武具なんだけどね。
魔神の武具には、いったん手にしたら破滅するまで捨てられない呪いがかかっていそうだって、デゼルが言ってた。
僕もそんな気がするよ。
ちょうど、また数匹の魔物が狩り出されてきたから、今度はデゼルが呪いを解いて、人の姿に戻して見せたんだ。
聖女の杖は太陽みたいな強烈な聖光を放ったけど、公国の秘宝である銀月の杖は、陽の光の中ではあまりに儚い、あえかな聖光をキラキラと零した。
夜闇の中なら、とっても綺麗なんだよ。
「デゼル、あなたはずっと、邪神の呪いを祓い、魔物に変えられてしまった人々を元に戻すために働いていたのか」
「はい」
「――私達はなんということを――もちろん、償わせてもらう。いずれの仕事にも力を貸そう」
よかった。
見事な金髪の長身の光の使徒が、すごくショックを受けた様子で、真摯に謝ってくれた。
だけど、ほっとしたように微笑んだデゼルが、糸が切れたように気を失って、倒れかかるのを見て。
デゼル、無理をし過ぎたんだね。
支えようとして、僕は――
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